鈴鹿8耐、19チームが装着するブリヂストンのレーシングタイヤについて聞く 3年ぶりに行なわれる鈴鹿8耐での進化は?

鈴鹿8耐、19チームが装着するブリヂストンのレーシングタイヤについて聞く 3年ぶりに行なわれる鈴鹿8耐での進化は?

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  • 更新日:2022/08/06
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ブリヂストンは鈴鹿8耐において19チームにタイヤを供給していく

8月7日に鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で決勝レースがスタートする「FIM世界耐久選手権 "コカ·コーラ" 鈴鹿8時間耐久ロードレース」(以降、鈴鹿8耐)。新型コロナウイルスの影響により2019年以来、実に3年ぶりの開催となる今大会でブリヂストンはタイヤサプライヤーとして最大勢力となる19チームにタイヤを供給する。

この3年間でモーターサイクル用レーシングタイヤはどのような進化を遂げ、市販タイヤにどうフィードバックしているのか。真夏の過酷な耐久レースにおいて予想される戦略も含め、ブリヂストンでタイヤ開発を担当する時任氏と、モータースポーツ関連の運営などを担当する東氏のお二方に話をうかがった。

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株式会社ブリヂストン タイヤ開発第3部門 MCタイヤ設計第3課 時任泰史氏(左)と、同モータースポーツ企画・推進部 モータースポーツオペレーション課 東雅雄氏(右)

鈴鹿8耐は気温、路面温度の高さに合わせたタイヤスペックに

──3年ぶりの鈴鹿8耐です。前回の3年前から、もしくは2021年シーズンからのレースタイヤの進化点を教えてください。

時任氏:鈴鹿8耐はEWC(世界耐久選手権)のシリーズ戦の1つではありますが、欧州ラウンドと比べると特殊な環境です。路面のミュー(μ、摩擦係数)が高く、真夏なので路面温度が高い。ですので、鈴鹿8耐とEWCの欧州ラウンドとではタイヤのスペックを分けて考えています。

それを踏まえて、まず3年前の鈴鹿8耐からタイヤがどう変わったかをお話ししますと、鈴鹿8耐は開催されなかったものの、全日本ロードレース選手権(JSB1000)は若干開催数が減りながらもレースはありましたので、そこで熟成を重ねてきたタイヤを持ち込んでいます。

夏の鈴鹿8耐は路面が非常に高温になります。特に今シーズンは8月開催(例年は7月開催)ということもあって、さらに高温になることが予想されたため、特に耐熱面についてケアしたタイヤを用意しています。

──EWCのほかのレースに使うタイヤとは違うわけですね。

時任氏:EWCの欧州ラウンドではル・マン(フランス)やスパ(ベルギー)の24時間耐久レースがあります。夜間は路面温度が1桁という条件で走ることもあるので、より低温でのウォームアップ性やグリップについて意識したタイヤにしています。

一方で鈴鹿8耐は8時間と短く、かつほぼ昼間の暑い時間帯しか走らないので、高温に特化したタイヤにしている、ということになります。日が落ちた後の夜間走行もあるものの、チームにもよると思いますが、基本は1スペックのタイヤでいけるように準備しています。

──2020年、2021年とコロナ禍で変則的なシーズンを送ることになったと思います。タイヤ開発やレースを戦っていくなかで苦労したことはありますか。

時任氏:EWCの欧州ラウンドでは、国内から日本人スタッフが現地に行けない状況が2年続き、その環境下で現場を回していくところで苦労しました。現地の欧州スタッフのみで回しましたが、そのための体制作り、新しいエンジニアなどの人材育成が特に大変でした。現地で直接教えることができなかったので、日本からマニュアル的なものを作って送りつつ、現地のブリヂストンのスタッフだけでOJTをやったり。

しかし、そういう体制を過去2年間で作り上げることができ、2022年は渡欧できるようにもなりました。この2年間があったおかげで、かえって現場の体制としては強固になったところもあるので、よいところもよくないところもあったのかなと、振り返ってみれば感じるところはあります。

