レジェンドの弟が打撃の免許を皆伝。普通の捕手が3年でドラフト候補へ

レジェンドの弟が打撃の免許を皆伝。普通の捕手が3年でドラフト候補へ

  • Sportiva
  • 更新日:2020/10/17

薄暮のグラウンド。バックネットに向かって牧原巧汰が硬球を打つたびに、「グワーン!」と重厚感のある打球音が響いた。

「牧原が入学した時、同級生のなかであいつがドラフト候補になると思った子はいないと思います」

木製バットで猛烈な打球を打ち続ける牧原のティーバッティングを眺めながら、日大藤沢の山本秀明監督はそう打ち明けた。

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高校通算29本塁打を誇る強肩強打の捕手、日大藤沢・牧原巧汰

山本監督は球界のレジェンド・山本昌さん(元中日)の実弟であり、自身は捕手として三菱自動車川崎で活躍した。捕手指導に定評があり、これまで数々の好捕手を育成してきた。

かつて指導した黒羽根利規(日本ハム)、川邉健司(ヤマハ)、島仲貴寛(元三菱自動車岡崎)、下地滉太(JFE東日本)といった好捕手の入学時と比較しても、「牧原は一番下だった」と山本監督は言う。

体に力はあったものの、打球は上がらず、捕手としても未熟だった。相模原市に住む牧原だが、座間ボーイズに所属した中学時代は東海大相模のような甲子園常連校から声がかかる存在ではなかった。

そんな選手が3年後、強肩強打の捕手としてドラフト候補に挙がるのだから人生はわからない。

牧原が伸びた要因を山本監督はこう見ている。

「大人が指摘したことを自分なりに理解する能力、練習する体力とやり切る根気があります。最初はできないこともたくさんありましたけど、それをことごとく克服してきましたから」

身長176センチ、体重82キロ。厚みのある下半身は、これまで積んできた鍛錬のたまものだろう。澄んだ瞳を真っすぐこちらに向けて、牧原は「高校で本当のバッティングを知りました」と語った。

高校1年の冬、牧原は山本監督から「キャッチ」という練習法を勧められた。ティー台にボールを置き、約30メートル離れた位置に集球ネットを設置する。打者はボールに当たるインパクトの瞬間にバットを止め、集球ネットにフライで届くような打球を打つ。三菱自動車川崎時代に山本監督が取り組んだドリルだった。

山本監督は、このドリルの狙いをこのように解説する。

「高校生のスイングを見ていると、スイングスピードのピークがボールに当たる瞬間ではなく、当たる先にくることが多いんです。『キャッチ』は『ここで終わる(ピークを持っていく)んだ』という意識づけをして、ボールをつかまえる感覚を養うんです」

「キャッチ」でボールをつかまえる感覚を養い、春を迎えると効果は目に見えて表れた。牧原は言う。

「最初はボールをとらえる感覚がわからなかったんですけど、冬が明けてから『こんなに軽くホームランになるんだ』という感覚が出てきたんです。次第に『ここでとらえたら飛ぶ』というインパクトゾーンと、『ここでとらえたらヒットになる』というヒットゾーンが見えるようになってきたんです」

ほかにも、左投手が苦手という課題もあったが、山本監督の指導のもと「体を止めて腕で打つ」という技術を習得。理屈はわかっても実行できない選手が多いなか、牧原は高い理解力と豊富な練習量でみるみる上達していった。

「右手は力を抜いて引き戸を引く感じで、左腕は脇を締めて打つ。両腕のバランスが噛み合うようになりました」

2年夏の神奈川大会は横浜スタジアムのレフトスタンドに放り込むなど、3本塁打をマーク。今夏の神奈川独自大会でも2本塁打を放った。高校通算本塁打は29本とドラフト候補としては多くはないものの、捕手として出場した日は練習試合のダブルヘッダー2試合目に起用しない山本監督の方針もあり、出場試合数が決して多くないという背景もあった。

あるスカウトは牧原の打撃練習を見て、「この選手のバッティングには、『こうやってつくってきたんだ』という根拠がある」と評価したという。今では山本監督も「バッティングは免許皆伝です」と認めている。山本監督の目には近藤健介(日本ハム)の姿がだぶって見えるという。

一方の守備は、高校生活で目指す領域まで詰めきれなかったそうだ。今夏の神奈川独自大会を含め、捕手としてはやや不完全燃焼に終わった。

牧原は「キャッチャーとして力が出せなかったのは、調整できなかった自分のせいです」と自分を責めた。だが、コロナ禍の影響も少なからずあったと山本監督は言う。

「自粛期間の3カ月の間に、スローイングが崩れてしまっていました。本当なら技術が定着して、実戦を通してキャッチャーとして高い次元を要求したい時期に練習ができず、停滞してしまった。技術が定着しないまま、大会に入ってしまいました」

練習試合が解禁になる時期には、右太ももの筋膜炎を発症した。本人は言い訳しないものの、スローイングの際に右足を踏む位置を重視するタイプだけに、影響は大きかったはずだ。牧原は「バランスが崩れて、力で投げているところがありました」と語る。夏の大会終了後は動作修正に取り組み、いい方向に向かっている。

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そして、日大藤沢で得た無形の財産もあった。山本監督は捕手に技術以上に求めることがある。それは「愛情」である。牧原は山本監督がそう語ったインタビュー記事を入学前に読んでいたという。

「正直言って、『愛情ってなんだろう?』と思って入学しました。でも、高校3年間を通じて少しずつわかってきたような気がします。試合に勝つには、ピッチャーが気持ちよく投げてくれることが一番。もちろん人間としての相性はありますが、キャッチャーが合わせていかないといけないなと」

ブルペンに入り、投手を観察する。普段の投球練習や練習試合を通して、投手の特徴をつかもうと努力する。1学年上には、武冨陸(現・法政大)という好左腕がいた。牧原は「武冨さんは自分のジェスチャーの仕方次第で制球が決まってくる」と気づいた。相手打者、ベンチに悟られない範囲で、牧原は「武冨さんのいい目標となれるように」という思いを込めて、ジェスチャーをつけて構えるようになった。昨夏の神奈川大会準優勝という結果は、牧原に捕手として大きな自信を植えつけた。

「ほかの野手と違って、フィールド全体を見られるのがキャッチャーの面白さだと思います。たとえば、ライト線にファウルボールが飛んだ直後に、キャッチャーがすぐに座るとプレーがすぐに再開されてしまいます。でも、ボールを捕りにいっていたライトは守備位置に戻りきれていないかもしれない。準備できる状態になって初めて、自分が動かないといけない。それがキャッチャーの仕事だと思います」

目指すは「世界で通用するキャッチャー」。打撃力が評価されていても、あくまでも捕手にこだわる。

「もしプロに行けるとしたら、『打てるキャッチャー』でないと、活躍できないと思うので、それを目標にやっています。打てて、守れて、誰からも信頼される選手になりたいです」

ドラフト会議まであと2週間を切った。たゆまぬ努力で地位を築いてきた牧原巧汰は、自分の名前が呼ばれると信じて、今日もグラウンドで汗を流す。

菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

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