中国が南沙諸島で進める領土拡大、姑息な戦術を徹底分析

中国が南沙諸島で進める領土拡大、姑息な戦術を徹底分析

  • JBpress
  • 更新日:2021/06/11
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米空軍のFA-18戦闘機に空中空輸するKC-135(2021年5月28日撮影、米空具のサイトより)

南シナ海の南沙諸島海域で、中国は、領域拡大のためにこれまでと異なる方法で新たな行動を始めた。

その方法は、漁船や軍用機を使用した陽動作戦である。この裏には、新たな企みがある。

南シナ海と南沙諸島

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出典:日本大百科全書(ニッポニカ)

南沙諸島での中国の行動について、長期にわたる分析を行った。

ベトナムやフィリピンなどの周辺諸国が島や礁を占有していた。そこで、中国は1988年頃、周辺諸国が占有していない低潮時にしか水面上に出てこない岩(干出岩または低潮高地)を占拠した。

1989年頃、中国の開放軍報などに、人間よりも小さい岩の上に石碑を建て、一人の兵士が膝まで海面に浸かって、中国の旗を立て、小さな小屋を建てて、監視を継続する写真が掲載された。

取ったものは、しがみついて放さないといった表現が適切だろう。

当時、ベトナムの関心は高かったが、日本や米国の政策決定者たちの関心は極めて低かった。

日米が関心を持つようになり、メディアが報道するようになったのは、中国が占拠した干出岩を、大規模に埋め立て始めてからだ。

中国は、南沙諸島において、軍事力で強引に入り込み、干出岩を占拠してきた。

そして、「中国の歴史的権利には証拠がない」などとの批判に対しては、事実と異なる嘘に嘘を重ねた発言を繰り返し、人工島から撤退することはしなかった。

国家のトップである国家主席から、政府、軍、中国メディアに至るまで、嘘を言い続けてきた。この嘘には、何かの企みが潜んでいて、真逆の場合が多い。

中国の大型で鋼製の漁船団が今年(2021)の2~3月から、南沙諸島ユニオン堆群内のウィットサン礁(牛軛礁)の内側に2か月以上もの期間、係留され続けている。

5月末に情報収集機(IL-76型輸送機に多数のアンテナが装着されている)を含む16機の中国軍機が南シナ海南沙諸島を通過して、ボルネオ島へ接近した。

飛行経路は、このウィットサン礁の上空だ。

ウィットサン礁と中国漁船の係留

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出典:The Sydney Morning Herald 「Pushing the limits of COVID diplomacy, Philippines threatens to expel Chinese official」(2021年4月7日)

中国漁船団の係留についての中国政府の発表には、明白な嘘が含まれている。何かの企みがある。

そこで、この事象に焦点を当て、中国による南シナ海特に南沙諸島への侵入と占拠の歴史的経過を踏まえて、これらの漁船を長期間、係留させている中国の狙いおよび日米などの対策を考察する。

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1.天候良好で2か月以上避難の漁船団

南沙諸島海域では、島、岩、干出岩、人工島などがあり、ベトナム、フィリピン、マレーシア、台湾、中国が島と岩(高潮時にも海面に現れている)を実効支配している。

中国は、干出岩を埋め立てて軍事基地化している。実効支配の状況は、周辺各国が入り混じっているのが現状だ。

このような実効支配の状況において、フィリピン政府によれば、自国のEEZ内と主張する南シナ海南沙諸島のウィットサン礁の内側に、中国の大型鋼製漁船が2月に約200隻、3月に220隻が係留されていた。

写真も公表された。その後もこの係留は、2か月以上も続いている。

フィリピン政府は中国に対し、「この侵略をやめ、我々の海洋権を侵害して我々の領海に侵入している船舶を直ちに撤退させるよう要求する」「同地を軍事化する明らかな挑発行為」と述べた。

中国政府の報道官は、「悪天候から避難するための措置で、中国の漁船は長い間この地域で漁をしている。これはごく普通のこと。フィリピンの当局者が、大げさに騒ぎ立ているが、何も問題はない」と主張した。

