1位 佐藤、2位 鈴木、3位は? 日本人はなぜ名字の話が好きなのか

1位 佐藤、2位 鈴木、3位は? 日本人はなぜ名字の話が好きなのか

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2020/11/22
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菅政権になってまもなく、「選択的夫婦別姓」の議論がスタートした。橋本聖子男女共同参画担当相はこの議題について、前向きに議論を進めていく方針を示している。

NHKでは「名字」をテーマとした「ネーミングバラエティー 日本人のおなまえっ!」が、2017年の初回放映時に視聴率10%を超え、今は毎週木曜のレギュラー番組として高視聴率を記録しているようだ。

近年、「名字」は確かに日本特有の関心ごととして人々の興味関心を集めている。これだけ多くの情報が可視化されてきた時代において、なぜ日本人は「名字」に惹かれるのだろうか?

姓、名字、苗字、氏の違い

まず最初に、「名字」とは一体何なのか、というところに触れておきたい。

これまで、「姓」「名字」「苗字」「氏」と、同じ意味を持つのに異なる固有名詞があるのはなぜなのか、疑問に思ったことはないだろうか?

「姓」はもともと、天皇から与えられる世襲官職の名称であり、公式的なものとして使用されていた。これには「官職」と「地名」の2種類があり、現在も名字として残る菅原や小野は地名である。一方で「名字」は私的なものであり、よって、一定以上の地位の人は姓と名字の両方を所有していた。

「名字」と「苗字」の違いだが、言葉としては名字の方が古く、地域や所有地に由来する家の名前のことをいう。苗字の「苗」には「子孫」という意味があり、血族や血統に由来する家の名前のことをいう。そのため、名字と苗字どちらが正式ということはなく、どちらを使用しても問題はない。「氏」は、近代以降の法律用語である。

「〇〇村の〇兵衛」さんに名字はなかったのか

学校の授業で「江戸時代、武士以外の人に名字はなかった」と習った人が多いのではないかと思う。明治時代に入って、突然政府から名字をつけるよう言われたため、農民たちは慌てて村のお坊さんに頼んで適当につけてもらったとか、野菜の名前を名字にした、といった話を聞いたことがある人もいるだろう。

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江戸時代、東海道の城下町の風景画(Getty Images)

これらは、明確な誤りである。実際には、江戸時代、武士以外の人は「名字を持ってはいたが、公式に名乗ることはできなかった」というのが正しい。

そもそも武士というのは、平安時代の終わり頃から、自分の土地を守るために農民が武装したのが始まりだ。つまり、武士と農民はもともと同じであり、武士に先祖代々受け継ぐ名字があるならば、当然農民にも代々継がれる名字があったということになる。

ここで一度、日本の歴史の原点に戻りたい。日本史で最初に登場する人物は誰だっただろうか。小学校から習った、2世紀から3世紀の人物である卑弥呼だ。彼女に名字はない。しかしそれは、天皇や僧侶に名字がないように、女王であったからとも考えられる。

続いて登場するのは、6世紀から7世紀にかけて活躍した蘇我馬子(そがのうまこ)や物部守屋(もののべのもりや)といった豪族たちだ。彼らには、「蘇我」や「物部」といった名字的な部分がある。

古代日本は、大王家(天皇家)を中心とした有力豪族たちでできた連合国家だった。そして大王家は、それぞれ政権内で担当している氏族に「姓(せい)」を与えて区別していた。

平安時代になると、朝廷の重要な役職が藤原氏の一族ばかりとなり、藤原だらけとなってしまった。そこで公家たちは、姓とは別に住んでいる場所の地名などを利用した家号を名乗るようになる。これが、名字の始まりだ。

天皇から与えられた姓とは違い、名字は自分で勝手に名乗ったものなので、いつでも好きに変更することができた。そのため、鎌倉時代から室町時代にかけて記録が残っている一族の系図を見ると、実にたくさんの名字が登場する。

佐藤と鈴木が広まったのには「ワケ」がある

そして現在、名字は全国に十数万種類あると言われている。

ちなみに、日本人の名字情報サイト「名字由来net」が調査した各名字の推計人数のランキングでは、1位が「佐藤」で186万2000人 、2位が「鈴木」で179万1000人、3位が「高橋」で140万5000人となっている(2020年10月時点)。

