ひとり広報を迎えた「宮崎県の田舎町」に起きた事

ひとり広報を迎えた「宮崎県の田舎町」に起きた事

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2022/11/25
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「宮崎県の小さな町」が、プレスリリースによって一躍有名になったエピソードを紹介します(写真:とうがらしたんたん/PIXTA)

いま、「ひとり広報」が注目されています。厳しいビジネス環境下で思うように集客できなくなったり、消費そのものが抑制されたりしたことにより、ファンづくりの重要性を認識し、「広告から広報へ」という考えにシフトしている企業が多いためです。「最近、広報活動が大事と聞くし、うちもそろそろ」といった感じで広報部門ができ、未経験の人が「ひとり広報」として任命されることが増えているのです。

話題の移り変わりが速い現代では、フットワークが軽い「ひとり広報」だからこそ強いとも言えます。しかしひとり広報は、「知識・情報・話題・時間・繋がり」が不足しがちです。その「5つの不足」を乗り越える83の戦略を紹介しているのが、新刊『ひとり広報の戦略書──認知と人気を全国レベルにする「知ってもらえる」すごい方法』です。

著者は、飲食店や食品、人材、IT、住宅、家電、ヘルスケア業界などの大手企業からベンチャーまで、さらにはNPOや地方自治体など、約5年間で30社以上の広報業務をサポートしてきた小野茜氏。2022年には「PR TIMES」によって「プレスリリースエバンジェリスト」に認定されるなど、日々精力的に活動する現役の「ひとり広報」です。

この記事では、著者が広報サポートをした「宮崎県の田舎町」が、プレスリリースによって一躍有名になったエピソードを紹介します。

あまりに無謀だった「宮崎移住」

「有名企業じゃなくても、リリースによって、取材が絶えない状態は作れる」

私にそう思わせてくれたのは、移住時代の広報経験でした。私は会社員を辞めた翌年、2018年1月から2020年12月までの丸3年間、宮崎県に移住し、東京との二拠点生活をしていました。

児湯(こゆ)郡新富町という人口1万6000人あまりの縁もゆかりもない小さな町に、思い立ったように移住を決めたのです。

きっかけは、その町に設立された「一般財団法人こゆ地域づくり推進機構」の代表理事に「広報の立ち上げをやらないか?」と誘ってもらったことでした。フットワークの軽さだけは自信があり、後先はあまり考えずに飛び込んでしまったのですが、冷静に思い返すとかなり無謀でした。

当初は、当時の事務局長と女性のパートさん、私の3人で広報チームを組みましたが、ある意味それはとてもハードでした。

「広報……? それはなんでしょう?」

という理解レベルからスタートしたのです。プレスリリースはおろか、「世の会社には広報という部署がありまして……」という説明から始めたことをいまでも覚えています。

私が「知っていて当然」だと無意識に自覚していたことも、この場所では通じない。メンバーとコミュニケーションをとることすら難しいと感じ、アウェー感に苛まれた移住生活のスタートでした。

地道に少しずつ理解を促し、広報チームはヨチヨチと歩き出しました。一方で幹部たちは「プレスリリースは月10本!」を口癖に、オフィスですれ違うたびに「今月何本出せそう?」と私に尋ねてくるのです。

プレスリリースもなにも、設立直後の財団ではまだ事業の活動実績すらありません。ニュースなんてあるわけがないのです。

「この状態で、どうやって10本出せというの?」

掲げる理想と現実のギャップに正直私も困り果てていました。

芽生えた「無いものはつくる」精神

しかしふと振り返ってみると、会社員時代から私は、ネタがないときはいつも自らネタを作りにいっていました。

「どこかの会社さんとコラボできないかな?」

「この商品でイベントが組めないかな?」

そう考えること自体が楽しかったし、ワクワクを形にすることに夢中でした。それと同じようにやってみればいい。そう思えてからは、心が少しだけ楽になりました。

完成された組織と比べて、設立間もない組織は「無い」ものだらけですが、裏を返せば何でも一からつくれる強みがあります。「世界でいちばんチャレンジしやすい町」をビジョンに掲げて町づくりに挑む財団だからこそ、町中のチャレンジをネタにして、プレスリリース作成に没頭しました。

実際に企画作りから行ったプレスリリースの1例をご紹介します。

・地域で栽培されているライチを特産品として取り上げ、リリースに。
・ライチの実りを祝うパーティーを企画して、リリースに。
・焼き鳥を名物にするため地元焼き鳥屋のツアーを企画して、リリースに。
・鉄道会社と共同で駅舎内イベントを企画して、リリースに。
・離れの事務所をコワーキングスペースに仕立て、リリースに。
・商店街で週末マルシェを企画し、リリースに。
・ふるさと納税の返礼品を体験するイベントを東京で企画し、リリースに。
・町内にある航空自衛隊基地のフォトコンテストを企画し、リリースに。
・地元の産品をより盛り上げるため農業塾を企画して、リリースに。
・町からヒット商品を生むアイデアを出すイベントを企画し、リリースに。
・地元農家・起業家とアグリテックイベントを企画し、リリースに。

