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ロッキーの遺伝子を継ぐボクシング映画『クリード』。第3弾となる『クリード 過去の逆襲』が公開中だ。マイケル・B・ジョーダンが主演と初監督を務め、シリーズ史上初めてロッキーが登場しない本作は面白い? ひどい? 忖度なしのガチレビューをお届けする。【あらすじ キャスト 評価 考察 解説】(文・島晃一)
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●ロッキー不在でも大丈夫? マイケル・B・ジョーダン初監督作品

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ボクシング映画の代表作『ロッキー』シリーズのスピンオフとして始まり、ロッキー・バルボア(シルヴェスター・スタローン)のライバルであるアポロ・クリードの息子、アドニス(マイケル・B・ジョーダン)の活躍を描いた『クリード』。
シリーズ第3章となる本作は、大きな転換点になるだろう。初めてロッキーが登場せず、スタローンは製作として関わるのみ。過去2作だけでなく、『フルートベール駅で』(2013年)や『ブラックパンサー』(2018年)など、マイケル・B・ジョーダンの代表作を手がけてきたライアン・クーグラーは、監督ではなく、製作・原案としてクレジットされている。
また、クーグラー監督の映画を音楽面で彩ってきたルドウィグ・ゴランソンも、作曲はせず、代わりにジョセフ・シャーリーがスコアを担当した。過去作同様、「ロッキーのテーマ」を踏襲した曲はあるものの、あの特徴的なファンファーレの印象が薄くなっており、ロッキーの不在を象徴するかのようだ。
体制が大きく変わったこの映画で監督を務めるのは、主演のマイケル・B・ジョーダン自身だ。『クリード 過去の逆襲』は、これが監督デビューとなるジョーダンが、物語と演出の両面で、シリーズに新しさをもたらそうとした意欲作になっている。
●テーマは“男らしさ”の呪縛。ボクシングを通して過去のトラウマと対峙する

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1作目で証券会社に勤めるビジネスマンとして登場したアドニスは、オバマ政権時代の黒人男性のイメージを体現したような、知的でスタイリッシュなアスリートとして描かれてきた。今作では、そのアイデンティティが大きく揺さぶられる。
ヘビー級チャンピオンを成し遂げ引退した後も、ジムを運営し、家族と共に豊かに暮らすアドニス。そんな彼のもとに、幼馴染のデイム・アンダーソン(ジョナサン・メジャース)が訪ねてくる。
デイムは少年院時代からの仲だが、アドニスが引き金となった暴力事件に巻き込まれ、長い間、刑務所に服役していた。デイムと再会したことで、若い頃に犯した罪やトラウマが掘り起こされ、激しく動揺する。過去と向き合うために、アドニスは決着をつけるべく再び立ち上がる…というのがあらすじだ。
プレスリリース記載のインタビューによると、ジョーダンは、本作でトキシック・マスキュリニティ(男らしさの呪縛)の問題に取り組みたかった、とコメントしている。この言葉からもわかるとおり、アドニスは、暴力的だった過去や、弱さを他人に見せられない自分と対峙することになる。
デイムは、単に対戦相手というだけでなく、過去の自分の映し鏡でもあるだろう。試合の控え室で、壁を隔ててアドニスとデイムが同時に映るショットは、鏡像関係であることを強調するかのようだ。
また、二人の練習風景をクロスカッティングで映し出すトレーニングシーンでは、アドニスが不自然な場に置かれた鏡と向き合っている。対戦相手に打ち勝つことが、自分の弱さを認めた上で、克服することと連動している。その点、本作はこれまで以上にパーソナルな物語となっている。
●ジョーダン監督は日本のアニメへのリスペクトを公言

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デイムと対決する場面を含めて、ファイトシーンはどれもすごい迫力だ。これは、既にさまざまなインタビューでジョーダンが答えている通り、日本のアニメを参照した演出が大きいだろう。過去にもジョーダンはアニメ好きを公言してきたが、メガホンを取った今作では、直接的にその影響が見られる。
たとえば、アドニスがボディーブローを食らう際のスローモーションと、パンチを受けてほとばしる汗、そして効果音は、まさに『ドラゴンボール』や『はじめの一歩』を彷彿とさせる。
実際に描かれてはいないものの、パンチが当たった後のヒットエフェクト、衝撃波が見えるかのようだ。パンチを打つ前に、ガラ空きになっている部分をクローズアップするのも実にアニメ的だ。
極めつけは、スタジアムの観客やリングサイドの人々が消え、アドニスとデイムの二人だけになるシーンだ。試合中の二人の心象風景を表現したようなこの場面も、おそらくアニメからインスピレーションを受けたものだろう。
もちろん、アニメ的な演出には賛否両論あるだろう。しかし、筆者の目には、こうした表現が、新鮮さと臨場感をもたらすことに成功しているように見えた。余談だが、アドニスの子供時代を回想した冒頭では、部屋にガンダムなどが映っており、アニメへの目配せはここでも伺える。
アニメを参照したシーン以外にも見どころは豊富だ。とりわけ、デイムを演じたジョナサン・メジャースの表情の変化を捉えた一連のショットは、実に素晴らしい。
『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』(2019年)や『アントマン&ワスプ:クアントマニア』(2023年)でも強烈な印象を残してきたメジャースだが、特にアドニスと食事をする際の不敵な笑み、怒りや嫉妬心などがないまぜになった、複雑で微細な感情表現は忘れられない。メジャースとジョーダンは、本作で、シリーズの中でも屈指のライバル役を生み出したと言えるだろう。
なお、今作は、IMAX認証デジタルカメラが用いられ、IMAX仕様で撮影された初のスポーツ映画となった。残念ながら、本稿は試写に基づいて書かれており、未だIMAX上映を体験できていない。より迫力が増すであろうファイトシーンを観るためにも、ぜひ劇場に足を運びたい。
(文・島晃一)
<作品情報>
■タイトル:『クリード 過去の逆襲』
■公開日:5月26日
■監督:マイケル・B・ジョーダン
■出演︓マイケル・B・ジョーダン、テッサ・トンプソン、ジョナサン・メジャース、
ウッド・ハリス、フロリアン・ムンテアヌ、ミラ・ケント、フィリシア・ラシャド 他
■製作・原案:ライアン・クーグラー
■配給:ワーナー・ブラザース映画
■映画 公式ハッシュタグ #クリード3
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