気候変動を軸に始まるパワーゲームに出遅れる日本

気候変動を軸に始まるパワーゲームに出遅れる日本

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  • 更新日:2021/02/22
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充電施設で充電しているテスラ車(写真:AP/アフロ)

(山中 俊之:神戸情報大学院大学教授/国際教養作家)

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広告主への忖度でないことを祈るばかり

再生可能エネルギーやEVは、気候変動問題と関連させながらも新しいビジネスの可能性といった文脈で報道されることが多い。あるいは、EV最大手のテスラ株価急騰などバブルの側面からの報じられ方もある。

しかし、人類を地球との共生に向かわせる「再エネ革命」は産業革命以降の大きな変革を地球にもたらすだろう。さらに、化石燃料に左右されてきた国際政治にも変化をもたらすことは間違いない。

2021年の元旦、合同で新聞各紙に「クルマを走らせる550万人へ」という見出しで自動車の業界団体による新聞広告が掲載された。自動車メーカーや部品メーカー、ガソリンスタンドなど自動車に関連する産業の裾野の広さと経済波及効果をアピールした広告だ。

自動車業界は部品や販売を含め裾野が広い。多くの雇用を生み出しており、それら雇用を守ることが重要であることは論を俟たない。しかし、この広告が、EV(電気自動車)への世界的なトレンドに逆行することにつながることを意図するものであれば、素直には喜べない。

なぜなら、EVはガソリン車よりも部品数がはるかに少なく、部品メーカーにとってEV移行は死への門出になりかねないため、日本の自動車業界にとってEVに対し拒絶感があるためだ。日本の自動車メーカーの一部には、日本政府がEVに舵を大きく切ることに懸念もある。

EVについては、各種ビジネス誌で大きく取り上げられることも多く、日本メディアにおいて決してマイナーなテーマではない。しかし、テレビなどの情報番組はもちろん、報道番組でも取り上げられることはあまり多くないように感じる。巨大広告主である自動車メーカーに対する過剰な忖度が理由でないことを祈るばかりである。

欧米を中心とした世界では大きく報道されても、日本国内での報道が小さいテーマは他にもある。

世界で報じられるのに日本では話題にならないテーマとは

移民・難民問題、中東情勢などに加えて、毎日世界のメディアをチェックして執筆することを生業の一つにしている筆者からみると、再生可能エネルギーに関するニュースも日本での報道が小さいテーマに該当すると思う。米ニューヨーク・タイムズや英エコノミストでは、気候変動問題や再生可能エネルギーは再頻出のテーマと言ってよいだろう。

2021年に入ってからまだ2カ月もたたないが、再生可能エネルギーについて大きなニュースがあった。

一つは、2021年11月の大統領当選時から予定されていたことであるが、バイデン政権によるパリ協定への復帰と環境対策への財政支出である。

二つ目は、欧州において、2020年の電力源として再生可能エネルギーが化石燃料を初めて上回ったことだ(「再生可能エネルギー、初めて化石燃料を上回る 欧州電力」)。日本においては2019年で20%にも届かないのが現実だが(参考資料)、世界では、特に欧州など先進地域では、もはや再生可能エネルギーが主流になってきているといってよい。

筆者は、再生可能エネルギーへのシフトは、18世紀の産業革命に匹敵する大きな変化を社会に与えると考えている。これまで地球を汚染して発展してきた社会が、真に地球との共生に向かう転換のきっかけになるからだ。

人類は元来生態系の一部として、狩猟採集をして、動植物を食していた。この時期は、地球環境への破壊は大きくない。せいぜい火力の使用によるわずかな二酸化炭素排出程度であろう。人類も強い肉食動物に食べられてしまう存在でもあった。

その後、農業を開始することによって、生態系の一員から離れ、自然を支配して変化させる存在へと変貌したが、まだ環境破壊は甚大ではなかった。

環境破壊に関して大きく変わったのは、産業革命以降である。これまでごく限られた用途であった石炭などの化石燃料が本格的に活用されるようになったからである。産業革命前の1750年と比較すると二酸化炭素濃度は40%も上昇しているといわれる(環境省資料)。

再生可能エネルギーへの転換によって、「地球を汚す」経済から「地球と共生する」経済への大転換が図られる。コロナ禍の影響もあり、都市の在り方も地球との共生を志向した密を避けた自然調和型になっていくことだろう。

