キャスター岸 大河さんと振り返るVCT・ZETA DIVISIONの軌跡、今後の日本チームへの期待や課題も聞いた

キャスター岸 大河さんと振り返るVCT・ZETA DIVISIONの軌跡、今後の日本チームへの期待や課題も聞いた

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  • 更新日:2022/05/14
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世界3位という偉業を成し遂げた「ZETA DIVISION」を中心に、「VCT 2022 Stage 1 Masters」についてキャスターの岸 大河さんに振り返ってもらった

4月4日から24日までアイスランド・レイキャビクで開催された「VALORANT」の世界大会「VCT 2022 Stage 1 Masters」にて、日本代表として参加した「ZETA DIVISION」が、世界3位という歴史的快挙を成し遂げた(関連記事)。

私はVCT 2022 Stage 1 MastersのZETA DIVISION戦はすべて観戦したのだが、選手の皆さんの活躍に感動したのはいうまでもないが、印象的だったのが視聴者と一緒に喜びを爆発させる公式キャスターの皆さんの姿だった。ZETA DIVISIOがラウンドの勝敗ごとに一喜一憂し、プレイオフ進出が決まった瞬間には涙を流した。

長くからeスポーツシーンを間近で観続けてきたキャスターの方々にとっても、今回の偉業については何か感慨深いものがあったのだろうと感じた。そこで今回は、日本の公式キャスターで週刊アスキーにも寄稿してもらっている岸 大河さんにオンラインインタビューを実施。当時のことについて振り返ってもらったほか、今後のeスポーツシーンについてや、キャスターとしての心境について伺った。

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VALORANTの日本公式放送で実況・解説をつとめる岸 大河さん。元トッププレイヤーという経歴を活かした実況に定評がある

歴史的快挙に素直に感動、一方で3位でよかったという想いも 大会前のベスト4予想の真意とは?

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常にあとがないLower Bracketからの世界3位には、本当に驚いたという

──本日はよろしくお願いします。まずは、ZETA DIVISIOの今回の快挙について、率直な感想を教えてください。

岸 大河さん(以下、岸さん):3位になった試合は、前のLOUD対OpTic Gamingの実況をしたあとに、すぐにタクシーでオフライン会場に行って観戦しました。すごく感動しましたし、よく勝ったなという試合内容だったなというのは覚えています。オフライン会場の熱気もすごかったです。

──時間が経って、改めて3位という順位についてどう思われますか?

岸さん:ZETA DIVISIONの皆さんには失礼かもしれませんが、あそこで勝てていなくてよかったかもなと、今となっては思う部分もあります。

──というと?

岸さん:あのとき優勝しているよりは、負けてさらに強くなったZETA DIVISIOが観たいという想いが出てきたからです。ZETA DIVISIONはもちろん勝って終わりのチームとは思いませんが、より大きな壁が立ちはだかって、それに向かう険しさというのも、彼らをさらに強くするんじゃないかなと思うので。また一段階踏み直して、ジャンプしてほしいです。とはいえ、かなり厳しい道のりだったのに、素晴らしい成績を残されたなとも思っています。

──大会前の「SmashlogTV」にてZETA DIVISIONはベスト4に行けるとコメントされているのを観ました。このとき、どのような理由でこのコメントをされたのでしょうか。

岸さん:もちろん応援もありますが、彼らの強さを考えての意味もありました。半々ですね。また、グループがよかったというのもあります。

──予選グループですか?

岸さん:そうですね。「DRX」は強敵なのはもちろんですが、今まで戦った経験があるので、比較的対策はしやすいかなと当時は思っていました。また、「Ninjas in Pyjamas」もかなり強いチームではありますが、ZETA DIVISIONにも対抗できる力があると予想していました。あとFnaticは、メンバーチェンジを重ねており、コロナの関係で主力のDerke選手がプレイオフ以降ではないと出場できないということもあったので、こちらも勝機はあると考えていました。

──なるほど。ただ、ZETA DIVISIONは初戦でDRXに敗れてしまいました。

岸さん:そうですね。私が予想していたのは、Winnersで勝利してプレイオフ進出&ベスト8、そこから1勝してのベスト4でした。しかし、1回戦でDRXに敗れてあとがなくなってからのFnaticとNinjas in Pyjamasへの勝利、さらにはG2 ESPORTSに敗れてからの、まさかのTeam Liquidへの勝利、さらには、1度敗れたDRXにも勝つというのは、本当に予想外でした。

Team Liquid戦は夢を観ているようだった 岸さんが感じたZETA DIVISIONの強さとは

──どの試合も素晴らしかったですが、岸さんがもし選ぶとしたらベストバウトはどの試合ですか?

