全員にPTAの仕事を強制する「ポイント制」。平等で役員決めも早く済むはずなのに、制度を辞めたほうが雰囲気が良くなった理由とは

全員にPTAの仕事を強制する「ポイント制」。平等で役員決めも早く済むはずなのに、制度を辞めたほうが雰囲気が良くなった理由とは

  • 婦人公論.jp
  • 更新日:2023/09/21
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(写真はイメージ/写真提供:photo AC)

なぜ6年間に必ず1度やらなければいけないのか? なぜ仕事をしているとわかっているのに平日日中に活動するのか? 保育園のとき、あんなにたくさんいたお父さんはどこへ行ったのか――。PTAの〈クラス役員決め〉を経験した時、その理不尽さに憤慨したというのがノンフィクションライターの大塚玲子さん。それから「同じようにつらい思いをする人をなくしたい」と考え、10年以上PTAに関する取材を続けています。今回はそんなPTAの理不尽の一つ、「ポイント制」について。役員決めが早く済むので一見よさそうに見えますが、弊害も多いそうで――。

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摩訶不思議PTAの「ポイント制」とは

《PTAの「ポイント制」経験者の声》

●本部役員が全保護者会員のポイントを事前にチェック。役員決めの当日、立候補がいなければ、一定のポイント数に満たない人からクジ引きになる。(ゆるりとつながり隊さん)

●ポイント制のルールが複雑すぎて、集計する人の手間がかかる。(とりさん)

●毎年、自己申告のポイント数を一覧にして、各クラスで委員の投票をする。申告の提出が遅れるとポイントがゼロに。高学年になると自然と低ポイントの人に票が集まる。仲良しグループが相談して誰かに票を集中させることもある。(たなちゃんさん)

役員決めが早く終わるよう、「ポイント制」という仕組みを採用するPTAがときどきあります。これは「本部役員をやったら5ポイント、委員は3ポイント、係は1ポイント」というふうに役職ごとに獲得ポイントを決め、「卒業までに何ポイントためる」といったルールを会員に課すものです。

高学年になると、獲得ポイント数が少ない保護者に声がかかり、一人残らず全員にPTAの「仕事」をやらせることができます。

役員決めが早く済むので、一見よさそうに見えますが、完全に強制を前提とした仕組みですから、雰囲気が悪くなることを免れず、弊害が目立ちます。

さらに、ポイント制は一度始めると、やめるのも困難です。ポイント制のもとで活動した保護者は「ポイント制をやめる」=「せっかくためたポイントが失われて自分が損をする」と感じ、継続を求めるようになるからです。あるPTAでは、役員さんが委員の数を減らそうと提案したら「ポイントがためられなくなる」と苦情が出たといいます。

一方で「ポイント制をやめたらPTAの雰囲気がよくなった」という話もよく聞きます。

大阪のある小学校のPTAでは、保護者全体にアンケートを実施。「廃止に賛成」が7割だったため、なくすことにしたそう。

川崎市中原区PTA協議会の元会長・宮田大輔さんは、各PTAの会長や役員さんたちに「ポイント制はNG」と周知し続けた結果、区内すべてのPTAのポイント制が廃止に。最後に残った1校では、校長先生から「やめましょう」と言ってもらったことも、効いたようです。

ポイント制は残しつつ「実質無効化した」例もあります。

岐阜県の小学校の元PTA副会長・高橋尚美さんは、一部の根強い反対からポイント制自体はやめられなかったものの、代わりに「免除のルールをやめ、理由不問で誰でも辞退可能にする」ことで、ポイントを「ただの点数」に変換したということです。

ポイント制を廃止したら思いやりの空気が生まれた [竹内幸枝さんインタビュー](2020年12月取材)

千葉県松戸市立栗ケ沢小学校(以下、栗小)PTAで会長をしてきた竹内幸枝さんのケースを紹介します。

同PTAでは、2019年度からポイント制をやめ、活動を手挙げ方式(やりたい人がやる形)に変更。さらに2020年度からは、入退会自由を前提とする仕組みや規約を整備したといいます。どんな道のりだったのでしょうか?

アンケートを実施し、改革の方向性を共有

どんなきっかけで、本部役員になったんですか?

