「正規輸入代理店の裏貼りがあるワイン」が高額落札される理由

「正規輸入代理店の裏貼りがあるワイン」が高額落札される理由

  • 幻冬舎ゴールドオンライン
  • 更新日:2021/09/15
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欧米で株式や債券と同じように投資対象として人気を高めている「ワイン」。本記事では、投資対象として知っておきたいワインの知識のひとつ、「正規輸入と並行輸入」について解説していきます。

ワインの「独占販売と並行輸入」…何が違うのか?

2021年7月、シャンパーニュのルイ・ロデレール社が初めて醸造した、コトー・シャンプノワの赤と白が日本で発売されました。「オマージュ・ア・カミーユ」と名付けられたこのワインの、正規輸入代理店の希望小売価格は41,800円(税込)で、インターネット上の複数の小売店で希望小売価格のまま売られ、赤ワインに関しては発売直後に売り切れました。

一方、ワインの小売価格の世界的な検索サイトであるwine-searcher.comで同じワインを検索すると、スイスやオランダでは邦貨にして税込16,000~18,000円程度で小売りされています(筆者原稿執筆時点)。

日本の酒類業界では、海外の商品を輸入・販売する際、その生産者と独占輸入販売契約を結び、輸入業者がその商品の国内総発売元としてブランド管理までも行うのが慣例となっています。

酒類ビジネスにおいては、好ましいブランド・イメージの構築が非常に重要であるため、輸入業者が中心となってブランド広告やプロモーション、販路の拡大に投資を行うのですが、こうした輸入業者のマーケティング費用や利潤が上乗せされた日本の小売価格は、国際価格よりも高くなりがちです。この価格差を利用して利ざやを得ようとするのが並行輸入業者で、通常は第三国の輸入業者から保税の状態で*商品を買い取り、マーケティング費用を一切かけず、価格訴求のみで、量販店等に商品を流します。

*第三国における輸入手続がまだ済んでいない状態で、第三国の酒税・関税・付加価値税等はまだ課税されていない。

通常、並行輸入業者が支払う商品価格は、正規輸入業者が生産者に支払う代金よりも割高なのですが、マーケティング費用や中間流通コストを省くため、特別な場合を除いて、店頭価格は並行輸入品の方が安くなります。

日本がバブル経済に浮かれた1980年代後半、百貨店店頭で販売されていたギフトボックス入りヘネシーVSOP(正規輸入品)の価格は1万2,000円でしたが、酒類ディスカウンター店頭では簡素な紙箱に入った並行輸入品が3千円台後半で売られていました。

ワイン業界に「並行輸入」はほとんどなかったが…

スピリッツやごく一部の日常消費用ワインでは脅威となっていたものの、市場規模がまだ小さかった1980年代には、ファインワインの並行輸入品はほとんどみられませんでした。

当時は日本のワイン輸入会社同士が紳士協定によって結ばれていた古き良き時代で、「他社がすでに輸入しているワインは扱わない」という不文律があり、酒類ディスカウンターが輸入するごく一部を除けば、ワイン業界に「並行輸入」はありませんでした。

ところで、スピリッツ業界にとっての「並行輸入」と、ワイン業界にとっての「並行輸入」は意味合いが微妙に異なります。完全なブランド・ビジネスであるスピリッツ業界の主要ブランドには、必ず正規輸入代理店が一社だけ存在するのに対し、ワイン業界はこの限りではありません。

もちろん、ジョルジュ・デュブッフに代表されるようなネゴシアン(酒商)銘柄や、ドン・ペリニョンに代表されるシャンパン銘柄のように、ブランド・マーケティングが重要な商品に関してはスピリッツ業界と同様ですが、中高級ワインのカテゴリーですでにある程度の名声を得ている生産者のなかには、複数の輸入業者と取引をしているケースがあります。

たとえば、カリフォルニアのオー・ボン・クリマは現在、日本の輸入業者4社程度と取引していますが、こうすることによって日本中の小売店やレストランへ広くワインの配荷が可能となります。また、輸入業者同士が納入価格を競うため、一社と独占輸入販売契約を結ぶ場合よりも店頭価格を低減でき、売り上げを最大化できます。

ただし、輸入業者側にとっては利ざやの薄いビジネスとなってしまうため、オー・ボン・クリマやドメーヌ・クロード・デュガといった、市場からの引き合いの強い生産者のみに可能な方法です。

もっと極端な流通方法を採用しているのは、ボルドーのトップ・シャトーです。ボルドーの格付けシャトーのほぼすべては、市場別に輸入業者と契約するという方法を採用せず、仲介業者(ネゴシアン)を介してしか各国の流通業者に販売しません。逆にいえば、2~3社の主要ネゴシアンに連絡するだけで、シャトー・ラフィット・ロートシルトであれ、シャトー・ラトゥールであれ、輸入業者はすべての格付けシャトーのワインを自由に仕入れることができます。

この「ボルドー・マーケット」のシステムは、それぞれの市場で複数の輸入業者を競わせることにより、輸入業者のマージンを低減させるメリットがあり、また、生産者みずからが膨大な営業スタッフを抱えなくても、世界中にワインを販売することが可能となります。

その一方、生産者は自分が出荷したワインが最終的にどこで消費されたか分からない状況で、また、仲介業者は金払いさえよければ誰にでも販売してしまうため、ワインが投機の対象とされてしまうリスクがあります。

ワイン・オークションで評価される「正規輸入品」

日本で行われているワイン・オークションでは一般に、正規輸入代理店の裏貼りのあるボトルは並行輸入品に比べ、10~20%程度の高値で落札されています。プレミアムが支払われる理由として、ブランド管理を行っている正規インポーターの輸入・保管状態のほうが信頼できる点が挙げられます。

銀座のクラブ等のナイト・マーケットでドン・ペリニョンが大量に消費されていた1990年代、モエ・エ・シャンドン社の並行輸入対策が現在よりも緩かったこともあり、日本市場では大量の並行輸入品が出回っていました。納入価格だけで競う並行輸入業者の中には、熱によって劣化しやすいシャンパンすら、冷蔵コンテナではなく、コストの安いドライコンテナで輸入する業者があり、こうして輸入されたボトルには、正規輸入品よりも熟成が進んだニュアンスを感じるものがありました。

ドン・ペリニョンのボトルには暗色ガラスが使われているため、外からワインの色調をチェックすることができませんし、ボトルネックがシールで覆われているため、液面の高さを正確に知ることが困難です。抜栓前にワインの状態を確認することが不可能なため、正規輸入品にプレミアムが支払われるのは当然のことといえます。

歴史的に、オークションで正規輸入品がより高値で落札されてきた理由のもうひとつは、偽造品の可能性の低さです。贋物が広く出回っているロマネ・コンティやシャトー・ペトリュスの場合、ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ社の正規輸入代理店である株式会社ファインズや、シャトー・ペトリュスを所有するムエックス社と関係の深かった旧ジャーディン・ワインズ・アンド・スピリッツ社の扱ったボトルは、生産者から直接日本に届いていると考えられるため、輸入業者から直接購入している限りは信頼できました。

しかしながら近年、インターネット上のオークション・サイトで売られているロマネ・コンティの偽物のほぼすべては空瓶を再利用したもので、その多くには正規輸入代理店の日本語ラベルが貼られています。これは、「正規輸入品は大丈夫」という消費者心理を逆用するものです。

こうしたオークション・サイトには、ロマネ・コンティの空瓶も出品されているのですが、正規輸入代理店の裏貼りのある近年のヴィンテージは20万円を超える価格で落札される一方、並行輸入品の空瓶は買い手がつかない状態が続いています。

堀 賢一

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