《箱根駅伝のウラ側》青学・原監督の“野心的プラン”を関東学連がことごとく黙殺する理由

《箱根駅伝のウラ側》青学・原監督の“野心的プラン”を関東学連がことごとく黙殺する理由

  • 文春オンライン
  • 更新日:2021/01/13

2021年の箱根駅伝でも、青山学院大学の原晋監督(53)の存在感は格別だった。往路で12位に終わった時は「ゲーム―オーバー」と力なく語ったが、復路では猛烈な巻き返しを見せて4位まで浮上。復路優勝を勝ち取り、「『絆大作戦』は200%成功させたかったが、150%成功したと思う。強い青学をみせられた」とホッとした表情を見せた。

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そしてレース後には「箱根駅伝の東京ドーム発着構想」、「箱根駅伝の全国化」をぶち上げた。原監督が箱根後に“改革プラン”を発信するのはもはや恒例行事だ。

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箱根駅伝のレース終了後にインタビューに答える青山学院大学の原晋監督 ⒸAFLO

これまでにも、関東の大学に限られている箱根駅伝の全国化や、政府と連携しての「スポーツ特区」構想から、オリンピック選考方法の変更、ふるさと納税のようにアスリートを指定して税金を払うアスリート納税など提言は多岐にわたる。

学連に箱根駅伝を大きく変える気はない

しかし、箱根駅伝主催の関東学連は、全国化や特区構想などの提言を黙殺し続けている。この“冷戦状態”について、陸上界に詳しい記者はこう語る。

「実際問題として、関東学連は箱根駅伝のフォーマットを変える気はないでしょう。現状で膨大なお金を生み出すドル箱で、これをわざわざ大きく変える理由がないんです。今年から、レース当日に変更できる選手の数を4名から6名に変更しましたが、そのレベルのマイナーチェンジをしながら、伝統的なスタイルを継承していくのが既定路線。学連にしてみれば、何回か優勝しただけの監督に大会の形にまで口を出されたくない、というのが本音でしょうね」

一方の原監督は、100回の記念大会を目途に箱根駅伝を全国化して、より陸上界を盛り上げたいと考えている。とはいえ、構想はあくまでもイメージでディティールに欠け、出場校を増やした場合の具体的な姿を示せてはいない。

また、本当に実現したいのであれば監督会議などの場で決議を求めるなど、手順を踏んで正式に協議できるようにする必要がある。それだけの発言力や政治力を持ちながら、内側からの改革ではなくメディアに向けて発言することに止まっている。

また、改革の先に原監督の野心が見え隠れしているという声もある。

「青学は“駅伝っぽくない”手法や雰囲気で注目されましたが、実はどの大学よりも『箱根で勝つこと』にこだわっているのが原監督。青学の選手の中には、『大学にいる間は個人の記録を出すことは諦めている』と話す選手もいるほど。駅伝での圧倒的な成績と比べて卒業後にマラソンなどで大成した選手がいないことを気にしてはいますが、箱根で勝つことの優先度は全く揺るがない。それも全ては、優勝することで発言力を増し、学連を動かすためと言っていいでしょう」(同前)

原監督がそこまで箱根駅伝の変化を求めるのには理由がある。陸上界に吹いている追い風が、ずっと続くわけではないということだ。

現在の陸上界は、活況を呈している。男子100mで桐生祥秀(25)が10秒の壁を突破し、400mリレーではオリンピックや世界陸上でメダル常連となった。中長距離界は世界の壁が高いが、瀬古利彦(64)らが主導したマラソングランドチャンピオンシップの成功によって、大迫傑を始め、スター選手が誕生しつつある。男子1万mの相澤晃(23)、女子1万mの新谷仁美(32)、女子1500mの田中希実(21)たちの知名度も急上昇中だ。

しかし、少子化の波は陸上界にとっても影響が大きい。とりわけ駅伝はどうしても人数が必要なので、部員の数やレベルを維持するには、陸上を魅力ある稼げる競技にする必要がある。「陸上を野球やサッカーのようなメジャー競技にしたい」というのは原監督の持論の1つでもある。

実はかなりの「お任せ」タイプ

原監督は箱根駅伝4連覇を達成し「名将」の評価が定着しているが、陸上界での立ち位置は駒澤大の大八木弘明監督(62)や東海大の両角速監督(54)とは異なるという。原監督のパーソナリティをよく知る記者が、匿名を条件に説明する。

「原監督はかなり『お任せ』タイプなんです。駅伝に筋トレを導入した『青トレ』は、アディダスに紹介されたトレーナーの中野ジェームズ修一氏の手法ですし、日々の練習も不在のことが多いのでコーチや主務に任せています。

むしろ原監督が力を発揮するのは、選手のモチベーションを上げ、能力を見極めて区間配置する場面。他大学も『原さんの勘ピューターにはかなわない』とお手上げ状態。レース中の声掛けで選手たちを乗せるのもうまい。実際にそれで優勝してきたのですが、近年有力な高校生のリクルーティングで苦戦しているのは『青学は箱根では強いけれど選手の地力を上げる力は弱い』という評価が広まってきたのも影響していますね」

箱根で勝つことを最優先目標にしてきた原監督だけに、今年の大会前に仙骨の疲労骨折が判明した神林勇太(22)に10区を任せようとしたというエピソードに周囲は驚いていた。

「原監督は選手との距離が近いと言われますが、実は相当ドライ。2年前の春には寮内のルールを破った4年生が4名退部したり、箱根で勝つことに寄与しない選手に対しては見切りが早いです。

神林は走力はもちろん、主将でもあったので大事にするのはわかります。でも『棄権してもいいから10区を任せる』という判断は原監督っぽくない。結果的に神林の方から辞退したことで事態は収束しましたが、選手がその判断をすること自体が酷だという声もあり、もしかすると原監督の中でも考え方が変化しているのかもしれません」(同前)

目的のためには関東学連との対立を恐れず、世論を味方につけて改革を迫る。過去には自民党の党大会にゲストとして参加したり、現役大臣との面談の経験もある。「政治に興味はない」と本人は否定しているが、傍から見れば政治家やスポーツ庁長官というキャリアプランは現実的だ。そうなれば、関東学連を飛び越えて、上から陸上界を改革していくことも可能になる。

批判されると脆い部分も?

一方で、打たれ弱い部分もある。

「自分がマウントを取って攻めている時は強いんですが、批判されて守勢に回ると意外と脆いところがあります。昨夏の甲子園中止に際して『なんとかして開催する方法を模索するべき』と発言しましたが、想像以上に世論の反発を受けて声高には主張しなくなりました。派手でマスコミ映えする提言の中には、元をたどれば誰かの受け売りなことも多い。そんな言葉の軽さや、大会直前までテレビに出演する姿勢について疑問を感じる“アンチ”もかなり増えた印象があります」(同前)

それでも、原監督は関東学連にボールを投げ続けるだろう。

原監督が主張するように、箱根駅伝は改革によってさらに盛り上がる余地があるのか、はたまた関東学連が考えるように、現在の形のままが望ましいのか。陸上界のためには、メディアを介した空中戦と黙殺という現在の形ではなく、実のある議論が必要だ。

陸上界の発展とファンのためにも、歩み寄ることはできないのだろうか。

(山本 亮介/Webオリジナル(特集班))

山本 亮介

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