アフター・コロナで変わる社会に対応した資産運用とは? 『シン・資産運用』の著者に聞く成功への処方箋

アフター・コロナで変わる社会に対応した資産運用とは? 『シン・資産運用』の著者に聞く成功への処方箋

  • モーニングスター
  • 更新日:2022/01/12
No image

コロナ禍の中で新たに証券取引口座を開設し、資産運用や株式投資を始める人が増えている。テレワーク(在宅勤務など)など働き方の多様化とともに、「定期預金の積立」に偏っていた資産形成手段が一気に多様化し始めたようだ。NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)など税制優遇制度も充実し、今まさに「資産運用の新時代」といえる。三井住友トラスト・アセットマネジメントで社長、会長を歴任した平木秀樹氏(写真)がこのほど『シン・資産運用』と題した書籍を文芸社から出した。平木氏に、同書を執筆した意図と「成功への処方箋」のポイントを聞いた。

――20年3月に国内最大規模の運用会社である三井住友トラスト・アセットマネジメントの会長を退任されました。長らく資産運用業界の第一線で活躍され、ここで改めて資産運用のあり方を提示する本を執筆されたのは、どのようなお考えからですか?

私は住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)に入行し、1990年代の年金運用の成績が厳しい時代に運用業務に携わり、その後、住信アセットマネジメントの社長と三井住友トラスト・アセットマネジメントの社長を務めるなど、30年以上にわたって資産運用業務を経験してきました。現役だったころから感じていたのは、「ファンドマネジャー」という職業は、一種の華やかさ、スマートでかっこいい職業のように思われているようですが、実際の日常業務は地味で面白みのない作業の連続であるということです。

また、ビジネス書などでは、「株で10倍儲ける」とか「1億円を築いて早期リタイヤ(FIRE)」など、あたかも誰でも投資で大儲けできるような内容の本がたくさん出ています。実際に、このような本を読んで大金持ちになったという話を聞いたことがありません。他人の体験記は、たとえば、大学入試の体験記をいくら読んでも、実際には大学入試で合格できないように、人のスキルや性格などにはそれぞれ違いがあるので、他人の真似をしてもうまくいかないのです。これまでの経験から、資産運用で成功する秘訣は、決して難しいことではないということがわかりましたので、資産運用を成功に導くような分かりやすい手引書を書いてみたいと思いました。

私の職歴から、よく知り合いに資産運用の相談を受けます。この前もある人から、銀行に行って運用の相談をしていたら、「NYダウとS&P500のどっちにしますか?」という話になって、「NYダウは30銘柄に投資し、S&P500は500銘柄に投資するという違いがある説明を受けたけど、30と500でどっちがいいのかわからなくて、そのまま何も買わずに帰ってきた」という話を聞きました。

多くの方々が、ちょっとしたことで躓いて行動することができません。ほとんどの方が資産運用や投資信託とは無縁の生活をされていますし、たとえ、つみたてNISAを始めた方でも4割の方は1年以内に止めてしまうそうです。大事なことは、金融に対するリテラシーだと思います。難しい金融の知識を覚えようとすることではなく、自分はどうすれば良いのか理解していることや、銀行やファイナンシャルプランナーなどの話を聞いて納得して行動に移すことができるようなことが重要で、そのことに貢献できるような本にしたいと思いました。

――本の中には「運用は負けから入るのが王道だ」など、運用の現場にいらしたからこその言葉がたくさんでてきます。この本を通して伝えたかった運用のリテラシーとは?

たとえば、「損を楽しめ」ということですね。「損」というのは、価格が下がった状態ですが、これから投資を始める人にとっては、そのマイナスがプラスなのです。ほとんどの方が投資をこれから始めたり、積立投資で買い続けられる方々ですので、損をマイナスに考えないで「チャンス」と受け止めていただきたいと思います。損をしている状態は、実はこれから大きなチャンスがある楽しみなことだということがわかっていただければ、多少の評価損になっても耐えて投資を継続できると思います。

そして、「リスクを取らないリスク」ということもあると思います。リスクのない現金には、実はインフレで価値が減じるリスクがあります。また、毎年食べ物をのどに詰まらせて亡くなる方が3000〜4000人、そのうち餅を詰まらせて亡くなるのが800〜1000人だそうですが、だからといって皆さんお正月に餅を食べることをあきらめることはないと思います。どこかで人間は、リスクを取っているのです。運用のリスクをとらないことだけが、人生のリスクを取らないことではありません。リスクを取るということは、リターンを取るということとイコールです。リスクについて、「避けるべきもの」という捉え方をしている方が多いのではないでしょうか。リスクを取ることの大切さを分かっていただきたいと思います。

――資産運用を成功に導く処方箋とは?

投資を始めて長く続けることです。30年、40年という長い期間にわたって積立投資をしていくことが、普通の人が資産を築く方法だと思います。自分がそう決めさえすれば続けられるというのが最大のポイントです。若い方々が、投資に回すお金がないからといって資産形成をあきらめてしまうのではなく、毎月1万円でも積立投資を始めれば、10年、20年と続けるうちにそれなりの資産が作れます。小さな金額しかできないのであれば、より長く時間を使うことで補うことができます。

ただ、実際には投資を始めても長く続けられない人が多いのが現実です。長く続けるためにはどうしたらよいのかということをいろいろと考えました。ひとつには、借金があって生活費に余裕のない人は続けられなくなるので、できるだけ借金を減らすなど、投資を続ける環境を整備することが大事です。借金とは「強制的なマイナスの長期投資」ですので、借金はできるだけしない方が良いのです。

強制的に長く続ける方法を利用することも手段です。iDeCo(個人型確定拠出年金)は60歳までは資金を引き出すことができませんから、強制的にお金を残すことができます。アメリカでも個人が豊かになったのは、401kという確定拠出年金制度のおかげです。平均で2000万円以上の老後資金を401kで作っています。中には「401kミリオネア(百万長者=日本円で1億円以上)」という人も出ています。長期での積立投資が人生を豊かにするという成功体験を社会的に共有しているのがアメリカです。

また、続けるためには、投資をしていることを忘れてしまった方が良いくらいです。長く続けることの恩恵を表したエピソードとして良く知られているのが、ニューヨークの身寄りのない独身女性が、50歳で事務員を退職した後、つましい年金生活をつづけながら、101歳で亡くなる50年間で、株式の長期投資を続け、2万1000ドルの資産を2200万ドルまで増やしたという実話があります。この話は、長期投資、そして、複利の効果を説明する話として有名です。

――個人の投資リテラシーの定着化と資産形成の支援をライフワークにしたいとのことですが、今後の計画は?

今回は、資産形成のきっかけづくりにしたいという想いで本を書きましたが、今後、投資を長期にわたって継続するための方法についての本も書いてみたいと思っています。また、米国は401kの制度発足から、国を挙げて株価が上がる仕組みづくりをして国民が豊かになる国づくりを進めました。少子高齢化で成長が鈍化している日本にも取り入れたい仕組みや政策が諸外国にはたくさんありますので、それらを整理して政策提言などもやってみたいとも思います。もちろん、投資リテラシーの理解と定着化のために私にできることがあれば、皆様の前で話をするなど、皆様の資産形成にお役にたてることをコツコツと続けていきたいと思っています。

徳永 浩

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加