「九州道ですか?」中学生が開発したSA/PAグルメ

「九州道ですか?」中学生が開発したSA/PAグルメ

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2023/03/20
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桜島SA(上り)で見つけた「九州道ですか?あられ」のポップ(筆者撮影)

マスク着用の制限緩和とともに桜の便りもちらほら届きはじめ、週末の高速道路の渋滞もコロナ以前を上回るような状況になりつつある中、3月上旬にたまたま訪れた九州のサービスエリアで、目を引く商品に出会った。

桜島SA(上り)の売店で最も目立つところに置かれていた「九州道(どう)ですか?あられ」というお菓子である。

何より「九州の高速道路限定」というキャッチフレーズが、“限定”に弱い筆者のハートをわしづかみにした。しかも、ポップにはかわいらしいイラストとともに、「直方市の中学生が考案」と書かれている。

迷わず購入し、自宅に帰って食べたところ、サクサクとした食感と香ばしい醤油の匂いが相まって、お土産品としても文句のつけようのない商品であった。

パッケージに印刷された中学生の声

小袋入りのあられ8パックが大きな袋に入っているが、その袋の裏には商品開発に携わった福岡県直方市の4つの中学校(直方第一、直方第二、直方第三、植木中学校)の生徒たちの声が印刷されている。

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開発に関わった4つの中学校の生徒たちの声(筆者撮影)

さらに芸が細かいことに、小袋にも生徒たちが集めたと思われる九州各県の細かな「あるある話」が書かれている。たとえば、「鹿児島 天気予報で桜島上空の風向きの予報がある」「大分 渋滞のことを“一寸ずり”という」「宮崎 チャンネルを替えることを“裏にして”という」などなど。

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一つひとつの小袋に書かれている“九州あるある”も楽しい(筆者撮影)

学生と企業のタイアップで商品開発・販売が行われることは、それほど珍しいことではない。

一例をあげると、JR大船駅(神奈川県鎌倉市)などで駅弁を販売する「大船軒」は、何年も前から地元の鎌倉女子大学とのコラボで開発した駅弁を定期的に販売しているし、2022年にはJR芸備線神杉駅(広島県三次市)の開業100年を記念して、県立広島大学と三次フードセンターによる「コラボ駅弁 神杉縁線弁当」をイベント会場で販売している。

また、高速道路でも2022年11~12月に相次いで販売された、北陸道の南条SAで福井県立奥越明成高校が開発に携わった「越前鶏天丼」、同じく北陸道尼御前SAで石川県立大聖寺実業高校が開発に携わった「素敵(ステーキ)な能登豚重」などもある。

また九州では、2018年~19年に熊本県の玉名女子高等学校がかかわった「にこにこ玉女パイ」が九州道玉名PAで販売されたこともあった。とはいえ今回、桜島SAで見つけたあられは、中学生の考案である。

筆者は大学で観光系の授業をしているので、学生たちの実習に、道の駅などで販売できる地元の素材を使った商品開発を取り入れることがあるが、大学生でも斬新なアイデアを出すのは簡単なことではない。

中学生がどんな議論を経て、あられの販売にこぎつけたのか。このプロジェクトで中学校側のとりまとめをされた植木中学で社会科を担当する澤先生に直接お話を伺った。

「九州はひとつ」プロジェクト

まずは、概要を説明しておこう。現在中学校には「総合的な学習の時間」が設けられている。主に身近な地域を題材にして、実践的に学ぶ授業だ。九州では7県が一体となって観光振興を行っており、そのキーコンセプトとして、「九州はひとつ」というキャッチフレーズが使われている。

のれんをデザインモチーフにした共通ロゴも作成されており、「九州道ですか?」にも実は使われている。

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古賀SAで販売に携わった生徒たち(写真:植木中学校)

総合的な時間を担当する澤先生は、「九州はひとつ」プロジェクトに取り組みたいとして福岡県庁に相談、九州全体で展開できるJR・高速道路との提携を提案され、学校の近くに高速道路が走っていることもあり、SAでの販売商品の開発を決めたとのこと。

手始めに2021年に西日本高速道路サービス・ホールディングスおよび株式会社ユニコン(下関市)と組んで、九州道古賀SAで生徒が考案した「九州鯖っちゃおどんぶり」を販売した。

