ACSL、マレーシアでのドローン試験飛行1000時間達成--鷲谷社長「レベル4実運用シーンを想定」

ACSL、マレーシアでのドローン試験飛行1000時間達成--鷲谷社長「レベル4実運用シーンを想定」

  • CNET Japan
  • 更新日:2021/11/25
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国産ドローンメーカーのACSLは2020年12月から2021年9月にかけて、自社設計・開発した汎用機体「ACSL-PF2」を5機使用し、マレーシアにいる現地オペレーターと完全遠隔で協業して、累計1000時間におよぶドローン試験飛行を実施した。

「2022年度中、遅くとも2023年3月までにレベル4の法改正が行われるいま、メーカー自らが、安全性や信頼性を高めるための試験や評価を加速し、その結果をきちんと社会に発信していくことは、非常に重要だ」と語るACSL代表取締役兼COOの鷲谷聡之氏に、本試験の狙い、実施内容、今後の展開を聞いた。

「飛行試験1000時間」の狙いとは

ドローンが人の頭上を飛行する、いわゆるレベル4が話題になっている。これは操縦者が目視外で第三者の上空を飛行させるもので、現行法では許可されていない。今後は要件を満たせば許可・承認される予定で、その要件に関わるのが「機体認証」をはじめとする新制度だ。

機体認証とは、ドローン各機体の信頼性を担保する、車でいうところの車検のような制度。いままさに、登録要件定義や保安基準策定が、国土交通省で進められており、レベル4の飛行は、第1種機体認証を取得した機種に許可される見通しだ。しかし、ここには大きな課題があったという。

「レベル4では、航空機に近しい設計思想、試験評価が求められる。設計プロセス、製造プロセス、コンポーネントレベルで安全性を担保する必要があるが、一方でドローンは航空機とは違って試験飛行をしやすい割に、ドローンというシステム全体としての性能評価や耐久評価がまだまだ不十分で、レベル4の安全性を議論するためのベースとなる基礎データが不足していた」(鷲谷氏)

そこでまずは、レベル3の実務や実証実験で数多くの採用実績があるACSL-PF2を使って、リアルな環境においてレベル4の運用を想定した1000時間の試験飛行を実施した。狙いは、レベル4で飛行するドローンを開発するためには、どの項目でどのような基準をクリアするべきかという、基礎データの取得だ。

「下手したら1機あたり50時間、5機合計しても250時間程度で試験終了もあり得ると覚悟していた」(鷲谷氏)というが、いざフタを開けてみると、最長飛行した機体は累計270時間、5機の累計では1000時間の試験飛行を達成。モーター、ESC(Electric Speed Controller)、プロペラの交換は一切必要なく、どの機体も破壊値には至らなかったという。

試験実施地に、マレーシアを選んだ理由

試験実施期間は、2020年12月から2021年9月。構想は、コロナの感染拡大が広がったタイミングだった。しかし、「マレーシアで実施する」ことは、譲れない絶対条件だったという。理由は3つある。

1つめは、人件費の問題。試験飛行を任せられるレベルのパイロットを確保するための費用は、日本と東南アジアでは3倍の差がある。2つめは、飛行エリアの問題。試験用の広い面積を確保するには、日本ではフィールドが限られる上、開発拠点である東京からのアクセス、フィールド使用料も好条件とはいえない。3つめは、テスト環境の多様性だ。

マレーシアには、ACSLが自社CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を通じて出資する、エアロダイングループの本社がある。エアロダイングループは、世界第2位のドローンソリューションプロバイダーで、35カ国以上でサービスを展開しているほか、マレーシア政府案件の請負実績も豊富であるため、現地の自治体と連携した多様なテスト環境が整っている。しかも現地パイロットは、他社製品をかなり使い込んでいるベテラン勢だ。

ACSLにとってエアロダインは、ASEAN進出本格化、将来的には販促も含めて連携するグローバルパートナー。この日本法人であるエアロダインジャパンと連携して、マレーシアにおいて試験を実施することになったという。

コロナ禍の完全遠隔で新手法確立

本試験はもともと、日本から指導員を派遣する予定だったが、コロナ禍のため、ドローンを海外輸送し、試験の準備から現地スタッフのトレーニングまで、フルリモートで対応した。「完全遠隔は相当難しかった」(鷲谷氏)というが、ASEAN諸国やインドをはじめとする海外展開を見据える同社にとって、この経験は大きな糧になったようだ。