こうしたランキング上位の名字は、どうやってここまで広まったのか。

1位の佐藤は、藤原一族の末裔だ。佐藤をはじめ、「藤」が付き、また「とう」と読む名字は、基本的に藤原一族の子孫となる。

佐藤一族は、藤原家のなかではそこまで上位の地位にあるというわけではなかった。しかし東北地方に移り住んだことで、名門・藤原家の一族であることが一目瞭然となり、その土地で大きな影響力を手にしたのだ。

2位の鈴木は、「鈴の木」という意味ではない。わら塚の熊野地方の方言「スズ・キ」を「鈴・木」と漢字にした当て字からできた名字である。つまり、鈴木は稲作文化を象徴する、日本ならではの歴史的価値の高い名字だったのだ。

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アメリカの日本の名字知名度トップ10では、「SUZUKI」が断トツの知名度を誇る(Getty Images)

トップ10圏外の「山田」のヒミツ

ランキングトップ10には入らずとも、日本人にとって非常に馴染みのある名字といえば「山田」だろう。12位ではあるものの日本の代表的な名字というイメージがあるのは、山田は全国分布の偏りがなく、普遍的な名字であることがその理由であると考えられている。

また、「山のなかの田」という、日本人の心のふるさととも言える光景を想起させる名字であることもまた、多くの日本人が親しみを感じる理由であるに違いない。

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Getty Images

「さいとう」という名字には、大きく分けて「斎藤」(「さいとう」の中ではランキングトップの19位)「斉藤」「齋藤」「齊藤」と4つある。この「さい」の違いは、本来の「齋藤」だったものを省略して「斎藤」にする過程で、つい省略しすぎて「齊藤」や「斉藤」といった別の漢字を使用し始めたことが由縁だ。驚くことに、この「さい」の漢字は現在、分かっているだけで85種類もあるという。

「あずま」と「ひがし」、なぜ読み方が違うのか?

名字の「読み方」に注目してみると、東日本は濁音が多く、西日本は清音が多い。「山崎」という名字一つでも、「やまざき」なら東日本、「やまさき」なら西日本と、どう読むかでルーツとなる場所を大体知ることができる。

「東」という名字は、「あずま」なら東日本、「ひがし」なら西日本にルーツを持つ可能性が高い。これは、中国から漢字が伝わったときの読みが「あずま」で、その前から方角の東を「ひがし」と言っていた西日本では、名字もそのままそう読んだことで読み方に違いが生まれた。

日本の姓氏史研究の第一人者である、森岡浩氏は言う。「日本人の名字には、実にたくさんの種類があります。そのため、メジャーでない名字の人は『自分の名字にはなにか独特のいわれがあるのでは?』と思い、興味を持つのでしょう。実際に、メジャーな名字の人は名字に興味のないことが多いです。

また、名字は自分の名前の一部であるにもかかわらず、その由来についてはほとんどの人が、両親からも学校の先生からも教えてもらったことがありません。

日本人が『名字』にまつわるうんちくやストーリーが好きなのは、誰も教えてくれない、ほとんどの人が無知なものであるが、その由来には歴史や地名、地形、職業など実に様々な要素が取り入れられている、ということに興味を惹かれるからだと思います」

どの名字にも、「先祖がどこでどのような暮らしをしてきたのか」という情報が込められており、またそれはアイデンティティを探る一つのきっかけともなる。

その込められた意味が本当にわからなくなってしまう前に、自分や身近な人の名字について、いま一度調べてみてはいかがだろうか。

参考文献:『日本人のおなまえっ! 1』『日本人のおなまえっ! 2』(ともに集英社インターナショナル、NHK「日本人のおなまえっ!」制作班 編集、森岡浩監修)、『名字でわかる あなたのルーツ:佐藤、鈴木、高橋、田中、渡辺のヒミツ 』(小学館、森岡浩著)、『ルーツがわかる名字の事典』(大月書店、森岡浩著)。

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