文大統領の新ライバルは「ハーバード卒の36歳」? 若き“ヒーロー”誕生に韓国の政治家が焦る理由

文大統領の新ライバルは「ハーバード卒の36歳」? 若き“ヒーロー”誕生に韓国の政治家が焦る理由

  • 文春オンライン
  • 更新日:2021/06/10

「36歳、国会議員経験なし」の党代表が誕生するか。

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第一野党「国民の力」の党代表選挙が異例の関心を集めている。

5月28日に行われた予備選挙で、「36歳、国会議員0選」の李俊錫前同党最高委員(党代表とともに党の意思決定に参加する指導部メンバー。以下、李氏)が圧勝すると、「大統領選挙にも大きな影響がでる」「世代交代の波が押し寄せる」と野党のみならず与党も戦々恐々となっている。

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予備選挙で圧勝の「36歳、国会議員0選」の李俊錫前同党最高委員 ©時事通信社

「李俊錫が2位ならいい。1位は困る」

「国民の力」の古参議員は図らずもこう漏らしたという。

長らく朴槿恵前大統領の弾劾を巡り内部分裂を続けていた保守野党「国民の力」だったが、昨年4月の総選挙惨敗後、キングメーカーの金鍾仁氏を三顧の礼で党の非常対策委員会委員長に迎えて弾劾についての内部検証や過去の光州事件での謝罪などを行い、刷新を図ってきた。

20~30代の男性から圧倒的な支持

その後は、文在寅政権の度重なる失態にこの4月のソウル・釜山市長補欠選挙では両市共に野党候補が勝利し、党の支持率も与野党逆転している(与党「共に民主党」29.7%VS「国民の力」38%。6月7日、世論調査会社「リアルメーター」)。

李氏は、当選した呉世勲現ソウル市長の選挙キャンプでニューメディア本部長を務め、選挙を勝利に導いた立役者のひとりとして急速に注目が集っていた。20~30代、特に男性から圧倒的な支持がある。

党代表選挙に出馬することが伝えられた5月初め頃は有力候補とは目されていなかった。ところが、予備選で、2位の羅卿ウォン候補を12ポイント引き離して1位となると、安穏と構えていた野党内部は大混乱。与党も、30代の李氏が党代表となれば世代交代の気運が盛り上がり、大統領選にも影響が出るとその行方を固唾を呑んで注視している。

他の候補者は李氏を引きずり下ろすことに躍起だが…

中道系の韓国紙記者が言う。

「『国民の力』の党代表選挙の予備選は一般市民と党員の世論調査各50%の結果で候補が絞られましたが、李氏は一般市民の世論調査結果が圧倒的に強かった。特に20~30代の後押しがすごい。それだけ、今の与党の中心にいる586(80年代に大学に通った1960年代生まれの50代。韓国では民主化運動に関わった世代をいう)世代に嫌気が差し、政界再編を望んでいる中道・無党派層が増えたということ。

最初、野党は、李氏が立候補することで若い世代に門戸を開いているというアピールにもなり、来年の大統領選挙に向けて20~30代の支持層を囲えると思っていたのが、予想外に李氏が圧勝してしまった。本選は一般市民の世論調査30%+党員投票70%で行われるため、他の候補者は今、党内での支持を固めて李氏を引きずりおろそうと躍起になっていますが、李氏の勢いは止まりません。

李氏が党代表になれば、野党はこれまでの朴前大統領の呪縛からは完全に抜けられるでしょうから、来年の大統領選を考えると、党関係者からすれば痛し痒しです」

党のテレビ討論では、李氏の質問に2位の羅氏や3位の朱豪英前党院内代表がむっとする場面や、緊張する姿が映し出された。今まで慣れ親しんできたものとは異なる戦法にどう対応すればいいのか困惑しているようだった。

国会議員選挙には3度落選

それもそのはず。李氏は保守の論客としてテレビの常連コメンテーターとして知られた人物。舌鋒鋭く、ディベートに強い。しかし、そのため失言も度々。それでも、明快な語り口は人気があった。

1985年、ソウルに生まれ、名門のソウル科学高校を2年で飛び級卒業した後は、韓国の理系で最高峰の国立大学「韓国科学技術院(KAIST)」に入学するも、ひと月ほどで退学。国の奨学金で米ハードード大学に入学し、コンピューターサイエンスと経済を学んでいる。大学時代には、父親と高校・大学(ソウル大学)が同窓である「国民の力」の劉承旼議員の事務所でインターン経験がある。

