識者に聞く!「私的整理」の実務と論点 ~ アンダーソン・毛利・友常法律事務所がセミナーを開催 ~

  • 東京商工リサーチ(TSR)
  • 更新日:2022/11/25

11月14日、アンダーソン・毛利・友常法律事務所 外国法共同事業(以下、AMT)は、「中小企業版私的整理ガイドラインの実務」セミナーを開催した。金融機関、リース会社や事業会社の法務、審査担当者が参加した。
セミナーでは、11月10日にAMTが発刊した「ケースで分かる・実践中小企業の事業再生等に関するガイドライン」(以下、本書)の内容に即し、AMTの関端広輝弁護士、小野塚格弁護士、荻野聡之弁護士がガイドラインの概要や想定される活用事例などを説明した。

「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」は、今年3月に公表され、4月から運用が始まった。
関端弁護士は、「手続きの間口を広く取り、迅速かつ柔軟に対応できるように設計されている。例えば一時停止(※1)は必ずしも書面である必要がない。また、事業再生計画案の数値基準についても目安で、経営者の退任や株主権の消滅も必須ではない」と評価した。その上で、「事業再生計画に同意しない対象債権者は、速やかにその理由を誠実かつ客観的に説明することが望ましいと規定された。“コンプライ・オア・エクスプレイン” (※2)であり、昨今の時流を踏襲している」と見解を述べた。
廃業型私的整理では、大手ブランドからライセンス供与を受けアパレル商品を販売する企業を例示。過剰債務のなかでライセンスが打ち切られ経営に行き詰った場合の対応方法が説明された。こうした企業の場合、銀行借入金やリースの規定損害金、コロナ禍で大量に抱えた在庫など、対処する課題が多い。
荻野弁護士は「想定事例では、弁済計画の策定後に在庫セールを開催するため、計画を保守的に見積もらざるを得ないなかで、清算価値保障原則(※3) も満たす必要がある。こうした弁済率等を計画に明記することが難しい場合は、初回弁済で清算価値保障原則を満たした上で、あとは追加弁済とする方法もある」と対応方法を説明した。
また、廃業型はリース債権者も対象債権者に含み、保証債務の整理では経営者保証ガイドラインを活用することも重要と指摘した。
再建型私的整理では、同業と比較して利益率は高いが、コロナ禍での販売減や海外進出の失敗で資金繰りに行き詰った化粧品製造業者が例示された。スポンサー選定による「第二会社方式」による事業再生が想定されるケースだ。
事例の解説を担当した小野塚弁護士は「法的整理では簿外・偶発債務などのリスクを遮断できるが、私的整理では原則として簿外・偶発債務などのリスクを遮断できない。100%減増資による(同一法人での事業継続は)税務上のメリットがある場合もあるが、慎重に検討しなければならない。また、会社分割か事業譲渡かについては、許認可の有無など事案に応じて選択する必要がある」とコメントした。

※1 金融債務の返済猶予など

※2 Comply or Explain。「遵守するか説明せよ」との考え方で、2014年以降の「日本版スチュワードシップ・コード」、「コーポレートガバナンス・コード」で取り入れられている。

※3弁済率が破産の場合の配当率を超えないといけないとする原則。

東京商工リサーチ(TSR)は登壇者の関端弁護士、小野塚弁護士、荻野弁護士に、中小企業を取り巻く環境や今後の事業再生の見通しについて、単独インタビューした。
主な内容は以下の通り。

Q.「ケースで分かる・実践中小企業の事業再生等に関するガイドライン」(以下、本書)の想定読者は。
A. (小野塚)事業者から相談を受けることが多い金融機関や会計士、税理士、ファイナンシャル・アドバイザーを想定している。また、事業者の方にも「こうした制度がある」と知って頂きたい。

Q.本書、セミナーともに「廃業型私的整理」の解説に力を入れているように感じる。
A. (荻野)廃業型私的整理手続きは、事業再生ガイドラインの特徴の一つだ。廃業を指向する準則型手続きは、REVIC(地域経済活性化支援機構)の特定支援(※4)などはあるが、今回のガイドラインで、新たに大きく打ち出された部分なので強調している。
廃業型に限ったことではないが、本書の出版にあたっては制度の説明だけでなく、想定事例の作成に力を入れた。事業再生ガイドラインが出来る前に手掛けた案件をガイドラインに当てはめ、「こんなことが起こるのではないか」とブレインストーミングしながら作った。本書の価値は、この想定事例にあると思っている。ガイドラインだけを読んでも専門家以外は理解しにくい。特に廃業型は難しく、たたき台の意味合いもある。

