『ブラッシュアップライフ』安藤サクラの「人生何周もしてる人あるある」と倫理観

  • 日刊サイゾー
  • 更新日:2023/01/26

テレビウォッチャーの飲用てれびさんが、先週(1月15~21日)に見たテレビの気になる発言をピックアップします。

ロバート・秋山「アイ・ライク・カンケーシャ、OK!」

副業や兼業が推奨される時代である。1人が複数の職業に従事することもめずらしくない。とはいえ、彼ほど多様な仕事をしている人はいないかもしれない。

ロバートの秋山竜次。彼はこれまでメディアのなかで、古今東西、有名無名、虚実混交、さまざまな職業に扮してきた。

それはたとえば、子役やテレビプロデューサーといった実際にある仕事だったり、プロの取り巻き(歌姫の周囲にいつもなぜかいて場を盛り上げている人)など実際にはないけどありそうな職業だったりする。日本お正月モード番組倫理協会(テレビのお正月モードの終わりを宣言する協会)の人など、端からありえない仕事だったりもする。

さらには、犬や新種の微生物など、もはや仕事ではないし人間ですらないものにも秋山は扮する。そう考えると、プロの取り巻きなどは現代の妖怪なのかもしれない。秋山がもはやライフワークのように取り組む『クリエイターズ・ファイル』は質・量ともに他に類例のない作品群だが、もっとも近いものをあげるとしたら水木しげるの妖怪図鑑だと思う。

そんなロバート・秋山は先週、テレビのなかでやはりさまざまな人になっていた。19日の『千鳥のクセがスゴいネタGP』(フジテレビ系)では、「雰囲気ことわざ」を添削する秋山さつきなる人物になっていた。18日の『ラヴィット!』(TBS系)では、「グランデ歌手」のジョルナン・ラマになりきり、テノール歌手のごとく朗々と歌い上げていた。

また、18日の『秋山と映画』(テレビ朝日系)では、タイムスリップしてきた織田信長になり、俳優の宮沢氷魚と買い物ロケをしていた。新しい文化をすぐさま吸収する信長。楽器店を訪れCDの音飛びについて理解したりしていた。先週はプレーンな秋山をほとんど見なかった気がする。というか、プレーンな秋山とは。塩味の塩とは、ぐらい難しい問いだ。

さて、そんな先週の秋山について、「雰囲気ことわざ」や「グランデ歌手」とはなんなのか、なぜ信長とCDの音飛びなのか、みたいなことを聞かれても困る。そういうものなのだ、と飲み込んでもらわないと。というか、そんなよくわからない設定までふくめて見る者に飲み込ませるところが秋山の真骨頂のようにも思う。

たとえば、グランデ歌手として出演した『ラヴィット!』。モジャモジャの髪の毛にキャップを被り、半袖のポロシャツにミラーレンズのサングラスといったゴルフにでも行くような出で立ちの彼は、「OK! グッモーニン、グッモーニン」とやたら良い声を張り上げながら登場した。どこの国の人かはわからないが、日本語は少しだけわかるらしい。そして「カンケーシャOK、カンケーシャOK」などと連呼。どうやら彼は、コンサートの一般席ではなく関係者席に座っているような人たちと懇意になりたい人のようだ。

「アイ・ドント・ライク・ファン! アイ・ライク・カンケーシャ、OK!」

「カンケーシャ」を連呼する彼に、川島明(麒麟)らが「そういうこと言わないほうがいいですよ」と乗っかりながらツッコむ。出演者が徐々にキャラクターを理解していく。秋山も周囲の理解をうかがいながら、キャラクターをその場で練成しているように見える。秋山を中心に繰り広げられるそんな共同作業に巻き込まれる形で、視聴者も設定を飲み込んでいく。

ロバート・秋山のこの手のやつは表向き、アドリブを交えたキャラクターコントのようである。だが、一種のチャレンジを見ているような気分にもなる。キャラクターの設定をいくつかだけ決めておいて、あとは走り出す、それでどこまで成立させられるか。そんなチャレンジだ。「緊張の緩和」といった見立てで言えば、これちゃんと成立するの? という緊張が見事なアドリブで緩和していくところに、面白さが生まれている面があるように思う。

にしても、秋山のこの手のやつは、なんと呼べばいいのだろう。キャラクターコントの面はあるが即興の要素が強いように見える。モノマネや憑依芸と言うには、マネや憑依の対象がいなかったりする。やはり「この手のやつ」としか言いようがない。ひとまずそんな呼び方で飲み込んでおいてほしい。

ロバート・秋山はいろんな職業に扮するけれど、実際は芸人以外に俳優を少しやっているぐらいだ。一方、芸人でありながら脚本家としても活躍しているのがバカリズムである。そんな彼が脚本を務めたドラマ『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)が現在放送されている。