卒業後は教育関連のベンチャー企業を立ち上げたが、2011年、当時セヌリ党の非常対策委員長だった朴槿恵前大統領の目に留まり、弱冠26歳で非常対策委員会委員に抜擢された。そのため、「朴槿恵キッズ」とも呼ばれたが、2016年の朴前大統領弾劾訴追では弾劾に賛成。党内では傍流ともいわれたが、2020年には党の最高委員を務めた。国会議員選挙には3度挑戦しているがいずれも落選している。

経験不足を指摘する声も

李氏が今回の党代表選挙で掲げているのは「公正」と公正な競争による「実力主義」だ。法と制度により公職の一部を女性に割り当てる「女性割当制度」の廃止や公職選挙で出馬する候補への資格試験制度の導入、大統領選挙候補者チームの討論会開催など斬新な提言が目につく。

これに対して、「みなが李氏と同じような境遇にはない」と李氏の言う実力主義こそ公正ではないとする意見や、李氏への熱狂は「古い政治への怒りが爆発した地点にいた李氏の絶妙な幸運」(京郷新聞、6月8日)とする見方もある。

政界では「0選で政治家としての力量も経験も不足している」という批判がある。

与党「共に民主党」の次期大統領選挙への出馬に意欲を示している丁世均前総理は、李氏について、「(党代表としては)大統領選挙準備にも力量不足」とし、また、理詰めで相手を論破するその姿勢を「実った稲穂は頭を垂れるものだ」と諭した。しかし、李氏と同じ「国民の力」の若手議員のひとりは、「稲穂は1年で枯れる」と応酬している。

直近の世論調査の支持率では李氏は41.3%と2位の羅氏(20.6%)を20ポイント近く引き離している(6月8日、世論調査会社PNRリサーチ)。

失態続きだった「共に民主党」は…

そんな野党の動きに緊張感を漂わせているのが与党「共に民主党」だ。

曺国事態に始まり、朴元淳前ソウル市長と呉巨敦前釜山市長のセクハラ事件、LH(韓国土地住宅公社)の不動産不正投資、不動産政策での失敗、お友だち人事などの失態続きで支持率をじりじりと落としていた。

そこへ、不正な不動産取引などに関与した疑いがある与党議員の名前が明らかとなり、6月8日、党所属の国会議員12人が離党勧告されている。この中には元慰安婦支援団体の資金を巡り在宅起訴されていた尹美香議員も含まれている。

また、曺国元法相は5月31日、自身の痛みや真実、言えない思いを綴ったとする著書『曺国の時間』を出版し、人々に当時の記憶を呼び起こしており、「よりによってこんな時期に」と党内で不満が漏れる一方、本は1週間で10万部を越すベストセラーにもなっている。

世代交代の波が押し寄せている韓国

別の中道系記者は言う。

「李氏の台頭を促したのは他でもない与党(共に民主党)です。自省もなく、すべてにおいてネロナムブル(『自分の婚外恋愛はロマンでも他人のそれは不倫』とするような、自己正当化の姿勢を意味する)。自分たちの何が問題なのかも把握できず、似非進歩として自分たちのための政治を続けている。

4月のソウル・釜山補欠選挙惨敗後、若手議員が国民に向けて曺国事態などを謝罪した際には『制裁』とばかりに彼らの携帯に膨大なメッセージを送って口を塞ぎました。やりたい放題です。李氏が『国民の力』で党代表になれば、確実に世代交代の波が押し寄せる。与党とてその波に抗えない」

最近の世論調査(6月4日、世論調査会社韓国ギャラップ)では、次期大統領選挙では「現政権交代のために野党候補が当選するといい」が50%にのぼり、政権交代論が頭をもたげている。

また、この世論調査で初めて李氏が大統領候補者のひとりとして4位に浮上した。韓国の大統領選挙では40歳以下は被選挙権がないので李氏の出馬は不可能だが、こうした勢いに39歳の最年少で大統領になった仏マクロン大統領を引き合いに出し、40歳以下も被選挙者になれるよう法改正すべきだという声まであがる。

李氏の対日観は分からないが、MZ世代(1980年代初めから2000年代初めに生まれたミレニアル世代とZ世代を合わせたもの)は日本に屈託のない世代ともいわれる。

もし、李氏が党代表となれば来年の大統領選は今までとまったく異なるレース展開を見せるかもしれない。

「国民の力」の党代表選挙の本選は6月11日に行われる。

(菅野 朋子)

菅野 朋子

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