日本人が「株価3万円突破」を手放しで喜んではいけない、重大な理由

日本人が「株価3万円突破」を手放しで喜んではいけない、重大な理由

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/02/23
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かつてのバブル相場での「モラルハザード」

先週月曜日(2月15日)。東京株式市場で日経平均株価が3万円の大台を回復した。これは、1990年8月以来、実に30年半ぶりという節目である。

新聞やテレビは、回復の原動力として様々な要因を報じた。曰く、去年の10~12月のGDP(国内総生産)が2期連続で大幅な伸びを記録した、企業収益が予想されたほど悪くなかった、米国を含めて海外株が堅調だといった具合だ。

中には、新型コロナワクチンの接種スタートを歓迎したと報じるところもあった。だが、これらはどれも決め手とは言えない。最大の要因が日銀を中心とした各国の金融緩和にあることは明らかだ。

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黒田総裁はコロナの「出口」をどう予測しているのか/photo by gettyimgaes

少なくとも、現下の新型コロナウイルス感染症危機が完全に収束するまでは、日銀を始め各国・地域の金融緩和は続く見通しで、株価が上昇し易い環境も維持されるだろう。日経平均が1989年末に付けた史上最高値(3万8915円)を更新する日が来てもおかしくはない。

しかし、“日銀相場”を手放しで歓迎することはできない。銀行や企業のモラルハザード(倫理の欠如)など、深刻な副作用を伴うからである。

振り返れば、1986年頃にスタートして1989年末に終わったとされる株式のバブル相場も、凄まじいモラルハザードを生みだした。

当時、筆者は、株の街・兜町にある東京証券取引所の記者クラブ「兜クラブ」詰めの新聞記者で、そのモラル崩壊の現場を目の当たりにした。

中でも壮絶だったのは、日経平均が最高値に向かう過程の株価形成だ。後に「証券不祥事」とか「損失補てん事件」と呼ばれるスキャンダルに発展したが、その構図はこうだ。

リスク感覚がマヒしていた

多くの大企業が株式や転換社債を発行したり、銀行から借り入れたりして巨額の資金を調達。「財テク」と称し、この資金を株式市場で運用することで多額の利益を稼ぎ出そうとした。財務部は花形部署のひとつだった。

運用を受注したのは、大手や準大手の証券会社だ。証券会社は資金運用を引き受ける際、密かに、文書もしくは口頭で、違法行為の「利回り保証」や違法行為スレスレの「損失補てん」契約を結んだ。契約の中には、担当者が名刺に「利回り保証年7%」などと書き込んだだけのものもあった。

こうした契約は、事前に顧客企業の了解を得なくても、証券会社の裁量で株式を売買できるファンド(通称「営業特金」)に資金を組み込むことを意味し、猛烈な回転売買を可能にした。証券会社にとっては、株式の委託売買手数料を好きなだけ獲得できる仕組みだった。

証券会社は、個別銘柄の経営実態を無視して相場を吊り上げた。営業特金は膨らみ続け、企業業績のかさあげに貢献した。「利回り保証」や「損失補てん」契約もあり、企業はリスク感覚が麻痺、実態は無謀な投資に過ぎないのに、割りの良い収益源を確保したと勘違いしていた。

一方、当時の大蔵省は、複数の証券会社の検査を通じて懸念を募らせていた。ひとたび相場が下落に転じたら、証券会社には保証や補てんをする体力がなかったからだ。

増資・起債で融資の顧客を、資金運用で預金の顧客を奪われた銀行からの苦情も無視できなかった。そして、大蔵省が「さすがに、目に余る」「いつまでも続くわけがない」と、本格的な規制に乗り出す腹を固め、狂乱の株式バブル相場は終焉を迎えることになったのだ。

株式相場は1990年の年明けから一転、先の見えない長期下落局面に突入した。経済実態を離れて大きく吊り上げられていたうえ、大企業と証券会社の癒着が露呈し、市場への信頼が根底から崩れてしまった。

原動力は一貫して日銀の金融緩和

ほぼ10年が経って2000年代に入ると、ITバブルや郵政相場で多少持ち直しかけた時期もあったが、いずれも長続きはしなかった。リーマンショックの影響が長引き、日経平均は2009年3月にバブル崩壊後の最安値(7054円)を記録した。

