金刀比羅宮に神職姿のフランス人研修生 日本の伝統を肌身で吸収

金刀比羅宮に神職姿のフランス人研修生 日本の伝統を肌身で吸収

  • 朝日新聞デジタル
  • 更新日:2023/09/19
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"金刀比羅宮の境内に立つサルヴァドル・ニコラさん=香川県琴平町"

■しこく宝島

金刀比羅宮の御本宮周辺を掃除するサルヴァドル・ニコラさん=香川県琴平町

「こんぴらさん」の愛称で親しまれるパワースポット、金刀比羅宮(ことひらぐう、香川県琴平町)。最近は外国人観光客の姿も目立つようになったが、まさか神職姿のフランス人に会うとは思わなかった。

サルヴァドル・ニコラさん(27)が8月の約3週間、ここで研修生として働いていると知り、会いに出かけた。日本固有の宗教・神道になぜ興味を持ったか知りたかったからだ。

デザイナーを志し、日本のものづくりを学ぼうと、4年前に来日した。環境保護に関心があり、自然との共生を重んじる暮らしにヒントがあると考えたのだ。京都の建築設計事務所などで働いたが、思い描いていた理想は見つからず、旅行者としてたどり着いたのが金刀比羅宮だったという。

文字通り象の頭の形をした聖地・象頭山(ぞうずさん)の中腹に点在する荘厳な建築や、瀬戸内海や讃岐平野を一望する眺めに魅せられた。職員に思わず「研修できますか」と聞いたら、とんとん拍子で実現した。

研修は、御本宮まで続く参道の785段の石段を上り、職場に着いたらシャワーを浴びて身を清め、白衣に着替えることから始まる。同宮の岸本庄平さんは「神職は見られる仕事。清い心と体でみなさんをお迎えするために必要な作法を学んでいただいた」と言う。

ニコラさんは参拝客から見えないところでも、昔ながらの作法が行われていることに驚いた。例えば、毎日神様にお供えするご飯は、火打ち石を使ってかまどで起こした火で炊かれる。自身も挑戦し、「火がついてすごくうれしかった」。そのほか、ご祈禱(きとう)の手伝い、お守りの授与、季節の祭事、掃除といった仕事に加え、雅楽で使われる横笛の竜笛(りゅうてき)の稽古を受けたり、蹴鞠(けまり)を体験したりもした。こうした日々の学びや考察を英文でつづり、美しい写真と共にインスタグラム(@3_secondes_plus_tard)に投稿した。

実はこの夏、私も金刀比羅宮に研修のため何度か通い、通訳ガイドとしての知識を深めた。金毘羅大権現が航海の神としてあがめられた江戸時代、神仏分離令により神社として再出発した明治以後といった変遷、伊藤若冲や円山応挙の障壁画など優れた美術品の宝庫でもあること……。その奥深さを外国人にどう伝えられるか思案していた時にニコラさんの投稿を見て、とても参考になった。

ニコラさんは今月下旬のフランスへの帰国を前に、「宗教的な場所は、いちばん変わらない場所。日本の伝統を吸収できました」とほほ笑んだ。

こんぴらさんは、文化を継承する生きたミュージアムといえる。一方で、ニコラさんを受け入れた懐の深さ、これこそが今も庶民信仰の聖地であり続ける秘訣(ひけつ)のような気がした。(通訳ガイド・細川治子)

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