今の若者には理解不能...不遇な氷河期世代をさらに追い込む"生きづらさの正体"

今の若者には理解不能...不遇な氷河期世代をさらに追い込む"生きづらさの正体"

  • PRESIDENT Online
  • 更新日:2022/08/07

氷河期世代の生きづらさはどこからくるのか。近著『できないのはあなたのせいじゃない』が話題の経済評論家・勝間和代さんは「社会に出てから直面してきた社会・経済環境や雇用環境はもちろんのこと、それ以上に、親世代に刷り込まれた『学歴がないとよい企業に就職できない』『年上の言うことは黙って聞くもの』『長時間労働は善』といった古い価値観と現代社会の価値観に乖離が生じている影響が大きい」という──。(第1回/全2回)

「最悪のタイミング」で社会へ出た超不遇の人々

いわゆる「氷河期世代」は、現在40~50歳前後で、約1900万人。日本の総人口約1億2000万人の約15%を占めています。20~29歳が約1200万人ですから、若年層と比べて相当ぶ厚い層として存在していることがわかります(平成30年総務省調べ)。

氷河期世代は、バブル崩壊後の不況、そこからくる就職難、労働市場の規制緩和による非正規雇用の拡大など、不安定な社会情勢の中で常に振り回されてきました。

厳しい現実は、現在進行形で続いています。

昨今、サントリーホールディングスの社長が「45歳定年制」を提言したことは記憶に新しいところです。さらに、富士通やフジテレビジョン、JTなどの大企業が中高年世代の社員たちへ早期退職者募集を開始しています。

氷河期を勝ち抜いて正社員になり、年齢的に管理職になりつつある氷河期世代さえも「やっかいばらい」しようとしているのでは……と勘繰りたくなるような動きが目立ってきました。

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写真=iStock.com/pcess609※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pcess609

その一方で、近年、厚生労働省は氷河期世代の就職・正社員化への支援をスタートさせるなどしています。社会に出るタイミングで苦労をした氷河期世代が、今度は社会からはじき出されようとしている──そんな危機感を、国も持ち始めていることがわかります。

“ブレインロック”が生きづらさを加速させる

氷河期世代が直面してきた困難な社会・経済環境に加えて、その「生きづらさ」をさらに加速させているものがあります。それは「脳の境界線」であると私は考えています。

脳の境界線とは、ある思い込みによって脳にロックがかかり、自分の思考や行動を制限してしまう無意識の働きのことです。

私はこうした脳の境界線のことを、「ブレインロック」と呼んでいます。

親、学校、社会から受けた“洗脳のシャワー”

ブレインロックは、無意識のうちに誰もが持っているものです。なぜなら、幼少期には親から、学生になると学校やメディアから、社会人になると企業などから絶え間なく与えられる有形無形のメッセージによって、知らないうちに自分の中に形成されるものだからです。

なかでもこのブレインロックを強固に持っているのが、社会変化の端境期に育った氷河期世代です。

昭和の時代に幼少期を過ごしたこの世代は、親や学校から「男らしく、女らしくしなさい」「学歴がないとよい企業に就職できない」「嫌なことも我慢しなさい」「年上の言うことは黙って聞くもの」などと、理不尽な“洗脳のシャワー”を絶え間なく浴びてきました。

氷河期世代が思春期から成人になるころに昭和が終わって平成となり、一気にインターネット社会になりました。既存の古い慣習やしきたり、社会を動かすルールが大きく変容することになっていったのです。

個性の尊重や多様性という価値観が“当たり前”になっている現代の10代、20代の若年層にしてみれば、「時代遅れ」「非論理的」としか思えない「古い価値観」のシャワーを強烈に浴びて育った、最後の世代と考えて間違いないでしょう。

やっかいな「氷河期世代の上司」

氷河期世代が幼少期から青年期であった当時は、インターネットはまだ普及しておらず、情報源は家庭や学校・地域のコミュニティ、もしくはテレビぐらいでした。そのため、いまとなっては「いびつな価値観」に疑問を持つこともなければ、多種多様な考え方に触れる機会もありませんでした。

