モーツァルトで“脳内麻薬”が増える?幸福感を得られ、集中力が高まり作業効率も上がる

モーツァルトで“脳内麻薬”が増える?幸福感を得られ、集中力が高まり作業効率も上がる

  • Business Journal
  • 更新日:2020/10/18
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「Getty Images」より

最近、興味深い本を読む機会がありました。それは、芸術などの美しいものに感動した時、脳内がどうなっているのかという内容です。

人間は、コンサートで演奏を聴いて感動したり、素晴らしい絵画を鑑賞している時に、眉間の上あたりにある脳の部位、内側眼窩前頭皮質が活発に活動することが、MRI検査でわかるそうです。半面、良くない演奏や醜い絵画の場合は、まったく活動をみせないか、みせたとしてもちょっぴりだそうで、なかなか厳しい芸術評論家のような部位が脳内にあるわけです。この部位は美しい景色や建築物にも反応するそうですが、快楽や報酬動機に関係するドーパミンに関連する脳内機構の一部ということで、ますます驚きました。

ちなみに、アルコールを飲むと快く感じるのもドーパミンの影響です。麻薬や覚せい剤も、ドーパミンを活発化し快楽をもたらすことにより、依存症を引き起こしてしまいます。脳の中枢から分泌されるドーパミンは、このような作用から「脳内麻薬」と呼ばれることがあるそうです。

厚生労働省の解説によるとドーパミンとは、「神経伝達物質のひとつで、快く感じる原因となる脳内報酬系の活性化において中心的な役割を果たしている」とあります。簡単にいえば、快楽や幸福感をつかさどる脳内物質のひとつです。物事に対する意欲をつくったり、運動にも関連性があるそうで、運動障害がでるパーキンソン病も、ドーパミン不足により引き起こされるそうです。

このような作用があるために、ドーパミンは「生きる意欲をつくるホルモン」とも称されます。ドーパミンが大量に分泌するのは、「意欲が出ているとき」「褒められて気分が良いとき」「成功体験を得たとき」「音楽や絵のような美を鑑賞して感動しているとき」などが挙げられます。しかし、そんなにしょっちゅう、勝手に意欲が湧き出したり、他人に褒められたり、成功体験が得られるわけではありません。そこで、コンサートや展覧会に来ていただければ、手っ取り早くドーパミンの分泌を促進できます。

ほかにも、たとえば音楽を聴く、絵画を鑑賞する、ふと空を見上げた時に見た美しい秋の月に感動する、村上春樹の本を夢中になって読む……。そんな時間には、ネガティブなことを忘れているのではないでしょうか。実は、快楽や幸福感の内側眼窩前頭皮質が活発化している時は、嫌悪や痛みに関係している脳内の島皮質も活動は抑制されているそうです。人間が生きる上で、なぜ美が必要なのかがよくわかります。

プロの音楽家は、なぜ音楽を聴いても感動しにくい?

もうひとつのドーパミンを出す方法、アルコールを嗜むのもたまにはよいのでしょうが、朝から酒を飲むわけにもいきませんし、飲みすぎてアルコール依存症になったら大変です。一方、仮に“音楽の依存症”になっても健康に害がありません。朝起きたときに美しい音楽を聴きながら身支度をするのもいいですし、もちろんコンサートにお越しになれば、ますます効果的です。しかも、ドーパミンは美しいものだけでなく、新しい体験をすることでも放出されますので、今までクラシック・コンサートに来たことがない方にこそお薦めなのです。

そんな入門者には、僕はモーツァルトを勧めます。モーツァルトは不思議な作曲家で、聴くと脳が活性化するという“モーツァルト療法”も一時期、話題になりました。モーツァルトの音楽にはドーパミンを増やす効果があり、集中力が高まり作業効率が上がるという研究もあるくらいです。動物でも、乳牛にモーツァルトを聴かせると乳がたくさん出るということは、よく知られていますし、不思議なことに聴覚がないはずの植物も、モーツァルトを聴かせるとよく育つそうです。

ところが皮肉なことに、モーツァルト自身はドーパミン不足によって天才的な作品を生みだせたという説があります。モーツァルトはとにかく落ち着きがない人物で、今でいうところの「注意欠陥性多動性障害(ADHD)」であったのではないかといわれています。このADHDがドーパミン不足を引き起こすので、とにかく動き回ってドーパミンを補っていたと考えられているのが、その根拠です。真偽のほどはわかりませんが、モーツァルトは無意識にドーパミンが出やすい音楽を作曲したのではないかといわれているのです。いずれにしても、モーツァルトを聴くと脳内のドーパミンが増えて、快楽や幸福感を得られ、嫌なことを忘れることができるかもしれません。

しかし残念なことに、エキスパートでもある音楽家にはそれほど効果がないかもしれません。プロの音楽家は、音楽を聴いていても音そのものだけで判断するように習慣づけられているので、記憶や認知、判断を冷静に司っている背外側前頭葉前皮質が、快楽と幸福感の内側眼窩前頭皮質の活動を制御しているのではないかと考える研究者がいるのです。

これはプロの冷静な「審美眼」に結びついているともいえますが、我々音楽家にとっては、少し残念な話です。プロの演奏家が、自分の出演したコンサートであっても、大感動するのは一年に数回しかないとみんな口を揃えて言うのは、そういう理由かもしれません。

(文=篠崎靖男/指揮者)

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●篠﨑靖男
桐朋学園大学卒業。1993年アントニオ・ペドロッティ国際指揮者コンクールで最高位を受賞。その後ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクール第2位受賞。
2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後、英ロンドンに本拠を移してヨーロッパを中心に活躍。ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、BBCフィルハーモニック、ボーンマス交響楽団、フランクフルト放送交響楽団、フィンランド放送交響楽団、スウェーデン放送交響楽団など、各国の主要オーケストラを指揮。
2007年にフィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者に就任。7年半にわたり意欲的な活動でオーケストラの目覚ましい発展に尽力し、2014年7月に勇退。
国内でも主要なオーケストラに登場。なかでも2014年9月よりミュージック・アドバイザー、2015年9月から常任指揮者を務めた静岡交響楽団では、2018年3月に退任するまで正統的なスタイルとダイナミックな指揮で観客を魅了、「新しい静響」の発展に大きな足跡を残した。
現在は、日本はもちろん、世界中で活躍している。ジャパン・アーツ所属
オフィシャル・ホームページhttp://www.yasuoshinozaki.com/

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