岸さん:難しいですね(笑)。一番記憶に残っているのは、Ninjas in Pyjamas戦の逆転勝ちで、一番のターニングポイントだったと思っています。

──確かに、あの試合で大逆転したときは、深夜ということを忘れて叫びました。

岸さん:あと、自分で実況しながら夢のようだなと感じたのは、Team Liquid戦ですね。最初のフラクチャーで8対0になってTeam Liquidがタイムアウトを取ったときは、夢を観ているんじゃないかって思いましたよ。正直、動揺しまくっていました(笑)。Team Liquid相手にZETA DIVISIONが1ラウンドも取られずに勝ち続けているということに「いったい何が起きているんだ」と。しかもそこから勝ち切ってしまいましたから。

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初戦で夢を観ているのかと思うくらいの大差をつけたTeam Liquid戦がベストバウトに一番近いとのこと

──なぜここまでZETA DIVISIONは強かったのでしょうか。

岸さん:客観的にですが、志が高く、先を見据えたチームになっているなというのは感じます。また、選手はもちろん、コーチ、アナリスト、フロントが一体になっているんだろうなとも感じましたので、そこも強さになっているのかなと思います。また、Laz選手がチームを引っ張る存在になっていたり、Crow選手を始めDep選手、SugarZ3ro選手、TENNN選手各選手がモチベーターになる、誰1人欠けてはいけない存在になっていたのが、チームとしても大きいのかなと感じました。

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岸さんは、選手、コーチ、アナリスト、フロントが一体になって挑んだからこそ、ここまでの強さを魅せられたと予想

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チームを引っ張ってきたLaz選手。試合中は「ナイス!」と叫んでチームを鼓舞し、インタビューでは涙を流すシーンもあった

──Laz選手がインタビューで、うちのチームは雰囲気悪くなることはないっておっしゃっていて、すごいなと思いました。また、Dep選手がよくしゃべってくれるということも答えていて、個人的には意外でした。

岸さん:Dep選手は昔からしってはいましたが、インタビューが得意な選手ではなかったです。でも、今はどんどんくだけていっていて、恐らくZETA DIVISIONの注目度や役割というのも理解していて、成長していっているなと感じます。ZETA DIVISIONに入ってから、Laz選手やコーチ陣から学んでいくことで、選手1人1人が成長していっているんだろうなと思います。

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ZETA DIVISIONの中で一番声掛けをしているというDep選手

──先ほどオフライン会場にも行かれたとおっしゃっていましたが、いかがでしたか?

岸さん:めちゃくちゃよかったです。人数は限られていたのですが、それでも日本でこういった光景を見られたのは、VALORANTでは初めてでしたので。早く公式大会をオフラインで観戦できる機会ができればいいなと思っていますが、それに向けて大きな1歩を踏み出したかなと感じました。最高の雰囲気でしたよ。

VALORANTをしらない人もフィーリングで観戦を楽しんでほしい VALORANTがより気になったらSmashlogTVをチェック!

──岸さんは今回のZETA DIVISIONの活躍についてテレビでも解説されていましたが、eスポーツをしらない人に、今回のことはどれくらい伝わっていると感じますか?

岸さん:ものすごく伝わっているんじゃないかなと思います。電車の中でZETA DIVISIONの話題になっていたという話も聞きましたし、お店でご飯を食べているときもチーム名を耳にしました。VALORANTというよりは、ZETA DIVISIONというチームと、すごいことを成し遂げたということが認知されているように感じました。我々が10年15年夢見ていたことが叶い始めているというのを考えると、まるでアニメや漫画の世界だなと。

──そういったVALORANTについてはよくしらないけど、ZETA DIVISIONをしって応援したいという人は、どういったスタンスで観戦すれば楽しめるでしょうか?

