ホームレス取材記事の炎上、支援者たちのリアルな目線

ホームレス取材記事の炎上、支援者たちのリアルな目線

  • 週刊女性PRIME
  • 更新日:2020/11/22
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コロナ禍で貧困層がさらに困窮している(写真はイメージです)

デジタルコンテンツの配信サイトcakesに掲載された、夫婦ユニット“ぱぃちぃ”さんが書いた「ホームレスを3年間取材し続けたら、意外な一面にびっくりした」という記事がネットでいわゆる“炎上”した。cakesのクリエイターコンテストで優秀賞を受賞したことで注目を浴びたからだろうが、何が“炎上”につながったのか?

【写真】『cakes』に掲載された夫婦ユニット“ぱぃちぃ”さんの炎上した記事

記事によれば、夫婦ユニットの妻のほうが20年以上前の子どものころ、新宿にあったダンボール村で路上生活をする人たちの姿を「秘密基地のように見え、なかを確認したくなった」ものの、母親に止められた経験があり、それ以来「ホームレスをあまりにも狭い範囲のイメージに留めたまま」に、「なんとなく違和感に近い興味を感じていた」という。

社会的状況に対する認識の甘さ

そこでネットでググり、地域でホームレス支援を行っている人に同行し、簡易な小屋を建ててかまどや食料などを手作りして暮らす「田舎の河川敷に住むホームレスの魅力を知ることとなった」と書くが、それは「自分とは違う生きかたを覗きに行きたい気持ち」であり、「日常生活をしているなかでは触れる機会が少ない体験をおじさんたち(注ホームレスの男性たち)を通してできるという刺激が根本にはある」とも書いていた。

生活に困窮するなど、何らかの事情から住む家をなくしてホームレス状態にある人たちを、刺激を求めて覗きに行きたいと書いてしまうのはどうだろう?と、いちライターとして首をひねるが、生活困窮者の支援を続け、コロナ禍に於いてはネットカフェを追い出された人たちへの支援も行っている『一般社団法人つくろい東京ファンド』のみなさんはどう思われているのか。お話を伺ってみた。

「ホームレス状態にある人がユニークなパーソナリティーを持っていて面白いということは実際にあることですし、そうした方と個々の関係性を結ぶのはまったく否定されるものではなく、それを書くことも自由だと思います。

また筆者のご夫婦は3年間にわたって関係性を築かれていて、そこは認められるべきです。今回のいちばんの問題は、この記事をcakesというプラットフォーマーがホームレス問題を取材した記事として発信したことにあると思います」

と、cakesの社会的状況に対する認識の甘さを指摘するのはスタッフの佐々木大志郎さん。佐々木さんは2014年から同ファンドに勤務、それ以前も生活困窮者支援をしてホームレスの人たちと長く関わってきた。佐々木さんはさらに、

「ユニークなおじさんに出会った、面白エッセイであれば問題にならなかったかもしれませんが、ホームレスという社会的な状態を全面に出して記事とするなら、そこにはハレーションは必ず起こるでしょう」と言う。

また同ファンドの代表理事で、1994年から路上生活者支援に取り組む稲葉剛さんも、ぱぃちぃさんたちの活動それ自体には理解を示す。

「現場に足を運んでいることは評価できることです。私も大学(立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科)で学生に教えるとき、よく『現場に行きなさい』と言います。ただ行った先では自分もまた見られている、自分も問われているという双方向性の関係に身を置くことが大事だと伝えています。

誰しも何らかの問いを持って、調査や取材のために現場に行くのでしょうが、そこには“社会問題”や“異文化”が転がっているわけではなく、社会的状況に巻き込まれた一人ひとりの人間が暮らしている。そのことを忘れなければ、自分も相手から見られていて、逆に問われている存在である、という意識が生まれるでしょう。Cakesの記事にはそういう問い返しがないため、多くの人の気持ちをささくれ立たせたのではないでしょうか」

定住型のホームレスは減っているが

ツイッターでも「まるで珍しいものを見るかのよう」だと、ぱぃちぃさんたちの立ち位置に不快感をツイートする人が多かった。

とはいえ、3年間の現場での経験は貴重だし、ホームレスの人たちの暮らしを文化として伝える人はこれまでもいた。おふたりには今回の炎上から学んだことを加味して発信を続けてもらいたい。

その一方で、ぱぃちぃさんたちが書いていたようなテントや小屋などを建てて定住するホームレス状況にある人たちは、特に都市部では減っていて、また別の過酷な状況があるのだという。

「記事にあるような定住型のホームレス状況にある人は減っています。仕事が得られたときに1日働いて数千円の収入を得て、お金に余裕があるときはネットカフェ泊り、少しだけあるときはマクドナルドなどの24時間営業のファストフード店で寝て、まったくお金がないときは路上で寝るという不安定な状態の方が増えています」(佐々木さん)

