ミャンマー問題の解決試みたASEAN、中国に主導権奪われる

ミャンマー問題の解決試みたASEAN、中国に主導権奪われる

  • JBpress
  • 更新日:2021/06/11
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6月5日、ミャンマーのマンダレーで軍政に反対する市民がASEANの旗を燃やして抗議の意を示す。ミャンマーでは民主政を求める市民の間で、軍政を正規の政権として遇するASEANに反発が強まっている(写真:ロイター/アフロ)

クーデターで政権を奪取して既成事実を次々と積み上げているミャンマーの軍政。これに対し、西側諸国は経済制裁や非難決議などで対応を模索しているが、まだ実効的な効果を生み出すまでには至っていない。

そうした中で最初に大きな動きを見せたのがミャンマーも加盟国となっている東南アジア諸国連合(ASEAN)だった。4月に臨時首脳会議を開催し、ここにミャンマー軍政のトップであるミン・アウン・フライン国軍司令官を参加させたのだ。そこでASEAN各国首脳、外相らとの直接会談を実現させ、「即時暴力行為の停止」「人道支援の提供」などを内容とする5項目の合意に漕ぎつけた。

ASEANが域内組織としての強みを見せ、混迷するミャンマー情勢に大きな一歩を印したかにみえたのだが、その後の展開はといえば、ミャンマー軍政にペースを握られ、遅々として進まぬ膠着状態に陥っている。

一方で軍制は次々と既成事実を積み上げて、「政権」の正当性を内外にアピールしている。

さらにASEANによるミャンマー問題の平和的解決への仲介が行き詰まる中、ASEANへの接近を図っているのが中国だ。ASEANとの関係強化のためにミャンマー問題でその存在感を示そうとする中国の動きには、習近平国家主席が独自に描く「一帯一路」構想への思惑も見え隠れする。そのためASEAN各国には中国のミャンマー問題への関与を歓迎する一方で「警戒感」も生まれている。

出口の見えないミャンマー問題に欧米、国連、ASEAN、中国といった「プレイヤー」がそれぞれの意図をもって参入しようとしている現状を伝える。

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軍政トップ、ASEAN首脳会議にミャンマー「首脳」として参加

4月24日にインドネシアの首都ジャカルタで開催されたASEAN臨時首脳会議に正式に参加したミャンマーのミン・アウン・フライン国軍司令官は、他の参加国から「首脳」として遇された。

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4月24日、ミャンマー問題を話し合うASEAN臨時首脳会議に出席するため、インドネシアのジャカルタを訪れたミャンマー軍政トップのミン・アウン・フライン総司令官(提供:Indonesian Presidential Secreteriat/Abaca/アフロ)

ミャンマー軍政は、このことをもって「ASEANで自らの公的な立場が認められた」と理解し、歓迎した。

臨時首脳会議では「暴力を即時停止して全関係者が最大限の自制を行う」「平和的解決策を模索するため関係者による建設的対話の開始」「ASEAN特使による対話の促進」「ASEAN特使のミャンマー訪問と全関係者との面談」「人道支援の提供」からなる5項目で合意がなされた。

しかしその後ミャンマー軍政はこの5項目合意について「国家に安定が戻れば慎重に検討する」との立場を示し、早急かつ積極的に合意項目を履行する意思がないことを明らかにしている。

積極的に関与して何とか事態打開の道筋を見出したいASEANは、再び動いた。6月4日に2021年のASEAN議長国であるブルネイのエルワン・ユソフ第2外相とリム・ジョクホイASEAN事務局長をミャンマーに派遣し、首都ネピドーでミン・アウン・フライン国軍司令官と会談したのだ。

この会談ではASEAN側から5項目合意の履行を促し、同時にASEAN特使の受け入れを求めた。この席で具体的なASEAN特使の名前を軍政側に示したとされているが、具体名は明らかになっていない。

ミャンマー民主派“政府”、ASEAN特使との接触は実現せず

軍政に対抗するためにスー・チー政権の幹部や最大与党「国民民主連盟(NLD)」の幹部、さらに少数民族代表などからなる「国家統一政府(NUG)」が結成されて、軍政との対決姿勢を明確にしているが、軍政はNUGを非合法組織と認定して壊滅を目指している。