テスト機会は過去に比べると減りました、タイヤを設計している日本のエンジニアが、現地のライダーから直接コメントをもらうことができなかったので、そのあたりで難しさを感じたりはしました。ただ、そうしたなかでもタイヤ開発を進めないといけませんので、われわれが持っている東京・小平にある室内試験設備やシミュレーション環境を活用しつつ、バーチャル開発的な形で進めてきています。

──海外との主なコミュニケーション方法はどういったものでしたか。

時任氏:レース前、レースウィーク中などにMicrosoft Teamsを使ってリモートからサポートすることはありました。が、例えば突然雨が降ってきたときや、ある気温下でどのスペックのタイヤを選ぶかなど、そういう場面ではリモートで画面越しに判断することができないので、現地のスタッフを信用して現場を回してもらいましたね。

ピットストップ7回、8スティントが勝敗の分かれ目?

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ブリヂストンがサポートするトップチームの1つ、33号車のTeam HRC。予選から圧倒的なトップタイムをマークしている

──先日は鈴鹿8耐に向けて、タイヤメーカーとして最大勢力となる19チームをサポートするとの発表がありました。

時任氏:われわれのタイヤを使いたいと言っていただけるチームが多いことについては非常によろこばしく思っています。そうやってチームが増えると、もちろん現場はその分大変になるのですが、それらのチームにしっかり応えていけるよう現場でのサポートをしっかりやっていきます。

──今大会、路面温度や天候の急変など、タイヤに大きく影響を与えそうな懸念点はないでしょうか。

時任氏:鈴鹿8耐は今年に限らず、気温が高く路面温度も高いので、それに対するケアが一番の鍵になってくると考えています。たとえばレースウィークの前半となる8月2日火曜日、3日水曜日は非常に気温が高く、路面温度も60℃を超えるような環境でした。が、各チームはしっかり走っていただけましたし、決勝レースは今のところさほど気温が上がらない予報にはなっていますので、きちんと対応していけるだろうと考えています。

──4日木曜日、5日金曜日と雨が断続的に降る不安定な天気が続いていますが、決勝レースだとこうした天候においては特別な対応が必要そうですか。

時任氏:基本はドライタイヤとウェットタイヤのどちらかの選択になってくる、というだけかと思います。最終的にはチームの判断で、どこで履き替えるか、になってくるでしょうが、そのあたりはわれわれのエンジニアも含めてコミュニケーションをとり、急な雨など路面状況の変化に素早く対応して、各チームが最適な選択をできるようにしていきます。

──ほかのタイヤメーカーのダンロップ、ミシュラン、ピレリ勢と戦っていく上での強みはどこにあると考えていますか。

時任氏:鈴鹿のような非常に高温の状況下でもしっかりと1スティント、大きなタレもなくラップタイムの落ちもなく走り切れるところがわれわれの強みだと考えていますので、その強みを活かして各チームで戦略を立ててもらい、しっかりと勝ちに繋げていければと思います。

東氏:レースですので、各チームには目標があると思います。特にファクトリーチームや全日本ロードレースの強豪チームは、もちろん優勝狙いで、最低でも表彰台でしょう。ファクトリーチームは会社の使命で優勝を狙っているところもあると思います。そこに対して、われわれのタイヤで足元がすくわれるようなことがないよう、時任が率いる開発部隊の方でしっかりチームを支えるタイヤを供給し、各チームが目標通り、あるいは目標以上の好成績を獲得できればわれわれとしては幸甚です。

──ズバリ、鈴鹿8耐での見どころを教えてください。

時任氏:現在のレギュレーションでは決勝に関してはタイヤの本数制限はないんですが、ピット回数を少なくして、ロスタイムを減らすところが鍵になってくると思います。特に優勝を狙っているようなトップチームは、1スティント約28周として、ピットストップ7回、8スティントで走り切るところが勝敗の分け目になってくるのではないでしょうか。

8時間のレースですから基本は1スペックのタイヤ固定で走るチームが多くなると予想されます。スタート直後の昼間の時間帯は暑いのである程度耐え忍ぶ走行をして、涼しくなってくる夕方15時、16時以降は、ラップタイムも速くなっていくと思います。そこからスパートをかけてタイムを稼いでいくのが基本的な戦略になるだろうと考えています。平均的には2分8秒台で周回する想定ですね。

レースタイヤの技術は市販タイヤにどう反映されているのか?