これらは私だけのアイデアではなく、財団のメンバーから出たアイデアを形にしたものです。いずれも規模としてはさほど大掛かりなものとはいえませんが、大事なのは規模感ではなく、その企画を通して何を伝えたいのか、何を起こしたいのか、という想いの部分だと思っています。

それがただの情報に価値を与え、ニュースバリューとなるのです。

周囲の意識変えた「リリースの量産」

リリースを量産することで、数カ月前まで「広報」の意味すらわからなかったチームに変化が起きました。互いにアイデアを出し合い、「これはリリースを出せそうですか?」とメンバー同士が議論し合えるまでになったのです。

最初は1本のプレスリリースを出すのもひと苦労でしたが、ゼロからアイデアを形にして企画にし、プレスリリースによってていねいに情報発信したおかげで、着実に町や財団の認知を広げていくことができました。

このような活発な活動がほかの自治体の目に留まったようで、各地から財団への視察も絶えませんでした。地元の公務員が設立した地域商社「こゆ財団」の活動そのものが、地域活性のプロフェッショナルとして、1年後には新聞の1面を飾るまでになりました。

はじめはこちらから情報提供して取材に来ていただいた地元のテレビ局や新聞社も、露出の実績が積み上がってくると、メディア側から「こんな情報ないですか?」「これを取材させてもらえませんか?」と連絡をくれるようになりました。

さらには東京のビジネスシーンをリードするような方々や、地域コンテンツを扱う雑誌やウェブメディアの編集長、ジャーナリストの方など、財団幹部のリレーションを通じてさまざまな方に視察に来ていただきました。

このようにプレスリリースは、ひとり広報にとって大きな力となってくれます。PR TIMESで「こゆ財団」を検索すると、その軌跡がしっかりと残っています。

月10本のプレスリリース配信を目指して始めた広報活動は、2018年10月、ようやくその目標を達成することができました。単純計算で、3日に1本出していることになります。

なぜ、私たちがこれだけ「数」にこだわったかというと、それは「情報接触回数」を増やすことで町を認知してもらいたかったからです。

情報が世に出ることで、企業の活動が可視化されます。私は職業柄、企業サイトを見るとかならずニュース欄の更新日付を見てしまいます。数カ月や半年くらい更新されていないと、「ニュースのない会社なのか、更新作業を怠っているのか、リソースが足りていないのか」と、つい想像してしまいます。

それだけで判断するのは大雑把といえるかもしれませんが、アクティブでポジティブな企業イメージづくりに、プレスリリースの配信本数が一役買えるというのは、一理あると思います。

情報があふれるいまの時代では、今日聞いたことも、明日にはほとんど忘れられてしまいます。だからこそ、記憶から完全に消される前に新たな情報やニュースを届けて、記憶に残り続ける努力をすることが大切だと考えています。

いまやプレスリリースは、メディアだけが見るものではなくなりました。

主要な配信プラットフォームを活用して投稿したリリースは、検索すれば誰もがネットで閲覧できます。つまりメディアだけでなく、ユーザー(個人・企業問わず)にもダイレクトに情報が届く時代になったのです。

配信したプレスリリースはページリンクを共有するだけでスマホでも簡単に閲覧できます。SNSでシェアしたり、メールでリンクを送ったりするのも容易にできます。

とても細かな話ですが、こうした地道なシェア活動を続けることは、認知の拡大に確実に貢献してくれます。

また、先ほどの事例では、皆さんが口を揃えて「この町は面白い。魅力にあふれている」と言ってくださったことが、財団メンバーにとっても地元の魅力をあらためて知る良いきっかけになりました。

一連の広報活動は町の認知度を上げる成果を生みましたが、同時に、地域の人々の地域愛を育むインナー広報としての成果もあったと感じています。

人々の記憶に残り続けるために

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「月10本」という数字が適切だったかはわかりませんが、記憶に残り続けるために、情報発信の頻度にこだわることはとても重要だと考えています。

よほど知名度のある企業であれば別ですが、中小企業やベンチャー、スタートアップ企業などは、人々の記憶に残り続けるのはなかなか難しいことです。

「渾身のプレスリリースを出そうと大きなネタを求めていたら、何も発信せずにあっという間に3カ月経ってしまった……」

というようでは、ステークホルダーから忘れ去られてしまうかもしれません。出せる情報を持っているなら、できるかぎりプレスリリースにして発信しましょう。

(小野 茜:株式会社EAT UNIQUE代表・広報パーソン)

小野 茜

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