K-POP沼にハマると必ず耳にする「カムバック」と「ティザー」って何? その深すぎる世界

K-POP沼にハマると必ず耳にする「カムバック」と「ティザー」って何? その深すぎる世界

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/06/11
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最近K-POPにハマった人はぜひ知っておきたい「カムバック」と「ティザー」とは? 話題書『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』(朝日出版社)より一部抜粋・再構成してお届けします。

K-POP特有のお祭り期間:カムバック

K-POPの沼にハマると韓国語の波のなかで独特な単語を数多く耳にするようになると思うが、入門してすぐに出会うのが「カムバック」という言葉だと思う。

「カムバック(comeback)」は英語の意味そのままならもちろん「戻ってくる」ことだが、K-POPでは一般に新曲発表後の活動期間のことを指している。

新曲を出すことを「カムバックする」、その新曲をひっさげてテレビやラジオ出演、サイン会やコンサートなどを一気に行なう時期を(特に日本では)「カムバ期間」と呼ぶ。

であれば、「カムバック」ではなく単純に「新曲リリース」といえばいいのではとも思うのだが、日本と違うのは「カムバ期間」に対置される「空白期」が明確に存在しているという事情である。まるで水底深くから水面へと戻ってきて顔をぷはっと出すような語感が面白い。

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ENHYPEN〔PHOTO〕gettyimages

AKB48立ち上げ時の「いつでも会いにいけるアイドル」というコンセプトは、好きなアイドルをいつでも安定的に見続けられることが価値を持つ日本のアイドル観を色濃く表していると感じる。

他方、韓国のアイドルとなると基本的にカムバ期間以外は目立った活動がなく、ファンとアイドルが会える機会も日本ほど用意されていない。

断続的にメディアに登場して新曲はまだかとファンを心配させるよりも、今から準備期間に入るとはっきり宣言しメリハリをつけるほうが、ファンの関心をより一層次のリリースに引きつけることができるからだ。

韓国のアイドルが長い練習生期間を経てデビューするのと同様に、デビューしてからも半年〜1年ほどの空白期間を作ってしっかりと新曲を制作する。その期間は日本のアイドルのようにバラエティの冠番組を持つこともない。

韓国にはアイドルの雑誌も少なく、いまでこそSNSによってアイドルの近況や私生活を簡単に知れるようになったものの、ネット配信が登場する前はテレビ露出がほとんどなかった。

空白期間が存在しているからこそ、ファンはアイドルの帰還を指折り数えて待つ。カムバックの始まりにはまずティザーの予定表が発表され、ファンはその時間に立ち会おうとスケジュールを調整する。

その後はアドベントカレンダーのように、ティザーで毎日、生まれ変わったアイドルの新しい写真や動画が少しずつ公開されていく。ついにはMVが解禁され、連日の音楽番組への出演が始まる。

その「出勤(チュルグン)」風景や番組後のミニファンミーティングをファンが撮影してSNS上にガンガン公開し、音楽番組のYouTube公式チャンネルにもダンス動画とチッケムがアップされる……。本当に怒濤の帰還(期間)なのだ。

「生まれ変わった」と述べたように、このカムバックに最大の花を添えるのがアイドルたちのビジュアルの大変化(イメチェン)だ。

K-POPアイドルといえば、ピンクやシルバーの派手なヘアカラーや奇抜な衣装を連想する人も多いだろうが、カムバックではそれが毎回大きく変化する。髪型・髪色、衣装は当たり前、音楽性や体重もガラっと変わり、清純派アイドルが突然ディーヴァのようなコンセプトで帰ってくることもある。

2012年にガールズグループの2NE1が1年ぶりにカムバックした時は、メンバーのダラが自慢のロングヘアーを左半分だけ剃るという強烈なイメチェンを行ない世間を騒がせた。

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元2NE1のダラ〔PHOTO〕gettyimages

逆にいえばK-POPではいつでも同じ状態の推しに会えるという保証がない。ファンはカムバックした推しのビジュアルを見て毎回大きく一喜一憂するし、アイドルは期待感を煽るためにMV解禁直前までは自撮りでも生配信でも帽子を深くかぶって徹底的にネタバレを防ぐ。新曲を歌う「推しの外見」そのものがK-POPでは大きなサプライズになっているのだ。

しかしカムバックは、単に歓喜の瞬間だけでなく戦いと不安の期間でもある。1回のカムバックで数千万円にもおよぶ膨大な予算が投じられるからこそ、チャートで結果を出せなかった場合のリスクも大きく、小さな事務所であれば経済的に立ち行かず新曲リリースが途絶えることもある。

