「日本のドローンメーカーACSL」が万国郵便連合に加盟--鷲谷社長が語る意義と展望

「日本のドローンメーカーACSL」が万国郵便連合に加盟--鷲谷社長が語る意義と展望

  • CNET Japan
  • 更新日:2023/01/25
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国産の産業用ドローン開発を手がけるACSLは2023年1月16日、世界のドローン関連企業で初めて、国連の専門機関である万国郵便連合(Universal Postal Union、以下、UPU)に加盟したことを発表した。本加盟は日本の民間企業においても初めてだという。

Eコマースの劇的な増加や物流の国際化が加速し、新たな技術としてドローンが注目されている。そんな中で、国際ルールを整備する場に唯一のドローンメーカーとして日本の企業が参画する意義は大きく、日本の国産ドローンが国際的な評価を得た証とも言える。

そこで本誌は、ACSL代表取締役社長の鷲谷聡之氏に独占インタビューを行った。「2022年12月9日に、スイスのベルンにあるUPU本部を訪問し、いろいろと意見交換してきた」という鷲谷氏に、UPU加盟の経緯や意義、今後の展望について詳しく聞いた。

「100年待っても、巡ってこない」

万国郵便連合、通称UPUは、1874年に設立されて以降、約150年の歴史を誇る国際機関だ。1948年に国連の専門機関となり、現在は192カ国が加盟し、郵便サービスのグローバルネットワークの維持や、加盟国間における国際郵便サービスのルール制定などを担っている。

従来は、各国の行政機関や日本郵便など、公的に郵便サービスを提供する事業者のみ加盟できたのだが、2022年7月1日より、UPU直下の諮問委員会(Consultative Committee)に、民間企業もメンバーとして加盟できるようになった。

その直後、ACSLは加盟に動いた。「総務省の事業に日本郵便さんと参画したことがある経緯から、UPUの加盟に関する素晴らしいご提案をいただき、是非参加させていただきいと回答した」と鷲谷氏は振り返る。翌週にはUPU Consultative Committeeの座長であるWalter Trezek氏と鷲谷氏がオンラインで会談。12月のUPU本部訪問を経て、UPUの公式サイトでもすでに「日本の上場ドローンメーカーであるACSLがゴールドメンバーとして新たに加盟した」と報じられている。

「国連の組織に民間企業が加盟できる機会、ましてやスタートアップにお声かけいただけるなんて、100年待っても巡ってこない。すぐに加盟したい旨をお伝えした」(鷲谷氏)

UPU公式資料によると、Consultative Committeeへの民間企業の新規加盟は、国の担当省庁や郵便事業体からの推薦状を得る必要がある。つまり、希望すれば誰でも加盟できるわけではなく、郵便サービスに関連する事業を行う企業が、各国の行政機関の許可のもとで参加できるという仕組みだ。

鷲谷氏は「ちょうど2022年1月、UPU事務局長に日本郵便の常務執行役員だった目時さんが就任されたタイミングで僕らが参加できたことも、かなり意義深い」と付け加えた。

ACSL“抜擢”の「2つの理由」

日本郵便が手がける新たな技術の活用はドローンに限った話ではない。なぜドローン、そしてACSLだったのだろうか。

ACSLは2013年の設立以来、ドローンの自律制御システムを研究開発してきた。2017年には画像認識(Visual SLAM)を活用した自律制御技術を商用化するなど、一貫してハードとソフトの両輪での成長を目指している。2018年12月にはドローン専業企業として初めて東証マザーズ市場へ上場。現在も画像処理、AIエッジコンピューティング技術を使った自律制御技術の開発に注力している。

日本郵便とは、まず2018年11月に国内初となる「レベル3」飛行を実施、さらに郵便局間輸送に対して機体を提供して、ともに成功させた。

東京都奥多摩では、国交省から「補助者なし・目視外飛行を行う承認」を取得してドローンを飛行し、地上を走行する配送ロボットとの連携を図るなど、日本郵便が行うさまざまな実証で協働してきた。その上で、2022年12月には、3社共同で物流専用ドローンの新型機を発表し、2023年度中の国内初レベル4飛行を目指している。

鷲谷氏は、「ACSLがUPU加盟にお声かけいただいた理由は2つあると考えている」と語る。

「1つは、公的郵便サービスを手がける日本郵便さんと、単発でのドローン実証ではなく、ドローン配送の実現に向けて資本業務提携を結んで、機体の共同開発も含めて郵便サービスの発展に向けてしっかりと取り組んできたこと。

もう1つは、UPUもドローンには新たなテクノロジーとして常に注目していること。彼らは過去に英国で離島間ドローン物流の実証を行ったときには、まだ時期尚早でスタンダダイゼーションに発展することはなかったけれども、期が熟したいまこそ、本格的に取り組みたいという意向が高まっていることだ」(鷲谷氏)

これまでの日本郵便との取り組みの積み重ねと、技術の成熟、国際物流に求められる新たな技術の活用とそれに伴うルールメイキングの必要性が “うまくハマった”と、手応えを滲ませた。

ちなみに、鷲谷氏は日英バイリンガルでUPUでのプレゼンや議論においても語学障壁が全くない。ACSLの開発部隊も、クリス・ラービCTOを筆頭に外国籍エンジニアが多く、社内の使用言語は日英デュアルだという。「僕らがインド、アメリカ、シンガポール、ASEANとグローバルに事業展開していることも、UPU加盟につながった一因かもしれない」(鷲谷氏)

UPU加盟、2つの意義とは

UPU加盟の意義を聞くと、鷲谷氏は「UPU本部での議論で、すごく面白いなと思ったことがある」と切り出した。ドローン物流は各国の郵便事業体がさまざまな実証を行っているが、「ドローンが郵便事業で国境をまたぐとき」のルールメイキングは、まさにこれからなのだ。