以前は、都内の大きな公園には100軒や200軒のテント村があり、それなりに自治があったり、相互扶助もあって、そこで生きる人は大勢いたそうだが、定住層は減り、街を漂流する移動層が増えている。定住層が減ったのは2004年~2009年に東京都が行った事業にあると稲葉さんは言う。

「2004年~2009年に東京都が『3000円アパート事業』として、公園や河川敷などにブルーシートのテントなどを張って定住する人たちを対象に3000円の家賃でアパートに移ってもらう事業が行われたんです。そのときに1900人以上がアパートに入って、定住型のホームレスの人は激減しました。

ただ、これも問題が多くてアパートを提供しつつも公園に24時間警備員を駐在させ、新たにテントを張れないようにしました。その後はオリンピック招致のために排除は静かに進み、柵を設けて夜間施錠して入れなくしたり、ナイトパークと称してライトアップを24時間して寝られなくしたり。そこでテントを張れない人たちは沿道の茂みの中など見えない所、見えない所へと追い込まれてしまったり、街を漂流するように暮らしています」

そしてコロナ禍になって、さらに現実は厳しい。

「ホームレス状態にある人は圧倒的に都会で暮らしていますが、家がないぶん、都市のさまざまな機能に依存して生きています。たとえば図書館は昼間の居場所にして、パソコンを使って情報を収集しています。また『ビッグイシュー基金(ホームレスの人たちを中心に困窮者の生活自立を応援するNPO法人)』の作った『路上脱出 生活SOSガイド』を置いているところもあるので、そういうものを手にできる場所にも依存しています。ところが、緊急事態宣言下では休館になってしまい、行き場を失いました」(稲葉さん)

女性の自殺者が急増

感染が急増している今、再び閉鎖などが起こると冬の寒さの中で行き場を失う人が出てしまう危惧がある。また、居場所だけでなく、お財布には残金が数十円で食べることができない人もどんどん増えている。

「コロナ禍による経済危機が長期化しており、炊き出しに集まる人も徐々に増えていますね。池袋でTENOHASHI(ホームレス支援団体)が開く炊き出しには、10月以降、通常の1,5倍の人が並ぶようになりました。通常180人ぐらいが、270人を超えています。年末に向けてさらに増えていくことが懸念されています」(稲葉さん)

さらに今、問題になっているのは女性の自殺の急増だ。

「この10月は、女性の自殺が去年の10月と比べて80%以上も増えて851人になりました。11月はさらに増えてしまうかもしれません。女性は一人で悩んでアパートの部屋にこもりがちで、これまでも屋外での炊き出しなどに並ぶことができませんでした。そのアパートの家賃も今は払えなくなって住めなくなり、男性のように路上で暮らすもできなくて、最悪の決断をしてしまう」(佐々木さん)

女性は飲食業やサービス業にパートやアルバイトなどの不安定な立場で就いていることが多く、コロナ禍にあってそうした業種が軒並み閉店や倒産に追い込まれ、補償もないままに退職せざる得なくなっている。

「昨年も『助けて!』の声をなかなかあげられず、路上での炊き出しなどには行けない女性たちにも来てほしいと、料理研究家の枝元なほみさんが料理を作る『年越し大人食堂』を開きました。安心して食事をして、相談ができる場所です。今年もコロナ禍での開催を計画中です」(佐々木さん)

急激に生活困窮に追い込まれ、ホームレス状態に陥る女性たち。16日には東京・渋谷区のバス停のベンチに座っていた路上生活の女性が、50~60代とみられる男性に殴打されて亡くなった。女性は夏以降、毎日夜遅くバス停に来てベンチで寝て、早朝に立ち去っていた。街の人たちは女性を心配してお茶や飲み物を渡そうとしていたものの、女性は申しわけなさがって、「ごめんなさい」と辞退することもあったという。「助けて!」の声をあげられない女性に、最悪の結末が訪れてしまった。

ホームレス状況にある人たちの生活はどんどん大変さが増している。もっと言えば、ほとんど公的な援助を受けることができない技能実習生として日本に来たような、外国籍の人たちの暮らしは壊滅的に厳しい。今回の炎上に違和感を抱いた多くの人たちには、ぜひ手を差し伸べてほしい。『つくろい東京ファンド』や『TENOHASHI』など支援団体のホームページにいけば1回1000円から寄付も可能だ。またホームレス状況の人を見かけたら、声をかけたり、支援団体に連絡をするのも助けになる。ホームレス状況にある人たちに関心を! 炎上を逆にチャンスにして、そうしたムードが盛り上がってほしい。

〈取材・文/和田靜香〉

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