「冒険心大事に」角川春樹が帰ってきた 『みをつくし料理帖』を監督

「冒険心大事に」角川春樹が帰ってきた 『みをつくし料理帖』を監督

  • 西日本新聞
  • 更新日:2020/10/17
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あの「角川映画」を先導してきた角川春樹さんが映画に帰ってきました。しかも監督として。野性味やスケール感の大きな映画を手掛けるイメージを裏切り、高田郁さんの人気時代小説シリーズが原作の「みをつくし料理帖」を静かな佳作に仕立てています。読んでから見るか、見てから読むか。78歳にして、新たな「角川映画」の始まりです。

-こんなに端正で静かな映画での復帰とは意外でした。

★角川 いろんな意味で自分から撮ろうとしたというより撮らされた感がある。人気の原作で、テレビドラマにはなっていた。でも映画化の話がある度に最終的になぜか実現せずに流れていたんですよ。これは自分でやるしかない、とうすうす感じていたところに、2年前、急に妻から「あなたが監督でやれ」と言われてね。今となっては自分が撮るように運命づけられていたとしか思えない。

-毎年のように災害が起こる昨今の日本で、大洪水で両親を亡くした澪が料理人として成長していく物語は、多くの人が感情移入してしまいます。

★角川 今年は熊本の方でも大きな災害がありましたしね。完成してすぐに書店や取次(業者)の人たちを対象にした試写をやったんですが、「この時代だからこそ見てほしい映画」という感想が多かった。でも、撮影する時にそんなに意識していたわけではないんですよ。当然、今のコロナ禍の状況も撮影時にはなかったし。そういう意味でも、神がかっているというか、自分で狙ったというよりも撮らされた映画だという気がしているんです。

-澪が幼少期に易者に言われる「雲外蒼天」という言葉も今の時代だからこそ響いてきます。

★角川 「雲外蒼天」という言葉は、艱難(かんなん)辛苦が降り注ぐ人生だが、苦労に耐えて精進を重ねたら真っ青な空を拝むことができる、という意味。映画を見た方々がそれぞれの境遇で何かを感じ取ってもらえればと思います。

-澪役の松本穂香さんと、澪の幼なじみ野江(あさひ太夫)役の奈緒さん。2人の若い主要キャストの演技も注目です。

★角川 薬師丸ひろ子や原田知世、渡辺典子、安達祐実、浅野温子、宮沢りえ…過去も私は新人を抜てきすることが多かったが、いつもほぼ直感なんです。配給会社の方は知名度がある方が安心かもしれないが、私は迷わず起用して「角川マジック」を起こしてきた。会った瞬間、あ、この子だって分かるんですよ。それは演技がうまいということではなく存在感。場面、場面を一枚の絵としてみたときに、その絵に耐えられる存在感があるかどうかなんです。

-メディアミックスなど今では当たり前の手法をいち早く手掛けてきましたが、今の映画業界をどう見ていますか。

★角川 コミック原作のアニメ化、実写化がまず多いね。私が一緒にやってきた映画監督、深作欣二、佐藤純彌、大林宣彦、森田芳光…などがみんな亡くなってしまって、きちんとドラマを演出できる人もいなくなってしまった。本当のエンターテインメントを手掛けられる監督を発掘、育てることをこれから考えたいと思う。

-編集者としてもまだまだ現役でいらっしゃいますよね。

★角川 直木賞候補にもなった今村翔吾や知野みさきなどに注目している。まだ一般には無名だけど平岡陽明も実力がある。西鉄ライオンズの黄金期を描いた「ライオンズ、1958。」などを書いています。今度、うち(角川春樹事務所)から新作が出るからよろしく頼むよ。本も映画も内容がいいから必ずしも売れるとは限らない。だから、売る側はどうしても実績があるものを売ろうとしがち。でも、私は冒険心や「お祭り感」を大事にしてこれからも若い才能を売り出していきたいね。 (文・内門博、写真・大月崇綱)

▼かどかわ・はるき 1942年1月8日、富山県生まれ。出版業の傍ら76年に「犬神家の一族」で映画界に製作者として進出。「人間の証明」など話題作を連発し、日本映画界を席巻した。監督作は「汚れた英雄」「愛情物語」「天と地と」などで、「みをつくし料理帖」は8作目。薬師丸ひろ子さん、渡辺典子さん、野村宏伸さんなど「角川映画」を担った俳優たちも集結した。主題歌も「ねらわれた学園」や「時をかける少女」などの主題歌を手掛けた松任谷由実さん作詞・作曲の「散りてなお」で、福岡出身の手嶌葵さんが歌っている。

西日本新聞

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