大学の“カタカナ学部”「サステイナビリティ観光」「スポーツウエルネス」...新設が相次ぐ事情とは?

大学の“カタカナ学部”「サステイナビリティ観光」「スポーツウエルネス」...新設が相次ぐ事情とは?

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  • 更新日:2022/09/24
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立命館アジア太平洋大学のキャンパス(同大学提供)

大学の新設学部・学科名には、社会の関心や、時代の空気が表れやすい。来春誕生する中で「デザイン・データ科学」「サステイナビリティ」「スポーツウェルネス」など、カタカナを交えたユニークな名称の学部・学科に注目し、どんなことが学べるのか調べてみた。

【写真】東京理科大のキャンパスはこちら2010年代後半より全国の大学で開設が相次ぐ学部の代表格といえば「データサイエンス」だ。データサイエンスとは、数学、情報工学、社会学といった多分野の知識を駆使しデータを読み解く学問のこと。17年に滋賀大に全国で初めて設置され、23年も名古屋市立大、明星大、京都女子大、大阪成蹊大などで開設が予定されている。

「ブーム」とも呼ぶべき様相の中、一歩先を見据えた動きもある。東京都市大(本部・東京都世田谷区)に23年4月に開設されるのが、「デザイン・データ科学部」。設計や意匠を意味する「デザイン」と、データサイエンスに関係した教育・研究分野を普遍的に示す「データ科学」という二つの単語を組み合わせた。

あえて「データサイエンス」の命名を避けた理由について、同大副学長の関良明教授はこう話す。

「国内で初めてデータサイエンス学部が開設されてから既に5年以上が経過し、私たちはいわば『後発組』に当たります。データサイエンスそれ自体というよりも、それを使って『何ができるか』ということの方に力点を置きました」

目指すのは、プロダクトや空間などの「もの」と、サービスやビジネスモデルなど「こと」の両方をデザインできる人材の育成。1・2年次は理論やプログラミングなど、「データ科学」の基礎に当たる部分を学び、3・4年次ではデザインリサーチやプロジェクトマネジメントなど、より実践的な学習に重きを置く。国際力の強化にも力を入れており、学生全員が海外留学(東京都市大学オーストラリアプログラム)に参加する予定という。

「デザイン」の名前を冠する新設学科に他にもある。例えば、東京理科大(本部・東京都新宿区)の先進工学部に誕生する「機能デザイン工学科」だ。コンセプトは、「ヒトのカラダを助ける工学」。人口減少、高齢化などの社会課題を見据え、人力に代わってQOL(クオリティ・オブ・ライフ=人生の質)の維持に貢献する新たな工学を創出することが狙いという。

研究領域は人間の脳内で起こる現象を扱う「知能認識」、身体内の現象を扱う「メディカル機能」、筋肉・骨などの動きを研究する「運動ロボティクス」の三つに分かれ、これとは別に必修科目として「デザイン思考」に関する科目群が設けられる。後者について、学科主任(予定)の曽我公平教授はこう説明する。

「『デザイン思考』というのは、前例がない問題や未知の課題にこれまでにない視点から答えを出す発想法で、三つの領域を融合する役割を担います。受験勉強では限られた時間の中で、答えがある問題を早く解くことに力点が置かれますが、これからの時代は未知の課題に自らアプローチする方法を学ぶことが不可欠だと考えています」

「持続可能な開発」のための国際的目標を示す「SDGs」への注目から、近年発展しているのが、地球規模の課題に学際的な視点でアプローチする「サステナビリティ学」という学問分野だ。

武蔵野大学(東京都西東京市)では工学部環境システム学科の募集を停止し、代わりに「サステナビリティ学科」という新たな学科を設置する。

「『SDGsウォッシュ』(見せかけ)と言われないよう、理論や理念をもった学科を作っていくつもりです」

学科長の白井信雄教授は、新設に込めた決意をこう語る。19年、「武蔵野大学SDGs実行宣言」を発表。1年次の全学共通基礎課程を「武蔵野INITIAL(イニシアル)」にリニューアルし、SDGsに関する教養科目を必修とした。SDGs関連科目は各学部の教員が持ち回り形式で担当しているが、大学全体のSDGsの取り組みを牽引する役割を期待し、サステナビリティ学科の設置に至った。

課題解決型の授業を重視し、環境システム学科時代から設置していた「サステナビリティプロジェクト」という演習科目を拡大。1週間のうち400分を充てる。これまでには、大学の屋上でのコミュニティガーデン運営や、大学のあるエリアで人と人のつながりを生み出す地域通貨の実験などが行われてきた。

立命館アジア太平洋大学(大分県別府市)に誕生する「サステイナビリティ観光学部」は、名前の通り「サステイナビリティ」と「観光」をどちらも学べるのが特徴だ。二つの領域を掛け合わせた理由について、学部長の李燕教授はこう語る。

「私たちが目指しているのは『持続可能な社会』を作ることで、そのためには、経済発展や地域資源の保護いう観点が欠かせません。観光は、今や世界のGDPの10%を占める重要な産業の一つでもあり、地域資源を生かすものでもあります。両者を合体した発想で、地域の価値創造に取り組みたいと思っています」

