環境対策で急浮上した「国境炭素税」が、日本にとって「もろ刃の剣」と言える理由

環境対策で急浮上した「国境炭素税」が、日本にとって「もろ刃の剣」と言える理由

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/05/04
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中国は温暖化ガス削減どころか…

トランプ米大統領時代に形骸化しかけた、世界的な気候変動対策作りが修復軌道に乗った。

バイデン大統領が4月22日からの2日間、40の国と地域が参加するサミット(首脳会議)をオンラインで開催し、もともと野心的な目標を掲げていたEU(欧州連合)に続いて、米国、英国、日本、ロシア、インドなどが相次いで2030年までに温暖化ガスの排出量をこれまでより踏み込んで減らす方針を表明。世界が具体的な行動に向けて舵を切ったのである。

そうした中で違和感が際立ったのが中国だ。米欧日との対立激化に歯止めをかけたいとの思惑があったのだろう。中国の習近平国家主席はサミットに参加した。しかし、「2030年までにピークアウトし、2060年までに実質ゼロにする」という目標をまったく変えなかったのだ。

先進各国が2030年までに4~5割前後の削減、ロシアが同じく1990年比で7割削減と、それぞれが高い目標を打ち出したにもかかわらず、中国だけが当面、削減どころか排出量を増やし続けると宣言したのである。

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中国は、世界全体の4割前後を排出する温暖化ガスの排出大国だ。その中国がこうした態度を取り続ければ、気候変動対策は地球規模でしり抜け状態になりかねない。

中国に再考を促すためにも急務になっているのが、国境炭素税の世界的な枠組み作りだ。国境炭素税は、もともと新型コロナウイルス対策のための巨額の財政支出を穴埋めする財源としてEUが導入方針を打ち出したものだ。

そのポイントは、温暖化対策が不十分な国からの輸入品に課税し、気候変動対策のただ乗りを排除しようという点にある。

国境炭素税がもたらす影響

来月の主要7カ国首脳会議や11月のCOP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)に向けて、我が国は国境炭素税が日本の輸出産業の国際競争力の低下に繋がるものにならないように国際交渉に臨むだけでなく、問題児・中国の方針転換を促すものになるように国際世論作りをリードしていく必要に迫られている。

IEA(国際エネルギー機関)によると、代表的な温暖化ガスであるCO2(二酸化炭素)の今年の排出量は、去年に比べて4.8%増と、世界全体で大幅に膨らむ見通しだ。

背景にあるのは、石炭依存度の高い中国がいち早く新型コロナウイルス危機から脱却し、本格的に経済活動を再開していることだ。結果として、世界全体のCO2の排出量は昨年の減少から一転して、今年は2019年とほぼ同じ水準に達すると予測している。

そもそも中国のCO2排出量は2019年に98億トンと世界全体の3割近くを占めている。これは世界最大であり、2位米国の2倍、5位日本の8倍近い水準だ。

バイデン大統領が就任初日に世界的な排出削減の枠組みである「パリ協定」に復帰して、気候変動対策が大きく前進する機運が出てきたが、中国の気候変動対策の遅れは、その流れを台無しにしかねない。

中国国内に目を向けると、発電に占める石炭火力発電の比率が高く、長年かけて主力産業として育成してきた製鉄業も大量の石炭を燃やす。こうした事情を勘案すると、国外からのCO2排出削減圧力が強まれば強まるほど、中国が強く反発する可能性が否定できない。

そこで期待されるのが、国境炭素税だ。脱炭素を進めるには再生可能エネルギーなどへの投資が必要で、その分、多くの経済活動でコストが上昇する。

その間隙をついて気候変動対策を怠っている国の怠っている企業からのモノやサービスの輸入が急増してはたまらないので、そうした輸入品に限って、温暖化ガスの排出削減コストを関税のような形で上乗せしようというのである。

バイデン政権が口を閉ざす理由

このアイデアは、輸出国が国内の経済活動に相応の炭素税を課していれば、その分を国境炭素税と相殺することで、保護主義的でない運用も可能になる。このため、EUを中心に、ストレートな国境炭素税という名称ではなく、「国境調整措置」と呼ぶことも珍しくない。

EUはこの国境炭素税を世界に先駆けて導入する構えで、来月原案を公表し、2023年から実施する方針を掲げている。

域内でいち早く気候変動対策を進めた結果、遅れた国でつくられた廉価な製品が流入するようでは公正な競争環境が維持できないとして、国境炭素税はEU域内での競争環境の維持だけでなく、EU域内でビジネスをしたい域外国にも積極的に気候変動対策に取り組ませる効果のある措置だと強調している。

もちろん、EUにはそうした大義名分だけではなくて、他国に先駆けて技術開発を実現したうえで、それらの技術や製品を輸出に繋げようという意図もあるだろう。

一方、米国のバイデン政権は脱炭素関連の産業育成で新たな雇用を確保するという点でEUと共通しており、トランプ時代とは打って変わって気候変動対策に積極的だ。ただ、来年に中間選挙が控えており、産業界の意向を見極めたいとの思惑からか、国境炭素税に関しては口を閉ざし、賛否を明らかにしていない。

とはいえ、中国封じ込め策としての有効性を勘案すると、遠からず、積極的な国境炭素税導入論に宗旨替えしてもおかしくない。

それだけに、菅政権には、EUの制度作りを睨みながら、WTO(世界貿易機関)などの場で、国境炭素税制が保護主義的なものではなく、公正かつ透明なものとなるよう積極的に議論をリードする役割が期待される。

そのうえで、自国は気候変動対策に消極的で2030年までCO2の排出拡大を続けながら、太陽光発電のパネルに続いてEV(電気自動車)でも主力輸出国になろうとしている中国のいいところ取りを許さない制度にする議論を引き出すべきだ。

また、気候変動対策は、伝統的に南北問題で、発展途上国が先進国の援助を引き出す口実に使われてきた側面が強い。中国が途上国を煽って反対の国際世論を盛り上げる事態も予想される。そうした事態を現実のものとしないために、途上国が国境炭素税の導入に対応できるよう支援する枠組みも準備する必要がありそうだ。

国境炭素税で「狙い撃ち」にされないために

最後に強調したいのは、国境炭素税は、気候変動対策を怠れば、日本の輸出競争力を削ぐ「もろ刃の剣」だということだ。

国内では、鉄鋼業を中心に、強い政治力を活かして有利な排出枠の配分を受けたり、全体の排出ペースを遅らせたりし易い排出権取引の本格化を進めて、国内での炭素税導入を阻もうという機運が強まっている。

しかし、そうした行為は、新型コロナ復興財源の確保を目論むEUから見れば、格好の標的にされかねない。

産業界には、温暖化ガスの排出削減だけで地球温暖化を抑制できる保証はないという「神学論争」を好んで主張する向きも多い。しかし、世界の流れはすでに、温暖化対策で経済活動のコストが上昇することを甘受し、温暖化ガスの排出削減を実現する方向に大きく舵を切っている。

その流れに抗い続ければ、異端者と見なされ、国境炭素税はもちろん、不買運動や金融取引停止など広範な報復措置の対象にされかねない。

こうした中では、国境炭素税と整合性のある炭素税を国内でも導入し、国内の脱炭素化を加速して、新たな分野の育成に繋げて経済成長を下支えしつつ、EUなどから国境炭素税で狙い撃ちにされない体制作りが不可欠だ。

そして、返す刀で、中国に「良いところ取り」をさせない国際秩序作りを目指すべきである。

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