「きかんしゃトーマス」を見ることは「将来の安定」につながる?知られざる教育的効果

「きかんしゃトーマス」を見ることは「将来の安定」につながる?知られざる教育的効果

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/04/07
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幼い子供たちが大好きな「きかんしゃトーマス」。子供と一緒にトーマスのTVアニメを毎日何度も観てすっかりハマり、果てしなく続く線路を作り続けた経験のある親は少なくないだろう。

実は、「きかんしゃトーマス」には子供の「非認知能力」を伸ばす効果があるのだという。同作の教育的効果を研究している「東京学芸大こども未来研究所」の小田直弥先生に、非認知能力の育て方、そして現在公開中の新作『映画 きかんしゃトーマス おいでよ!未来の発明ショー!』に込められている“次世代へのメッセージ”について教えてもらった。

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小田直弥先生

「非認知能力」は持ち家率・収入の向上にも影響

――文字の読み書きや計算など学習を通して獲得できる能力を「認知能力」と呼ぶそうですが、「非認知能力」とは何なのでしょうか?

小田先生:非認知能力は、「いまは我慢しよう」と自分の感情をコントロールしたり、「お友達と一緒に問題を解決しよう」と他人と主体的に、協調的に関わったりする「主体性」「協調性」などを指します。2000年にノーベル経済学賞を受賞したアメリカの経済学者J.ヘックマンらの研究によって世界的に注目されるようになり、犯罪率の低下や、持ち家率・収入の向上に影響を与え、将来の安定につながる可能性が示唆されています。

非認知能力のベースは3歳ごろまでに作られるとも言われており、幼い時に身につけるほどよい影響が長く続くとされています。

――具体的には、どのように身につけるものなのでしょう?

小田先生:例えば、子供の日々の“気づき”に対して「それって良い気づきだね」などの“共感”を伝えることですね。それにより、子供は「自分はママやパパにとって大事な人間なんだ」という“自己肯定感”を感じます。子供たちはそこから、他者への思いやりを育むことができ、現実世界の様々な場面で、例えば主体的に「お友達と協力して問題解決をしてみよう!」という気持ちになれる。

非認知能力については、おそらく大人が教え込むことができるものではありません。子供が非認知能力を発揮できるような環境を整え、子供に寄り添うことでゆっくりと育まれていくと予測されます。

「きかんしゃトーマス」は非認知能力に触れるきっかけになる

――自己肯定感がないと主体性も発揮できない。主体性が発揮できないと、現実世界に柔軟に対応する力も伸ばせない、ということですね。ところで、先生は「きかんしゃトーマス」の教育的効果を研究されていますが、どのような研究結果が出ているのでしょう?

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『映画 きかんしゃトーマス おいでよ!未来の発明ショー!』より

小田先生:「きかんしゃトーマス」には非認知能力を伸ばす要素があることがわかっています。TVアニメーション(第13シリーズ~第21シリーズ)について分析したのですが、これらの物語を大きく2つに分類してみました。ひとつは、「私や他者、場についての理解を深める」話。もうひとつは、「他者や役割を含む場へ私がどのように関わっていくか」という話です。前者の中には、自己理解、他者理解、場の理解、役割理解、後者の中には、他者との協力、他者の意見を取り入れる、他者への向き合い方、役割との向き合い方、というそれぞれ4つのテーマが込められていると整理しました。

こういったテーマを子供たちは意識的には見ていません。親は、子供たちと一緒にトーマスを見て、「あのシーンではトーマスは苦しそうだったけど、あなただったらどうしたかな?」というふうに声をかけてみてください。トーマスの物語から、子供たちは非認知能力に関連したものをインプットし、子供がそれを自然と深められるように、親がきっかけを与えてあげるといいでしょう。

ただ、そこで「あのシーンのトーマスはよくなかったから、あなたはもっと優しくしなさいよ」というような決めつけや答えを与えるのはよくないと思います。子供がインプットしたものを広げられるように一緒にアウトプットする感じですね。

プラレールで遊ぶことも非認知能力を広げるきっかけに

――親からは答えを与えないということですね。親の意見は言ってもいいのですか?

小田先生:「お母さんだったらジェームズみたいにはしなかったなぁ」などと言うのも、もちろんいいでしょう。「きかんしゃトーマス」のTVがインプットとなり、それについて話すこともアウトプットになりますが、プラレールで遊ぶこともアウトプットになります。

子供たちがプラレールで遊ぶとき、レールの上を悠然と走るトーマスたちを眺めて楽しむこともあると思いますが、例えばレールからきかんしゃをおろして、手で押しながらごっこ遊びをすることもあるかもしれません。そのとき、子供たちはきっと、アニメーションでみた内容を再現しようとしたり、各キャラクターの特性を活かした遊びをしたりしているように思います。これはまさに、きかんしゃトーマスのTVで得たものを、子どもたちなりの方法で、遊びを通じてアウトプットしていると考えられます。こうした体験は、子供たちの現実世界での非認知能力の応用に結びつくと期待しています。

現実世界を映し出す「きかんしゃトーマス」の多様性

――「きかんしゃトーマス」には多様なきかんしゃや人間が登場しますよね。欠陥の多い、実に人間的なキャラクターばかりで、キャラクター同士の関係性も変化し続けます。

小田先生:そこがトーマスの世界観の非常にユニークな点ですよね。例えば、新作映画『おいでよ!未来の発明ショー!』では、アフリカ系の女性発明家ルースや日本から来た超特急のケンジが初めて登場します。人種やジェンダーが多様なうえに、今回はロボットも出てきます。

