本特集の第1回で、2021年のゲーミングPC自作の定番PCケース候補と言えるRazer印の「Razer Tomahawk ATX」の魅力を紹介した。第2回では、その魅力あるPCケースと組み合わせたい自作PCレシピを、数多くのPC構成を提案、組み上げているTSUKUMO eX.6階スタッフ石井さんに考えてもらった。
第3回となる今回は、その自作レシピで実際に組み立ててみて、改めて見えてくる良い点、悪い点をレビューしていこう。

組みやすさが抜群のRazer Tomahawk ATX
1ヵ所のスペーサー(スタンドオフ)の先端が凸形状になっており、ネジを使わずにマザーボードを仮止めできるといった小さなポイントを含め、総じて組みやすいと感じた「Razer Tomahawk ATX」。
組み立て工程に特別な点はなく、CPU、メモリー、CPUクーラーマウンターなどをマザーボードに取り付ける“マザーボードの下ごしらえ”と、両サイド強化ガラスの取り外しをはじめ、電源ユニット、ラジエーター、ファンの取り付けといった”PCケースの下ごしらえ”を行ない、2つを組み合わせるという流れは同じだ。
NZXTの水冷クーラー「KRAKEN Z63」は、マザー標準付属のCPUクーラーバックプレートを流用するなど、取り付けは比較的簡単だが、フロントへのラジエーターとファンの取り付けは、若干手間取るかもしれない。ケースマウンター部をラジエーターとファンで挟み込んで固定する必要があるからだ。
とはいえ難易度は高くないので、"下ごしらえ"でつまずくことはまずないだろう。なお、PCケースのトップにラジエーターを取り付ける場合は、マザーボードをPCケースに収めてからにしよう。そうしないとマザーボードが収まらない。
今回の構成に限らないが、Socket AM4のCPUクーラー取り付け時のコツとして紹介したいのが、CPUクーラーバックプレートのマスキングテープ固定だ。標準バックプレートを流用するCPUクーラーの取り付け、換装がグッとラクになるのでおすすめだ。


Ryzen 9 5900Xや、メモリーをマザーボードに取り付ける

NZXT「KRAKEN Z63」の固定マウンターも取り付けておこう

標準CPUクーラーバックプレートは、マスキングテープで固定しておくと作業がラクになる

M.2 SSDの980 PROも取り付けすれば、マザーボードの下ごしらえは完了だ

フロントに、ラジエーターとファンを取り付け

「KRAKEN Z63」の280mmラジエーターは、ギリギリだがフロントボトムのカバーを取り外すことなく収められた

裏面の2つのケーブルカバーも取り外し。フロントインターフェースの各種ケーブルは、ほぐしておこう
ケーブル配線、取り回しもラクに行なえる
下ごしらえしたマザーボードをPCケースに取り付ければ、残す組み立て工程はウォーターブロック(CPUクーラー)の固定、各種ケーブル配線、ビデオカードの取り付けといったところだ。
Razer Tomahawk ATXは、ボトムの電源ユニットスペースに3.5/2.5インチベイを備えており、これを取り外せると組みやすいのだが、残念ながら固定されている。ストレージベイの位置をフロント側にずらすことで、ボトムに手を入れるスペースができ、電源ユニットへの各種電源ケーブルの差し込みも可能だった。
今回組み合わせたCooler Masterの電源ユニット「V850 Gold」は奥行きが160mmなので、奥行き180mmなどの1000Wクラスの製品でなければ、問題なく組み合わせられる。
各種電源ケーブルは、複数台を組んでいるツクモの石井さん推しだけあって、フラット&柔らか目で取り回しが容易だ。工程としては、2本のCPU8ピンケーブルを事前にケーブルホールに通しておき、マザーボード取り付け時に差し込むといったポイントを、しっかりと押さえて組んでいけばオッケーだ。

電源ユニットには両サイドからアクセス可能。各種ケーブルの接続も後からできる

組み立て時はボトムのストレージベイを、最もフロント寄りにしておこう

2本のCPU8ピンケーブルは事前にケーブルホールを通しておくのがポイントだ
ケーブルの取り回しでは、本構成ではPCケースフロントインターフェース用USB 3.0ケーブルよりも若干柔らかくて細めなアイネックス「ケース用USB3.0延長ケーブル」を追加している。そのため、フロントUSBケーブルの取り回しがスムーズにできる。
ただ、ASRock「X570 Taichi Razer Edition」は、フロントType-Cコネクターの位置が少し微妙で、ビデオカードの延長線上に隣接している。ZOTAC「ZOTAC GAMING GeForce RTX 3080 AMP Holo」のバックプレートと干渉することはなかったが、ビデオカード取り付け時には気をつけたい。
なお、バックプレート側にファンを取り付けられるビデオカードは干渉すると思われるので注意しよう。

