
登山口付近から見た「茨城のジャンダルム」こと生瀬富士。岩肌と稜線が美しい(撮影・穂高カレン)
秋から冬にかけてのシーズンは、低山ハイクを楽しむ人にとって絶好の季節だ。日本アルプスや標高の高い山は積雪で難易度が高く、コースタイムの長い山行は日没が早くなるため不安が残る。
それでも、アスレチックでスリリングな山を楽しみたい! という方におすすめなのが、岩肌がむきだしになった尾根歩きの山容から“茨城のジャンダルム”とも呼ばれている茨城県の「生瀬富士(なませふじ)」だ。2023年1月には、BS朝日の番組『そこに山があるから』で紹介され、俳優の金子貴俊さんがダイナミックな尾根歩きに大興奮していた。
都心部から公共交通機関でアクセスでき、秋冬の「日帰り登山」にぴったりな生瀬富士の絶景と魅力を紹介しよう。
■登山者の憧れ「ジャンダルム」

北穂高岳から見た穂高連峰。迫力ある岩稜が続く
そもそも「ジャンダルム」という言葉自体、耳慣れない人が多いかもしれない。ジャンダルムとは北アルプスの穂高連峰にある、両サイドが切れ落ちた尾根上の岩稜のことで、険しい穂高連峰の中でも「最難所」といわれる場所だ。登山者にとって恐れと憧れの象徴ともいえるスポットでもある。
とはいえ、登山歴6年の筆者は本物のジャンダルムに行く勇気はまだない。いつかは行けたらいいなと夢見ていたところ、友人から「茨城にもジャンダルムがあるよ」と教えてもらった。紅葉が見ごろを迎えた10月末、ドキドキしながら登ってきた。
■都心から特急電車で2時間半「袋田の滝」へ

日本三名瀑の一つ「袋田の滝」
登山口までは日本三名瀑の一つ「袋田の滝」を目指すと分かりやすい。東京駅からJR水戸駅を経由し、JR水郡線袋田駅へ。水戸駅まで特急電車を利用すれば約2時間半で到着する。そこからバスで7分ほどで袋田の滝の駐車場が見えてくる。滝の北側に見えるダイナミックな山が生瀬富士だ。
さすがは茨城県を代表する観光名所、周辺には有料駐車場(1日500円程度)がいくつも設けられており、車で来た場合も安心だろう。滝から約1㎞離れた場所にある「滝本町営第一駐車場」は無料で約50台を収容。トイレも完備していて便利だ。登山口はこの町営駐車場から歩いてすぐの場所にある。
■標高わずか406m! なのに急登や岩場、ロープも

生瀬富士登山口の看板。ここを目印に登山道を目指す
今回筆者が歩いたのは、生瀬富士登山口から袋田の滝近くの「滝川」へ下りるコース。町営駐車場から「登山口」の看板を目印に路地を進むと登山道が見えてくる。
生瀬富士は標高406mと低山ながら、迫力ある岩登りが楽しめるのが特徴。歩き始めこそなだらかな樹林帯だが、すぐに急な上りが始まった。ごつごつした大きな岩の間を抜けるように歩いたり、両手を使って岩によじ登ったりしながら山頂を目指す。

ごつごつした岩が多く、険しい生瀬富士の登山道
■山頂は狭いが、眺望は抜群!

生瀬富士の山頂。狭いが絶景が広がる
登山開始から約1時間で、山頂に到着した。岩肌がむき出しの山頂は狭く、3〜4人が立つのがやっと。しかしながら標高約400mとは思えないほど眺望はすばらしく、目の前には大子町の街並みが広がり、日光や那須の山々まで見渡すことができる。深呼吸をすると、冷たくて澄んだ秋の空気が心地が良い。

生瀬富士山頂からの展望。大子町の街並みや山々が見える
■“ジャンダルム”の稜線へ
「茨城のジャンダルム」と呼ばれる尾根は、山頂からさらに5分ほど歩いた場所にある。ロープの設置された岩の道を登りきると、山頂よりさらに一気に視界が広がった。
尾根はやせていて、両側は切れ落ちている。一歩足を滑らせたら大けがをしてしまうスリリングな道だ。ただ、ごつごつした岩は滑りにくく、慎重に歩けば問題はない。小股でゆっくりと足を進め、ジャンダルムの先端まで行く。ダイナミックな展望に感激して思わず「気持ちいい~」と叫んでしまった。
“ジャンダルム”の最高点、標高406m地点は360度の大パノラマだった。筑波山や那須連峰、日光の山々が一度に見渡せる。筆者が登った日は天候にも恵まれ、いつまでも眺めていたくなるような絶景に心底癒された。
数年前まではこの場所に、穂高連峰のジャンダルムと同じように天使を形どった看板「天使のオブジェ」があったというが、残念ながら筆者が訪れた際にはなくなっていた。
■山から滝を見下ろせるスポットも

遠くに袋田の滝が見える生瀬富士の登山道
下山は来た道を戻ることもできるが、今回は袋田の滝方面へ下りることにした。途中、水の流れる音が聞こえてきて視線を上げると、遠くに袋田の滝が見える。この距離でも迫力ある水の勢いが伝わってくるからさすがである。上からの角度で名勝を眺めるのは、新鮮な気持ちだった。
筆者は渡渉(川などを歩いて渡ること)を避けて近くの川に下りるコースを選んだが、間近で滝を上から眺めることのできる「滝上展望台」へ行くルートもあるので興味のある方は訪れてみてほしい。川を渡って標高404mの月居山(つきおれさん)へ縦走するコースも人気が高いという。
下山には1時間20分ほどかかり、休憩を含めトータルで3時間足らずの山行だった。岩場や見晴らしのよい絶景、名勝の滝を楽しむことができ、登山の醍醐味が凝縮されたコースだった。
日が短くなるこの季節、コースタイムの短い低山はおすすめだ。低山だからといって侮らず、装備や防寒対策をしっかりしたうえで秋冬の低山を楽しんでほしい。

下山時は旅館の脇道へ降りてきた
・「年に1度は見たい」天下一「富士山」絶景! 箱根&芦ノ湖「展望登山レポ」
穂高 カレン