「諦めている」育児・パート・PTAに疲弊...産後うつ女性の限界

「諦めている」育児・パート・PTAに疲弊...産後うつ女性の限界

  • 幻冬舎ゴールドオンライン
  • 更新日:2021/10/14
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OECDの調査によると、日本でうつ状態にある人は2013年から2020年にかけて2.2倍に増加しています。しかし、精神医療現場には「短時間の画一的な診療」という課題が根強い状況。疑問を抱いた医療法人瑞枝会クリニック院長・小椋哲氏は、積極的に患者の抱える問題に介入する「対人援助」を意識してきました。ここでは同氏が、患者に合わせた診療方法について解説します。

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”おいしい”存在になってしまう…「治す気がない患者」

精神科ユーザーは、完治が見込める人ばかりではないことは、多くの精神科医が感じているはずです。うつ病であっても、職場環境が悪いことが原因で発症した人なら異動だけで治ることもありますが、発症につながった環境から抜け出せないような人は、うつ病のない人生を送ることが難しいケースもあります。

例えば、産後うつになった女性が、2人目、3人目と次々に出産してしまうようなパターンでは、1人目の産後うつが治りきらないうちに次の出産を迎えて、さらに厳しい状況に置かれることになります。

日々の育児だけで疲弊しているところに、経済的な理由でパートに出始めたり、社会的な要請でPTAや地域活動を始めたりもするので、すぐには解消できないボトルネックがどんどん積み上がっていくこともあります。

こうした場合、本来なら根本的な負担を減らすか、完璧主義を捨てて手抜きや息抜きをしながら省エネでやっていくことを患者に身につけてもらわないと、症状の改善は難しいものです。本当は全部やめてしまい、3ヵ月ほど入院すれば良くなるのでしょうが、また元の生活に戻れば同じ状態になってしまいます。

患者本人も諦めていて、「治す」というニーズをもっていないことも少なくありません。

その人なりの非常にゆっくりとしたペースで治っていくこともあれば、もう生きているだけで精いっぱいの状態で「一緒に治しましょう」という姿勢で接するとそれがプレッシャーに感じてしまう場合もあります。

こうした患者に対しては、精神科医が力になれることがあまりないため、多くの精神科では「同じお薬を出しておきますね」という対応になっているのです。

こうした患者の診察を短く終わらせて、その分をほかの患者の時間に充てているような状況では、このような患者は経営効率の観点では”おいしい”患者になっているかもしれません。

しかしこのタイプの患者にとって、精神科医は自分の病気に対する十分な理解と知識をもったうえで話を聞いてくれる唯一の存在で、最後の一人かもしれません。

専門知識をもたない人には気づかないような小さな変化を見つけてくれたり、精神疾患という目に見えない荷物を背負って頑張っていることを認めてくれる存在でもあります。臨床心理学では、このような存在をウィットネス(witness:目撃者、立会人、証人)と呼びます。

精神科医はこうした人たちのウィットネスとなることで、その人の人生に関わっていくことが、提供するべき対人援助の一つとなります。当院ではこうした患者の多くは、予約料を必要としない10分枠を利用します。

その10分を最大限活用して、その人が一生懸命生きていることを認め、たとえ目に見える治療効果が期待できなくても、診察室を出てからの毎日を生きていくためのサポートをする。これも精神医療の重要な役割です。

「質の良いサポート」ができるのはどんな精神科医?

当院の診療モデルは、予約診療のスキームや診療前の準備など、他院でもすぐに始められることは多くありますが、ぜひ注意を喚起したい点は、この診療モデルが医師の対人援助スキルに依存しており、それがなければ成立しないモデルだということです。

十分な診察時間と治療成果で患者の満足度を向上させると同時に、医師や病院スタッフのワークライフバランスとクリニック経営の安定を実現させるためには、医師個人の対人援助スキルを大幅に向上させる必要があります。

具体的には、立体ホログラムレベルのアバター(※)が出来上がるほどに患者の心身の状況を把握し、疾患を引き起こす要因となっているボトルネックを見いだし、その解消のための介入ができるスキルです。

※ アバター…患者の状態を把握するために援助者・精神科医の内面で生成していく患者像のこと。もともとは、ゲームやSNSなどで使われる、その人の「分身」となるキャラクターを示す言葉。複数のイラストの中から自分に合うものを選ぶだけのこともあれば、詳細に作り込んで自分自身と見分けがつかないほどの精緻な「立体ホログラム」を生成することもできる。

脳内に患者のアバターが形成されていると、高い共感力を発揮し、その人にフィットした対人援助を提供できることになる。

このスキルを獲得するためには、やはりそのための臨床経験を積むことが不可欠です。現状の精神医療は投薬と診断書の発行ができればそれで成り立ってしまいますが、これを何年続けても対人援助スキルは身につきません。

通常の保険診療とは別に、かつて私もそうしたように、完全自費のカウンセリングを提供し、最低250時間はトレーニングを重ねる必要があると考えます。

意欲のある医師が、1回1回のセッションの中身を振り返りながらこれだけの経験を積めば、保険診療と予約料を組み合わせる20分や40分の診察と、保険のみの10分間の診察で患者が必要とする援助を提供する素地ができるのです。

「自費でも受けたい」と思われるカウンセリング方法

自費のカウンセリングは高価ですから、「役に立たない」と判断すれば、患者はすぐに来なくなります。患者はまずはある程度時間をかけて話を聞いてほしいと思ってはいますが、当然ながらそれだけで症状が良くなる保証はありません。

目的はあくまでも、限られた時間でボトルネックを探しだし、それを解消するための介入なので、医師は非常にシビアな評価の場に置かれることになります。

私が勤務医をしつつ自費のカウンセリングオフィスを運営していた当時は、すべてのセッションに対するサマリーを作成し、それが適切だったか、どのような成果を期待して、実際はどうであったかを時間をかけて振り返り、まとめる作業をしながら自ら学んでいました。

また、自らが精神科ユーザーであった経験や、ダンスムーブメントセラピー(※)の指導者から対人援助の技術を学んだことも、そこに活かされています。

※ 身体の動きを通して精神疾患の患者を治療するセラピーで、米国では普及しているが日本ではまだ提供できる人の少ない精神療法。

小椋 哲

医療法人瑞枝会クリニック 院長

小椋 哲

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