岸さん:雰囲気で楽しんでもらえればいいかなと思っています。我々実況がウォーって言ったら、一緒にウォーっていっていただける感じで。難しいことは気にせずに、純粋にどっちが勝っていて、どっちが優勢くらいをわかっていただければ、フィーリングで十分楽しめると思います。また、そこからVALORANTについて興味を持っていただいた方は、そこから色々と調べていただければ、さらに濃く楽しめますよ。あと、すでに日本チームを応援しているという方は、ぜひ海外のチームにも目を向けてほしいです。サッカーでも海外チームのほうが興味があるという人がいるように、VALORANTの海外チームでも、素晴らしい選手はたくさんいますから。

──今回からVALORANTに興味を持った人もいると思うのですが、私もよく参考にさせてもらっているSmashlogTVは、初心者が参考にするのに最適なチャンネルだなと思っています。そんなSmashlogTVの動画の中で、これは最初に観てほしいと思う回はありますか?

岸さん:そうですね。まずはVALORANTをインストールして触ってもらって、気になったエージェントがいればその解説回を観ていただければと思います。各エージェントに合わせてポイントやどういった立ち回りが必要なのかなどを解説していますので。また、全武器や各マップについて解説した動画もありますので、データとしては古くなっているものもありますが、基本的な考え方は変わらないので、そちらもチェックしてみてほしいです。そのほか、中級者向けの動画も結構ありますので、強くなりたい方はそちらもぜひチェックしてほしいです。気になった回を観ていただいて、そこから派生して観ていってもらうのがいいかなと思います。

よりエージェント構成が柔軟になると面白い より自我を出す選手の台頭も重要!?

──ZETA DIVISIONが素晴らしい成績をおさめましたが、今後VALORANTの競技シーンに期待すること、課題などはありますか?

岸さん:競技に専念できるチームが増えてきましたので、下から這い上がるのが難しい状況にもなってきましたが、アカデミーチームなどを抱えるチームも増えてきているので、多くのチームが切磋琢磨して、日本のチームが世界一になってくれることに一番期待しています。ただ、今回のこの偉業があったので、次の大会でも期待は大きくなっているとは思うのですが、そこは勝負の世界ですので、苦戦したり、1戦も勝てないということもあり得ます。しかし、そこで絶対にあきらめてほしくないですし、応援している人たちも悲観的にならずに応援し続けてほしいです。

──課題についてはいかがでしょう?

岸さん:日本だとエージェント構成がきっちり固まっているチームが多いですが、よりさまざまな構成が出てきたらかなり面白いなと思います。今回の大会でもネオンが活躍しているシーンがあったので。また、海外のチームではトライすることに対して前向きなんですが、日本だと失敗したときになんでそこでトライしたの? という話になりがちです。チームの連携も大事ですが、個人で判断して1人、2人を倒すという行動も大事になるシーンはあります。海外では比較的自我を重視する傾向にあります。実況していても、正直なんでそこで前に出て行ったんだと思うシーンがあったりもしますが、そのおかげでテンポが速くなり、そこで差が出てくることもあるので、連携を意識しつつ、より自我を出していけるといいなと思います。

──なるほど。それでいうと今回のZETA DIVISIONの戦いにおいては、多少自我を感じられる部分も素人ながらにあったなと感じます。

岸さん:そうですね。苦しい場面でも各選手がもう1歩踏み込んで(自我を持って)プレイでき、そして冷静な判断も欠かさなかったというのも、強かった要因の1つだと思います。

──では、VALORANTのeスポーツシーンについてやエコシステムについてはいかがですか?

