時の壁に「悔しい」、強制不妊訴訟原告 障害で提訴遅れ

時の壁に「悔しい」、強制不妊訴訟原告 障害で提訴遅れ

  • 毎日新聞
  • 更新日:2022/09/22
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強制不妊訴訟の判決後、手話を使って記者会見する原告の女性=大阪市北区で2022年9月22日午後3時51分、川平愛撮影

ゆがんだ思想に人としての尊厳を奪われた被害者の救済が、「時の壁」に再び阻まれた。除斥期間の適用を認め、国への賠償請求を退けた22日の大阪地裁判決。「裁判所は差別や偏見に苦しんだ被害の実態と向き合っていない」。国の賠償責任を認めた大阪、東京両高裁判決から一転した判断に、原告らから失望や怒りの声が相次いだ。

強制不妊訴訟 除斥期間適用で国の賠償認めず 大阪地裁

午後2時過ぎ、大阪地裁2階の大法廷。聴覚障害のある原告の妻は弁護団の席に並んで判決の言い渡しを見守った。妻は手話通訳を介して理由を確認すると、首をかしげた。

「私は2人目も産んで育てたかった。成長する姿を見たかった」。妻は判決後、大阪市内の記者会見でこう悔しがった。妻は1974年、福井県内の病院で長男を出産した。この3日後、説明がないまま不妊手術を受けさせられた。夫婦は複数の子を望んでいたが、この夢を奪われた。下腹部には今も4センチの手術痕が残っている。

2018年1月、不妊手術を強制された被害者が全国で初めて仙台地裁に提訴したニュースを通じて、同じように苦しむ人が他にもいることを知った。

同種訴訟を巡る各地の1審判決は、除斥期間を厳格に適用して原告側の敗訴が続く。こうした中、大阪地裁判決は「適用をそのまま認めるのは著しく正義・公平の理念に反する」と指摘。国に初めて賠償を命じた22年2月の大阪高裁判決と同様、民法に6カ月間は時効完成を猶予する規定があることに着目し、同種訴訟の提訴を知ってから6カ月以内は除斥期間を制限する枠組みを示した。

ただ、今回の夫婦は仙台訴訟から約2年後に提訴しているとして、最終的に除斥期間の適用を認めた。判決は、仙台訴訟後は提訴に必要な情報や相談機会へのアクセスが難しい状況は解消されていたとの見解も加えた。

夫婦には提訴が遅くなった事情がある。弁護団によると、妻は仙台訴訟を知って以降、不妊手術を証明する診断書を入手するため、4カ月間近く医療機関を十数カ所回った。手話によるやり取りになるため、健常者に比べて事実関係の確認にも時間を要していた。

妻は会見で、「裁判所は私の体や心の痛みを考えてくれなかった。悔しいです」と語った。

除斥期間の猶予を巡っては、3月の東京高裁判決がより救済の範囲を広げた。被害者に320万円の一時金を支給する救済法が施行された19年4月から5年以内の提訴との判断を示し、この枠組みであれば夫婦は救済されることになる。

夫婦の弁護団長を務める辻川圭乃(たまの)弁護士は「原告個人の事情が一切考慮されていない。一律に6カ月という期間で国が免責されるのは理解できず、不当な判決だ」と批判した。【山本康介、安元久美子、小坂春乃】

一時金増額の議論進まず

2月の大阪高裁判決と3月の東京高裁判決で国が敗訴したことを受け、松野博一官房長官は一時金の増額を検討する意向を示したものの、見直しに向けた作業は進んでいない。救済法制定で中心的な役割を果たした超党派議員連盟での議論が7月の参院選以降、進んでいないからだ。

各地の訴訟で、救済法で定めた一時金320万円を大きく上回る高裁判決が出たため、松野氏は3月の記者会見で「一時金の水準を含む今後の対応のあり方について、国会と相談し、対応を検討したい」と言及。与野党と協議した上で、一時金の増額を含め見直す考えを示した。

超党派議連は5月以降、増額幅や救済範囲などについて論点整理を始めたが、7月の参院選を目前に控えていたこともあり、議論は停滞した。議連会長だった尾辻秀久元厚生労働相が参院議長に就任すると、後任すら決まらない状態が続いている。議連メンバーの一人は「今は国会が閉会中で議連を開こうという動きはない。議論は進んでいない」と打ち明ける。

救済対象者は約2万5000人とされるが、プライバシー保護などを理由に、被害を個別に知らせる仕組みはない。判決を受け、厚労省は「国の主張が認められたものと認識している。着実な一時金の支給に取り組む」とコメントしているが、一時金の認定件数は8月末時点で1013件にとどまっており、一時金の増額幅を含め課題は山積している。【小鍜冶孝志】

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