コロナ禍を生き抜く飲食DXを「ラムゴロー」に学ぼう!

コロナ禍を生き抜く飲食DXを「ラムゴロー」に学ぼう!

  • JBpress
  • 更新日:2021/11/26
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ファサードには大きく緻密な羊の顔や、2階席をのぞき込む羊の人形

JR神田駅そばにある「ラム肉酒場 ラムゴロー」(以下、ラムゴロー)。駅の南口を日本橋側に出てすぐの交差点から東京駅方面を望むと、大きな黄色い矢印が店を指している。ファサードには壁一面に羊の顔が緻密な線画で描かれており、その斜め上には2階席をのぞき込む羊の人形と、カオスな店頭が楽しい。

ラムゴローは4階建てのビルの1、2階。1フロア10坪で、2フロア合わせて50席を配している。1階は中央に炭火の焼き場が置かれ、それを取り囲む形で円型のカウンター席、その周りをテーブル席が囲む。炭火の焼き台がステージでそれを取り囲むように客席があるといったイメージだ。

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1階は焼き場をステージに見立てて客席が囲む

2階に上ると、外から2階席をのぞき込む羊の顔が出迎える。このフロアはテーブル席のみだが、ベンチシートの背中が当たる部分には、もふもふシート。「ここに座ってみたい」という感情が湧いてくる。

このラムゴローは株式会社スマイルリンクル(本社/東京都千代田区、代表/須藤剛)の最新店。そして、同店はコロナ禍における同社の大きなプロジェクトとして展開された。

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2階に上ると羊の顔が出迎える

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ベンチシートの壁側にもふもふのシートを掛けて「座ってみたい席」にした

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コロナ禍の中で決めた「神田が得意な会社に徹していく」

スマイルリンクルは、創業者で現会長の森口康志氏が1994年に創業し27年の社歴を持つ。神田でドミナント展開をしていて、その中の一つ「広島お好み焼き Big-Pig 神田カープ本店」は広島東洋カープのOBや現役選手がトークショーを行うなど、カープファンの聖地となっている。現社長の須藤剛氏は2019年10月に代表取締役に就任。翌年、コロナ禍となり、大きな苦難の中でかじを取るようになった。

神田は小さな事業所が密集するオフィス街だ。通常時のディナー帯はこれらのお客でにぎわうが、リモート勤務で昼間人口は半分以下に。展開エリアを他に移すことも検討したが、そうした中、昨年4月にJR神田駅南口から徒歩30秒のところに「10坪4階建て」の物件が現れた。須藤氏はこの物件を借りたいと思ったが、その決断に踏み切ることができなかった。

同社は、創業以来、神田に拠点を置きながら、赤坂、銀座、行徳・葛西といった東西線沿線と多様なエリアで店舗を展開、累計で30店舗を出店してきた。それが、昨年の段階で神田に4店舗を経営する会社となっていた。

須藤氏はこう語る。

「かつて展開エリアが広くなったことで“従業員の血が薄くなった”という感覚があった。従業員満足度が低下し、その結果、顧客満足度も低下した。そこで収益モデルが崩れていなかった神田エリアの店舗の営業に集中することになった。当社は神田で商売をするのが得意な会社になったという結論に至った」

そして昨年6月、先ほどの物件を借りる決断をしたのであった。

顧客の満足度を高める取り組みに従業員が集中できる

須藤氏は、コロナ禍にあって新しいことに挑戦しようと考え、オーダリングに初めてデジタル技術を採用。株式会社dinii(本社/東京都台東区、代表/山田真央/以下、ダイニー)が開発・運営する店内モバイルPOS「ダイニーセルフ」を導入した。モバイルオーダーはコロナ禍にあって飲食業界での普及が進んだが、ダイニーセルフは「注文する」「決済する」だけではなく、顧客情報を入手して過去の店舗利用状況を把握でき、さらに「推しメール」「キッチンディスプレイ」という機能も持つ。