大きな事務所であっても、所属が同じ他のグループとの兼ね合いや前回のカムバックの成績によってその間隔は不定期になるので、自分が推すグループに次いつ会えるかわからない不安定さは常にファンにつきまとう。

不安になるのはアイドルも同じで、雑誌のインタビューでは「MVが公開されてもカムバックの実感がなかった」「(空白期間に)解散したの?とよく聞かれて心苦しかった」といったアイドルの発言をよく目にする。

こうした不安を打ち払うかのように、ファンはカムバックのたびに献身的な努力をし、自分の応援しているグループを投票やスミン、CDの「積み」で、のし上げようとする。

有名グループ同士のカムバックがかぶりでもすれば、「カムバック戦争」と呼ばれるほど熾烈な応援合戦がファンのあいだで繰り広げられ、その期間にカムバックしていないグループのファンと同盟を結んで協力を仰ぐなど、その様相は文字通り、戦争である(韓国の競争社会を反映した代理戦争のような気もする)。

たとえばコロナの影響で、カムバックが重なった2020年6月には、通常の倍にあたる60ちかくものアイドルが新曲を発表し、その状況は「カムバック渋滞」と呼ばれていた。

とにかくカムバック中に推しのグループが数ある音楽番組で一度でも1位を取ることがすべてで、そのためにファンは団結する。1位を勝ち取ればツイッターで「#1stWin」のハッシュタグがトレンドに入り、複数の番組で1位を取るとメディアで「◯冠」と報道される。デビュー後初めての1位は、ファンに代々語り継がれる思い出の一コマになる。

カムバック時のこの競争システムこそがK-POPの強固なファンダムを作り上げてきたともいえるし、そのために楽曲そのものは二の次になっているともいえて(競争の一波乱が落ち着いてから「やっとじっくり新曲が聴ける」と口にするファンもよく目にする)、心苦しさを感じる部分でもある。

カムバックシステムの起源は、韓国の「文化大統領」と呼ばれる1990年代のヒップホップ・ボーイズグループ、ソテジワアイドゥルまで遡る。

彼らは新アルバムの制作に入ると音楽活動を休止し、公私にわたる生活のすべてをメディアから隠すことを一種のマーケティング戦略として行なっていた。徹底的な「神秘主義」のもと、空白期間にしっかり次の活動に向けた準備をしたのだった。

また、ファーストアルバムではドレッドヘアに制服ルックだったのが、次はヒップホップファッション、その後はズボンの上にスカート、ゴーグルにスノーボードウェアといったようにアルバム発表ごとにビジュアルを大胆に変更し、そのファッションは若者のあいだに大流行した。この下流に現在のK-POPのカムバックシステムがある。

スタイリング、MV、アートワークといったK-POPのビジュアル作りのクオリティが日に日に進化しているのには、毎回視覚的に生まれ変わって弱肉強食の音楽界を生き残ろうとする、カムバックをめぐる熾烈な競争があった。

しかし、その激しさがあるからこそ、推したちが生きて戻ってきたことの喜びは増幅され、盛大な打ち上げ花火のようにファンたちを祝福する。ルーティン化しがちな新曲リリースを徹底的に「ハレ」として演出することで、カムバックという祭りはファンの応援をめいっぱい引き出し、アイドルたちの帰還を「凱旋」に変えている。

じらして興味を引きつける予告:ティザー

先にも少し触れた「ティザー(teaser)」とは「じらす」という意味の言葉で、新曲のリリースに合わせて、通常1ヵ月くらいかけて行なうK-POPのSNSプロモーションの柱である。

SINXITYさんによると、もともとは音源を一部先行公開することだったが、韓国の大手芸能事務所であるSMエンターテインメントがリリース前の興味の引きつけとして、新曲のヒントとなるイメージ写真や映像を小出しに発表し始め、現在にまでつながる一連のティザー文化を定着させた。

そこには、2010年代、広告に予算をあまり割けられなかった韓国の芸能事務所が、既存のメディアに頼らずにSNS上で「じらす」過程自体をコンテンツ化してプロモーションに転用していたという背景があったのだという。

K-POPの場合、リリースのたびにヘアスタイルやファッションを新コンセプトに沿ってガラッと変えるので、ティザー写真が発表されるとファンは新しい推しの姿に盛り上がる。

かつてはグループの集合写真を公開するだけのティザー文化だったが、当時JYPエンターテインメントでマーケティングを担当していて、後にLOONAの生みの親となるチョン・ビョンギ氏が2008年、Wonder Girlsのアルバム『So hot』リリース時にメンバー個人のコンセプト写真を順次発表する新しいプロモーションを始め、以降どこもティザー内容を細分化するようになった。

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Wonder Girls〔PHOTO〕gettyimages

