吉川明日論の半導体放談 第154回 会社ロゴの変更で変化をアピールするIntel

吉川明日論の半導体放談 第154回 会社ロゴの変更で変化をアピールするIntel

  • マイナビニュース
  • 更新日:2020/09/15
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Intelが会社ロゴマークを変更した。2006年に変更して以来、14年ぶりの変更だという。52年の社歴を持つ世界最大の半導体会社Intelは、そのブランド力でも図抜けた存在である。半導体のような一般人が普通目にしない商品のブランドとしては、非常にまれなケースであると思う。

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私はAMDにおいて長い間Intelとの競合に明け暮れていて、Intelのロゴマークは嫌というほど見てきたが、巨大企業のマーケティングを目の当たりにすることによって本当に多くのものを学んだと思う。独立系半導体メーカーとして世界に君臨してきたIntelの今回の会社ロゴの変更は単にロゴデザインの変更以上の大きな思いが込められている。

会社がロゴを変更する理由

会社のロゴとはいわばその会社の顔であるので、そのデザインの変更は大きな意味を持っている。会社ロゴを変える状況としては以下の場合が考えられる。

市場環境が大きく変化し、その変化に対応するために会社の本質的・構造的変化が求められている場合
大企業の事業部が成長して独立会社としてスピンオフする場合
企業合併などで複数の会社が対等な形で内在する状態なので、ロゴの中から特定の1つを選ぶわけにはいかずまったく新しいものを立ち上げる場合
会社ロゴは別にあるが、特定の商品のブランド認知度があまりにも高くなり、その商品ブランドに会社ブランドを統合してしまう場合

こうしたさまざまな各社特有の状況での必要性に迫られて会社ロゴは変更されるが、新しいロゴは会社が変化するのだという決意を内外にアピールする大掛かりなマーケティング活動で、その衆知を徹底するためには多大なコストと労力がかかる。

Intelの場合は「1」に該当するだろう。スマートフォンの爆発的普及やTSMCらに代表されるシリコンファウンドリの台頭などの大きな市場環境変化の中で、現在Intelは大きな変化を迫られている。東芝から独立したキオクシアは「2」のケース。Micron Technologyに買収されてしまい今では消滅してしまったエルピーダメモリなどは「3」に該当する。そして「4」の例は一般消費財のブランドでよくあるケースである。
Intelブランドの強さ

半導体商品のブランドでありながらこれほど普及したブランドは他には例がない。「Intel Inside」という画期的なマーケティング・キャンペーンによってIntelブランドの認知度は半導体商品というカテゴリーのみならず、すべての市場のブランドの中でも非常に強い存在である事は誰もが認めるところであろう。

しかしその認知度が「直接購買意欲につながっているのか?」、というといろいろな見方がある。Intelの主力市場であるパソコンの場合、あまりパソコンの中身がわからない一般消費者が家電量販店に来て店員に対して「Intel Insideのパソコンが買いたいんですけれど」、という質問をすることはあまり考えにくい。

一般消費者がパソコンを買う場合の主な注目点は、値段、全体スペック(CPU、メモリ、ディスプレー、電池寿命など)、手に取った時の感触・重量などである。パソコンメーカーはこの全体スペックと値段を念頭に使用するパーツのスペックを決めてゆくので、CPUの選択は総合判断の結果でしかない。搭載されているCPUがAMDかIntelかなどという認識はこだわりのある上級ユーザーでないと持ちえないものである。

実際AMDは大々的なキャンペーンなどはやったことがないが、K6、K7、K8とその後の製品もコストパフォーマンスの良さで大手のPCメーカーに採用され、コンシューマー市場では大きなシェアを獲得した実績がある。

ところが、この状況は企業ユーザー市場ではかなり事情が違った。PC/サーバーなどの選定に責任を持つ企業IT部門の中にはかなり保守的な人たちもいて、「テレビで宣伝しているあのIntelのCPUなら間違いない」という理由でIntelはデフォールトの選択であり、あまり聞いたことがないAMDのCPUを搭載したパソコンを採用するのに消極的な場合もあった。もっとも、これは私がAMDに勤務していた時代の話であり、存在感がかなり増した現在のAMDはサーバーも含め企業システムにもどんどん広がっているので、ブランドの問題はかなり解消したのではないだろうか。

Intelは今回の会社ロゴの変更に伴い「Intel Inside」に使われる効果音(サウンドロゴ、ジングルとも呼ばれ、Intelのものは「bong」という名前が付けられている)も変更するらしいが、これがどんなものに変わるかは年末に向けて発表の予定とある。
Intelは本当に変われるのか?

Intelは会社ロゴの変更と同じタイミングで第11世代Coreシリーズ「Tiger lake」を発表したが、現在のIntelは大きな試練に直面している。矢継ぎ早にAMDが投入する高性能CPUはTSMCの最先端プロセスにしっかりとサポートされて、コンシューマー/企業を問わずパソコン/サーバー市場で確実にシェアを伸ばしている。AMDがシェアを伸ばしているということはIntelがシェアを落としているということである。Intelが抱えるプロセス技術開発の遅延はそう簡単に解決する問題ではなく、かなり長引く予想である。

最近の第11世代Core製品の発表を見ていて「おやっ?」と思ったのが、冒頭からIntelが競合AMDに対して明らかな敵対心を見せたことである。

名指しこそしなかったがAMDを「Imitator(模倣者)」と表現していたし、性能比較の対象となったのはすべてAMD製品である(以前はIntelは自社の前世代製品を比較対象としていた)。

私がAMDにいた頃のIntelは公式の場でAMDを意識するような言い方は一切せずに常に無視し続けた。「x86マイクロプロセッサーの市場ではIntelしか選択はない」という言外の強烈なメッセージが込められていたわけだが、今回の発表に至ってさすがにAMDを意識せざるを得なかったというのが現実だろう。

その裏にIntelの焦りを見て取ったのはAMD贔屓の私だけではないと思う。かつてIntelはメモリービジネスを突然放り投げて、ビジネスの主軸をマイクロプロセッサーに切り替えるという大英断を行い、遂には半導体業界の頂点に上り詰めた偉大な企業である。Intelはその後も窮地に立たされるたびに大きな方向転換をして、変化を加速させてきた経緯がある。

かつてのIntelのCEOであったAndy Groveが「変質狂的な闘争心」と言っていた強烈な企業文化により、Intelは多くの試練を見事に乗り切って現在の地位を死守してきた。そのIntelは現在大きな試練に立ち向かっている。

「Intelは本当に変われるのか?」、業界は固唾をのんで注目している。

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