さらに12年近い歳月が経過した先週月曜日。日経平均は安値から4.2倍以上に上昇し、30年半ぶりに3万円台を回復した。

ほぼ一貫して原動力になったのは、日銀の金融緩和だ。その第1弾は、白川方明前総裁時代の2010年12月に放たれた。株価の底割れを防いで経済の好循環を作り出し、デフレ経済を脱却するという名目で、株式を組み込んだ上場投資信託(ETF)の購入が始まったのだ。当時の購入枠は4500億円だった。

ETF購入は、黒田東彦現総裁のもとで合計4回にわたって強化された。直近は昨年3月のことで、購入枠の上限が年間12兆円に膨れ上がった。背景には日経平均が1カ月あまりの間に3割以上も急落するコロナショックがあり、安倍前政権の過去最大級の経済対策に呼応する形で、黒田日銀も包括的な金融緩和策を打ち出したのだ。

日銀は、ETFの購入拡大に加え、積極的な国債買い入れ、ドル資金の潤沢な供給、新型コロナで苦境に陥った企業を支援するための特別オペなど様々な対応を講じている。

海外でも、トランプ前米政権が2兆ドル規模の経済対策を、FRB(米連邦準備理事会)が量的緩和を実行したほか、EU(欧州連合)やECB(欧州中央銀行)も続々とかつてない大規模な対策を実施した。

これらにより「世界的カネ余り現象」が起きた。経済の下支え期待が膨らみ、世界の市場が平静を取り戻す中、日経平均も半年足らずでコロナショック前の水準を回復した。

その後もほぼ一本調子の上昇を続けて、先週の大台回復が実現した。「資産バブル」と呼ばれ、株式に限らず、商品相場や暗号資産価格なども高値を付けている。

金融緩和は継続せざるをえない

数字を見ても、去年1年間の市中への資金供給の大きさは明白だ。資金供給の結果として、日銀の保有資産は昨年12月末に前年より23%増加、金額ベースで129兆円多い702兆円に膨張した。この増加額はデータが開示されている1998年以降で最大なのだ。なりふり構わぬコロナ対策の姿が伺える。

このうち、株式相場を押し上げる効果の高いETFは簿価ベースで1年前の25%増、金額ベースで7兆円増の35兆円(簿価ベース)となった。日銀に支えられて、東証1部の時価総額はコロナショックで急落した去年3月に比べて約130兆円も増加した。

こうした株式相場が上昇し易い環境は、今後も当分の間、維持される可能性が強い。というのは、コロナ危機が去り、経済が正常化するまで、日銀に限らず、各国は大規模な金融緩和を継続せざるを得ないからだ。

その一例が、米FRBだ。昨年9月のFOMC(連邦公開市場委員会)で、コロナ対策に万全を期すため、少なくとも2023年末までゼロ金利政策を維持するという方針を表明した。

また先週木曜日(2月18日)。黒田日銀総裁は菅総理と会談、「金融緩和を相当長く続ける必要があることを伝えた」と明かしている。

これらは、昨年のコロナショックのような混乱が再発すれば、日銀やFRBが迷うことなく再び大胆な金融緩和策を講じるとの意思表明に他ならない。

こうした状況では、相場が大きく下がるとは考えにくい。投資はあくまでも自己責任で、安易な投資を推奨する気は毛頭ないが、上昇し易い世界的なカネ余り状態が続くとみるのが自然だろう。

上下する市場の機能が損なわれている

急激に強いインフレ懸念が台頭するとか、相場が過熱し過ぎるといった想定外の事態が起きない限り、環境が大きく変わることはなさそうだ。

とはいえ、金融緩和は決して良いこと尽くめではなく、多くの副作用が生じている。本来、市場は上がったり下がったりして、経済を映す鏡となるものだが、その機能は損なわれたままだ。

銀行への資金供給や企業の救済オペが、コロナ危機以前から破綻しかねない状態にあった銀行や企業の経営実態を覆い隠し、ゾンビ銀行やゾンビ企業の闇雲な延命策となっていることも深刻である。

日銀のETF保有残高は時価換算すると、45兆円を超えた模様だ。これは、日銀が年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を抜いて、日本株の最大の株主になったことを意味している。「モノ言わぬ株主」である日銀が、緊張感のない経営を助長し、モラルハザードを加速していることも、コーポレートガバンスの観点から看過できない問題である。

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