これをさらに発展させたのがSMエンターテインメントでかつてアートディレクターを務めていたミン・ヒジン氏で、写真がアニメのように動くムービングイメージや、MV本編を数秒切り取っただけではない、アートフィルムのような新曲のトレイラー(予告映像)をティザー用に制作し始め、端的に「ティザー」といってもその形態や手法は多様化しだした。

現在のストーリーテリングなティザー手法の元祖ともいわれるEXOの場合は、「Exoplanet(太陽系外惑星)」というグループの壮大な物語を予感させるメンバーのティザー映像をデビュー前から100日間もかけて流す大がかりなプロモーションを行なった。

月食を見つめるメンバーや何かを探しているメンバー、石に刻まれた象形文字のようなロゴマークなど、数々のストーリー要素を映像に散りばめ、大手事務所から久々に誕生する期待のボーイズグループということで、何人いるのか、誰がいるのか、どんなグループなのか、この映像のメッセージとは……と好奇心を煽った。

K-POPファンはこぞって断片的な情報をつなぎ合わせて解析し、デビューを大いに盛り上げた。K-POPではこの頃から、ファンがティザーに隠された意味を探すようになったと思う。

さらにはYGエンターテインメントが、今ではK-POP業界に浸透している新曲発表までの「カウントダウン投稿」を始めた。

毎晩12時に新しいイメージ画像が数枚ずつSNSを通じて発表されるのがティザーの基本だが、2015年のBIGBANGのアルバム『MADE』発表時にはさらに、「〇日前」を表すカウントダウンの画像がアップされていた。D-7(7日前)、D-6(6日前)、D-5(5日前)とカウントダウンされていくごとに、ファンたちはリリース日への期待を高めた。

加えてYGは、同じく韓国では後に定着する「ティザースケジュール」を生み出し、ファンに共有していった。これはつまりティザーのティザーで、新曲発表日までに「いつ、何を、何時に公開しますよ」というカレンダー方式の画像である。

これは2014年のWINNERデビュー時に、ティザーのプランを初めてポスターにしたことから始まった。日程表の共有によって、公開された写真や映像をすぐチェックするためにその時間にSNS上にファンが集まって拡散するので、ツイッターのトレンドに入りやすくなるのだ。

所属アーティストが多数いるYGでは、次に誰がリリースするのかということ自体が話題になる、という当時のヤン会長のアイデアにより、「WHO’S NEXT?」の一文と日付だけが書かれたティザーポスターも公開するようになった。これによりYG所属の全アーティストのファンがその記された日時に会社の動きに注目するようになった。

K-POPではいまやティザー自体がリリースに並ぶほどの大切なコンテンツとなり、ティザーの内容およびその発表方法がさらに多様化してきている。

12人いるLOONA(韓国名:今月の少女)は、グループ名の通りデビューまで毎月新しいメンバーを一人ずつ公開していた。メンバーをネタばらしするティザーは普通1分前後の短い映像であることが多いが、LOONAの場合は、実際にソロ楽曲をリリースすることでグループ全体の「予告」とした。

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LOONA〔PHOTO〕gettyimages

本来ならデビューしたグループの知名度と人気が上がってから、ユニット活動を経てソロデビューするのが通常の流れだが、逆転の発想だ。

約2年にもわたったこのデビュープロジェクトには約99億ウォン(約8億9800万円)もの製作資金が投入されたが、メンバーが出揃った待望のデビューアルバムとその次に発売されたリードシングルによって、BTSに次いでアメリカのiTunesシングル・アルバム両チャートで首位を獲得するなど海外から絶大な支持を受けた。

日本の新曲プロモーションだと、テレビCMやドラマのタイアップなどを通じて知らず知らずのうちに曲が刷り込まれ、耳慣れした段階での楽曲発売が多い。より多くの人に一方的に広めるための広報がなされている印象だ。

それに比べると、K-POPで盛んなティザーは一見、好きなアイドルのSNSをフォローしていない人は気づきにくく、どちらかというとファン向けの宣材といえるだろう。

しかし、MVとは別に映像を作ったりカウントダウン用に何カットも写真を用意したりと、コストと手間をかけた分だけ、単なるプロモーションの用途を超えたいち作品としての付加価値が生まれる。

毎日少しずつ発表される写真や映像を前に、ファンたちはイメージを膨らませSNS上でどんな楽曲なのか議論する。

リリースまでのお祭り的な雰囲気をコミュニティ全体で楽しんでいるK-POPファンも少なくなく、推しグループでなくても画期的なティザーが出ると話題にし合うこともしばしばだ。

遊びの要素を散りばめたティザー自体がコンテンツ力を持ち、ファンが垣根を越えて自然とシェアすることで、結果的にブランディングや新規ファン獲得といった効果を発揮するのではないだろうか。

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