夢は心身のパラメーター? 悪夢と結びつきやすい“疾患”とは

夢は心身のパラメーター? 悪夢と結びつきやすい“疾患”とは

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  • 更新日:2022/11/25
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写真はイメージ(Getty Images)

寝ている間に夢を見ない人はいないだろう。自分の意思ではコントロールできず、不思議な展開をすることも多い夢には、一体どのような意味があるのか。夢研究の第一人者として知られる研究者に聞いた。

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悪夢を見て夜中に目を覚まし、「この夢にはどんな意味があるのか」と考え込んでしまった経験はあるだろうか。

大手出版社に勤める40代の編集者・アユミさんには、最近見た中でひときわ印象に残った悪夢がある。夢の中で、アユミさんは職場の上長から指示を受け、見も知らぬ誰かを殺している。自分が殺されないために誰かを殺した──そう言い訳をし、現場から一目散に逃げていく。場面は変わり、アユミさんは車の中。隣には実父が座っているが、実家で一緒に暮らしていた頃に比べ、明らかに痩せている。そう指摘すると父親は急に泣きだし、「自分はPTSD(心的外傷後ストレス障害)だ」「人生を振り返るとこうならざるを得なかった」とアユミさんに訴えてきた。「殺したから、殺されない。もう大丈夫だよ」と父親に声をかけ、車は走り抜けていく。そこで夢は途切れ、目が覚めた。アユミさんは、「人を殺したり、『PTSD』という具体的な単語が出てきたりと、生々しい感じがしました。数日前に担当した本が校了し、解放感を抱いていたところで、このタイミングでどうして悪夢を見るのかも不思議でした」と振り返る。

自分の脳内の現象なのに、いつ悪夢を見るかは予測できず、筋書きも内容も決められない。考えてみれば不思議だが、そもそも夢にはどんな役割があるのか。臨床心理学の立場から夢についての聞き取り調査や悪夢を減らすための心理療法を行う東洋大学社会学部の松田英子教授(博士・人文科学)はこう指摘する。

「人の脳は日中、膨大な量の情報をインプットし続けていますが、睡眠中は活動が縮小し、入ってきた情報を整理している。図書館の客足が途切れた時間帯のような状況下、情報を弁別し、いらなくなった記憶を処分したり、新しい記憶を古い記憶と関連づけたりすることが夢の役割だと言われています」

夢を読み解く上では「トリガー」と呼ばれるきっかけへの注目が必要だと、松田教授は話す。

「トリガーとなりやすいのは1週間くらい前までの経験で、連想をもとに関連素材が引っ張り出され、一つのストーリーになる。それがストレスフルなイベントや、自分の中で気にかかっていることだと、なおさら悪夢になりやすい。殺される夢は一般的ですが、アユミさんの場合、校了まで一生懸命仕事に打ち込んでいたからこそ考えなくて済んでいた課題との関係が考えられます。しかし逃げ切って大丈夫と励ますという結末なので、課題にも対応できそうです」

アユミさんは、悪夢を見る数日前までは「締め切りに間に合わなければ自分は首になるのでは」というプレッシャーを常に感じていた。そういった心境が、夢に影響した可能性も考えられる。

ところで、いわゆる「夢占い」のように、夢を潜在意識や欲求の象徴と捉える見方は根強い。アユミさんの夢にも同種の解釈を当てはめたくなるが、「その見方はもう古い」と松田教授は指摘する。

「夢とは連想のつなぎ合わせのようなもの。悪夢ならば自分の状態を知るのに役立ちますが、ほとんどのものはそうではなく、出てくるものすべてに意味があるとも限りません。例えば『PTSD』は、すでに一般的に使われる言葉。自分が知っている病気の単語に『PTSD』が含まれていて、何かのはずみに刺激されて出てきただけという可能性もあります」

『悪夢障害』(幻冬舎新書)などの著書を持ち、現在も精神科医として学生などを対象とした臨床活動を行う早稲田大学スポーツ科学部の西多昌規准教授も、「試験など、プレッシャーを感じる出来事がある前後に悪夢を見る人は多くいます。夢を見て一晩ぐらいうなされたからといって、さほど気にする必要はありません」と断った上で、「ただし、疾患によっては悪夢が重要な兆候となっている場合もあります」と続ける。

どのような場合に疾患の可能性を疑うべきか。

「目安は『悪夢が連日続いているか』『睡眠不足が日中の生活を妨害しているか』の2点。悪夢を見て眠れない状態が週に3~4日以上続き、仕事など日常生活に支障が出る状態が続くと心配です。精神科の受診を検討してみてください」

■睡眠中に妻殴打 神経疾患が関係

悪夢と結びつきやすい疾患には、どのようなものがあるのか。よく名前が挙がるのはうつ病だが、「実は精神科医の間でも、悪夢とうつとは関連が高いとはそれほど思われていません。うつの場合は、気分が沈んだり、意欲が出なかったり、食欲や睡眠、体調の問題、極度の後ろ向きな思考など、確かなサインを伴っていることが多いです」と西多准教授は言う。

他方、悪夢との関連性が高いのがPTSDだ。

「戦争や災害の文脈で語られることが多いですが、いじめやハラスメントを受けても発症することがある。悪夢に加え昼間のフラッシュバックなど過覚醒を伴う場合、可能性が疑われます」(西多准教授)

そのほか、高齢者の男性に多い障害にレム睡眠行動障害がある。人間の睡眠には眼球がキョロキョロと動く「レム睡眠」と、レム睡眠以外の「ノンレム睡眠」という二つの状態があり、特にレム睡眠の時ほど、鮮明な夢が生じやすいと言われる。レム睡眠の最中は脳からの運動指令を遮断する機能が働き、腕や脚などの筋肉を活発に動かすことができない。ところがレム睡眠行動障害では、夢と行動とが結びつき、「睡眠中に怒鳴り散らす」「誰かから逃げ回るように徘徊する」「隣で寝ているパートナーを殴りつける」といった症状が表れる。

会社員の場合、部下に指示しているような言動が見られることもあるという。背景には脳の神経疾患が関係していると見られ、特にパーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症など、脳や脊髄にある特定の神経細胞が徐々に障害を受け、脱落してしまう病気の前駆症状である可能性が指摘されている。

「レム睡眠行動障害の場合、本人には自覚がなく、ケロッとしていることも少なくありません。下の階で寝ていても夫や父親の寝言が聞こえるとか、徘徊していて近所から苦情が来たといったことがあれば、可能性を疑っていただけたらと思います」(同)

夢は自分の心身の状態を教えてくれる目安のようなもの。ぜひ一度、現実的に向き合ってはいかがだろう。(本誌・松岡瑛理)

※週刊朝日  2022年12月2日号

松岡瑛理

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