
マングローブで発見された細菌「チオマルガリータ・マグニフィカ(T.マグニフィカ)」/Olivier Gros
(CNN) 顕微鏡を使わなくても肉眼で見える巨大な細菌が発見されたとして、米国の研究チームが23日の科学誌サイエンスに論文を発表した。
巨大細菌はカリブ海の小アンティル諸島にあるフランス領グアドループで発見。人のまつ毛ほどの大きさがあり、形状もまつ毛に似ているという。
その大きさにちなんで「チオマルガリータ・マグニフィカ(T.マグニフィカ)」と命名された細菌は、細胞の長さが平均で、1センチ近い9000マイクロメートル以上もあった。大きなものは2センチに成長することもある。
一般的な細菌の細胞の長さは2マイクロメートル前後で、長くても750マイクロメートルにとどまる。
論文の共著者で、米エネルギー省関連研究所の研究者ジャンマリー・ボーランド氏は22日、「この細菌がどれほど巨大かを人間に例えると、エベレスト山並みの身長の人を発見したに等しい」とCNNに語った。
大腸菌をT.マグニフィカの上に並べると、62万5000個が収まる計算になる。ただしT.マグニフィカの表面は「著しく原始的」な状態で、植物や生物の表面に生息する細菌が存在していないという。
これまでは、環境とのかかわり方やエネルギー生成の仕組みを理由に、細菌が肉眼で見える大きさに成長することはないと考えられていた。
しかしT.マグニフィカは張り巡らした薄膜を通じてエネルギーを生成でき、表面だけに頼らなくても、細胞を通して栄養分を吸収できていた。ボーランド氏はこの巨大な細胞を3次元で視覚化して観察している。
T.マグニフィカはさらに、単細胞の中に遺伝物質が自由に浮かんでいる一般的な細菌と違って、薄膜に覆われた「ペピン」と呼ばれる小さな袋の中にDNAが入っていた。
「これは人体や動物、植物を構成するもっと複雑な細胞の特徴だ」とボーランド氏は指摘し、ペピンの働きや、巨大化したT.マグニフィカの進化との関係を探りたいと話す。
T.マグニフィカはグアドループの浅瀬にあるマングローブ林で、腐ったマングローブの葉の表面に白い繊維のような形状で付着しているのが見つかった。
ボーランド氏によると、T.マグニフィカは硫黄水の底の堆積(たいせき)物の上で、硫黄の化学エネルギーを利用し、周囲の水から酸素を取り込んで糖類を生成しているほか、二酸化炭素も餌としている。
普通の細菌よりも大きいことから、周辺の環境にある酸素と硫黄を同時にうまく利用できるのかもしれないとボランド氏は推測する。普通の細菌より巨大な細胞を持つことから、天敵に捕食される心配がない可能性もある。
T.マグニフィカやその仲間の細菌は、世界中のマングローブ林に存在している可能性が大きいと、米ローレンス・バークレー国立研究所のタンジャ・ボイケ氏は解説する。同氏は今回の論文の筆者の1人。
「私たちは驚くほど微生物界のことが分かっていない」と同氏は述べ、微生物界はいまだに「ブラックボックス」状態にあると指摘。巨大細菌は目の前に隠れているかもしれないと話し、「まだ見たことがないからといって、存在しないとは限らない」と言い添えた。