――ポイント制ですね。2016年度当時、栗小PTAには「役員や委員や係の活動をやって、卒業までに何ポイントためなければいけない」みたいなルールがありました。入学前から「さっちゃんとこ、栗小? あ〜ポイント制だ、3人分だ!」みたいなことを言われていて、私も「そっか、これは計画を立ててポイント獲っていかないと大変だ」と(笑)。

でも最初の活動者決めは、低学年でポイントを稼ぎたい希望者が多く、私はあえなくじゃんけんに破れ、初年度は0ポイント。

その年の秋、翌年度の執行部(本部役員)決めの説明会があったんです。今後のポイント獲得のために情報を取りに行こうと思って、何も知らずに参加したら、そこは説明会という名の互選会だった(苦笑)。

みんな「できません」「無理です」と言う中、私も末っ子がまだ1歳と幼かったので「お力になれないと思います」と話したら、推薦委員の人から「じゃあ、むしろ今だ! 仕事を始めてからだと、みんなもっと苦しい思いをするんですよ」と言われて。「そっか、なるほど。じゃあやります」って。

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『さよなら、理不尽PTA!』(著:大塚玲子/辰巳出版)

素直でしたね(笑)。

――でも、その役員決めが終わった後、推薦委員さんから「今年はみなさんが自分で引き受けてくださってよかった。例年だと決まらなくて、泣く人が出ますから」みたいな話を聞いて、「泣いてまで嫌がる誰かに、無理やりこれをやらせるんだ」って、すごくモヤモヤと違和感を覚えました。

で、いざ書記をやってみると、PTAのモヤモヤの背景にある「ポイント制」のおかしさに気付くわけです。みんなポイントを早くためて、PTAという「義務」を免れようと無我夢中になっている。そこでポイント制をなくすべく、立ち上がりました。

それで翌年度は、副会長になったんですね。

――そうです。このとき集まった役員のメンバーと方向性を共有できたので、「いっちょ、変えたろう」という雰囲気になって、まずポイント制から手をつけました。

最初に、一般会員みんなにアンケートをとってポイント制の是非を問いたかったんですけれど、当時の校長の賛同を得られなかったので、会員の代表である運営委員さんにアンケートをとったところ、ポイント制の存続賛成が6割、反対が3割強という結果でした。

ああ、賛成が多かったんですね。運営委員さんたちは高ポイントを保持する人が多いので、どうしても一般会員よりは存続賛成が多くなりそうです。

――ただ、その人たちが賛成する理由は、反対の人とほぼいっしょだったんですよ。「本当は反対なんだけれど、ポイント制をきっかけにやってみたら結果よかった」という。

つまり「活動のきっかけとしてのポイント制はアリだと思う」という賛成だったんですね。それは確かにわかります、私自身も役員になったきっかけがポイント制だったので。

じゃあ、本当にポイント制が会員たちを幸せにしているのかといえば、決してそうではありません。低学年のうちはポイントを獲り合い、高学年では活動を押し付け合う。その際の「戦う武器」としてポイントの獲得数が使われ、保護者の人間関係に大きな影響を与えてきたわけです。

そこで「ポイント制じゃない方法で、活動するきっかけづくりをすればいいんだよね!」と、会長になった春、みんなに提案しました。

正論です! でも、これまでのやり方に慣れた人は嫌がりませんでしたか?

――やっぱり、いらっしゃいました。過去に役員をしていた方々から「あなたのやろうとしていることは、今までの人たちの否定だ」みたいに、怒られたこともあります。あとは、「これまでためたポイントはどうなるのか?」「ポイントが無効になるなら、これから一切の活動協力はしない」とかも言われました。

改革の旗振り役の人は、同様の非難を受けがちです。もちろん合意を得る努力は必要ですが、気にし過ぎないことも大事ですね。

――そうですね。私、かねてから「自称KYY」と言っているんです。「空気が読めないわけじゃないけど、あえて読まない」の略。「世に広げよう、KYY」って感じです(笑)。

互いが思いやり協力しあって活動するPTAに変身

やりたい人がやる形に変えてから、どんな変化がありましたか?

――PTA活動の雰囲気がとてもよくなりました。

以前はポイント制で、活動しない人・できない人が高学年で矢面に立たされるシステムだったので、「活動の負担が減ったのに、5ポイントも与えるのは多すぎる」とか「サークル活動やPTA活動以外のものにもポイントをつけるべきでは?」などの議論が白熱しやすく、子どもたちのためでなく、「ポイントのためのPTA」になりかけていました(苦笑)。

それがポイント制をやめたことにより、活動する人数はとても少なくなってしまいましたが、自ら手を挙げてくれた前向きな人たちの集まりですから、何しろ活動の雰囲気がいい。互いが思いやり、協力しあって楽しく活動できているようです。

※本稿は、『さよなら、理不尽PTA!』(著:大塚玲子/辰巳出版)の一部を再編集したものです。

大塚玲子

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