PCケースに同梱するケーブルは硬く、取り回ししづらいことがある。比較的柔らかなUSB 3.0 20ピンヘッダーの延長ケーブルがあるとラク

1760円とやや高いが、フラットタイプのケーブルをオリオスペックで販売中だ(USB 3.0 20ピン内部ヘッダー延長ケーブル)

取り付け時にピンを曲げてしまうこともあるUSB 3.0 20ピンヘッダー。アイネックスの製品は比較的柔らかいので、そんな失敗を避けるのにも最適だ

USB Type-Cコネクター。メモリースロットのラッチと同じライン上にあれば不安がないのだが、この位置ではビデオカードとの干渉が気になる

ZOTAC「ZOTAC GAMING GeForce RTX 3080 AMP Holo」のバックプレートとは干渉はしなかったが、ビデオカード取り付け時に注意を払いたい位置ではある

フロントオーディオ端子や、「KRAKEN Z63」の制御USBヘッダーピンなども裏面スペースを使って配線

ケーブルカバーが大きいので、ある程度まとめるだけで、各種ケーブルを隠せるので初心者でもケーブル処理がラクだ
RazerゲーミングPCの完成まであと一歩

フロントにある各種インターフェースのケーブルや、24ピン電源ケーブル、PCIe補助電源ケーブルなどの取り回しができたら、あとは追加した3基のファンと、ビデオカードを取り付ければ組み立ては完了する。
ファン「MasterFan MF120 Halo」は、トップに2基増設し、リアを換装する形になる。トップはある程度、取り付け位置を選べるようになっている。LEDイルミネーションの明るさや発光色、発光パターンなどに合わせて位置を調節してみよう。

「Razer Tomahawk ATX」のトップ。ファン取り付け位置を調節できるようになっている
また、「MasterFan MF120 Halo」はアドレサブルRGB LEDヘッダーピンをマザーボード上のヘッダーピンと接続して制御するが、このヘッダーピンをデイジーチェーン接続できるうえ、抜けないようにするカバーが付属しているのがすばらしい。実際、ここでは3基をデイジーチェーンで接続し、ごちゃつくケーブルは裏面のケーブルカバー内に収めている。

今回追加した「MasterFan MF120 Halo」。ケーブルはフラット形状で取り回し性は良好だ

連結したLEDヘッダーピンが抜けないようにするカバーが付属。細かい配慮がうれしい


CPUメンテナンスホール部のカバーも大きいので、「MasterFan MF120 Halo」3基分のケーブルも余裕で隠せる
最後にZOTAC「ZOTAC GAMING GeForce RTX 3080 AMP Holo」を取り付ければ完成だが、「V850 Gold」のPCIe補助電源ケーブルは、1本に8ピンコネクターを2基備えているので1本でもオッケーだが、ここでは見た目重視で2本使っている。

使用しない8ピンコネクターケーブルは結束バンド(タイラップ)でまとめるのがコツ

最後に結束バンドを使って、冷却液チューブをトップパネル側に持ち上げるようにして、ビデオカードバックプレートと接触するのを防いでいる

スモークガラスのため、LEDイルミネーションがない裏面側は、ほとんど見えない。ケース内部の外周に、LEDバーを設置して軽く彩るのもありかも
好みのLEDイルミネーションを楽しもう

組み上げたRazer Tomahawk ATXゲーミングPCの電源投入とともに、各部のLEDイルミネーションを楽しめるが、本構成の醍醐味は「Razer Synapse 3」をはじめ、NZXT「CAM」や、ZOTAC「FireStorm」といったソフトウェアを導入してからのLEDカスタマイズだ。「X570 Taichi Razer Edition」を使ううえで押さえておきたいBIOS設定とともに各種ソフトウェアを見ていこう。
まずは、爆音ではないが、「シャー」というかなり耳につく音を発するチップセットヒートシンク装備のファンの回転数を制御しておこう。
ASRockシステムチューニングツール「A-Tuning」を導入するれば、Windows上からも設定できるが、まずはBIOS(UEFI)にある「H/W Monitor」の最下段「SB_FAN1 Setting」で動作モードを切り替えよう。「Silent Mode」に変更すれば、アイドル状態でも聞こえてくる耳障りな回転音はかなり軽減される。

BIOS(UEFI)のバックグラウンドもRazerおなじみのカラフルな幾何学模様に変わっているのが、Razerコラボモデルの醍醐味


「H/W Monitor」の「SB_FAN1 Setting」でチップセットファンの動作モードを設定する。最新のベータBIOSでは「Silent Mode」にすると一定温度以下でファンが停止するようになる