今回は、その第2弾として「九州はひとつ」を体現した商品を、市内の別の中学校にも声をかけて開発することにし、提携先も西日本高速サービスからの提案で、地元直方に本社を置く米菓大手の「もち吉」に白羽の矢が立ち、「あられなら可能」という返事を得て、今回の商品の開発に動きだしたという。

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古賀SAで販売の現場に立つ生徒たち(写真:植木中学校)

もち吉は、全国に200店以上の直売店を持つあられやせんべいの大手企業だが、「地元密着」を会社の基本方針の1つに据えており、販売する米菓の袋の販売者欄の住所には、実際の正式な住所の後に「字餅米もちだんご村餅乃神社前」と印刷するほど、遊び心にあふれる企業だ。

九州全体を考えて、有明海の海苔や九州醤油、辛子明太子などを原材料に使用。そして「九州道」をもじった商品名まで考えついた。

2023年2月8日には、北九州エリアのSA/PAの中でも最もにぎわう古賀SAで、生徒たちが実際に商品を販売するイベントに参加。その後は九州一円のSA/PAで7月まで販売が続けられる予定になっており、売れ行きも好調とのことである。

澤先生は、商品のアイデアを考える過程で九州各地のことを調べたり、商品の値段や賞味期限、売れ行きなどを考えることで経済の勉強になったりと、この取り組みを通じて大きな学習効果が上がっていることを強調した。

3月23日には、販売イベントの報告会が各中学校で開かれるとのことである。また、澤先生によれば、すでに次のプロジェクトも始動しているという。高速道路のSA/PAは単なる休憩施設というだけでなく、行き交う多くの人に対し商品の販売を通じて地域のPRを行う場であることも、生徒たちは改めて感じたことであろう。

フェリーで生まれた名物うどんもSAで

話題は大きくそれるが、このあられを見つけた桜島SAでは、もう1つユニークな商品を見つけた。それは「鴨池・垂水フェリーうどん」である。

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鴨池・垂水フェリーのうどんを売る軽食コーナー(筆者撮影)

桜島が浮かぶ錦江湾には、鹿児島市中心部と桜島を結ぶ24時間運航のフェリーの他、鹿児島市(鴨池港)と大隅半島の垂水市を結ぶフェリー航路、指宿(いぶすき)市の山川と大隅半島の根占(ねじめ)を結ぶ航路などもある。

このうち、鴨池・垂水フェリーの名物が、船内食堂にある「南海うどん」だ。「鹿児島県で知らない人はいない」と言われる名物うどんである。そのメニューが、SAの軽食コーナーでも食べられるのである。うどんをPRする大きな看板も設置してあった。

実は、フェリーもサービスエリアも鹿児島県で手広く運輸・観光事業を手掛ける、いわさきグループの経営である。そう考えると、同じ味が楽しめるのも驚くことではないことかもしれない。

船のうどんといえば、かつて岡山県の宇野と香川県の高松を結んでいた国鉄の宇高連絡船内で食べられたうどんが、思い浮かぶ。連絡船でふるさと香川に帰る帰省客にとって、真っ先に讃岐うどんが食べられるのが船内とあって、かつては乗船するやうどん屋さんに直行する「うどんダッシュ」も見られるほどの伝説的な人気を誇っていた。

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桜島SAは沖縄を除く本土で最南端のSAでもある(筆者撮影)

瀬戸大橋の開通などの影響で連絡船が廃止されても、のちの2001年に高松駅前にその当時の味に近づけた「連絡船うどん」という名の店が出店され、2021年まで営業していた。

鹿児島市から垂水市まで、フェリーを使わず桜島SAを通る高速道路で移動することも可能だが、フェリーでも高速でも「南海うどん」が味わえるというのは、地元の人にもあるいはこうした地域密着グルメを求めてやってくる観光客にもうれしいことかもしれない。

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「九州道ですか?あられ」と「南海うどん」。異郷から訪れた旅人にとって、地域の彩りに包まれた味を試せるSA/PAの存在は、有名観光地とは一味違った重要な観光資源だということを実感する鹿児島の旅であった。

【2023年3月20日15時00分追記:初出時、誤記があったため一部訂正しました】

(佐滝 剛弘:城西国際大学教授)

佐滝 剛弘

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