ファンとの共創共鳴、BTSは「新しい芸術」の形か

ファンとの共創共鳴、BTSは「新しい芸術」の形か

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2022/09/23
No image

彼らを「際立たせている本当の理由」とは(写真:Axelle/Bauer-Griffin/GettyImages)

もはやエポックメイキングと言えるほど、世界的な人気を博す韓国のスーパーグループ「BTS」。その一挙手一投足に注目が集まり、彼らの発言、持ち物、愛読書、聴いている音楽などが、SNSを通じて瞬く間にシェアされ、彼らを理解する手がかりとして、ファンの心に刻まれる。

今年3月には、地元ソウルで行われたコンサートで、メンバーのV(ヴィ)が「ARMY(BTSファンの呼称)の皆さんに伝えたい言葉」として触れた詩集『愛しなさい、一度も傷ついたことがないかのように』が話題となった。韓国の詩人リュ・シファが編纂した詩集で、本国では100刷突破というベストセラータイトルだ。

リーダーのRM(アールエム)も読んだとされるその日本版の刊行にあたり、「推し」の現象やBTSの人気の秘密について多くの発信をしている教育者の鳥羽和久氏に、改めてBTSの魅力や、彼らと文学の関係などについて話を聞いた。

新しい時代の優しさを体現する存在

言語や文化を超えて、なぜ人々はBTSに夢中になるのか。もちろん、メンバー自身が作詞作曲に携わるメッセージ性の強い楽曲や、パワフルで独創的なダンスパフォーマンスなどさまざまな要素が挙げられます。他方で、私は彼らがライブのトークやバラエティー番組の中で見せる人間性や、メンバー同士の関係性の構築のしかたの中に、ファンたちが新しい時代の優しさを感じ、それが深い共感に結びついているのだと思います。

No image

BTSがソーシャルメディア戦略によって世界的にファンを拡大したことは、いまでは周知の事実です。公式YouTubeチャンネルで配信されている動画や独自のバラエティー番組に加え、ファンが自ら編集した彼らを愛でる無数の動画がさらなるファンを呼び込み、ファンダムの規模が拡大していくと同時に、メンバー1人ひとりの人間性に対する深い理解が広がっていったのです。

メンバーに対するさりげない配慮的なふるまいや、スタッフやファンへの気遣いなど、ほとんど天性と感じられるような、彼らの優しい人柄と愛くるしさを動画の中で発見した多くのファンたちが、胸をわしづかみにされ、彼らに「沼落ち」したのです。

BTSのメンバーは、ARMYを信頼していることを公言していて、自分たちの考えや興味のあることなどを、オープンに伝えてくれます。

今年の6月にファン向けのイベント期間に公開されて、世界的な話題となった「防弾会食」(彼らがアイドル産業の問題点やチームとしての表現の限界について率直に語ったことで「グループ活動休止」と大きく報道された)がありました。表面的なメッセージにとどまりやすい既存のアイドルであれば決して語りえなかった本音まで伝えようとしたからこそ、大きな反響が起こったと言えるでしょう。

毎日のように発信される「メンバーの声」

BTSが自分たちのリアルな言葉にこだわるのは彼らの音楽的ルーツと切り離して考えることはできません。

彼らが楽曲制作の核の部分を自分たちで行っていることは有名な話ですが、BTSはもともと「防弾少年団」という名にふさわしく、社会の理不尽さや大人の噓に対する若者の怒りをたたきつけるような楽曲を歌うヒップホップグループとしてキャリアをスタートしています。

そんな彼らはいまでも、ヒップホップ音楽でとくに重視されるオーセンティシティ(=メッセージの真実性)を大切にしていて、自分たちにとってできるだけ真実に近い言葉を探り続けているのです。

そのメンバーたちに呼応するようにARMYたちは彼らが好きなもの、興味のあることの中にも真実性を見いだそうとします。

メンバーたちはことあるごとに好きな映画や音楽、ファッションや絵画等をさかんに教えてくれます。ARMYたちはそれらの中に彼らをもっと深く知るヒントに加え、自分の人生さえも深めてくれるものがあるに違いないと信じ、それに触れようと努力するようにさえなるのです(オンラインゲームが好きなJIN沼に深入りしすぎたファンたちは、ゲームというもっとも生産性がないことをやり続ける彼の行為の無意味さにさえ、人生の深い意味を見いだすようになります。ARMYはすごい)。