人類史上における文明史的な出来事と言ってよい。再エネ革命は、やや大げさにいえば人類史における大きな革命なのだ。

脱化石燃料がもたらす国際政治経済への影響

産業革命以来の変化となると、世界の政治経済に対する影響も甚大だ。甚大な影響を網羅することは、私の能力を超えるが、いくつか重要な論点について述べたい。

第一に、中東など化石燃料への依存が高い地域の変化である。中東において長きにわたり地政学的重要性の源泉であった化石燃料保有の意義は、今後小さくなる。

近代の戦争は、化石燃料保有をめぐっての争いが発端であるものが多い。20世紀中盤以降の中東での紛争は何らかの形で石油利権と関連したし、太平洋戦争も日本が石油利権を確保するためにインドシナ半島に侵攻したことが大きな要因になった。

石油をはじめとした化石燃料は政治的経済的覇権確保のために不可欠であり、覇権をめぐって戦争も起きてきたのだ。

しかし、太陽光や風力、水素など再生可能エネルギーは、化石燃料に比べると、世界各地に分散して存在している。資源の偏在が解消される方向に向かう。

これはすなわち、化石燃料への依存度が高い中東やロシアなどの経済力が低下することだ。海洋に眠る化石燃料をめぐる争いもかつてほどの争いではなくなっていく可能性が高い(もちろん経済資源をめぐる争いという意味では残るであろうが)。

もっとも、中東が脱石油で衰退してしまうというのは早計だ。中東諸国は、再生可能エネルギーが今日ほど注目されるよりも以前から脱石油を目指した経済政策を推進している。

例えば、サウジアラビアでは、1970年代から産業多角化を掲げて、石油化学産業の育成に取り組んできた。

私が同国に駐在していた1990年代には、サウジアラビアの有識者と議論をすると決まって脱石油がテーマに上がった。30-40年にわたり石油以外の産業育成に対して積極的に取り組んできている。

現在、同国の事実上の実権を握っているといわれるムハンマド皇太子も脱石油路線を強く進めている。現在ソフトバンクの孫正義氏と進めるITへの投資を進めるビジョンファンドへの投資などもその一環だ。サウジアラビアは、ある意味、石油からITへと軸を切っていると言ってよい。

また、中東は晴天の日が多く太陽光が豊富にある。また、無人の砂漠地帯など太陽光パネルを設置できる場所は多い。そのため太陽光への取り組みの条件も整っている。

2019年7月には、UAE(アラブ首長国連邦)において世界最大級のノア・アブダビ太陽光発電所が運用開始になった。石油価格が安いUAEでも再生可能エネルギーへの転換が進んでいる。

先日エジプトで太陽光発電事業を営む経営者とあるワークショップで話す機会があったが、アフリカ大陸全体を視野に事業を拡大していく予定であるという。

北アフリカを含む中東は、石油の産地から太陽光発電の普及という意味での先進地の一つに変貌する可能性がある。

中国がワクチン外交の次に狙う再エネ外交

第二に、再生可能エネルギーのテクノロジーを有することが政治経済の源泉になり、いわば「再エネ外交」が広がることだ。

太陽光パネル、EVの蓄電池、二酸化炭素吸収、水素発電など最先端のテクノロジーをめぐって、企業や研究者がしのぎを削っている。太陽光発電においては中国が世界をリードしており、新興国への輸出も増大させている(「世界をリードする中国の太陽光発電 広大な新興市場へ」)。

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太陽光発電で世界をリードする中国の太陽光発電所(写真:AP/アフロ)

再生可能エネルギー分野の最先端テクノロジーとビッグデータが結びついた場合、それらを所有する国や企業が大きな影響力を持つことになるだろう。

テスラは米国発の企業でありながら、中国政府との関係が良好だ。イーロン・マスクCEO(最高経営責任者)が米国出身でなく南アフリカ出身であるため受け入れやすいという点もあるであろうが、やはりテスラが有する太陽光パネルや蓄電池に関するテクノロジーを中国国内にも置いておきたいという意向があるためであると思われる。

中国のCOVID-19のワクチン外交の後は、再エネテクノロジーをテコにした再エネ外交の時代になるかもしれない。

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中国の電気自動車(EV)大手、比亜迪(BYD)の太陽光パネル工場(写真:ロイター/アフロ)

もっとも、再エネ革命もバラ色ばかりではない。先述した雇用減少問題に加えて、再エネ発電の装置に必要な鉱物資源採掘のために児童労働が行われる可能性など様々なマイナスの波及効果もある。これらの問題には国際社会が十分に対処していくべきだ。

いずれにしても再エネ革命は、国際政治にも、我々の生活にも大きな影響を与えることは間違いない。

山中 俊之

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