「1本の映画を観るように」短編小説をもとにしたオリジナル曲にも挑戦~ヴァイオリニスト高松亜衣インタビュー

「1本の映画を観るように」短編小説をもとにしたオリジナル曲にも挑戦~ヴァイオリニスト高松亜衣インタビュー

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  • 更新日:2023/01/25
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ヴァイオリニストの高松亜衣がリサイタル・ツアー『PRISM』を開催する。東京藝術大学在学中からライブ配信などで人気を博してきた彼女が、今回のリサイタルでは、クラシックの名曲だけでなく、新作オリジナル作品にも挑む。

――高松さんは、コンサートだけでなく、ライブ配信やYoutubeでも注目されていますね。

20歳頃からリサイタルなど演奏活動を本格的に始めていましたが、SNSでライブ配信を始めたことは大きな転機になりました。もともと、コロナ禍が始まる半年前くらいに「17LIVE」で(配信を)始め、その後、本格的にコロナ禍が始まったことをきっかけにYouTubeへの動画投稿も始めました。大学4年生のときです。学校の授業もなくなり、コンサートも全然なくて。当時はSNSでのヴァイオリン演奏のライブ配信はまだ珍しかったのです。

ライブ配信では、一人で演奏する無伴奏がメインのカジュアルな形式でやっていて、YouTubeでは、今回のリサイタルでも共演する角野未来さんにも伴奏していただいたりして、本格的な演奏動画を投稿しています。

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――特に人気のある演奏動画は何ですか?

「チゴイネルワイゼン」のような派手な曲が人気です。例えば、モンティの「チャルダッシュ」の視聴回数は305万回、「ラ・カンパネッラ」は241万回ですね。

2020年にコンサートを再開したのですが、YouTubeを始めて、来場してくださる人の数も増えました。7月・8月に、東京、名古屋、所沢で『colorful』というタイトルでリサイタルを行ない、2022年9月にはメンデルスゾーンをテーマに、ヴァイオリン・ソナタやピアノ三重奏曲第1番でリサイタルをしました。

――今回のリサイタル・ツアー『PRISM』はどのような内容ですか?

今回は、少し色を変えて、1つの映画を見たような感覚になるコンサートにしたいと思いました。また、「光の先に見えるカラフルな世界」という副題をつけて、前回の『colorful』とかけました。

前回は、帰り道がいつもより鮮やかになる楽しい時間だったと思ってもらえるようなコンサートに、という思いで『colorful』と名付けましたが、今回の『PRISM』は、来てくださったお客さまが感情を預けられるようなコンサートにできればいいなと思っています。感情をすっきりさせる、穏やかになる、何かに気づかされる、そういうコンサートができればうれしいです。前半がクラシック曲で、後半がオリジナル曲という構成です。

――ツアーのタイトルの『PRISM』は、どういう意味で付けましたか?

いろいろな解釈ができるのですが、プリズムを通すと屈折したり反射したり、カラフルに映ったりします。お客さま一人ひとりをプリズムだと考え、お客さまというプリズムを通して、それぞれの必要な方向に、「光の先に見えるカラフルな世界」が広がってほしいと思って付けました。

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――コンサートの後半にオリジナル曲を演奏されるのですね。

『PRISM』というタイトルでツアーをするにあたって、「PRISM」というタイトルの新しいオリジナル曲を河野音弥さんに書きおろしていただきました。誰にでも起こりそうな感情を描く曲を作ってもらいたくて、私自身が4つの短編小説を書いて、それを河野さんに読んでもらって、作曲していただいたのです。

プロローグの「栞」は、栞という一人の女性歌手です。一つめのエピソード、「イベリスの唄」は、栞に初恋をした同級生の話。イベリスの花言葉は、「初恋の思い出」です。二つめの「涙の日」は、歌手を支えるマネージャーの目線で描かれています。三つめの「ランの月」は、栞がライバルでもある男性と付き合う、ライバル同士の恋愛と夢のお話。彼は自殺してしまいます。最後の「芽吹」は、栞は亡くなるんですけど、彼女のファンの目線で栞の残したものが描かれます。栞がファンに何を与えたのか、ファンが栞に何を与えたのか。

――なぜ河野音弥さんに作曲を依頼されたのですか?

