2040年の新しい医療インフラへ、二人三脚で乗り越えた経済合理性の壁 ファストドクター菊池亮、水野敬志

2040年の新しい医療インフラへ、二人三脚で乗り越えた経済合理性の壁 ファストドクター菊池亮、水野敬志

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2022/11/25
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発売中のForbes JAPAN2023年1月号の特集「日本の起業家ランキング2023」で1位に輝いた、ファストドクターの菊池亮、水野敬志。

時間外救急プラットフォームを手がける彼らにとって、過去2年間の爆速成長は序章に過ぎなかった。目指すのは、新しい医療インフラ構築による「2040年問題」の解決だ。

医療の生産性を劇的に上げた
救急医療の現場に立つ医師の危機感と、企業経営/デジタルテクノロジーの専門家に芽生えた少子高齢化に対する問題意識──。ふたつが交わることで、時間外救急プラットフォームを運営するファストドクターのビジネスは歯車がかみ合い、医療業界の新たなインフラを提供する企業として存在感を高めている。新型コロナウイルス感染症への対応で医療資源の効率的な供給に貢献し、売上高、利益とも急成長した。

ただし、彼らにとってここまではほんの序章でしかない。創業者で代表取締CEOそして医師でもある菊池亮は「2040年に向けて、日本の医療の新しいインフラを確立し、全国にしっかり届けていきたいんです」と話す。

40年には高齢化による医療需要がピークに達し、「2040年問題」が深刻化すると指摘されている。代表的なのが社会保障費の増大だ。その解決策として、政府はデータとデジタルテクノロジーの活用を前提に医療の仕組みを変える医療DX(デジタルトランスフォーメーション)施策を打ち出している。

医療資源を、必要なとき必要な場所に、効率的に届けられる仕組みを整えるとともに、国民一人ひとりにパーソナライズした健康維持支援を行い、医療需要の膨張を抑える。ファストドクターは、自らのサービスが日本の医療DXの基盤として活用されることを現実的な目標としている。

いくら重大な社会課題であっても、営利企業である限り、経済合理性を担保できなければその解決への取り組みを事業にすることは難しい。

菊池とともに代表取締役CEOを務める水野敬志は「医療の生産性を劇的に上げられたことで、経済合理性の限界という枠を大きく拡大できましたし、これからも拡張し続けられると思っています」と手応えを語る。ビジョンとテクノロジーによってソーシャルイノベーションをけん引し続ける意思と、将来にわたって医療のインフラを担う責任への自覚こそが、ユニークなビジネスを支える屋台骨だ。

ファストドクターのサービスをおさらいしてみよう。一言で表現すれば、時間外救急のソリューションプラットフォームだ。

夜間や休日に患者からの救急相談をコールセンターで受け、重症度や緊急度を判断する「トリアージ」を行ったうえで、患者が置かれているシチュエーションも考慮し、適切な診療に誘導。119番や近隣の救急病院への案内、ファストドクターに登録している医師の往診やオンライン診療などを手配する。

また、診療をスポットで差配するだけではなく、診療後にかかりつけ医に情報を共有してバトンを渡したり、患者によってはかかりつけ医探しを手伝ったり、あるいはかかりつけ医が見つかるまで医師が医学的な支援をするといったフォローアップの機能も備える。

菊池は「トリアージからフォローアップまでをひとつのトランザクションとして一気通貫で提供しています。従来の救急相談センターのような行政サービスでは実現できなかった体験だと自負しています」と話す。従来型の救急相談では、緊急度が低いと判断された場合、医療機関を選択して通院するといったその後のプロセスについては患者自身が判断して行動しなければならない。

8代続く医師の家系出身の菊池は、もともと勤務医として救急医療に携わっていた。そこで見たのは、軽症者が本来必要のない救急車を使ったり、逆に重症者が速やかに大病院で診療を受けられなかったりする現実だった。

これを自分の手で変えたいという思いでファストドクターを起業した。救急搬送と通院の間を埋めるサービスとして、夜間・休日の往診やオンライン診療という選択肢を用意。そのうえで、トリアージとフォローアップという前後の機能を網羅的に提供することにより、患者の受診行動の変容を丁寧に支援することができると考えた。

自社で行ったアンケート調査では、登録している医師のうち9割以上がファストドクターのこうした目的意識に共感しているという。20年8月に同社がPCR検査を提供することを決めた際のエピソードは象徴的だ。

「当時、新型コロナは未知のウイルスだったので、検査は感染症指定医療機関以外でやるべきではないという風潮があって、在宅で発熱していた患者さんは検査まで1週間ぐらい待たされていました。在宅で検体を取れればそれが2日まで短縮できる。

我々のミッションとしてやるべきだと判断しましたが、果たして協力してくれる先生がいるのか、実は自分たちでも疑問だったんです。それがふたを開けてみたら、8割ぐらいの先生が手を挙げてくれました。強いチームになってきていますよ」

やがて地方自治体からの要請を受け、保健所のコロナ対応業務をバックアップするという機能も担い始める。保健所のリソース拡充という観点だけでなく、往診・オンライン診療機能により在宅治療の支援体制が厚くなることも評価された。こうして医療分野のインフラとして浸透し始めるにつれ、業績も大きく伸びた。

2年間で売上高は約10倍に成長
ビジネスモデルもユニークだ。患者からの連絡がサービス提供の起点にはなるが、患者側に利用料は発生しない。マネタイズの手段は3つ。最も大きな収入源は、ファストドクターのプラットフォームに参加している提携医療機関からの報酬だ。

往診などの医療行為は医療機関でないと行えない。そのため、ファストドクターに登録している医師たちは、活動する日は同社と契約している医療機関と雇用契約を結んだうえで診察を行う。

例えば、ファストドクター経由で往診に至った場合、患者は担当してくれた医師の所属医療機関に医療行為の対価を支払う。一方で医療機関側は、受診相談の受付からトリアージ、ドライバーの手配、診察料の受け取り、保険請求業務など、医療行為以外の業務をすべてファストドクターにアウトソースしているかたちになり、その対価をプラットフォーム利用料として支払う。

ふたつめの収入源は、在宅療養支援診療所の基準を満たすクリニックなどのバックアップサービス。水野は次のように説明する。「在宅療養支援診療所の要件は、24時間365日、必要に応じて訪問診療に対応できることです。これは開業医の先生たちにとってかなりの負担で、ファストドクターの往診のリソースで代診するサービスも提供しています」

そして3つめが、コロナ禍での対応を通して関係を構築してきた地方自治体からの報酬だ。すでに37自治体と協定を結び、ビジネスの基盤を拡大している。

コロナ禍以降の2年間で売上高は約10倍に成長し、前年度まで赤字だったものの22年7月期の営業利益は大幅黒字に転じた。「効果的で質の高い医療を提供するために生産性を上げてきたことで、今期は利益がグッと伸びた」というのが菊池の実感だ。

(続きはフォーブス ジャパン2023年1月号でお読みいただけます)

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菊池 亮◎帝京大学医学部医学科卒。救急医、整形外科医。2016年にファストドクターを設立。
水野敬志◎京都大学大学院農学研究科修了。戦略コンサルティングファーム、楽天などを経て2017年にファストドクター参画。

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