たき火台の販促につながらずとも 小沢製作所が自由研究サイトでまいた種

たき火台の販促につながらずとも 小沢製作所が自由研究サイトでまいた種

  • ツギノジダイ
  • 更新日:2023/11/21
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小沢製作所3代目の小沢達史さん(右)は、BtoC向けのアウトドア用品の開発に注力しています。中央にあるのが自社製品の「小焚台」です(写真はすべて同社提供)

板金加工の下請けを主力にしてきた小沢製作所(東京都八王子市)は、3代目の小沢達史さん(37)がBtoC事業のアウトドア用品開発に注力し、ストーブやペグなどを送り出しています。23年夏には、工作体験ができるたき火台を子どもたちの自由研究に活用してもらおうと、専用サイトを立ち上げ、たき火のルーツや火のおこし方など、商品宣伝にとどまらない情報を発信。短期的な商機拡大よりたき火ファン増加を狙った種まきの企画には、好意的な反応も寄せられつつ、教訓も得られました。小沢さんは改善点を踏まえ、来夏のパワーアップに向けて企画を練っています。

工作体験ができるたき火台

1966年創業の小沢製作所は、大型の加工機械による数百個単位の中ロット生産を得意にしている町工場です。生産能力の高さから、試作量産に対応できる工場として頼られています。従業員数は18人、年間売上高は約2億円です。

創業者の孫で3代目の小沢さんは2020年から、これまでの下請け事業に加え、一般消費者向けのアウトドア用品の開発を始めました。

「八王子市を『アウトドアの聖地』としてブランディングする活動をしている経営者仲間と出会ったことが、商品開発のきっかけです。製品の価値を伝えるにはブランディングが必要ですが、町工場単独でできることには限りがあります。一緒に頑張れる仲間が必要でした」(小沢さん)

小沢製作所は、アルミ製箱型飯ごう専用のストーブ台などユニークなアウトドア用品を発売。22年に発売した「小焚台」(税込み2200円)は、板金を手で曲げたり、ネジで留めたりするなど、ユーザーが簡単な工作体験ができる点に特徴があります。

「アウトドアを親子で楽しんでもらおうと開発しました。最近のアウトドア市場では、たき火台のリリースが相次ぎ、競争が激化しています。独自のポジショニングを模索するうち、たき火台に工作体験の要素を加えようとひらめきました」(小沢さん)

小焚台は販売数1千個を突破し、香港への輸出も決まるなど販路を広げています。発売以降、小沢さんは工作ワークショップなどのイベントに呼ばれるようになり、露出機会も徐々に増えています。

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小沢製作所が開発した小焚台は、子どもでも簡単に組み立てられます

自由研究のネタに町工場製品を

そんな小沢さんは23年7月、今度は小焚台を小学生の自由研究の題材に使ってもらおうと、学習情報サイト「OZOPS 夏の自由研究」をオープンしました。着想のきっかけは、小沢さんが出展した展示会で、バイヤーから寄せられた反応でした。

「複数のバイヤーさんから、小焚台が自由研究の題材としてニーズがありそうという意見をいただきました。バイヤーの皆さまは消費者のニーズや市場の動向を知り尽くしている方々です。そこで、たき火に関する自由研究のアイデアをウェブサイトで発信することにしました」

オープンしたサイトでは、実験・研究・採集・工作といったジャンルごとに、自由研究のアイデアを掲載しています。サイト制作はパッケージデザインの依頼などで付き合いのあるデザイン会社に依頼しましたが、テキストの内容は小沢さんが執筆しました。

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小沢さんが立ち上げた学習情報サイト「OZOPS 夏の自由研究」

テキストを執筆するにあたって、小沢さんは二つのことを意識しました。

一つは、自由研究を手伝う保護者の負担です。「奇抜な自由研究では保護者にかかる負荷が大きくなってしまいます。学校の教科書の内容をベースにしてアイデアを考えました」

もう一つは、小焚台の販売に直接結びつかない自由研究のアイデアを、数多く掲載していることです。

小焚台の活用を提案したアイデアは「たき火台を作ってみよう」と題されたページのみ。そのほかは「キャンプで火をつけるとケムリが出たり、出なかったり、なんでだろう?」、「木によってもえかたがちがう?調べてみよう!」などと問いかけて、その答えも載せています。

一例を挙げると、「たき火って何?歴史とやくわりを調べてみよう」という問いかけには、次のような回答を載せました。

・たき火はヒトが発展するためにとても大切な発明だった

・初めて人類がたき火をしたのは、100万年前。

・火を扱うことができるようになったことで、暖をとる、道具を作る、動物から身を守る、料理をする、明かりをえる、など人類が発展することにつながったよ。

・今は電気や化学が発達して、いろいろな明かりや暖の取り方があるけど、つい150年前ごろまでは、暖を取ったり、明かりを取ったりするのには火が使われていて、たき火もよく使用されていた。

