睡眠薬の長期服用にリスク うつ病2倍、感染症44%増も

睡眠薬の長期服用にリスク うつ病2倍、感染症44%増も

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  • 更新日:2021/06/11
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※写真はイメージです (GettyImages)

新型コロナウイルス感染症が流行して以降、不眠に悩む人が増えているとされる。在宅勤務や外出自粛のストレス、将来への不安などが原因とも考えられるが、だからといって安易に睡眠薬に頼るのは禁物。安らかな眠りと引き換えに、かえってあなたの健康を害することにつながりかねない。

【睡眠薬による死亡危険度はこちら】

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現代人には比較的、身近な存在となった睡眠薬。そこには思わぬ落とし穴があるとの指摘がある。睡眠薬の服用はさまざまなリスクを伴うことが、最近の研究でわかってきている。『睡眠薬 その一錠が病気をつくる』の著者で、薬剤師の宇多川久美子氏が解説する。

「心身の不調からどうしても眠れない場合、放置すればうつ病や心疾患、脳卒中などにつながることもあるので、絶対に飲むなとは言いません。けれども、気軽に飲んでいい薬ではないのです」

睡眠薬に関し、最近も気になる情報があった。今年2月、プロゴルファーのタイガー・ウッズ氏が自動車事故を起こし重傷を負った。高速で走行しカーブを曲がり切れなかったのが事故原因だが、ウッズ氏は保安当局に対し、事故を起こしたことはおろか、運転していた記憶さえないと話した。

ウッズ氏は2017年に薬物を使用して運転した疑いで逮捕された際、鎮痛剤などに加え睡眠薬アンビエン(商品名)の成分が検出された。このため、今回の事故も米紙報道などで「アンビエン服用説」が取り沙汰された。アンビエンの一般名はゾルピデム。日本での商品名はマイスリーで、寝つきの悪い人に比較的よく処方される。事故に影響した可能性はあるのか。宇多川氏はこう語る。

「ゾルピデムは超短時間作用型といって半減期が2時間ほどで、急激に血中濃度を上げて作用する。服用後に記憶が飛ぶような健忘の症状が出ることがあります。中には夜中に冷蔵庫を開けて食べ散らかしていたり、薬を飲んでいるのに運転しようとしたりと、おかしな行動につながる事例もある。事故との関連はわかりませんが、言い逃れではなく、本当に記憶がないということは起こり得ます」

このほか、超短時間作用型の薬でよく知られているのがハルシオン(一般名トリアゾラム)だ。トリアゾラムはベンゾジアゼピン(BZ)系、ゾルピデムは非BZ系に分類される。一般的に非BZはBZより抗不安や耐性など薬理作用が弱いとされるが、実際はふらつきや転倒、健忘、薬がないと眠れなくなるといった副作用の種類や依存性はBZとほとんど変わらない。宇多川氏が続ける。

「BZと非BZ(一部の新薬を除く)は化学構造が違うだけで、作用の仕方は同じ。脳のなだめ役といわれる神経伝達物質GABA(ギャバ)の一部(BZ受容体)の働きを強くすることで神経の興奮を抑え、眠りやすくします。どちらも脳の中枢神経に働きかける向精神薬であり、リスクもあります」

不眠の症状により処方される薬は異なる。夜中に何度も起きる、朝早く目が覚めてしまうという場合は長時間作用型や中間作用型の睡眠薬が使われるが、問診で「寝つきが悪く、朝早く起きてしまう」と言うと、超短時間型と長時間型の両方が処方されることがある。

「日本では、睡眠薬は2剤まで使えるのが問題です。多剤処方は効果よりも副作用が上回るとされ、米国では単剤処方を推奨しているんです」(宇多川氏)

知っておくべきなのは、副作用のことばかりではない。睡眠薬を長期間常用し続けることで重大な病気を招く恐れもある。

米カリフォルニア大学のクリプキ教授らが実施した大規模調査で、睡眠薬を毎日飲んでいる人は、飲まない人に比べて死亡リスクが男女とも約25%増えることがわかった。「医薬ビジランスセンター(薬のチェック)」理事長の浜六郎医師がこう説明する。

「クリプキ教授の研究は約100万人を対象に持病や服用している薬剤、睡眠時間、食事、既往症など30項目にわたって調査しており、信頼性が高いデータです。死亡リスク25%増というのは大病を一つ抱えたのと同じ。例えば糖尿病は合併症が出ていない人でも、糖尿病のない人に比べて死亡リスクが1.2~1.3倍ですから、睡眠剤の常用はそれと同等の危険度です」

死亡リスクが増えるのはなぜか。クリプキ教授らの別の研究では、ゾルピデムなどの睡眠薬とプラセボ(偽薬)を比較したランダム化比較試験を総合解析。その結果、うつ病は2倍、感染症は44%、がんは35%増えていた。浜医師がこう解説する。

「睡眠剤を常用すると、GABA受容体が刺激され続けるため、身体が自分で受容体の数を減らす。この現象をダウンレギュレーションといいます。その結果、自前のGABAでも、服用した睡眠剤でもストレスによる興奮が鎮められず、うつ病やパニック障害に陥っていくと考えられます」

感染症やがんが増えるのは、睡眠剤の免疫抑制作用の影響が考えられるという。高齢者の場合は転倒しやすくなり骨折も増える。さらに、認知症との関連も指摘されている。浜医師が言う。

「感染症にかかりやすいのは、免疫が低下していて体内の傷を治しきれないからです。脳の中でも傷が治りきらず炎症がくり返し起き、特に記憶に関わる『海馬』という部位にある認知に関係する神経細胞にもダメージを与えると考えられる」

眠れない日があるからといって、あまり恐れることはない。先のクリプキ教授の大規模調査では、まったく不眠を感じない人より、不眠を覚える人のほうが長生きという結果に。月に1回不眠を覚える人が最も長生きだった。

「時々寝つけず不眠を感じるのは、実はその人にとって必要な睡眠時間を取れていると考えられる。逆に、すぐに寝つける人は、実は睡眠不足が蓄積しているからでしょう。ただし、多くの人は8.5時間程度必要ですので、睡眠時間を減らすのはよくないです」(浜医師)

すでに睡眠薬を長期間服用している人でも、状態によって減薬・断薬を考えてみてもいいだろう。ただし、離脱症状が出やすいので自己判断で急に中断するのは危険だ。必ず医師と相談しながら、離脱スケジュールを立てる必要がある。浜医師が助言する。

「短時間作用型の睡眠剤を飲んでいる人は長時間作用型に切り替えたうえで、1、2週間の間隔で服用量を5~10%ずつゆっくり減量していくのが離脱成功のコツです」

長いトンネルを抜けた先には、快眠と爽快な目覚めが待っている。(本誌・亀井洋志)

※週刊朝日  2021年6月18日号

亀井洋志

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