そんな旧来の価値観を徹底的に刷り込まれ、十分にアップデートできずにきた氷河期世代が、社会に出て、年齢を重ね、マネジメント層になることで、昨今ではさまざまな問題が顕在化するようになってきました。

「男らしく女らしく」という価値観からセクハラ発言をしてしまったり、「努力や忍耐こそ至上」という価値観から無理難題を押しつけるようなパワハラをしたり……。

しかし、本人たちにはまったく悪気はありません。「カラスは黒い」というくらい、無意識に、当たり前に認識してしまっているため、誤りであると指摘されると本人は驚いてしまうのです。

「いったい何が悪いのかまったくわからない……!」と。

無理もありません。氷河期世代は、時代を支配する価値観が大きく変化する2つの時代をまたがって生きてきたのです。その事実に気がつかないままでいれば、当然ながら、現在の社会でスムーズに人間関係を築いたり、うまく能力を発揮したりすることはできません。

このように、①不遇な時代に社会人としてのスタートを切ったこと、そして、②強固なブレインロックのために価値観の変容についていけていないこと──この二重苦が、氷河期世代の生きづらさを生んでいるのです。

「長時間労働は善」という洗脳が人を破壊する

氷河期世代によくあるブレインロックが、「長時間労働こそ善」というものです。

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勝間和代『できないのはあなたのせいじゃない』(プレジデント社)

氷河期世代が社会に出た当時、教育係を担ったのはバブル期入社の先輩たちです。彼らの働き方を象徴するのが、「24時間働けますか」という栄養ドリンク剤のCMコピーです。

「残業するほどやる気がある」
「睡眠時間を削って働くのが普通」
「体の具合が悪くても会社は絶対に休まない」

私生活を犠牲にしながらハードに働くことが「当たり前」という価値観が刷り込まれた氷河期世代は少なくありません。そのために、健康や家庭を壊し、ドロップアウトしていった人たちもたくさん存在しています。

ひどい場合には、過労によるうつ病などの精神障害や自殺に至るケースも少なからずありました。現在も、ときどきそうした報道を見聞きすることがあります。

氷河期世代が真っ先に捨てるべきブレインロック

「長時間労働こそ善」というブレインロックによって、健康を損なうだけでなく、後戻りできないほど心を病んでしまったり、命を失ったりすることさえあるのです。まさしく、人生を大きく狂わせる、危険な社会的洗脳です。

このようなブレインロックを持った人が、管理職である場合、自分自身だけでなく、部下の人生や健康を破壊してしまうことにもなります。

実際、いまだに部下の時間や気力といったリソースを必要以上に削ることに対して躊躇(ちゅうちょ)のない氷河期世代の管理職が少なくありません。そのため、私は氷河期世代に最優先で解除してもらいたいブレインロックとして、警鐘を鳴らし続けているくらいです。

個人の長時間労働が与える企業利益への影響は「ゼロ」

私もまた、20代から30代までの会社員時代に長時間労働で体と心が破壊された一人でした。そのため、独立して本を執筆し始めた15年ほど前からずっと、長時間労働は全力で避けること、努力はしないほどいいこと、重要なのは効率化する仕組みを考えることだと伝えてきました。

それでも、なかなかこの強固なブレインロックがなくなる気配がないので、最近では「働いたら負け」「頼まれごとは基本断ろう」と、より強いメッセージを発するようになりました。

そもそも、個人がいくら長時間働いても、企業の利益にはほとんど影響はありません。現代は、テクノロジーと資本が企業の利益を大きく作用するからです。

必要なのは「労働時間」ではなく「価値」

企業の利益が高まるのは、みんなが欲しがる価値を生んだときです。株主はそこに投資をするわけです。「従業員の労働時間が長いからこの企業に投資しよう」と考える株主はいません。

日本の労働生産性の低下を危ぶむ報道をよく目にしますが、それもまた、個人の働きや能力が足りないからではありません。1つは長時間労働の多さ、もう1つは先進国の中でも先んじて日本が高齢化社会へ突入したことが、大きな原因であると私は考えています。

