暗殺一族の姫に恋する美少年と、標的に心を動かされてしまった姫。それぞれの想いの行方は...

暗殺一族の姫に恋する美少年と、標的に心を動かされてしまった姫。それぞれの想いの行方は...

  • ダ・ヴィンチニュース
  • 更新日:2020/09/15
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『年年百暗殺恋歌』(草川為/白泉社)

「余白」のある作品はいいな、と思う。セリフでは語られない、台本のト書きにさえもしかしたらなかったかもしれないけれど、ふとした表情や視線の動きにはっとさせられ、忘れられない一瞬になる。その一瞬が、物語を理解するうえでも、のちのち、じわじわ、効いてくる。暗殺を生業にする人々を描いたマンガ『年年百暗殺恋歌』(草川為/白泉社)もまた、そういう作品だった。

舞台は江戸時代、くらいだろうか。暗殺を請け負う灰星家の姫・鷹十里と、彼女に命を救われ名前を授けられて以来、人生を捧げる覚悟で想い続ける少年・雷火。2人が鷹十里の兄より命じられたのは、急死した領主一家への調査と潜入。妾腹の長男が領主を殺した証拠をつかみ、後継ぎたる次男の命を狙う前に殺せという、2つの指令だ。鷹十里は新米の女中として、雷火は長男の許婚をたまたま救った寺の下男として、内部に入りこむことに成功する。

鷹十里も雷火も、いつ命を落とすともしれない、明日をも知れぬ身。一日でもはやく、一瞬でも長く触れあっていたいが、主君の妹である鷹十里に手を出せば、やはり雷火の命はない。それに肝心の鷹十里は、兄に認めてもらうことしか頭にない。誰よりも近いのに、誰よりも遠く、まなざしだけで触れあい、すれ違う2人。影を背負う2人の微妙な関係が、任務を通じて描かれていくのかと思いきや。

なんと鷹十里は、標的である領主の長男・芹生に心を動かされてしまうのだ。

鷹十里も、雷火を意識しているそぶりは、ある。別の生き方もあったはずなのに、幼い頃、深く考えることなく手を差し伸べてしまったせいで、人を殺し続ける人生を背負わせてしまった罪悪感。家族に冷たくあしらわれる孤独のなか、唯一、寄り添ってくれる雷火への安心感と喜び。けれど、成長する雷火の、ときおり見せる“男”としての表情に動揺しながらも、誰より大事だからこそ踏み込めない葛藤を鷹十里は抱えている。そんななか、出会ったのが鷹揚で、身分に分け隔てない優しさをもち、どこか兄に似た面影をもつ芹生だ。鷹十里は彼を“殺さない”ための情報収集を始めるが……。

立場を背負えば、言えないことは多くなる。胸に秘めた想いは、ときに誤解を招き、悲劇を生む。鷹十里と雷火だけでなく、芹生をはじめとする関係者みんなが、腹の底になにかを抱えているさまが、ミステリー仕立てで、かつ余白を効果的に描きだすことで、切なさが伝わってくる。

個人的には、芹生の許婚を利用するため、色仕掛けで彼女に迫る雷火がおすすめ。任務のうちなので心は動かない。だけどそれを鷹十里が見ている、知っている、ということだけが、彼の心をわずかに揺らす。その、ちょっと歪んだ愛情が、どんなふうに昇華されていくのか。鷹十里の本心はどこにあるのか? 続きが気になってたまらないが、2巻が出るまで何度も読み返し、余白から妄想をふくらませておくのがおすすめだ。

文=立花もも

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