──EWCや鈴鹿8耐のような耐久レースで培われた技術は、市販タイヤにはどのような形でフィードバックされているのでしょう。

時任氏:われわれのレース活動はブランドイメージ向上の側面もありますが、市販タイヤに向けた先行開発という位置付けにもなっています。たとえば新素材、新構造、タイヤの解析技術などの分野では、市販のレーシングスリックタイヤはもちろん、公道用のBATTLAX RACING STREET RS11やBATTLAX HYPERSPORT S22などの市販タイヤにもフィードバックしています。

先ほどの話で出た耐熱のところが1つの例として挙げられます。タイヤのグリップを上げていくと、その背反性能としてタイヤの耐久性・耐熱性は下がる方向になります。そのグリップと耐久性・耐熱性を両立していくのが技術的に非常に難しいので、鈴鹿8耐のような過酷なレース環境で培ってきた技術は市販タイヤでも大いに役に立つ部分となります。

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鈴鹿8耐のブースに並ぶ市販タイヤ。これらの市販タイヤには鈴鹿8耐などで開発された耐熱の技術が活かされているという

──4輪のレースタイヤと2輪のレースタイヤとで、技術面での共通点、あるいは相違点などはあったりするのでしょうか。

時任氏:形状が違うとはいえ、4輪と2輪に技術的なつながりはあります。コンパウンドの面でいうと、使っている材料や配合設計の技術は4輪と2輪でダイレクトにつながっていますので、2輪で培った技術が四輪に行くこともあればその逆もあって、技術的なやりとりはしっかりリンクしながら開発していますね。

タイヤの接地面を可視化して形状や荷重、温度などを分析できる、われわれ独自の解析技術である「ULTIMAT EYE(アルティメット アイ)」は4輪だけでなく2輪でも同じように活用していますし、レースタイヤ開発にも公道用の市販タイヤの開発にも同様に役立てています。

東氏:私も3年前までEWCやMotoGPのタイヤエンジニアとして14年間活動してきましたが、4輪と2輪で大きく異なるのはキャンバー角、バンク角ですね。2輪のタイヤはバンクがつきますが、4輪のタイヤはバンクしません。

4輪はフロントタイヤに舵角、ステアがついて曲がっていきますが、バイクはそれに加えてキャンバー、バンク角がつき、キャンバースラストが発生することで曲がっていく。タイヤが出す曲がろうとする力の部分が大きく違います。ですので、4輪が曲がるための技術・考え方と、2輪のそれとでは、乗り物自体の構造が全く違うので、その部分に関する考え方はあまりリンクしていません。

しかしながら、考え方において一番共通するところは「熱(の変化)」かと思います。4輪と2輪ではタイヤの接地面積が違います。4輪は常にタイヤのほとんど端から端まで同じように接地していますが、2輪は曲がるときに左右のショルダー部分しか接地しません。左コーナーと右コーナーで接地する場所が変わるんですね。そのせいで、2輪はタイヤ表面温度が上がったり下がったりします。

一方で、4輪はフェンダーやハウジングにタイヤが隠れるので直接風が当たりづらく温度は上がりやすい。でもバイクのタイヤはある程度むき出しになってるので、そういったところでも温度は変わります。

さらにレーシングタイヤだと普通の公道タイヤと違って使う温度領域が高いわけですが、そこの温度に対する考え方は4輪も2輪も全く同じ考えで、それぞれの温度に対してコンパウンドなどをどう工夫していくか、そのあたりは技術的に非常にリンクしていますし、考え方も一致しています。

公道ではタイヤの温度はそこまで高くはならないですから、その分はロバスト性と言いますか、高い温度でも低い温度でも安全に、安心して乗ってもらえるタイヤになるように調整します。こういった熱に関する考え方はレースタイヤでも公道用タイヤでも全く一緒で、4輪も2輪も同じように培われていますね。