フィリピンは、強風のため漁船が集まって退避したとの中国側の説明には、「天候は良好だった。しかも操業していなかった」として反発した。

ウィットサン礁の中国漁船団と天候(晴天で波は静か)

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出典:The Sydney Morning Herald 「Pushing the limits of COVID diplomacy, Philippines threatens to expel Chinese official」(2021年4月7日)

公表されているどの写真を見ても、快晴で、天候が荒れている様子はない。それも、2か月以上も係留されたままというのは、極めて特異な事態である。

中国の報道官は、この事態を認めているのだが、理由についての発表は明らかに嘘である。

つまり、嘘で騙さなければならない悪意ある意図があるために、真実を公表できないということだろう。

実効支配の新たな戦法

中国の悪意ある意図を推測するためには、中国漁船団が係留されているウィットサン礁とこれを取り囲むユニオン堆群を占有する国と人工物の実情を知る必要がある。

堆群内のそれぞれの島や礁が、実効支配されていなければ問題がないのだが、実態は、ベトナムが最も早く島や礁を占拠し、その後、中国が礁内の干出岩を占拠し、埋め立て大規模基地に作り上げたところだ。

フィリピンは、占拠の実態はないが、経済水域の範囲内であることから、フィリピンの領土だと主張している。

ユニオン堆群には、2個の島と25個以上の礁がある。島や礁内の干出岩を埋め立てた人工島に基地が建設されている。

ベトナムは、1974年以降にシンコウ島(景宏島)とコリンズ礁(鬼喊礁)、ランズダウン礁(瓊礁)、シンコウ東礁(染青沙洲)を占拠し、基地を建設している。

一方、中国は1988年以降、低潮高地であったヒューズ礁(東門礁)、ジョンソン南礁(赤瓜礁)を占拠し、2014~2015年に埋め立てた人工島に基地を建設した。

ユニオン堆群と各礁の占有状態

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出典:wikipedia、unionbanks図に筆者が名称などを書き込んだ

ユニオン堆群内の人工島と占有国

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出典:筆者がグーグルマップから島と人工島を抜粋して作成

その他、20個ほどの礁は、海面の下にあって、警備艇の監視はあるものの、どの国も人工物を設置することなく、実効支配していない。

中国漁船団が係留されている近くのウィットサン礁はこの礁の一つで、低潮時に小さい砂州が海面上に現れる。

この礁は、フィリピンの200海里の自国のEEZ内であることで、領有を主張し、今回、中国漁船団の行動を非難している

ウィットサン礁は、最も北西に位置して、「く」の字の形をしており、ユニオン堆群の中でも、最も大きく、全長約13キロの長さがある。

他の礁に比べれば、埋め立ても容易で、この礁を埋め立てれば、南沙諸島最大の滑走路が建設できる。まだ、ベトナムも中国もユニオン堆群に滑走路を保有していない。

中国が違法に多数の大型船舶を係留しても、民間の船ということで、一般的に各国の軍は、武器を使用して排除することは難しい。

このことを利用して、中国軍は、陸戦隊を上陸させて占拠し、浚渫船をかき集めて、埋め立て、大規模な基地を建設するものと見てよいだろう。

3.海面下の7つの岩を巨大人工島に

南沙諸島では、1980年代半ばに駐越ソ連軍が撤退縮小している中、1988年、中国は南沙諸島の中央付近の低潮時のみに水面上に現れる干出岩を6か所占拠した。

1992年在比米軍が撤退した後、1995年、中国はフィリピン寄り(200海里以内)の同じくミスチーフ礁内の干出岩を占拠した。

中国が、なぜ干出岩を占拠する行動を起こしたのか。

常時海面上に現れていた島は、台湾、ベトナム、フィリピン、マレーシアの周辺各国が実効支配している。つまり、周辺諸国の軍が占拠あるいは人民が住んでいたからだ。

そのため、だれもいない干出岩を取りに来たのだ。このようにして、南沙諸島に割り込んできたのが中国だ。

旧ソ連軍や米軍が、南シナ海から撤退した後、軍事力の空白が生じたときに、中国軍が、干出岩を占拠したのだ。

その後、2014年頃に埋め立てを開始し、巨大基地が建設された。

巨大ビル群や3000メートル級滑走路のほか、軍事施設、例えば、砲台、レーダー・通信施設、ミサイルシェルター、弾薬庫などの地下貯蔵庫、防空ミサイル、対艦ミサイル、通信ジャミング装置が設置された。