チップセットファンは、「A-Tuning」の「FAN-Tastic Tuning」からも制御できる
各種ツールを使いこなしていこう

「Razer Tomahawk ATX」と「X570 Taichi Razer Edition」は、これまでの「Razer Chroma RGB」対応LEDデバイスと異なり、Razerゲーミングデバイスと同じ「Razer Synapse 3」経由でLEDを制御できるのがウリになっている。
「X570 Taichi Razer Edition」が備えているアドレサブルRGB LEDヘッダーピンに接続したファンを含めて、LEDカラーや発光パターンをカスタマイズできる。

「Razer Tomahawk ATX」と「X570 Taichi Razer Edition」が、デバイスとしてすんなりと認識される

マザーボード上のLEDヘッダーピンも制御可能になっている


PCケースボトムの「アンダーグロー」など、各部のLEDをまとめて制御できる。ここでは、Razerおなじみのグリーンに発光させている
もうひとつの醍醐味となるのが、ウォーターブロックに液晶ディスプレーを備えるNZXT「KRAKEN Z63」のカスタマイズだ。
プリセットでCPUやGPU温度などを表示するのも悪くないが、ここはやはりRazerロゴや、自作のGIFアニメを表示したいところ。システムモニタリングや、ポンプやファンの回転数制御、同社製LEDデバイスの制御などができる統合ユーティリティー「CAM」を導入して、いろいろカスタマイズしていこう。

NZXT統合ユーティリティー「CAM」のシステムモニター。見やすくまとまっているので使いやすい

ポンプとファンの回転数を制御できる。デフォルトは「静音」になっている

CPUとGPUの温度を表示するなど、プリセットもひと通り試してもらいたが、本命は静止画やGIFアニメ(320×320ピクセル)の表示だ


好みの画像をアップロードして表示できる


実際にRazerの三頭蛇ロゴとASRock Taichiのロゴを映してみた


ZOTAC「ZOTAC GAMING GeForce RTX 3080 AMP Holo」もビデオカード用ユーティリティー「FireStorm」で、LEDを制御できる
静音性や冷却性能をチェック
RazerゲーミングPCのポイントをお届けしてきたが、最後はゲーミングパフォーマンスや、水冷クーラー「KRAKEN Z63」の冷却性能、静音性をチェックしていこう。

「HWiNFO64」システム情報。CPUやメモリーなど、主要パーツの動作を確認できる

GPU-Zの情報。「ZOTAC GAMING GeForce RTX 3080 AMP Holo」のGPUクロックはリファレンス準拠になっている
ゲーミングパフォーマンスは、レイトレーシング(DXR)やDLSSに対応する最新ゲーム「ウォッチドッグス レギオン」と「サイバーパンク2077」で試した。
「ウォッチドッグス レギオン」の計測にはゲーム内ベンチマークを利用。解像度は1920×1080、2560×1440、3840×2160ドットの3種類で、画質を最高品質となる「最大」に設定した際と、レイトレーシングを「最大」、DLSSを「バランス」に設定した状態を計測した。
「サイバーパンク2077」も解像度は3種類で、画質品質「ウルトラ」に、レイトレーシングとDLSS(自動)が有効になる「レイトレーシング 中」と、「レイトレーシング ウルトラ」で、ゲーム内の一定コースを120秒間移動した際のフレームレートを「CapFrameX」で記録し、最小1%(パーセンタイル点)と、平均フレームレートをまとめている。





さすがにGeForce RTX 3080を搭載した「ZOTAC GAMING GeForce RTX 3080 AMP Holo」だけあって、ヘビー級に属するゲームタイトルをWQHD解像度(2560×1440ドット)までなら、レイトレーシングを効かせた状態で、60fpsでの快適プレイが可能だ。
「KRAKEN Z63」のファン設定はマスト
続いては、ゲーミング中やCPUに高負荷をかけるCGレンダリング中などのCPUコアとGPUコアの温度や、システム全体の静音性を見ていこう。
ただ、以前「KRAKEN Z63」のレビューでも触れているが、NZXT「CAM」のデフォルトファン回転数の設定(静音)は、いまひとつで、高負荷時は正直かなりうるさくなるのでカスタマイズはマストと言える。
ここでは、まず冷却性能への影響が大きいポンプは最大回転でも静かなので、設定を「静音」から、最大回転での「固定」に変更。さらにキモのファン回転数は、CPU温度60度台で回転数が100%になってしまうデフォルトの設定から、最大回転でもファンノイズがあまり気にならない70%になるようにカスタマイズしている。


