現在、演出家としても評価される少年隊の錦織一清さん(57歳、@kazz_nishikiori)が、恩師・ジャニー喜多川氏との出会いからさまざまなエピソード、少年隊の成り立ちや、活動の裏側までを語りつくした自叙伝『少年タイムカプセル』を上梓した。

錦織一清さん
ジャニー喜多川氏との思い出などを聞いたインタビュー前編に続き、後編では、2020年12月31日に迎えたジャニーズ事務所退所時に、「少年隊の錦織に群がっていた何かが、蜘蛛の子を散らすようにパッと散っていく」のではないかという不安もあったと吐露。
さらには、自身の公式Twitterや、植草克秀氏とのYouTubeチャンネル「ニッキとかっちゃんねる」を精力的に更新する錦織さんが、少年隊の楽曲をサブスクで楽しめない事実を聞いて、「SNSもサブスクも、ジャニーズ事務所こそ、どのプロダクションよりも先にやるべきだった」と自論。現在のジャニーズ事務所への思いを口にした。
◆ジャニーズのダンスは「飯野おさみさん」
――少年隊といえば、当時も今もダンスの巧さが挙げられます。本書でも触れられていますが、錦織さんは172センチなんですね。もっと高身長だと思っていたので驚きました。実際の身長よりも大きな身体でのダンスに見えます。
錦織:背が低い人間というのは大きく見せようと思って踊るんです。大きい人間はちっちゃく踊る。フィギュアで好きな男子の選手がいるんだけど、その選手はすごく手足が短い。でも指先の先にもうひと関節あるくらいの感じで踊るんです。ああいうのが僕は好き。ないものねだりかもしれないけど、小さいから大きく踊りたいです。
――いま、ジャニーズグループのダンス力が非常に高くなっていると言われています。錦織さんの目から見て、現在のジャニーズの子たちのダンスはどう映りますか?
錦織:ダンスも形が変わってきてますからね。今の子たちは体がきくし、これが今のダンスなんだろうなとは思います。ただ、僕が思うジャニーズのダンスというのは、飯野おさみさんの踊り。古い踊りですけどね。僕が今の子たちのダンスを見てどう思うかじゃなくて、今の子たちが、飯野さんの踊りを見て、どう感じるかが重要だと思います。ちなみに僕が昔から踊りのことに関して一番話をするのは、同級生でもあるパパイヤ鈴木です。あいつはスーパーダンサーだから。
◆少年隊はあくまでも僕の一部

錦織一清『少年タイムカプセル』(新潮社)
――ダンスにも通じますが、『少年タイムカプセル』には「可能性」の話が出てきます。錦織さんは「可能性」を強く信じていますか?
錦織:あると思わなきゃ悲しくなるし。それに、自分が死ぬときに、「少年隊でした」というだけだと悲しいなと思うんです。少年隊はあくまでも僕の一部。だから、ひとりになったらどうなのとは思いました。ガキの頃に読んだ矢沢永吉さんの自叙伝『成りあがり』とか、本当にかっこいいなと思いました。
そこにも「キャロルというグループを解散して、ひとりでやってくとき、肩からこのベースギターを下ろした矢沢に、どれだけ興味や反応を示してくれるのかわかんなかった」といったことが書いてあった。俺のはずっこけ成り上がりだけど、でも同じですよね。僕の場合は少年隊というストラップをつけてたのかな、それを下ろした。そんな僕に今度はどれだけのことができるんだろうって。
◆忘れもしない、フリーになった初日の出来事
――あとがきに、退所した際に「周りから人がいなくなるんじゃないか」という恐れがあったと書かれていました。錦織さんでもそんなことを考えるのかと驚きました。蓋を開けてみればお仕事も続いていて、そんなことはなかったという実感が大きいですか?
錦織:忘れもしないのは、2020年の12月31日までジャニーズ事務所に所属で、1日からフリーになったというその日、何十年ぶりかわからないくらいに、携帯電話にパンクするくらいのメッセージとかメールが入ったんです。「なんかやろうぜ」とか「新しいことができるじゃん」「声かけてくれよ」とかそういった言葉がたくさん。
◆今も大好きな事務所はジャニーズ