「過去の店舗利用状況を把握できる」とは次のようなことだ。店舗ではPOS販売データとLINEから取得するID情報を自動連携でき、過去に「誰が」「何を」食事したのかが分かる。従業員はそれを見ることでリピーターのお客に最適な対応をとれるわけだ(顧客情報から、お客それぞれにカスタムされたクーポンを届けることも行っている。筆者には初めて食事した2週間後あたりに、LINEに「ラムチョップ」1本550円の無料クーポンが届いた)

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ラム料理の店では定番の「ラムチョップ」550円(税込、以下同)

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「絶品!ラムのスペアリブステーキ」1290円。160gのスペアリブを真空パックにして65度45分間の低温調理を施し、提供時に表面を軽く焼成している

しかも、モバイルオーダーはスマホを使い、お客が自分で注文するので、サービス係の従業員にメニューを覚える必要がなく、また注文をキッチンに伝えるときに生じることもあるミスがなくなる。だから、目の前の顧客の接客に集中でき、料理の説明などを丁寧に行うことができるようになる。

こうした接客にお客が応える機能が「推しエール」。これは、お客が従業員に感謝や応援の気持ちを送る「投げ銭」、いわゆるチップだ。ラムゴローの場合、この対象となる従業員は15人いて(お客はスマホで顔写真と店舗での愛称、自己紹介を見ることができる)、投げ銭のボタンは「0円」「100円」「300円」「500円」「1000円」。特定の従業員に向けてその金額のボタンを押すとその従業員に届き、押した金額はメニューの注文と同じように会計に加算される。

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「投げ銭」によって特定の従業員に応援メッセージとチップを送ることができる

もう一つの「キッチンディスプレイ」はキッチンで今、どのメニューをつくると効率的かをAIが示してくれるというサービス。これまではキッチンの従業員が入ってきた注文に対し、調理の順番を変えるというアナログの対応をしていたが、これをAIが行ってくれることで、作業の効率的が図れる。

“飲食”をもっと楽しくおもしろく

ダイニーの代表、山田真央氏は「飲食業は人間の根源的な文化」と述べる「飲食店LOVE」にあふれた人物。学生時代に飲食店でのアルバイト、ゲームやエンターテインメント等を事業とする企業でのインターン経験があり、この過程で飲食店の従業員がお客とのコミュニケーションを深めてサービスが向上する仕組みを考えるようになったという。

そして、初めて開発したモバイルオーダーアプリを2018年2月にリリース。同年6月に起業し、本格的にモバイルオーダーアプリの開発と普及に努めるようになった。ダイニーセルフは2020年に立ち上げたものだが、現在42万人以上のユーザーがおり(2021年11月現在)、サービスの機能は毎週アップデートされている。

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注文から決済までの他にエンタメの機能が付いた「ダイニーセルフ」の画面

スマイルリンクル代表の須藤氏は、ラムゴローで新しく試みるテーマとして「お客さま満足をさらに向上させる。お客さまに再来店していただくチャンスを広げて近隣系列店の集客も実現する。従業員がモチベーションを高めることを仕組み化する」ということを想定しており、その実現のためにダイニーセルフを導入している。

実際にラムゴローで食事をしていると、他の同じような居酒屋にはない空気感に気付く。まず、従業員が皆、笑顔である。若い女子従業員の表情が愛らしい。お客に語り掛けることが多い(それも、的を外していない)。感覚的な言い方だが、気持ちが和らぐ。

飲食店におけるDXとは従業員を削減することではなく、従業員が本来行うべきことに集中してもらい、店の価値を高めること、ということが論じられる。スマイルリンクルがコロナ禍で実行したラムゴローのプロジェクトは、新しい業種とDXへの挑戦によってこれまでの神田エリアにはない魅力を発信しようという、飲食企業を再生させる取り組みなのだ。

千葉 哲幸

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