そもそもこのNUGは4月24日のASEAN臨時首脳会議への参加を希望していた。だが、ASEANはこれを認めなかった。さらに6月4日のASEANの議長国外相と事務局長のネピドー訪問に際してもNUGは直接会談を求めたが、当然のことながら軍政によってその実現を阻止された。

結果的にASEANは事態打開のためとはいえ、軍政との会談、交渉に終始していることから、NUGや軍政反対を訴える市民などからは「ASEANは交渉相手を間違っている」「ASEANは軍政に政権掌握のお墨付きを与えているだけだ」などと失望と批判の声が上がっている。

中国がASEAN各国外相と会議

ASEANがそのような身動きの取れない状況の中で、今度は中国が動きだした。

6月5日、陳海・在ミャンマー中国大使がミン・アウン・フライン国軍司令官と会談し、ジャカルタでの5項目合意を中国として支持する姿勢を伝えたのだ。

さらに6月7日には中国の重慶でASEAN各国の外相と中国・王毅外相による会議を開催した。

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6月7日、重慶で開かれた中国・ASEAN特別外相会議での中国・王毅外相(写真:新華社/アフロ)

中国側によると今回のASEAN外相との会議は、中国がASEANと公式対話を開始した30周年にあたる記念会議であるとしている。会議では南シナ海を巡る問題やコロナワクチン、中国の経済支援など幅広い議題について意見交換がされたようである。

当然のことながらミャンマー問題に関する協議も行われた。会議後にオンラインで会見したインドネシアのレトノ・マルスディ外相は「ミャンマー問題の改善に向けた中国の協力姿勢を高く評価する」と述べており、中国が会議でミャンマー問題に関連して積極的に関与する姿勢を示したことは間違いないだろう。

またこの外相会議には。ミャンマー軍政が任命したワナ・マウン・ルウィン氏も「外相」の立場で出席しており、軍政の閣僚が国際会議の場で正式の外相としての待遇を受ける状況が続いている。こうした事実も軍政にとっては「政権掌握」の既成事実として自信を強める結果となっている。

中国が死守、ミャンマー国内の権益

中国はクーデター発生直後から「ミャンマーの内政問題」との姿勢をとり続け、国連の安保理による制裁決議などに関しても「ミャンマーへの一方的な圧力や制裁などの強制的措置は緊張と対立を激化させるだけだ」として反対の立場を貫くなど、軍政にとって心強い援護射撃をし続けている。

その背後にある意図は、ミャンマー南部のチャオピューから北部ムセを経て中国雲南省瑞麗市に至る石油・天然ガスの輸送パイプラインや経済特区の保護と見られる。

中東から中国本土へのエネルギー供給、運搬に際して、狭隘で水深も浅く遠路となるマラッカ海峡経由よりも、ミャンマー国内を貫くパイプラインを経由させたほうが効率的なのである。中国にとってその存在意義は大きく、中国がミャンマー軍政に求めているのもパイプラインに代表されるミャンマー国内の中国権益と中国人の保護とされている。

ミャンマーは中国の「一帯一路」構想で重要な位置を占めているだけでなく「中国ミャンマー経済回廊(CMEC)」に基づく数々のプロジェクト、インフラ整備などでも深い関係にあるのだ。

ミャンマー問題の主導権は中国に

ミャンマー問題で手詰まり感が漂うASEAN各国は、加盟国の外相を一堂に集めて会議を開催した中国にすっかり主導権を奪われ、ASEANのミャンマー問題関与はもはや独自の仲介策の模索から中国による支援頼みに移行しつつあるといえる。

ミャンマー軍政に太いパイプと経済支援を背景にした「発言力」を維持している中国が今後のミャンマー問題にさらに積極的に関与してくることは確実だろう。

当然のことながら、ミャンマー国内のNUGをはじめとする反軍政の組織や一般市民、活動家からは「中国は軍政の後ろ盾になっているのではないか」と中国批判が高まっている。

ミャンマーの民主化回復の道筋は、さらに遠のき始めている。

大塚 智彦

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