スズキのMotoGP、EWC撤退について

──スズキが2022年をもってMotoGPだけでなくEWCからもワークスチームとしては撤退すると発表がありました。タイヤメーカーとして伝えたいことはありますか。

東氏:ご存知のとおり、われわれも以前はMotoGPにタイヤサプライヤーとして参戦していました。2002年から参戦していますが、その後のかなり早い段階、2004年からスズキさんにはタイヤ供給をさせていただき一緒に戦ってきました。

参戦3年目で、まだまだライバルメーカーに比べると一歩も二歩も遅れているような状況のなか、スズキさんにはいろいろと協力していただき、タイヤ開発において時には無理をお願いしたり、性能が満足できるものでなかったにも関わらずレースに臨んでいただいたりしました。

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昨季2021年のEWCの覇者、1号車Yoshimura SERT Motul。その姿を見ることができるのも今季限り

そんな中で2007年にMotoGPチャンピオン(Ducati Marlboro Team)を獲れたのは、ひとえに初期段階から協力していただいたスズキさんあってこそだと確信しています。その後もMotoGPだけでなく、全日本ロードレースや鈴鹿8耐でもヨシムラさんとタイヤの供給契約を結ばせていただいて数多くの勝利を獲得できましたし、これもスズキさんのレース活動への情熱があってこそだと思っています。

今回の撤退発表は、レース業界の中ではかなりのインパクトがありました。ただ、近年はレースに対する環境、状況が10年前、20年前と比べると大きく、しかも急激に変わってきているとわれわれも感じているところです。

スズキさんにとっては苦渋の決断だったと思いますが、これでわれわれとしてお付き合いが切れるわけではなく、今後もビジネスはもちろん環境問題、サステナブル・カーボンニュートラルに対する活動といったところで、われわれタイヤメーカーも推進していく必要があり、そうした分野ではスズキさんと今後も強力なタッグを組みつつ活動していくことは十分ありえます。そうなればわれわれとしてはとても光栄です。

レース活動に関しては、とりあえず今の時点では本当にありがとうございました、お疲れさまでした、ということに尽きますが、それと同時にこれからもお願いします、とお伝えしたいですね。

──最後に読者に向けてメッセージがありましたら。

東氏:先日、当社は「Bridgestone E8 Commitment」を発表させていただきました。これは今後のブリヂストンの活動において、環境・自動車文化などを支えていくための「Energy」「Ecology」「Efficiency」など8つの価値を宣言したものです。

その中でモータースポーツに関しては、10年後も20年後もサステナブルなモータースポーツ活動をしていく、としています。これから先も、走ってワクワクするようなモータースポーツであるように、開発あるいは運営などのレース活動を通じてコミットしていきます。

4輪・2輪含め、日本発信のモータースポーツ文化をサステナブルなものにし、モータースポーツを見る方、乗っている方、走る方、そういった方々みんなが常にワクワクするようなタイヤを供給できるように、またはそんな体制が作れるように、あるいはそういった製品を開発してみなさんに使っていただけるように、活動を続けていきたいと考えています。

そうした意味で、コロナ禍が長く続き、モータースポーツに触れる機会が当社従業員の中で減っていたこともあって、今回の鈴鹿8耐では久しぶりに社内応援団として250名ほどがレース観戦しています。実際にレースを見て、モータースポーツに興味関心をもってもらい、好きになっていただく、というのを会社の取り組みとしても改めて行なっているところです。

ブースも出展し、10年後も20年後も走るワクワクを提供し続ける、というコンセプトのもと、市販タイヤを展示するとともに、2輪モータースポーツにおける当社の今までの取り組みを紹介しています。また、鈴鹿8耐にゆかりのあるゲストや当社タイヤエンジニアが登壇してのトークショーなど、鈴鹿8耐を盛り上げるイベントも用意しています。

今年は初めてロゴ入りシャツやタオル、日傘など、BATTLAX(バトラックス)オリジナルグッズの限定販売をしていたりもしますので、ぜひお立ち寄りください。

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鈴鹿8耐会場にあるブリヂストンブースの外観

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これらのBATTLAXグッズを初めて販売する。限定とのことなので欲しい人はお早めに

日沼諭史, Photo:佐藤安孝(Burner Images)

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