試験内容や要件を細かく決めていく準備段階では、言葉の壁以上に、「1つの単語をみたときに、連想しているものが全然違う」という発見があった。たとえば「高高度」といえば、日本では150mを基準に考えがちだが、マレーシアでは「4000mの山を登ればいいよね」という感覚。「長距離」にしても、日本だとせいぜい5〜10kmを想定するが、あちらでは「40〜50km飛ばせるけど?」という感じで、スケールが全く違っていたという。

「最初は、あまりに感覚が違いすぎて、笑うしかない状況だった。抽象的な単語から、具体的な目的や数値に落とし込んで共通化する、すり合わせを繰り返す中で、いい学びになったのは、日本人は無意識に保守的になっているということだ。こんなもんだろうと思わず、リミットがない発想でやってやろうと気概を持つ大切さを、彼らから学ぶことができた」(鷲谷氏)

また、遠隔でトレーニングするという講習モデルを確立できたことは、海外展開も含めて今後の布石となりそうだ。独自に設計、開発したエミュレーターが、遠隔でのトレーニングに転用できたのだ。このエミュレーターは、もともとは新機能を開発したときに、実際にフィールドで飛行試験する前のバグ出しなどに使っていた、開発サイド向けのシステムで、本体と全く同じ制御プログラムが組み込まれている。インターフェースも同様だ。このため、操縦桿をどれくらい倒すとどれくらい進むのかといった機体の癖や各種初期設定値などが、しっかりと再現されている。

「私の知っている限りでは、自社機体用のエミュレーターを、ここまで作り込んでいるドローンメーカーはほかにない。僕らの開発用のエミュレーターが教育ツールとしても使える、というのは大きな発見だった。安全飛行に必要な、機体の特徴や仕様への理解を、実機ではなく完全に再現されたデジタル空間でやっていただけたので、我々にとってもやりやすかったし、エアロダイン側にとっても、仕様の背景にある思想まで確認しながら安全運航に備えられるというメリットがあった。その結果、完全遠隔かつ無事故で試験を終えることができた」(鷲谷氏)

レベル4に向けて今後の展開

実際の飛行試験は約4カ月、ほとんど毎日実施したという。鷲谷氏は、「レベル4の実運用を想定した」と強調した。たとえば、市街地での物流を想定すると、離着陸時のホバリング(定位置保持)は、風速や高度などさまざまな環境条件が考えられる。また、雨の日でも暑い日でも、一定の高速度で飛行しているはず。このように、実運用シーンから逆算して、試験の要件を現地と相談しながら決めていったという。

この結果、システム全体としての性能を評価することができ、現行の機体をベースに開発してよいか、ゼロから作り直すべきかなどの部品レベルでの判断基準や、保守修繕の閾値も把握できたという。

「もちろん、従来も部品ごとの試験は行っているが、これは理論値だ。たとえば、熱を40度にした環境でモーターの回転数を上げる耐久性能試験を行って、何時間で交換が必要だと決めていても、リアルで飛行させると実はモーターが上下に微振動しているなど、本当の性能は理論値とは異なる。実際リアルな環境で長時間飛行させて、ドローンをシステム全体として評価するからこそ、取得できるデータを得られた意義はとても大きい」(鷲谷氏)

今後は、レベル4の法改正と同時に、第1種機体認証を取得した量産機を販売開始できるよう、国とも連携しながら開発を進めていく予定だ。鷲谷氏は、「販売先としてまずは、資本・業務提携先である日本郵便様にご活用いただきたい」と話した。海外展開としては、ASEAN諸国とインドに注力する。ASEAN諸国は、本試験のパートナーであるエアロダインをはじめ、ローカルパートナーと協業する座組みで販促を狙う。インドは、2021年9月に設立した合弁会社ACSL Indiaを通じて、現地で製造と販売を進めていく構えだ。

「今回の累計1000時間の試験飛行で自信を持てた点は2つある。1つは現行機種がいずれも破壊値には至らず、機体としての作り込みがしっかりできていると確認できたこと。もう1つは、他社製品を使い慣れているプロパイロットが3〜4日の完全遠隔指導で我々の機体も難なく飛ばせるくらい、操作性がシンプルに仕上がっていると確認できたことだ。今後もコアな開発と試験は日本で続ける横で並行して、さらなる耐久性能試験を海外で積み上げて、その結果を日本にフィードバックするという開発手法を活用し、確実かつ安全にレベル4を実現していくことで、社会課題の解決に寄与していきたい」(鷲谷氏)

藤川理絵

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