「CAM」を使って、ポンプとファンの回転数を設定している
ゲーミングはNPCキャラが動き、常に高負荷をかける「ウォッチドッグス レギオン」(4K解像度、画質とレイトレーシング「最大」、DLSS「バランス」)のプレイ中とし、CPU高負荷時はCGレンダリングのベンチマークを行なう「Blender Open Data」をCPUで実行している。それぞれ実行中の温度などは「HWiNFO64」を使って記録している。
それぞれ、テスト中10分間の温度や動作クロックの推移を抽出してまとめている。また、騒音値は机上に置いた際を想定したフロントパネル三頭蛇ロゴから20cmの位置と、床置き時を想定したフロントトップから上に60cmの位置で測定している。

横軸:秒、縦軸:℃(室内温度は約18℃前後)

横軸:秒、縦軸:MHz
続いては「Blender Open Data」実行中のCPU温度と動作クロックを抽出、まとめた。なお、負荷が低下するベンチマーク切り替え時の数値は除いている。

横軸:秒、縦軸:℃(室内温度は約18℃前後)

横軸:秒、縦軸:MHz
24スレッドに高負荷がかかり、4300MHz台の動作クロックとなった「Ryzen 9 5900X」のCPUコア温度は、季節柄、室温が低いのも影響しているが、余裕のある60度台に抑え込まれている。ファン回転数を静音寄りに調節した状態で、この冷却性能なので夏場も安心だ。
最大でも41.8dBAと十分静かなマシンに!
フロント140mmファン×2、トップ120mmファン×2、リア120mmファン×1のケースファンに、ビデオカードの3連ファンと多数のファンを搭載しているが、騒音値は、最大でもゲームプレイ中のPCケースフロント側で41.8dBAと、動作音は耳に入るが十分静かと言えるレベルになっている。「Blender Open Data」実行中も静音性は優秀で、PCケースフロント側で39.3dBA、トップ側では36.4dBAを記録している。

PCを起動していない状態、つまり暗騒音値は32dBA
非対応のビデオカード垂直設置に挑戦
最後は残念ながら「Razer Tomahawk ATX」が非対応なビデオカードの垂直配置を試してみよう。
ほかの拡張スロットが使えなくなるのが前提になるが、「Razer Tomahawk ATX」は拡張スロットに仕切りがないため、非対応ケースで垂直配置を可能にする変換マウンターを使うことで、垂直配置を実現できる。ここではFractal Design「FD-A-FLX1-001」(実売価格8100円前後)を試してみた。


拡張スロットに仕切りのない「Razer Tomahawk ATX」なら、いくつか販売されている変換マウンターを使うことで、ビデオカードの垂直配置は可能になる
ビデオカードを後部を支えるための工夫や、「FD-A-FLX1-001」採用のライザーケーブルはPCIe3.0規格になるため、BIOS(UEFI)でPCIe×16スロットの動作モードをGen 3.0に変更する必要があるなど、ひと手間必要ではあるが、垂直配置は成功だ。
「ウォッチドッグス レギオン」の内蔵ベンチマークをフルHD、画質品質「最大」、レイトレーシング「最大」、DLSS「バランス」の設定で実行したところ、フレームレートは通常配置と誤差の範疇に収まっていた。さらに垂直配置時はGPUクーラーファンとサイドパネルの間隔が狭まり、GPUクーラーの冷却性能が低下しやすいが、ゲームプレイ時もGPUコア温度は70度台と同じだった。軽く試した限りだが、「FD-A-FLX1-001」を使った垂直配置は問題なさそうだった。

BIOS(UEFI)の「Acvanced」の「AMD PBS」→「PCIe ×16 Bus Interface」で動作を「Gen3」に変更できる

Fractal Design製PCケース向けの製品だが、変換マウンターの取り付けは問題なし。ただ、マウンターとビデオカードの重量を支えるなにかしらを追加する必要はあるだろう

ビデオカードの垂直配置オッケーだ。位置的に、リアのスリットから効率良く外気を取り込めそうなのも◎

ビデオカードの固定ネジは構造状、ドライバーが使えなかったので、手回しでしっかり固定した
見た目も性能も文句なしのRazerゲーミングPCの完成だ
GeForce RTX 3080搭載ビデオカードならではのゲーミングパフォーマンスに、優秀な冷却性能と静音性を発揮したTSUKUMO eX.石井さん提案のRazerゲーミングPC。

Razerコラボマシンをその手で組み上げよう
総額は38万6000円前後に達するが、ベースの構成はそのままに、ゲームのプレイスタイルに合わせてビデオカードをGeForce RTX 3070や、RTX 3060 Tiにしたり、CPUをRyzen 7やRyzen 5にダウングレードしたりすることで、30万円前後も十分狙っていける。
藤田 忠 編集●北村/ASCII