ここには、「H-6」爆撃機、「J-11」戦闘機、「Y-7」輸送機軍事基地が展開したこともある。

習近平主席が2015年に、「南シナ海において、軍事化を追求する意図はない」と発言したにもかかわれず、1998~1995年にかけて占拠した干出岩を埋め立て、完全な軍事基地を作り上げた。

そして、中国は南シナ海を「核心的利益」としている。

だが、オランダハーグにある仲裁裁判所は2016年に、

①中国が南シナ海や海洋資源を歴史的に、また、排他的に管轄してきた証拠はない。

②中国の「9段線」内の海域における「歴史的権利」の主張は如何なる法的根拠もない。

と裁定した。つまり、南シナ海を巡る中国の主張はほぼ100%認められないということである。

4.中国の不法行為を黙認するな

(1)領土拡大のための中国の戦法

中国は、30数年かけ、占拠していた7つの岩に国旗と標識を建て、その後、埋め立てて大規模な基地をほぼ完成させた。これらは、7つの軍事基地となりつつある。

今後、中国が狙うのは、南沙諸島の戦略的要点となる礁を新たに選定、占拠し、そして中国領有の標識を建て、短期間に埋め立てて軍事基地を建設することである。

そして、現在の7つから10、20、30個と数を増加していくだろう。

これまでのやり方は、周辺国が確保していない岩に陸戦隊が海に浸かって占拠し、中国の標識を建ててきた。

これからは、ウィットサン礁でやっているように、警備艇に守られた大量の漁船を停泊・係留させて、漁業活動であるかのように見せかけて、世界や周辺諸国の監視をごまかし、併せて、他国の漁船や警備艇を追い払い、石碑を建て、大規模に埋め立てる方法に代わるとみてよい。

他国を油断させておいて、無人の礁を盗み取るというやり方だ。

他国の島などを攻撃占拠すれば、国際的な批判を強く受けることから、現段階では、占有する島の数を増やす考えなのだろう。

大量の漁船を利用する方法を用いられると、警備艇や軍艦を使って排除することは、難しくなる。

この戦法で、今後、尖閣諸島を占拠する場合も同様の行動をとってくる可能性がある。

(2)中国による悪意ある領土拡張への対策

フィリピンの国防相が中国船の「即時退去」を何度も要求したが、中国の反発もあって、実現しなかった。

単独行動では、中国を突き動かすことは難しい。共同連携することが必須だ。

南沙諸島から遠いEU報道官でさえも「ウィットサン礁における中国漁船団の存在を含め、南シナ海の緊張は地域の平和と安定を脅かす」と非難した。

南シナ海周辺諸国、日米豪印のクアッド、EU諸国がまとまって、中国の不法な行動に対しては、妥協せず一斉に批判すべきだ。

不法な行動を発見すれば、間髪を入れず批判することが必要だ。

日本は中国に対して弱腰過ぎる。中国が南シナ海で行っていることを見れば、そこが一段落すれば、次は東シナ海であることは目に見えている。

南シナ海で中国の不法な占拠が行われる場合には、日本も各国と連携して、躊躇なく批判することが必要だ。

日本が南シナ海の問題を放置していれば、東シナ海で不法占拠の問題が生じたときに、各国による連携した批判が得られなくなる可能性もある。

中国の嘘は、数年たてば、嘘ということが必ず判明する。

この場合、過去に遡って徹底的に批判すべきである。このことは、領土問題だけではなく、ビジネスや新型コロナウイルス感染症の発生に関して共通するものである。

西村 金一

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