例えば、南米大陸の北に位置するカリブ海。7000もの島から構成されるカリブ諸島は、10カ国以上にまたがる。今は船で国際郵便物を運んでいるが、ドローン物流で国境を飛び越えて届けたほうが早いケースは多く、脱炭素への要請からもドローン活用へのニーズは高い。

「ドローンを飛行させるときに関連する航空法、電波法など、各国間で異なるレギュレーションを、国際物流としてどう標準化していくかは、今後大きなテーマになってくると思う」(鷲谷氏)

また、Eコマースが激増するなか、現在の国際郵便の仕組みでは、各国内で決められた国際郵便を取り扱う物流拠点を経由して、正規のルートに従って配送しなければならず、結果的には陸路でかなり遠回りすることが多い。

「ドローンは、国境があるようでないような、新しい技術。ドローンを使ったオンデマンドデリバリーを本当に実現しようとすると、やはり既存ルールの見直しが必要になる」(鷲谷氏)

機体メーカーであるACSLがUPUに加盟する意義について、鷲谷氏はこのように整理して述べた。

「UPUに加盟する意義は、大きくは2つある。1つは、これからできるルールを、ドローンが普及しやすいようなものとして作れるようになること。例えば、先ほど話したカリブ海の国際ドローン輸送が認められてルールができれば、僕らからすると市場がアンロックされるということで、これは各国のドローンメーカーにとって意義深いことだと思う。

もう1つは、新たなルールを検証していくときに、実証実験や検証プロジェクトが走る。そこに参画することで、その地域や国の郵便事業体との繋がりを深めて、僕らの事業に還元していくこと。前者は労力はかかるがドローンの普及を邪魔しないようルールを作ることで事業拡大の素地を整える、後者は売上に直結していくという、2つの意義がある」(鷲谷氏)

非合理的な「日本の住所システム」がドローン配送に最適なワケ

さらに鷲谷氏は、「日本のドローンメーカーがUPUに参画する意義もかなり大きい」と強調した。着眼点は、「ドローンはGPS座標で飛行する」という点だ。

欧米ではメイン通りに沿って左右に番地が振られているため配達業務もシンプル。一方、日本は一定の区画ごとに、一見するとランダムで非合理的に番地が振られているところに配達するため、配達業務が煩雑になりがちだ。しかし、日本郵便はどの配達員も間違いなく時間通りに配達でき、区画内の番地が更新されても、その配送クオリティを維持できるという、膨大なノウハウを持っている。しかも、途中で箱が壊れたりすることもない。

そして、GPS座標で飛行するドローン配送には、欧米的な通りに沿ったルート飛行よりも、日本的な区画概念のほうが効率的でマッチするという。鷲谷氏は「だからこそ日本がリードすることに意義がある」と話す。

「いまの実証は1対1の配送なので、ピンとこないかもしれないけど、多数配送するようになると区画ごとに飛ぶということになってくるので、日本郵便さんの知見がすごく生きてくると思う。国際ドローン物流においても、日本郵便さんの知見をグローバルスタンダードに生かしていきたい」(鷲谷氏)

今後の展望

今後の具体的な活動について、まず直近では、Consultative Committeeで設けられている6つのワーキンググループのうち、「FREIGHT AND TRANSPORT(貨物輸送)」に参画したいと考えており、自動運転など他の新技術を提供する企業と議論を整理していくなかで、ドローンについてリードしていくという。

また、2023年春にUPU本部で開催される4年に1度の「大会議」に合わせて、新興国をはじめとする他国の郵便事業体に向けて、日本の取組を発信するためのシンポジウムを、同じタイミング同じロケーションで実施したい意向だ。

将来的に、他のグローバルドローンメーカーがUPUに加盟する可能性もゼロではないが、郵便事業体との取組がない限り、今後もUPU加盟は考えにくいという。「FAA(アメリカ連邦航空局)や、ICAO(国際民間航空機関)のように、航空機のルールを定める機関の議論に、ドローンメーカーが加わるというのは、自分たちの規制に関わることなので参加して当たり前だと思うが、飛べるようにするだけじゃなく社会実装していくために必要な標準化にもきちんと関与していくことは、産業を創るために不可欠なアクションだと考えている。UPUはICAOとも意見交換ができる立場。ACSLは、上場企業としてグローバルでも責務を果たしていきたい」(鷲谷氏)

中長期的には、カリブ海やASEANなど島嶼地域などでの、国際ドローン物流の実証実験への参加を目指すという。新たなルール策定のリード、国外における事業の新たな基盤づくりも、着実に進める構えだ。

もしかすると、かつてUPUがドローン物流の実証を行ったイギリスなども、実証の候補地としてあり得るかもしれない。鷲谷氏は、「Consultative Committeeのドローンへの思い入れも強い印象だ。さっそくUPUでのドローンに関する取組の資料やリンクを共有いただけている」と明かした。

最後に、鷲谷氏自身が飛ばしたいエリアを尋ねてみた。「フィリピンなど津波や台風の被害で本当に困っている方のところへ、ドローンで物資を届けるのは社会的な意義も大きいので絶対にやりたい。一方で個人的には、エーゲ海に浮かぶサントリーニ島で、日本郵便さんの赤い機体を飛ばして、あの風景にドローンが溶け込んでいる絵を発信したいなと思う。世の中、一般の方々のドローンに対する認識や印象をもっとガラリとよいものに変えていくことも、ドローン業界全体で取り組むべき喫緊の課題ではないだろうか」(鷲谷氏)

藤川理絵

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