Q.これまでは、「円滑な廃業ニーズ」に対応できていなかったのか。
A. (小野塚)円滑に廃業ができない場合、破産が想定されるが、事業者の代表も金融機関も破産は躊躇する。円滑な廃業にはREVICで対応しており、私自身も出向していたので相当数担当した。ただ、制度としては特定支援ぐらいしかなかった。中小企業再生支援協議会(当時)でもプログラム(※5)は用意されていたが、あまり使われてこなかった。事業再生ガイドラインでは廃業型を広く進めていくことを想定している。「破産の躊躇」で債務整理が止まっている場合などに有効になるだろう。
(荻野)事業再生ガイドラインでは、専門家費用の補助が規定されたことも大きい。規模の小さい案件は、費用面から二の足を踏むケースもあったが、それが変わるだろう。

Q.事業再生ガイドラインを含めて準則型私的整理は、商取引債権など金融債権以外は弁済期に弁済が継続できることを前提としている。ただ、それが難しい企業も多い。
A.(小野塚)そうした企業への対応は、準則型私的整理では限界がある。破産にならざるを得ないケースもあるだろう。
個人的な見解だが、商取引債権のなかには、事業の価値に直結しているものとそれ以外のものがある。純粋私的整理では、商取引の関係にある会社が持つ債権を手続きに取り込んで同意を得たケースもある。取引先からの実質的な資金繰り援助である場合など、商取引の格好をしているが実質は金融取引に近い。債権額が大きくなることもあり、手続きの対象外とすると計画が立てられない。
準則型私的整理の各種ガイドライン等でも、事業の再生に必ず必要なものは金融債権以外でも取り込むことができるとされている。私的整理で対応可能なケース(※6)はある。

Q.2001年策定の「私的整理ガイドライン」があったが、あまり活用されなかった。事業再生ガイドラインの死角は。
A.(関端)私的整理ガイドラインは、手続き主催者が債務者とメインバンクだ。このため、「メイン寄せ」の問題が発生した。また、事業規模が大きなケースが想定されていた。事業再生ADRよりも対象先を狭く考えていたイメージがある。

Q.事業再生ガイドラインの廃業型私的整理の場合、リース債権者も原則として対象債権者に含まれる。実務への影響は大きそうだ。
A.(小野塚)インパクトはある。破産より廃業型私的整理の方がリース会社にとって経済合理性があるケースも多いはずなので、最初は調整が大変だが、実務の積み重ねによって徐々に共通認識が醸成されていくだろう。経営者保証ガイドラインでもリース債権者を取り込むことは可能だったが、今回は一歩進んで「原則取り込まないといけない」とされている。関係先への説明が促進されるので、理解は進むだろう。

Q.昨今、活発に議論されている「私的整理の法制化」(※7)については。
A.(関端)事業再生を手掛ける弁護士の中には、「悲願」と考えている方もいる。私的整理を多数決でやろうとすると、裁判所が関わらないと結論を正当化するのが難しい。ただ、社債の場合は、社債権者集会での多数決を「裁判所の認可」というお墨付き(※8)を与えることで、私的財産権の保護を乗り越えている。
(小野塚)担保法制改正に絡んで、「全事業担保」が議論されており(※9)、「私的実行」も検討されているが、やはり裁判所の監督が織り込まれている。この辺の理論を整理すると、手続実施者が私的に選任された場合を「私的~」と言っているだけで、財産権の制約を正当化し、憲法違反とならないようにするためには、裁判所のお墨付きを監督や許可を必要とする点で、法的整理と私的整理の境界が曖昧になっているように見える。

Q.法的手続きのレピュテーションを懸念しているのではないか。
A.(小野塚)それはあるが裁判所が関与すると、どこまでクローズドにできるのか。
(関端)認可決定すると、官報で公告されるのではないか。クローズドのメリットは薄れることも想定される。しかし、手続保障がないところに、多数決による財産権の侵害は出来ない。

Q.公告されなくても、漏れ伝わることもある。
A.(小野塚)第二会社方式だと、銀行口座を変える必要があり、法人番号も変わるので、関係先への説明は必要だ。実務では、従業員にも前向きに再建に取り組めるように説明している。関係先への説明は大切だ。

※4 再チャレンジ支援業務。事業者が抱える経営者保証付きの債務をREVICが買い取り、保証債務も合わせて整理する。経営者の再チャレンジを念頭とするため、高齢の債務者への訴求力に欠けるとの指摘もある。

※5 再チャレンジ支援。

※6 例えば、事業再生ガイドラインでは「私的整理を行う上で必要なときは、その他の債権者を含むものとする」と規定されている。実務の手引きとなるQ&Aでは、「その他の債権者」について、「一般的な商取引債権者を対象債権者に含めることは通常適切ではないが、多額の債権を有し、その債権者の同意を得なければ再生や円滑な廃業が難しい場合は、対象債権者として手続に参加してもらうことも想定される」と記載している。

※7 「新たな事業再構築のための私的整理法制」として、内閣官房(新しい資本主義実現本部)で検討が進められている。

※8 事業再生ADRでは、社債元本を減免する場合に社債債権者集会の出席者の3分の2以上の決議を裁判所は認可判断で考慮する規定がある。

※9 金融審議会「事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ」で、いわゆる「事業成長担保権(仮)」の検討が進んでいる。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2022年11月25日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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