2021年時点の日本の非労働力人口は4175万人です。日本の全人口は約1億2000万人ですから、日本人の3人に1人は働いていないということになります。この人口構成で労働生産性を高めるのは、非現実的であるといえます。

「0.2%の改善」のすすめ

何が言いたいかというと、時代の変化による社会の経済状況や企業の生産性向上については、個人レベルで考えてもほぼ無意味、ということです。

これは時代の変化と社会の仕組みのせいですから、個人が長時間必死で働いたり、悩んだり、恨んだりしても、社会の経済が上向いたり、生産性が向上することはありません。

ではどうすればよいのかといえば、答えは非常にシンプルで、「自分ができる範囲のことを少しでもよくなるように変化させ続ける」のです。

私はこれを「0.2%の改善」と呼んでいます。

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写真=iStock.com/Andres Victorero※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Andres Victorero

小さな改善がいつの間にか大きな成果になる

1日0.2%改善させることを続ければ、10日後には「2%」、100日後には20%改善させることができます。「少しずつよくなってきた……」と実感できるのは、おそらくそのころ……3~4カ月後あたりでしょう。

これを続けていくうちに、先ほど触れた「長時間労働こそが善」というブレインロックも揺らいでくるはずです。なぜなら、いつもよりも短い労働でも、ほとんど大した問題は起こらず、成果や評価も大きな損失が出ることがないことに気がついてくるからです。

短い時間でいつもとほぼ変わらない成果が得られるので、生産性は格段に上がります。すると、余裕が出た分、いままでできなかった新しい案件や企画にリソースが避けるようになってきます。

「自分はたいてい間違っている」をデフォルトに

他のブレインロックに対する対処法についても、同様です。

「この考えは間違っているのかもしれない」
「時代の価値観とずれているように感じる」

ふと気がつくことがあるはずです。そんなとき、人はつい、「そんなはずはない、周りがおかしいんだ!」「自分は悪くない!」という考えに飛びつきたくなるものです。

自己否定をしたくはありませんから、これは当たり前の反応です。

しかし、そのときに勇気をもって、「もしかして自分は本当は間違っているのかもしれない」と疑問を持つことが大切です。そのほんのりとした疑いがあれば、他者の意見を受け入れる心の準備ができるからです。

そして、0.2%だけ相手の言い分を受け入れてみること、譲れる範囲で違った考えや方法を受け入れてみることをぜひおすすめします。そんな形で少しずつ、自分を変えてみることに、ぜひチャレンジしてみてほしいのです。

昭和時代のブレインロックを破壊せよ

その際、思考や行動を無意識のうちに制限してくるのが、「社歴が長いほどえらい」「女より男のほうがものを知っている」「年下は年上の言うことを聞くものだ」といった、世代差別、性差別的な昭和時代特有のブレインロックです。

そのために、知らず知らずのうちに機会損失をしてきた人は多いことでしょう。これもまた、氷河期世代を世に沈ませる大きな“罠”になっています。

不合理なブレインロックを自分は持っていないだろうか?
そのために自分は間違った選択をしてきたのではないか?
不合理で理不尽な言動をしてしまってはいないか?

そんな疑いを持ち、気づきを得ることが、ブレインロックの罠から身を守り、生きづらさから解放されて人生を大きく前進させる一歩となります。

「ブレインロック解除×0.2%の改善」

これが、氷河期世代の働き方だけでなく、人生観を大きく変える方程式となるのです。

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勝間 和代(かつま・かずよ)
経済評論家/株式会社監査と分析取締役/中央大学ビジネススクール客員教授
1968年東京生まれ。早稲田大学ファイナンスMBA、慶應義塾大学商学部卒業。アーサー・アンダーセン、マッキンゼー・アンド・カンパニー、JPモルガンを経て独立。少子化問題、若者の雇用問題、ワーク・ライフ・バランス、ITを活用した個人の生産性向上など、幅広い分野で発言を行う。著書に『勝間式食事ハック』(宝島社)、『勝間式超ロジカル家事』、『勝間式超コントロール思考』『ラクして おいしく、太らない! 勝間式超ロジカル料理』(以上、アチーブメント出版)などがある。
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勝間 和代

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