エロチックな新宿奇譚『ばるぼら』 稲垣吾郎と二階堂ふみは“妖しき手塚ワールド”への完璧な案内人!

エロチックな新宿奇譚『ばるぼら』 稲垣吾郎と二階堂ふみは“妖しき手塚ワールド”への完璧な案内人!

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  • 更新日:2020/11/20
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『ばるぼら』© 2019「ばるぼら」製作委員会

マンガの神様、手塚治虫の遺した膨大な作品の中で、群を抜いて異色の1作である「ばるぼら」。1973年から1974年にかけて連載されたこの大人向け漫画で手塚は、異常性欲、オカルティズム、幻覚と狂気などさまざまなタブーに挑戦し、自身が直面していた芸術家としての葛藤を傑作へと昇華させた。このエロチックな“新宿奇譚“とも言える作品を現代によみがえらせたのは、手塚の実子である『白痴』(1999年)の手塚眞。稲垣吾郎と二階堂ふみという表現者を得たことで、美しい大人のファンタジーに仕上がった。

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『ばるぼら』© 2019「ばるぼら」製作委員会

「都会が何千万という人間をのみ込んで消化し、垂れ流した排泄物のような女――それが、ばるぼら」

映画『ばるぼら』は原作と同じく、主人公の作家・美倉洋介のモノローグで始まる。この一文だけで、ヒロイン、ばるぼらの蠱惑的で退廃的な魅力が伝わってくるが、酒瓶を抱えて横たわる二階堂ふみは、原作のばるぼらそのもの。

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『ばるぼら』© 2019「ばるぼら」製作委員会

そして黒いサングラスをかけた稲垣吾郎の姿は、手塚治虫ワールドから抜け出てきたかのようだ。原作ではややマッチョだった美倉洋介よりも繊細な印象で、どちらかといえば「ブラック・ジャック」など手塚作品にたびたび登場する悪の貴公子、間久部緑郎(ロック・ホーム)を思わせる。目元が見えないのに、美倉の苛立ちを感じさせるのが、さすがとしか言いようがない。

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『ばるぼら』© 2019「ばるぼら」製作委員会

美倉は新宿の地下道で薄汚れたフーテンの少女ばるぼらを見かける。ばるぼらは「秋の日のヴィオロンのためいきの 身にしみてひたぶるにうら悲し」というポール・ヴェルレーヌの詩「秋の歌」(落葉)を口にするのだ。只者ではない気配のばるぼらに惹かれた美倉は、彼女を連れて帰る。

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『ばるぼら』© 2019「ばるぼら」製作委員会

美倉は耽美主義の流行作家。ベストセラーを連発する時代の寵児ではあるが、芸術家としては自分ならではの表現というものに行き詰まってもいる。美倉はばるぼらとの出会いにより、退廃的な生き方をするようになっていくが、まさにヴェルレーヌは退廃の象徴。今や瀕死の状態にあるデカダンスの世界を、たっぷりと味わわせてくれる期待に満ちた導入だ。

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『ばるぼら』© 2019「ばるぼら」製作委員会

美倉は、実は異常性欲に悩まされているのだが、マネキンや獣にも興奮する男を、気持ち悪くなくエロチックに演じられるのは、吾郎ちゃんしかいない! そんな美倉はばるぼらに翻弄されるも、同時に創作意欲が湧いてくるようになり、彼女に溺れていく。

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『ばるぼら』© 2019「ばるぼら」製作委員会

芸術論でありフィルム・ノワール、破滅的なラブストーリーであり堕ちることへの憧れを描いたファンタジー

撮影監督はクリストファー・ドイル。『恋する惑星』(1994年)などウォン・カーウァイ作品で知られるドイルが、新宿の街を異世界のように撮っている。中盤、ばるぼらが雨の街を傘をさしながら歩き回るシーンは、ドイルと二階堂ふみの二重奏に、稲垣のモノローグが重なり美しい。このシーンは手塚眞がドイルに1日、二階堂ふみを預けて、歌舞伎町で好きなように撮ってきて欲しい、と言ったそうで、ジャズの即興のようで、新鮮な魅力がある。そして橋本一子によるフリージャズ調の音楽も、映画の幻惑的な世界を引き立てる。

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『ばるぼら』© 2019「ばるぼら」製作委員会

芸術家は女神=ミューズを求めるが、それは女性を消費することでもある。そして女神には前髪しかないと言う。すれ違った瞬間に逃げてしまうのだ。ばるぼらは、ミューズなのか。それとも破滅へと導く、ファム・ファタール(運命の女)なのか。ばるぼらを逃したくない美倉は彼女と結婚するため、ばるぼらの母親に会いにいく。ばるぼらの母親はムネーモシュネーと名乗るが、これはギリシャ神話の記憶の女神であり、ミューズの母親。渡辺えりが原作そのまま、びっくりの怪演だ。

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『ばるぼら』© 2019「ばるぼら」製作委員会

映画は原作同様に、芸術論でもあるが、フィルム・ノワールであり、破滅的なラブストーリーであり、堕ちることへの憧れを描いたファンタジーでもある。愛と性、創造と破滅を美しい裸体を通して表現した稲垣吾郎と二階堂ふみに敬意を表したい。R15+作品ではあるが、二人の品の良さならば、もっと激しい表現に挑戦しても美しさを保てたに違いない。そこが若干もったい無い気もしたのだが、それをしないのもまた手塚眞の品の良さなのだろう。

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『ばるぼら』© 2019「ばるぼら」製作委員会

文:石津文子

『ばるぼら』は2020年 11月20日(金)よりシネマート新宿、ユーロスペースほか全国公開

石津文子

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