――それはご自身が築いてきたものがあったからですね。
錦織:「ジャニーズ事務所を退所しました」というイメージだけでいうと、少年隊の錦織に群がっていた何かが、蜘蛛の子を散らすようにパッと散っていくという現象を想像しなくもないんです。そうした不安感はやっぱりどうしてもありました。あれだけの大きな組織を辞めるわけですから。
でもそれでもいてくれる人とか、逆に集まってくれる人たちがいた。それも、これは別に美談として言うわけじゃなくて、ジャニーズ事務所のおかげだと思っています。そうした知り合いができるきっかけを作ってくれたのは事務所。僕は12歳から所属していた会社はそこしかない。今も大好きな事務所はジャニーズです。
――それにしても、錦織さんでもそうした不安があったというのは、なんだか安心します。
錦織:芸能界だからとか、サラリーマンだからとか、そういうのって関係ないと思うんですよね。人間的な付き合いの根幹は変わらないと思います。
◆サブスク解禁「10年後にやるなら、今やろうよ」

――ところで本書を読むと、自然と少年隊の楽曲を聞きたくなってきます。今の世代はサブスクやYouTube、SNSなどでアーティストに触れる機会も多いと思うのですが、そうした部分とジャニーズの関係はどう感じていますか? 以前よりはオープンになっていますが、たとえば少年隊の楽曲はサブスクで解禁されていません。
錦織:そうなの? 本音を言うね。サブスクで、「いつか聞けるようになるんだったら、早くしたほうがいい」というのが僕の考え。ずっと前から思ってました。家でデスクトップのパソコンを触ってるときからね。オフィシャルのホームページとかさ。やればいいのにって。実際、事務所に言ったこともあります。でも上層部の「うちのファンの子たちはパソコンなんか持ってない」の一蹴で終わっちゃった。
本当は、どのプロダクションよりも先にサイトもYouTubeも、ジャニーズこそがやるべきだったと思います。先に先に。それが後乗りになっちゃった。今のサブスクの話もね。どうせやることになるなら、早くやったほうがいいと思います。だって聞きたいと思ってる人がいるんだから。というのが僕の考え。10年後にやるなら、今やろうよ。
――CDを手元に持っている人だけでなく、本書を読みながら、手軽にサブスクで少年隊の曲を聞きたいです。
錦織:そうだよね。僕もそう思います。
◆赤い花を待って黄色い花が咲いても、ジャニーさんなら喜ぶ

錦織一清『少年タイムカプセル FC限定版』(新潮社)
――最後に、現在のジャニーズ事務所を客観的に見て、錦織さんが何か思うところはありますか?
錦織:たとえば、事務所のなかのアーティストが実は役員に入ってるとか、別に普通のことだと思うし、そんなに話題にすることでもないと思うんです。だから今騒がれているようなことは、僕の中では全然問題ないことだと思います。
それより、僕の中で心配なのは、正直に言っちゃうと、やっぱりジャニーさんがいないという事実。僕がこの本の中でも、これだけジャニーさんとの思い出を書いて、ジャニーさんとこうやって作ってきたんだよと語ってきた、その人が、今、いない。
たとえば、ジャニーさんが探していた赤い花を、いま咲かせようとしたとして、咲いた花の花びらを赤く塗ればいいと思っている人が多いと思うんです。でも赤い花が咲くかどうかは、根っこを調べなきゃ分からないんですよ。それを塗って終わりにしてしまう。そんなことやっちゃいけないし、ジャニーさんはそんなこと許してくれないと思う。
ジャニーさんなら、「ごめん、僕、黄色い花を咲かせちゃった」と言ったとしても、頑張った結果が黄色い花なら喜んでくれる。もし何かの変異で青いバラが咲いたりしたら、それこそ大喜びです。赤い花を狙ったって、フランフランの造花みたいに花が咲くわけないんだから。ジャニーさんがいないことで、そうした心配は感じます。
<取材・文・撮影/望月ふみ>
【望月ふみ】
ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異 Twitter:@mochi_fumi