アマゾン物流倉庫、組合結成か? 歴史的開票結果まで秒読み

アマゾン物流倉庫、組合結成か? 歴史的開票結果まで秒読み

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2021/04/09
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先週アラバマ州ベッセマーで、アマゾンでは初めての労働組合結成の是非を問う投票が行われた。ベッセマーには昨年3月に発送センターが開設され、地元の当局者は、この施設がもたらす雇用と税収入による経済効果は2億200万ドル(約220億円)と予告していた。

さて、今回の投票に至ったワケを知りたければ、ジェニファー・ベイツに話を聞くのが一番だろう。ベイツは48歳の倉庫従業員で、昨年5月にこのリテール・ジャイアンツのベッセマー発送センターに雇用され、3日とたたずに仕事が体に苦痛をもたらすものであることを思い知った。

ベイツは、1日10時間立ちっぱなしで商品のスキャンや発送のための荷造りを行い、わずかな休憩時間の大半を8万平方メートルもの広さがある巨大な倉庫内の近くのトイレとの往復に費やす日々を送ってきた。四六時中、ものすごい速さで身体を動かし続ける毎日は、健康を損ねても不思議のないものだった。

肉体的な疲労だけではなく、自分の一挙手一投足を見張られているのがわかっているストレスにもさらされている、とベイツは議会上院の公聴会で語っている。作業の速さについていけなければ、罰を受けるか解雇されることになる。

大統領、議員も巻き込む論戦に

「目が回るほどの速さだった」と、彼女は議会で証言した。「しかも常に『監視』されていると感じる。私たちは機械のひとつとしか見られていない」

その「機械」はベッセマー発送センターだけで5800人いて、出版物、食料品から娯楽グッズまで、アマゾンのビジネスには欠かせない役割を果たしている。

アマゾンは1994年の創業以来、まるで強迫観念のように顧客満足度のアップを目指し、商品を工場から購買者の戸口に瞬時に運ぶために、ビジネスの形態を急激に変化させてきた。そのあおりをまともに食ったのが、たとえばベッセマーの従業員だった。

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「会社は何より生産性を優先させている」と、クレモント大学で作業の自動化とそれが労働者に及ぼす影響について研究するリチャード・パク教授は言う。「私たちは増え続ける注文にどう応じていけばいいのか?」

その疑問に対するアマゾンの答えが、ベイツと同僚たちの利害と正面からぶつかることになり、この全米2位の企業に初めて労働組合が組織される可能性が出てきた。

成功すれば動きが会社全体に広がることも考えられ、激しい言葉の応酬が交わされるようになった。会社側は発送センターのトイレに、組合に入らないことも労働者の権利だと訴える大きな紙を貼ったり、ウェブサイトで「苦労して稼いだ金を組合費に使うより、その金で食料品や学用品を買うべきだ」と主張したりした。論争の舞台は全米に広がり、バイデン大統領はじめ、女優兼脚本家のティナ・フェイ、アメフトの有名選手などが発言し始めた。

つい先ごろ、アマゾンのジェフ・ベゾスCEOがツイッターで、バーニー・サンダース、エリザベス・ウォーレンの両上院議員と論争を行ったことも報じられている。3月26日にはサンダース上院議員がアラバマ州を訪れ、組合支持を表明した。

「これは金の問題ではない」と、ラトガー大学で労使関係を研究するレベッカ・ギヴァン教授は言う。「労働者はアマゾンが自分たちの仕事を完全にコントロールしようとしていることが不快なのだ。極端なまでの監視態勢や、まるでプログラムに管理されているような作業ノルマと速度に、人間扱いされていないと感じている」

投票の行方はまだわからないが、組合結成の動きが別の地域に波及する可能性は高い。

昨年には、ニューヨークやデトロイトのアマゾン従業員がコロナ禍での労働条件改善を訴えてストライキを行っている。ベッセマーの労働者の主張を代弁する「小売業・卸売業・デパート組合」は、全米各地の1000人のアマゾン従業員から意見聴取を行った。全米トラック運転手組合「チームスターズ」で対アマゾン全国キャンペーンを主導しているランディ・コーガンによれば、アマゾンの多くの従業員から労働条件と賃金に対する不満が寄せられているという。

「世界一の個人資産」は過酷な労働に支えられている?