・今でも大きな地震があったときとかにたき火は使われている。

・キャンプでたき火をするのは、ただの遊びではなく、昔の生活を体験することで、今の便利な社会を見直すきっかけになるかも。

OZOPS 夏の自由研究

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「OZOPS 夏の自由研究」の内容は、たき火ファンを増やすことに重点を置いて考えられました。小焚台に言及したページもありますが(左)、たき火に関する学びの視点を幅広く紹介しています(右)

小沢さんはサイトを通じて「短期的な販売促進よりもたき火ファンを増やすことを意識しました」と語ります。

小沢さんによると、「OZOPS 夏の自由研究」がきっかけでたき火そのものに関する問い合わせが寄せられ、手応えを感じたと語ります。店舗での売り場を聞かれたほか、たき火をテーマとする自由研究の相談も寄せられました。

「ホームセンターの木工ブースで端材を買うと手軽に薪が手に入ることなど、商売抜きでアドバイスしました。今回は商品の販売にはつながらなかったのですが、御礼のメールをいただき、たき火ファンの増加に貢献できた実感があります」

テレビ番組の露出拡大は不発に

小沢さんによると、「OZOPS 夏の自由研究」をオープンした最大の狙いは、テレビ番組の露出機会の増加でした。「小沢製作所は中ロット生産を得意とする工場なので、小焚台の販売拡大を模索しました」

しかし、サイトをオープンしても、テレビ番組で取り上げられる機会はなかなか得られませんでした。その理由は、プレスリリースの内容にあったといいます。

「今回のプレスリリースは、企画の説明が大部分を占めていました。しかし、それよりも(番組担当者が)撮れそうな画面をイメージできる内容にしたほうが良かったと思います。例えば、子どもがたき火を経験することの教育的な意義をフックに、ロケ地候補を紹介したり、サポートできる撮影内容を提案したりといった工夫が考えられました」

小沢さんは来夏も「OZOPS 夏の自由研究」の第2弾を計画しています。第1弾の教訓をもとに、プレスリリースを打つときは、消費者目線とメディア目線の2パターンを用意するなど、改善策を検討しています。

SDGsの観点がラジオから注目

テレビ番組の露出はかなわなかった一方、「OZOPS 夏の自由研究」には一定のPR効果があったと振り返ります。

その一つが、SDGsに関連した世界の動向を紹介しているJ-WAVEのラジオ番組「JAM THE PLANET」に小焚台が取り上げられたことです。ウェブサイトのオープンに合わせて発売した「小焚台夏休みセット」(税込み3300円)をプレスリリースに盛り込んだことが、大きかったといいます。

この商品は、山梨県道志村の間伐材を有効活用した薪と小焚台をセットにしたものです。森林保護という観点が、ラジオ番組に注目される理由になりました。小沢さんは「SDGsに関連づけたことが露出機会の獲得につながりました」と語ります。

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「OZOPS 夏の自由研究」に合わせて開発した「小焚台夏休みセット」

子どもが楽しめるアイデアを

「OZOPS 夏の自由研究」のコンテンツのさらなる充実に向けて、小沢さんはアイデア提供にとどまらず、自由研究の情報源となるような内容を模索しています。

「調べ学習の手がかりを提供したいですね。たとえば、薪となる枝を拾い集めるとき、周囲を調べれば樹木の種類がわかります。広葉樹と針葉樹の違いなど、樹木について説明するコンテンツも作りたいです」

ビジュアルの改善も模索中です。「現在のビジュアルはイラストを加えるだけにとどまっています。子どもが気軽に楽しめるよう、もっと図解を入れて自由研究のアイデアを提供したいですね」

そのほか、ルビの有無を切り替えられる機能など、子ども向けコンテンツならではの工夫も検討しています。

工作体験の充実を目指して

工作体験ができるアウトドア用品シリーズは、小焚台以外にも開発を進めています。23年9月に発売した「クラフトシェード」は、市販のLEDライトを光源に使えるランプシェードで、板金を手で折り曲げて作ることができます。

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小沢製作所は「クラフトシェード」を開発しました。写真の商品は「SUS_Asanoha」(税込み4400円、LEDライトは別売り)

小沢さんは、工作体験ができるアウトドア用品は、SDGsが付加価値になっていることに気づいたといいます。「お客様に組み立ててもらうので、輸送時にはただの板金のような平面の状態です。立体よりも平面のほうが、輸送コストがかからず、プラスチックの緩衝材を使わないで済むので、環境負荷を低減できます」

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八王子市で開かれたイベント「オンガタマルシェ2023」に、ワークショップを出展しました

小焚台を開発してから、同社はワークショップの出展を打診されることが増えたといいます。今後は、小焚台とクラフトシェードをあわせて、「光」をテーマにしたアウトドア企画も展開したいと考えています。

「八王子市には、ホタルの光を楽しめるスポットがいくつかあります。自然の光とコラボするようなイメージでイベントを開いたら楽しそうだと思いました。八王子市の自然環境は、商品開発のアイデアの源泉です」

長尾和也

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