授業は「環境学」「国際開発」「観光学」といった科目を含む九つの群からなり、個々のキャリア設計に合わせ、好きな組み合わせで履修できる。ほか、「フィールドスタディ」「インターシップ」「専門実習」の三つを用意する。

03年に早稲田大学にスポーツ科学部が、10年に立命館大学にスポーツ健康科学部が開設されるなど、近年ではスポーツを研究対象とする学部・学科も増えている。そんな中、立教大(本部・東京都豊島区)に来春設置されるのが「スポーツウエルネス学部」だ。「ウエルネス(ウェルネス)」とは、心身の健康に限らず、価値観や生きがいまで含んだ健康観を意味する言葉。「スポーツを通じたよりよい生き方の探究」を目指し、「環境・スポーツ教育領域」「ウエルネススポーツ領域」「アスリートパフォーマンス領域」という三つの領域を揃えた。

共通テスト利用入試では、「3科目型」と「6科目型」の2種類を用意。「3科目型」の必須科目は外国語、国語で、地歴公民・数学・理科から1科目を選択する形になっており、文系・理系を問わず受験ができる。開設準備室長の沼澤秀雄教授は、「スポーツはもともと学際的な領域。文系の学生であれ、データが扱えるということはこれからの時代大切ですので、『文理融合』の視点を意識的に取り入れていきたい」と話す。

時代に合わせて、進化を遂げる大学の学部・学科名。独自性ある名称は、いつ頃から増えてきたのか。大学ジャーナリストの石渡嶺司さんが解説する。

「きっかけとなったのは、1991年に行われた大学設置基準の大綱化です。学部・学科の設置基準が改正され、学部名称がある程度自由に決められるようになりました。91年には芝浦工業大でシステム工学部(現システム理工学部)が開設され、以降、他大学でもカタカナ語を冠する学部・学科が増えていきます」

聞き慣れない単語を含んだ学部・学科名は、学ぶ内容が想像しづらい場合もある。にも関わらず、カタカナの名称を大学が積極的に取り入れるのはなぜか。

今回取材を行った大学には、意図をもった「積極的」パターンと、「やむを得ず」パターンの二通りがあった。

前者の場合、理由は大学により異なる。一つが「受験者層の拡大のため」というものだ。東京都市大の関教授は、「デザイン・データ科学部」を新設した背景の一つに「文系女性の受験者を増やす」という狙いがあると話す。

「デザイン・データ科学部が設置される横浜キャンパスは2013年に2学部4学科体制となり、大学全体で見ても比較的女子学生が多い。開設当初の文理融合の理念や方向性を踏襲しながらも、その発展形を目指したいと思っています」

このような戦略について、ベネッセホールディングスの広告代理店である進研アドの担当者は「大学経営という観点から見ればきわめて自然なこと」と評価する。

「例えば文系学部である『経済学部』でも、データサイエンス教育を導入することで、理系進学を考える受験生を増やせる可能性があります。こういったマーケティング効果を見込んで、時代に合った学問分野を取り入れていくというのは、特に私大の経営にとって必要なことです」

ほかに、「他大学との差別化」という理由も挙げられた。立教大の沼澤教授は、スポーツウエルネス学部の名称を決めるにあたり「他大学で多い『スポーツ』と『健康』、『科学』との組み合わせではなく、『ウエルネス』という言葉を打ち出しました」と話す。

「高校生からすれば聞き慣れない言葉だと思いますが、逆に『何をやっている学部なんだろう?』と気付いて注目してほしい。スポーツへの関わり方は競技だけはないことをあらかじめ知った上で受験してもらえればと思います」

後者「やむを得ず」パターンの場合、「他に適切な名称がなかった」という理由が見られた。武蔵野大学の西本照真学長は言う。

「本学では19年にデータサイエンス学部、21年にアントレプレナーシップ学部、そして今回のサステナビリティ学科と、カタカナ名の学部が続けて誕生していますが、決して奇をてらっているわけではありません。『未来に向けた実践者を育てる』という願いを伝える時に、漢字ではどうしても固定的なイメージになってしまう。結果として、シャープな響きを持ったカタカナ名称が採用される形になっています」

前出の進研アド担当者は言う。

「学部学科の新設に大きな影響を与えるのが、国の施策です。文部科学省はデータサイエンティスト育成事業やSDGs達成のための教育推進に向けた取組に力を入れており、このことが『データサイエンス』や『サステナビリティ』といった学部学科の増設にもつながっています。元になった国の施策が『カタカナ』だったから、学部名も『カタカナ名称』になった側面はあるでしょう」

多くの大学が取り入れることにより、珍しさも薄らぎつつあるカタカナ学部・学科。だが、入学後を見据え、留意したい点もある。前出の石渡さんは言う。

「学部名の影響が表われやすいのが、就職活動です。カタカナ学部・学科の場合、企業の採用担当者から学部名を聞き直されたり、何をする学部なのかを突っ込まれることも珍しくありません。もちろん、カタカナの学部・学科名自体に問題はないのですが、種類が増えるに従い、わかりにくいものも増えてきていることは否めません。大学関係者には先を見据えた判断が求められると思います」

入学後のミスマッチを防ぐためにも、教育内容や過去の就職実績を踏まえ、進路選択は慎重に行ってほしい。

(本誌・松岡瑛理)

※週刊朝日オンライン限定記事

松岡瑛理

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