ここには、現代の子供たちがこれから生きていく、20年、30年後の未来が映し出されています。これから技術がどんどん発展していって、ロボットが彼らの生活の一部になる。例えば、ロボットが暴走するシーンがありますが、ロボットを単に素晴らしい未来の機械として描いているのではなく、「ロボットを作り出す人間」「ロボットを操縦する人間」、そして「ロボット」という3つの異なる立場にいる者が織りなす関係性の未来が表現されているように思います。機械と人間が作り上げていく新しい世界は素晴らしいけれども、そこには人間の責任も伴う、というメッセージも込められていると思います。

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女性発明家のルース(右)〔PHOTO〕『映画 きかんしゃトーマス おいでよ!未来の発明ショー!』より

――映画の後半は未来よりも、きかんしゃ同士の葛藤が描かれています。

小田先生:世界最速の超特急ケンジが日本から来るときに、ソドー島のきかんしゃは皆、自分の居場所がなくなるのではないかと心配します。彼らは自分たちより優れたきかんしゃに出会って、自己肯定感や自尊心が揺らぎます。既存の調和が保たれた世界に未知のものがやってくる。自分たちは今まで通りでいられるのかどうか……。

こういうときにこそ、非認知能力が試されるわけです。そこで、不安にとらわれたままでいるのではなくて、ケンジを受け入れ仲間にして新しい関係性を作り上げていく。まさに、子供と大人も、日々直面する課題ですよね。子供にとっては初めて行く保育園や幼稚園で新しい友達を作るときに似ているかもしれない。そういった意味でも、「きかんしゃトーマス」の物語性は非常にリアルな人間の生活に近く、子供たちがしなやかに生きるためのヒントになると思います。

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超特急ケンジ〔PHOTO〕『映画 きかんしゃトーマス おいでよ!未来の発明ショー!』より

非認知能力は高ければいいというものではない

――しなやかに生きるためには、非認知能力は高いほうがいい、ということですね。

小田先生:実は、非認知能力は高ければ高いほどいい能力というわけではないと言われています。例えば、チャーリーはいつも陽気で冗談が大好きなキャラクターですが、いつも冗談を言っているがために、動物園の象さんが逃げ出したことを仲間に伝えても信じてもらえないというお話があります。ヘンリーは心配性すぎるがゆえに、役に立つきかんしゃになれなかったこともあります。

加えて、非認知能力の面白い側面として、いつも私たちが安定してその能力を発揮できるとは限らないということがあります。例えば、仲の良い友達との間では協調性を発揮できても、友達とけんかしたあとでは協調性を発揮しづらくなることもあるかもしれない。

つまりは、非認知能力は「あってないような能力」と言えるかもしれませんし、もう少し正確にいうと、特定の文脈に対して発揮される能力とも言えるかもしれません。トーマスの研究チームでは、こうした非認知能力の特性を考え、「非認知能力が高い」ということを、特定の文脈においてどういう行動をとればよいかというストラテジー(戦略)を豊かにもっていることであると考えてみました。

こうして非認知能力に特化した話をしていると、非認知能力だけが大切かのように思われるかもしれませんが、現実社会で生き抜くためには認知能力も必要ですよね。試験を受け、コンピューターを使い、締切までに仕事を終える。そういった現実社会を生き抜くには、認知能力も必要です。一方、勉強ばかりできて非認知能力が低すぎても、“逆境や変化”を乗り越えるのが難しい。

――バランスが大切なのですね。

小田先生:難しく考えてなくても大丈夫です。先ほど、子供が小さいうちは一緒に遊ぶなかで、子供の“気づき”に共感して自己肯定感を丁寧に育むことが大切だと言いましたが、加えて必要なのは、「一貫性」です。子供たちは日々、未知の体験に対して手探り状態で経験から学んだ選択を探っていますが、そこで、「これと似たようなことをしたときに、パパとママは怒っていたな」という一貫性をもった子育てをしていれば、子供も心を整理しやすいのではないでしょうか。

途中で止めることは挫折じゃない

――子供の“気づき”に共感すること、そして、“一貫性”ですね。最後に小田先生にお聞きしたいのですが、小田先生は「こども未来研究所」で音楽教育専門家の観点から研究活動もされています。楽器を子供に習わせる親は多いですが、途中で挫折してしまう子もいます。楽器は大人になってからではなかなか上達しないので、無理やり続けさせたほうがよいのでしょうか? それとも、子供の選択を尊重したほうがよいのでしょうか?

小田先生:途中で止めることをネガティブに捉えなくてもよいと思います。“止める決断”からも、学ぶことがあるはずです。そのときに、「どうして止めるのか」「止める決断を経て、次は何をやってみたいか」ということを一緒に話しながら決めていけばよいのではないでしょうか。「止める=挫折」ではなく、「止める=新しい何かの始まり」と捉えてよいと思います。

子供の特性が今の社会にどうフィットしていくか、ということは親ならある程度は見えると思います。ただ、親でもできないのは、子供が自然には身につけられなかった能力を、偏差値や親本位の願望で無理やりつけさせようとすることです。

「子供がどんなふうに生きたいと思っているのか」に寄り添い、そのなかで何が必要で何が足りないか、子供の自主性を尊重しながらお互いの考えを共有できたらいいと思います。親が自分の考えを押し付けるのではなく、親の経験を共有しながら、これからの子供の人生を一緒に紐解いていく……という態度が素敵だと思います。

映画 きかんしゃトーマス おいでよ!未来の発明ショー!』は2021年3月26日(金) 全国ロードショー!
(C)2021 Gullane(Thomas)Limited
配給:東京テアトル

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