4月からの対局数は29局 それでも女流棋士が「常に対局をしているような感覚」になる理由とは

4月からの対局数は29局 それでも女流棋士が「常に対局をしているような感覚」になる理由とは

  • 文春オンライン
  • 更新日:2022/11/25

ある対局当日、対局室に入ると、珍しい光景に思わず足を止めて全体を見渡した。

【写真】女流棋士の対局数ランキングで現在5位の上田初美女流四段

その日はすべての対局が女流棋戦で、一番格が高い「特別対局室」や、3部屋をぶち抜いた大広間の対局室のみならず、ありとあらゆる対局室が女流棋士で埋められていた。

その空気感だけで背筋が伸びた気がした

数年前まで、東京・将棋会館で棋士の公式戦と女流棋戦が同じ部屋で行われることはほとんどなかった。今よりも全体の対局数が少なく、部屋の調整がしやすかった面もあるのだろう。

廊下を挟んで右側で棋士、左側で女流棋士が対局し、それぞれ別の部屋で対局している感覚が強くあった。

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対局と対局の合間に人参を収穫 ©上田初美

ちなみに関西将棋会館はその造りから、一番格が高い「御上段の間」から、その階の対局が一望できる。初めて関西で将棋を指した時には、谷川浩司十七世名人が同じ空間で対局しており、その空気感だけで背筋が伸びた気がした。

ここ数年で女流棋士の対局数は大幅に増加し、東京でも必然的に棋士と同じ部屋で対局をすることが増えた。細かいことだが、部屋によって体感気温や景色なども違い、同じ「将棋を指す」という行為でも環境が変わると少し緊張した。何事も変化した直後は違和感がある。が、それも慣れと共に馴染んでいった。

体力の大事さを改めて感じている

別の部屋で行われていた対局が、少しずつ混じり、女流棋士だけで全対局室が埋まる日がやってきた。私が見ている、全体で見ればわずかな期間でも、時代は変わっていくのだと思うと感慨深くなるものだ。

対局数の増加、特にリーグ戦である女流順位戦が創設されたことにより、女流棋士全体が活気づいた。

トーナメント戦では負けてしまえばその棋戦はそこで終わり、次の棋戦が始まるまで対局がつかない。すべての棋戦を1回戦で負けてしまうと、年間対局数が1桁だという時代は、それ程前のことではなかった。

負けても対局ができるリーグ戦はとてもありがたい。次の対局がついているということは、日々の勉強のモチベーションにも大きく関わってくるのだ。

一方、トップグループでは体力の大事さを改めて感じている人が多いと推察する。

現在対局数トップの西山朋佳女流二冠は、4月から数えて49局の女流棋戦を指している(※対局数は、11月22日現在。以下同様)。これは棋士の対局数ランキング1位の服部慎一郎五段と同じ局数だ。西山さんはさらに女流棋士枠で公式戦でも対局をしているため、実質全棋士・女流棋士の中で一番多く対局をしていることになる。

この数字たちは少ないと感じるかもしれない

ちなみに女流棋士の歴代対局数ランキング1位は清水市代女流七段の55局(2011年度)、棋士の歴代対局数ランキング1位は羽生善治九段の89局(2000年度)。西山さんは少なくとも55局以上は指す上に、公式戦も含めたら89局を絶対に越えないとは断言できないだろう。完全なる未知の領域である。

西山さんと比べると大きく数字は下がるが、私も今年度は対局が多く、29局指している。女流棋士対局数ランキングは5位。自身の女流棋戦での最多対局数が36局なので、ほぼ間違いなくそれを更新することになる。36局指した年も、途中で疲れを感じることも多かったが、今年は4月から今まで常に対局をしているような感覚だ。

1年が52週、365日あることを思えば、先に記した数字たちは少ないと感じるかもしれない。

しかし、私たちは対局以外の見えないところで毎日、対局相手のことを知り、対策を考え、アンテナを張って自分の興味のある戦型を調べ、詰将棋などで基礎体力をつける。

空いている日には研究会で人と将棋を指したり、指導対局や解説などの普及の仕事を入れたりし、夜にはポチポチと原稿を書く。

そうして過ごしていると、気が付けばまた、対局の日を迎えている。

里見さんの「力強い言葉」に感じたこと

好調の時はいくら対局があっても良いという気持ちなのだが、対局をこなしていく内に疲労は間違いなく蓄積されていき、フッと一息をついた時に糸が切れたような状態になることがある。読みがかみ合わず、指し手はチグハグになってしまう。ここから脱出するには、また調子が上がってくるのを根気よく待つしかない。

今年度をここまで戦ってきて、対局数に対して自分の将棋体力がついていけていないと、改めて自覚した。トップグループと戦う機会が増える度に、常に勝ち続けていくことの難しさを体感するのである。

今年棋士編入試験を受け、敗れた里見香奈女流五冠(今年度対局数は42局)は、過密日程での受験について聞かれ「多いのは間違いないと思うが、どういう状況でも変わらず力を発揮できないと本当の強さではない」と語った。

相当に力強い言葉で、きっと里見さんはさらに強くなるのだと感じさせる。

努力の量を一気に増やすことが難しいのと同じように、体力はすぐに大きく伸ばすことはできない。やるべきことは、コツコツと将棋の筋トレを増やし、続けることだろう。インナーマッスルは将棋でも大事なのだ。

この対局数に慣れて、対応できる体力がつく頃には、私たち女流棋士はきっと、今よりひと回りタフになっている。

(上田 初美)

上田 初美

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