岸さん:公式で実況をさせていただいている立場ながらに思うのは、もう少し日本リージョンの賞金が上がってほしいなとは思います。選手にとって賞金はモチベーションの1つになると思いますし、より大きなスポンサーさんがついてくれればいいなと期待しています。また、エコシステムについてですが、ゲーム内で大会に参加しているチームの選手一覧やスタッツ、Twitchチャンネルのリンクなどが閲覧できるシステムができれば面白いのではないかと思います。

──ゲーム内でスタッツが閲覧できるというのは面白いですね。

岸さん:あとはジャストアイデアですが、アマチュアからでもプロを目指せるような仕組みとして、上位のプレイヤーのスタッツを閲覧できるというのも面白いかもしれません。フリーエージェントだけど世界でめちゃくちゃ強い化け物が出てくる可能性があるので、そのなかからチームを探しているときに手を挙げられる仕組みがあったらいいなと。

──それも面白いですね。鉄拳のパキスタンの話みたいな感じですよね。

岸さん:そうです。無所属でしらない名だけど、めちゃくちゃ強い! というプレイヤーが認識されると、より多くのプレイヤーがプロとして活躍する機会を得られますから。

──あと個人的には、プロチームのスキンがほしいです。

岸さん:そうですね。各チームのスキンやバナー、フィニッシャーでチームロゴが出るといったことがあれば、どこのチームのファンか一目でわかるので、いいですよね。

応援の熱と冷静さのバランスは難しい 視聴者に熱も情報も伝わるよう試行錯誤を繰り返す

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自身の実況解説についても、まだまだ試行錯誤中だと語る岸さん

──そのほか、キャスターとしての課題などはありますか?

岸さん:今後女性限定の大会「VCT GAME CHANGERS」も控えていますので、女性のキャスターが増えてくれればいいなと思っています。また、多くの大会が控えていますので、単純に実況・解説をする人の人数も増えて行けばいいなと思っています。

──今回のVCT 2022 Stage 1 Mastersでは、キャスターの皆さんの応援や勝利したときの喜ぶ姿にも、かなり反響がありました。この“応援”と“実況”のバランスについてはどう考えられていますか?

岸さん:日本語配信については、多少応援に力を入れてもいいとRAGEさんやVALORANTjpさんに許可をいただいているので、しっかりと日本を応援しながらお届けすることができました。しかし、その中で自分をどうコントロールすればいいのかという部分については、昨年からとても迷っていました。

──なるほど、結構迷われていたと。

岸さん:応援に力が入りすぎると、どうしてもうるさくなってしまいますし、それが薄いとせっかくの日本語配信なので寂しくなってしまうしと、どのようにいい塩梅を取って行くかというのは、昨年からずっと模索していましたね。今年に入ってからも調整しつづけていたんですけど、意外と難しくて(笑)。応援をしつつ、冷静な頭で内容はしっかりとお伝えできるということを重点に置いて実況・解説できるように、まだ模索段階ではありますね。

──結構バランスを取るのが難しそうですね。

岸さん:日本語は抑揚が付けにくい言語です。英語には単語ごとにイントネーションやアクセントがあって、そこで抑揚をつけるのですが、日本語にはそれがありません。じゃあどうやって熱を込めつつしっかりと伝えるかというのは、最近になって段々わかってきたという段階ですね。また、今後は少しまろやかにしていこうと思います。

──というと?

岸さん:ずっと今のように応援に重きをおいた実況・解説をし続けるのもくどいなと思っていますので、変化を加えていく必要があるなと。もちろん応援しつつの実況・解説は続けていこうと思っていますが、視聴者の皆さんの熱を絶やさずに、冷静に実況できるようなかたちを模索し、日々の空いた時間などに考えています。

──ありがとうございました。

今後の「2022 VCT Stage2 Challengers Japan」も要注目!

今回、キャスターとしてチームの皆さんの近くで試合を観続けてきた岸さんにVCT 2022 Stage 1 Mastersの振り返りや、今後の日本チーム・eスポーツシーンの課題、キャスターとしての考え方などを聞くことができた。

また、個人的にもかなり心を打たれた今回の実況・解説についても、熱さと冷静さのバランスをしっかり考えられているというのがわかり、さすがプロだなと感じた。5月11日からは、新たな戦い「2022 VCT Stage2 Challengers Japan」も始まっている。今後は岸さんをはじめ公式キャスターの皆さんが実況・解説する試合も出てくると思われるので、VALORANTのeスポーツシーンが気になっている人は、ぜひチェックしてみてほしい。

■関連サイト

VALORANT公式サイト

SmashlogTV - VALORANT

八尋 編集●ASCII

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