彼らが特によく紹介する「好きなもの」のひとつが彼らの愛読書です。本人たちの口から語られたタイトルを始め、動画や写真に写り込んでいたものなど、本に関する情報の蓄積は膨大で、それぞれのメンバーが読んだとされる本のリストをまとめている有志のファンもいるほどです。

本の影響が感じられる歌詞

メンバーの中でもRMはとくに読書家として知られています。休暇のための旅先にも本を持って行くなど、彼にとって読書は、ごく日常的な習慣なのでしょう。RMはBTSの歌詞を数多く手がけているメンバーでもありますが、そのメタファーを多用した文学的な言葉選びはもとより、本の一節をそのまま引用した歌詞もあるなど、彼の読書歴がBTSの世界観に与えている影響は非常に大きいものがあります。

先日、RMはインスタグラムのストーリーズに、哲学者ニーチェの言葉がプリントされたTシャツを着た姿をアップしました。

ONE MUST STILL HAVE CHAOS IN ONESELF TO BE ABLE TO GIVE BIRTH TO A DANCING STAR.
カオスを内に秘めた人こそ躍動する星を生み出すことができる

単なるファッションではなく、彼は当然ニーチェの思想に触れているでしょう。というのも、デビュー当時から、インタビューなどでニーチェの言葉を何度か引用しているからです。それにRMが書く歌詞は、どことなくニーチェとのつながりを感じさせるものが多いです。

ニーチェの「カオス」(Chaos)の用法は、一般的には世界の混沌を表す言葉として知られているのではないでしょうか。そういうどうしようもない現実を受け入れろというニュアンスで解釈されることが多く、過去にはRMもそういう文脈で使っていたと思います。

でも、実際のところニーチェはその言葉をもう少し力みの少ないニュアンスで、言ってみれば、人生の中での「自然な流れ」というようなニュートラルな言葉として使っています。

その流れにただ身を任せていると流されるだけなので、流れを自分なりに図式化(構造化)して、自分なりの「詩作」を続けること。それにより、人はようやく生きていける──。そんな話をニーチェはしているのです。

BTSは今年6月にソロ活動に専念することを発表しましたが、RMが新たな方向へと向かう姿とニーチェの言葉が重なり、私にはあのTシャツの言葉が「これからはもっと図式化しながら詩作をやっていくんだ」という彼の意思表示にも感じられました。

メンバーの発言の裏側にあるもの

日本で翻訳版が刊行となった韓国の詩集『愛しなさい、一度も傷ついたことがないかのように』も、RMは読んだとされている。この本のタイトルは、今年3月にソウルで行われたBTSのコンサートにおいてメンバーのVが触れたため、ファンのあいだで改めて注目を集めた。

コロナ禍以降、メンバーもファンも念願だった、地元ソウルでの初の有観客コンサート。その最終日の最後のコメントという大事な場面で、「ARMYの皆さんに伝えたい言葉」として、本のタイトルが贈られたのだ(V本人は「一度も愛されたことがないかのように、愛しなさい」と、言い間違えてしまったようである)。

しかも、「お風呂で読んで寝落ちしちゃったんです」というエクスキューズがあったことで、自由奔放な言動が魅力で「四次元」というあだ名をもつVらしいエピソードとしてARMYのあいだで話題となった。

No image

出所:『愛しなさい、一度も傷ついたことがないかのように』

Vが引用しようとしたこの詩(詩集のタイトルにもなっているアルフレッド・D・スーザの詩「愛しなさい、一度も傷ついたことがないかのように」)には、「偶然との邂逅(かいこう)」というテーマがあると私は思います。

No image

目的性に巻き込まれず、今を生きるというあり方ついて語っている。「一度も傷ついたことがないかのように」とは、過去の傷が足かせになると、今誰かを愛することができなくなるということ。過去や未来ではなく、今を生きる。Vはそれをくみ取ったうえで、伝えようとしたのだと思います。

確かにこの詩集は、BTSのメンバーが読んでいても不思議ではない内容です。なかには、それぞれのキャラクターと重なる部分が感じられる詩もあります。そこでこの詩集に親しむ一助になればと、メンバーに合う詩を選び、その読み解き方について次回解説します。

(構成:能井聡子)

(鳥羽 和久:教育者、作家)

鳥羽 和久

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加