宮崎駿らから影響を受けた『秘密の森の、その向こう』の「仏実写版ジブリ」的魅力

宮崎駿らから影響を受けた『秘密の森の、その向こう』の「仏実写版ジブリ」的魅力

  • 日刊サイゾー
  • 更新日:2022/09/23
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9月23日よりフランス映画『秘密の森の、その向こう』が公開されている。本作は『燃ゆる女の肖像』(2019)が絶賛を浴びたセリーヌ・シアマ監督の最新作だ。

本作の上映時間は73分という短く、メインの舞台も森の中とそこにある家とごく狭く、主要登場人物はたったの5人と、とにかくミニマムな作品だ。だが、静かに語られる愛おしい物語は、普遍的に多くの人に届くものであり、ラストに深い余韻も与えてくれる。濃密とも言える時間を、映画館で体感してほしいと心から思える秀作に仕上がっていた。

さらに面白いのは、シアマ監督が宮崎駿監督と細田守監督という、日本のアニメ映画監督から影響を受けていると明言しており、実際の本編でもその「らしさ」を感じられることだった。さらなる魅力を紹介しよう。

『となりのトトロ』や『思い出のマーニー』を連想する理由

あらすじを記そう。主人公のネリーは8歳の少女。大好きなおばあちゃんが亡くなったため、お母さんが少女時代を過ごしたおばあちゃんの家を片付けることになった。だが、何を見ても思い出に胸をしめつけられるお母さんは、ひとりで出て行ってしまう。残されたネリーは、かつてお母さんが遊んだ森を探検するうちに、自分と同じ年の少女と出会う。彼女の名前は「マリオン」、お母さんと同じ名前だったのだ……。

もっと端的に言えば「少女が時空を超えて、同い年の頃の母と出会い友情を育む」というファンタジー要素が中心に据えられたドラマである。1人になった少女が森の中で不思議な誰かと出会うことは、それこそ宮崎駿監督の『となりのトトロ』(1998)を連想させる。

謎めいてはいるが魅力的な少女と、時空を超えて出会い仲良くなっていく過程は、宮崎駿の監督ではないが『思い出のマーニー』(2014)も思い出した。さらに、大切な人が死んでしまった、または死ぬかもしれない悲しみを描きつつ、その「喪失感」に向き合う癒しの物語となっていることも、それらのジブリ作品との共通点になっている。

また、物語そのものに大きく寄与するわけではないが、主人公の少女を優しく見守る、重要なことを口にする立場であるお父さんとの関係性も、どこか『となりのトトロ』や『魔女の宅急便』(1989)をほうふつとさせた。観た人それぞれが、宮崎駿監督やジブリ作品らしさを、きっと感じ取れるだろう。

10代の頃から宮崎駿監督作品を映画館で観ていたというシアマ監督は、撮影中に方向性を見失った時、自分自身に「宮崎駿監督ならどうする?」と問いかけた上で、「いつも子どもたちが好きだと思う方を選んだ」と語っている。

そう選択し続けた理由は、「子どもが映画やドラマを見る時、私たち大人のように文化的背景や歴史的背景にとらわれない」「子どもは今現在の感覚だけで見るから、新しいアイディアや物語に反応する」と考えたことなのだそうだ。つまりは「子どもが子どもを観る視点」で映画を作り上げた、ということなのだろう。

それも確かに、子どもが登場する宮崎駿監督作品に通ずる要素だろう。例えば『となりのトトロ』の、お姉さんとして「ちゃんとしようとしている」サツキや、無邪気だけど「しっかりと意志を持つ」メイの姿からは、子どもの考えや行動を甘く見ていない、宮崎駿監督の真摯な姿勢がうかがい知れるのだから。

『おおかみこどもの雨と雪』との共通点

さらに、シアマ監督はインスピレーションを与えた映画として、細田守監督作品の『おおかみこどもの雨と雪』(2012)を挙げている。確かに「ファンタジー要素をもって、子ども2人の関係と成長、さらに母親との関係を綴っていく」ことは、『秘密の森の、その向こう』に通ずる要素だ。

シアマ監督が『おおかみこどもの雨と雪』を大好きな理由は「子どもが解放されていく」「家族に対する感謝などを丁寧に描いている」ことなのだそう。これを受けて、細田守監督は「光栄に思います。拝見しながら『未来のミライ』(2018)も連想しました」「彼女の映画から、僕も新しい映画へのインスピレーションを受けたいと思います」などと、公式のコメントを寄せていたりもするのだ。

子どもの自然体の姿を映し出せた理由なのかもしれない

『秘密の森の、その向こう』における、宮崎駿監督や細田守監督作品からの影響は、おそらく子どもの「演技をしていると思えないほどの自然体の姿」の演出にも生かされているのではないか。そこに「大人が思う文化的背景や歴史的背景などが全く見えない」「純粋な子どもだけの世界」があることにも、感動があったのだから。

シアマ監督は、新たな場所で男の子として過ごそうとする10歳の主人公を描く『トムボーイ』(2011)や、脚本で参加した孤児院で暮らす少年少女を描いたストップモーションアニメ映画『ぼくの名前はズッキーニ』(2016)でも、子どもの心を繊細に描いており、今回もその手腕が見事に発揮されていたとも言えるだろう。

余談だが、『秘密の森の、その向こう』の主人公のネリーと、少女時代の母マリオンは、実際に双子の姉妹が演じていたりする。そのあまりのそっくりさに混乱してしまいそうにもなるが、「主人公ネリーの服が青」「母マリオンの服が赤」と認識しておくとわかりやすいだろう。

『秘密の森の、その向こう』における「同い年の頃の母と出会い友情を育む」なんてことは、もちろん現実にはあり得ない。だが、それは多くの人が現実の自分自身に置き換えて想像することができる、親子の関係を見直すことにもつながる、とても普遍的で面白いテーマだ。

「母親も子どもの頃の自分と同じ年齢だったことがある」というのは、もちろん世界中の全ての人に共通している、当たり前のことだ。だが、それを感覚として理解することは難しいし、そもそも考えたこともないという方がほとんどだろう。その当たり前を、美しい映像で提示して、とことん見つめ直すことこそ、本作の意義なのではないだろうか。

ちなみに、シアマ監督は本作の脚本を、世界がコロナ禍に突入した後、フランスのロックダウンが終わった頃に本格的に書き始めたのだそうだ。そこには「近年、子どもたちは大きな危機とたくさんの苦難に直面している。彼らは世の中に広がる不満を聞き続けている」「だから私たち大人は、子どもたちを輪に入れ、子どもたちに物語を聞かせ、 子どもたちと協力することが重要だと思った」と、早急にこの物語を作る必要性にかられていた理由も語っている。

その想いは、間違いなく作品に結実している。『秘密の森の、その向こう』は、「子どもが子どもを観る視点」で、子どもの気持ちにとても真摯に寄り添った映画なのだから。その作り手の意志は、きっと「かつて子どもだった大人」にも響くことだろう。

『秘密の森の、その向こう』
9月23日(金・祝) ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ他 全国順次ロードショー
監督・脚本:セリーヌ・シアマ『燃ゆる女の肖像』
撮影:クレア・マトン『燃ゆる女の肖像』
出演:ジョセフィーヌ・サンス/ガブリエル・サンス、ニナ・ミュリス、マルゴ・アバスカル
提供:カルチュア・エンタテインメント、ギャガ  配給:ギャガ
原題:Petite Maman/2021/フランス/カラー/ビスタ/5.1chデジタル/73分/字幕翻訳:横井和子/映倫G
C) 2021 Lilies Films / France 3 Cinéma

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