私が出演していたオトギボックスのオーケストラのコンサート(絵本の読み聞かせと演奏)で、河野さんの曲を聴いて、聴くときの気分によって違って聴こえる、どちらにもとれるような抽象的な曲を書かれる人だと思い、それが魅力的だと感じました。この方なら、音楽を物語で伝えもらえると思って、書いていただくことにしました。

「PRISM」は5曲で30分くらいの作品です。いろんなところに、モチーフが隠れていたりして、面白い。キャッチ―なメロディもあります。今回のツアーで初演となりますが、昨年12月に、ツアーに先立って、角野未来さんとCDの録音もしました。

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CDジャケット

――リサイタルの前半のクラシック曲のプログラムについてはいかがですか?

プリズムと少し関連性があるような、心の動きのある曲、メッセージ性のある曲を選びました。

「鳥の歌」は、カザルスが平和を祈りながら弾いていた曲。私は、小さいときからカザルスも、カザルスの言葉も好きで、「鳥の歌」をずっと聴いていました。いつかこの曲を弾きたいと思っていたんです。音楽だからこそできることがあると思い、2023年、今かなと思って、世界の平和への祈りを込めて演奏します。

また、初めてクラシックを聴く方にも楽しんでいただけるようにと選んだのが、クライスラーの「愛の喜び」と「愛の悲しみ」です。私の大好きな曲。特に「愛の悲しみ」はヴァイオリンの魅力がめちゃくちゃ詰まっています。そして繊細な表現も素敵です。

ドヴォルザークの「ロマンス」は、あまり有名ではありませんが、ずっと弾こうと狙っていた曲です。映画音楽っぽい雰囲気もあり、前奏で異世界に飛べます。その情景で、今いる場所ではないところに連れて行かれるような感じがします。私は「ロマンス」という言葉が好きで、卒業演奏会でも「ロマンス」をテーマにベートーヴェンやヨアヒムの作品を弾きました。そのときはドヴォルザークは取り上げなかったのですが。

サン=サーンスの「死の舞踏」は技巧的にも派手な曲。新曲の「PRISM」でも死がテーマになっていますが、それは天国のようなきれいな音楽。「死の舞踏」は、それとは逆の、骸骨が躍る、怖い感じの死。死を対比して描きます。

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――高松さんがお好きな作曲家は誰ですか?

私は、ドイツ系の作曲家が大好きです。ブラームスが一番好きですね。ブラームスはヴァイオリンの作品がいくつもありますが、大好きなメンデルスゾーンがヴァイオリンの作品をそんなに残してないのは残念です。

――では、お好きなヴァイオリニストは?

オイストラフが大好きです。小さい頃から聴いていて、彼の演奏を聴くとときめきます。

――今回、高松さんはオリジナル曲のために短編小説を書かれましたが、お好きな作家は誰ですか?

脚本家の坂元裕二さんが好きです。彼は若い頃に『東京ラブストーリー』を書かれましたが、今は、「プラスにいる人がよりプラスになる作品よりも、マイナスにいる人がゼロになるような作品を書きたい」というようなことをおっしゃっています。私もマイナスにいるときに坂元さんの作品に助けられました。『それでも、生きていく』が心に残っています。私も、すさんだ心に少しでも水をやるような、落ち込んでいるときに明日はやってみようかなと思えるような音楽を届けたいと思っています。

――今回、角野未来さんと録音したアルバム『PRISM』について、お話していただけますか?

自分のお部屋を真っ暗にして聴いていただいたら(笑)という音楽。自分に何が必要だったのかなと気づけるような、日常に寄り添った曲が多いので、日常のなかで聴いていただければうれしいです。

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――最後に、ツアーへの抱負をお願いいたします。

今回、オリジナル曲に挑戦しています。どうなるかわかりませんが、新曲で新しい道が切り拓けたらうれしいし、続けたいと思っています。それから、私は、独りよがりなコンサートにはしたくありません。お客さま一人ひとりが主役で、私は、その主役に必要なものを届けるヴァイオリニストになれたらいいなと思っています。来てくださる方には、リラックスした感じで来ていただけるとうれしいです。届けたいものや思いが詰まっているコンサートなので、是非、生の空気で受け取っていただきたいと思っています。

取材・文=山田治生

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