主人公は地元の市役所で働く33歳の近藤麻美(安藤サクラ)。昼間は職場の同僚と食事をしながら上司の愚痴を言い合い、仕事帰りには同級生の門倉夏希(夏帆)や米川美穂(木南晴夏)と食事に行ったりする、そんな何気ない日常から成る彼女の人生は、ある日、唐突な事故で終わりを迎えてしまう。目を開けた麻美がいたのは死後の世界のような真っ白な空間。そこで彼女は死後案内所の受付係(バカリズム)に言われる。あなたの来世はグアテマラ南東部のオオアリクイです。だが、麻美は新たな生に難色を示す。そんな彼女に受付係は別のコースを紹介する。

「あとは、来世ではなくて今世をやり直すか、ですよね」

どうやら、希望する生命に生まれ変わるには“徳”を積まないといけないらしい。麻美は必要な“徳”をためるため、もう一度今世をやり直すことになった。彼女は人生をブラッシュアップして、再び人間として生まれ変わることができるのか。それとも――といった形でいまのところ話は進んでいる。

今作のこれまでの特徴のひとつは、作中にあふれる懐かし要素だ。1990年代から2000年代にかけてのテレビ番組や音楽、ギャグやアイテムなどがたくさん登場した。15日の第2話でいえば、『ポケベルが鳴らなくて』(国武万里)、福留功男時代の『ズームイン!!朝!』(日本テレビ系)、白いたまごっち、『HEY!HEY!HEY!』(フジテレビ系)、SPEED、『ビーチボーイズ』(同前)、『ナースのお仕事2』(同前)、シール帳、プロフィール帳、『GOOD LUCK!!』(TBS系)、『伊東家の食卓』(日本テレビ系)、『NANA』(矢沢あい)、折りたたみ式の携帯電話、iモード、携帯の光るアンテナ、ゲームボーイアドバンス、『逆転裁判2』(カプコン)、ディープインパクト、iPod mini、mixi、クールポコ。、『ポリリズム』(Perfume)、エド・はるみ、『イケナイ太陽』(ORANGE RANGE)、『粉雪』(レミオロメン)――。

そんなあれこれが画面の隅々に次から次に出てくる展開は、同時代を生きてきた者としてとても懐かしみを覚える。脳をひっくり返してもう1回棚に整理し直しているような、そんな心地よさもある。フジモンこと藤本敏史(FUJIWARA)のガヤをずっと聞いているような感じもする。

また、構成もスマートで気持ちがいい。1周目の人生で交わされていた仲良し3人組の会話に出ていた話題が、2周目の人生で見事に回収されたりする。人生の周回を越えた伏線回収。2周目の人生では幼少期に能力の出し惜しみをするみたいな点は、なんだか「人生何周もしてる人あるある」みたいでもあって笑ってしまう。なぜそれを「あるある」と思ってしまうのかはわからないが。

倫理学のテキストにある問いみたいなものにふいに直面する感じも面白い。人生2周目の麻美は、成人式が終わったあとに同級生たちとラウンドワンでカラオケをする。そこで福ちゃんこと福田俊介(染谷将太)は、みんなに「プロよりうまい」と歌声を褒められる。ミュージシャンになる夢を語っちゃったりする福ちゃん。だが、麻美は1周目の人生で、その後の福ちゃんが夢破れて地元に帰り、掛け持ちバイト生活を送っていることを知っている。この日、自分たちが無責任に福ちゃんの背中を押してしまったのではないか。ここで止めれば彼には別の人生があるのではないか。彼の人生を好転させれば自分も“徳”を積めるかもしれない。そう思った彼女は福ちゃんを説得しようとする。

が、麻美は説得を思いとどまる。地元に戻った福ちゃんがその後、バイト先の女性との間に子どもを授かり、父親としての人生を送っていることも知っているからだ。ここでミュージシャンとしての夢を止めてしまうと、その女性とも、子どもとも出会えない。そんなことをしてしまっていいのか。麻美は説得を思いとどまり、それほどうまくない福ちゃんの歌に手拍子を叩きはじめるのだった。

彼女は他人の主体的な選択には直接口を出さない。が、当人の選択の外にある理不尽――保育園時代の友だちが転園するきっかけになったその子の父親の不倫や、中学時代の教師が職を辞さなければならなかった痴漢冤罪――には介入する。積極的に首を突っ込みに行くわけではないが、出会ってしまったら干渉する。そんな基準でなされた介入が“正しい”のかはわからないし、ましてや“徳”の観点から見てどうなのかは判断できないが、筋の通った立場ではあるだろう。物語から透かし見えるそんな倫理観は、脚本や演出、演技のドライさとも調和してる。

それにしても、である。生き直しをしているのは彼女だけなのだろうか。死後にこんなコースが用意されているのなら、他にも人生を周回している人がいてもよさそうだ。そもそも麻美の1周目は本当に“1周目”だったのか。と、いろいろ謎も浮かぶわけだが、そのあたりの疑問はひとまず飲み込んで楽しみたい。

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