2005年、プライム会員へのサービスとして100万種類の商品の2日以内の無料配送を始めてから、アマゾンはその配送スピードをさらに速めている。2019年には、競合するウォルマートやターゲットがアマゾンの配送スピードに追いついたこともあり、同日配達を新基準にするロジスティック能力獲得のために投資を行うと発表した。また、世界50の都市では、「Prime Now」の一環として2時間以内の無料配送を展開している。

これまでも従業員や政治家から職場環境について非難を受けてきたアマゾン。今回、コロナ禍下での購入者の自宅への配送と集荷により、健康と安全が脅かされているという従業員の不満を浴びることになった。ただし、コロナ禍によってアマゾンの純利益は210億ドルへと倍増し、ベゾスの資産も650億ドル増加し、現時点で世界一の個人資産1810億ドルに達したと言われる。従業員はその利益を還元できていないと主張している。

「アマゾンが、新型コロナに立ち向かう『団結』を果たせない危険は大いにある」と、D・A・デヴィッドソンの小売担当アナリスト、トム・フォートは言う。

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バーミンガム近郊にある人口2万7000の町ベッセマーで行われている組合結成運動は、生産性優先のノルマ、常時の監視態勢、わずかな休憩時間といった労働条件の改善を最大の目標にしている。むろん従業員は高い賃金や手当ても求めているが、その要求が前面に出ないのは、アマゾンが初任者の時給を国が定めた最低賃金よりはるかに高く、競合他社もしのぐ15ドルに定める戦略をとっているせいでもある。

ベッセマー発送センターの従業員の初任給は最低15.30ドルで、これはアラバマ州の最低賃金の2倍以上である。そのうえに、医療保険、眼科保険、歯科保険、確定拠出年金ばかりか、学費補助まで付いている。

「アマゾンはすでに、組合が要求していることをすべて提供しているといえる。業界一の給料、就業1日目から得られる包括的福利厚生、キャリアアップの機会、安全で現代的な労働環境などだ」と、アマゾンの広報担当者ヒーザー・ノックスは語っている。彼女が言うには、組合は労働者の多数意見を代弁しているわけではない、とのことだ。

だがこの職場環境には、従業員の生産性を監視し、作業の遅れを警告し、無気力に行われている作業を記録するコンピューターも含まれている。

調査報道サイトRevealの入手した内部データによれば、2019年には100人の従業員につき7.7人が深刻な事故に遭って職場を離れるか、別の作業に異動せざるを得なかったという。この数字は3年前と比べて33%増えており、業界平均のおよそ2倍である。

アマゾンは今後もなお、作業場の設備充実や日々のストレッチ励行、人の行き交う通路とフォークリフト路の分離など、訓練やテクノロジー、会社施設における安全性強化のためのインフラ整備にお金をかけていくと宣言しており、さらに職場の健康と安全に関わる人員を6200人に拡充する予定だ。

サプライチェーンのコンサルティング会社MWPVLInternationalの創業者であるマーク・ウルファートに言わせると、「アマゾンは従業員からあまりにも多くのものを絞り出そうとしている」とのことだ。

ロボット介入で、ヒトのノルマは「1時間に300商品以上」に

また一方で、人間とロボットの共同作業の新たな問題も生じている。たとえば、商品をピックアップするためにロボットが通路を移動する距離が次第に伸びており、これは幸いにも、従業員が固いコンクリートの床を1日に10キロも20キロも歩きまわる作業から解放されることを意味する。従業員は一カ所に留まり、ロボットが持ってくる商品を受け取ってスキャンすればいいことになる。

ところが、それによって作業はこれまで以上に「同じことの繰り返し」になる。つまり、これまでは「1時間に100商品」を処理すればよかったのが、ノルマが「1時間に300から400」にはね上がったとニューヨーク・タイムズが報じている。このデータについては、アマゾンはコメントを拒否している。

ベッセマーの従業員が組合結成に成功すれば、ノルマの低減や休憩時間の延長を交渉することになるだろう。それによって発送にかかる時間が長くなれば、会社は注文をさばくためにさらに多くの人員を雇用するようになるはずだ、とトム・フォートは言う。それは会社の純利益を食いつぶす追加経費となり、従業員の賃上げに応じるだけではすまなくなる。

こうしたことは全部アマゾンが解決すべき問題と言ってしまえればいいが、自動化の加速は最終的には人間のする仕事を減らしてしまうことになるから、従業員にとっても問題になる。いまのところ、まだこうした問題が表面化したことはなく、アマゾンは施設や設備の自動化を行う一方で、米国内の正社員と非正規社員を5年前の18万人から95万人に増員している。この先数年でウォルマートを抜く国内最大の企業になることを目指している。

「アマゾンの究極の目標が『倉庫の完全自動化』であることは間違いない」とパク教授は言う。「だが、まだ組合に『いいとも、みんな出て行ってくれ。われわれにはこの倉庫がある』と言ってしまうだけの態勢はできていない。この会社もまだ脆弱な立場にあるのだ」

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