本田圭佑のオランダ凱旋。欧州で“地元のヒーロー”から“国民的スター”になった男の軌跡

本田圭佑のオランダ凱旋。欧州で“地元のヒーロー”から“国民的スター”になった男の軌跡

  • フットボールチャンネル
  • 更新日:2017/10/13
No image

本田圭佑がパチューカの一員としたオランダに帰還した。欧州遠征参加は日本代表から外れたことで実現した【写真:Getty Images】

パチューカの本田圭佑、代表ウィーク中にオランダ凱旋

メキシコ1部パチューカの一員となった本田圭佑は、10月の日本代表から外れた。しかし、その間に欧州遠征を敢行したチームに帯同し、セルタやPSVと対戦。かつて自身が欧州で飛躍のきっかけをつかんだオランダ凱旋を果たしている。VVVフェンロ時代から本田のことを知る現地在住記者が、初の海外移籍で自らの実力だけで地位を築き上げていった男の軌跡をたどる。(取材・文:中田徹【オランダ】)

——–

今の本田圭佑はコンディションからしっかり立て直そうとしている時期なのだろうか。そういう観点から10月9日に行われたPSV対パチューカの親善試合を見ると、かなり調子が上向いてきている気がした。

試合が0-0で終わると、フィリップス・スタディオン(PSVのホームスタジアム)のすぐ外で本田圭佑は多くの日本人に囲まれファンサービスに応じていた。

「ヤバイ! サイン、もらっちゃった! こんなこと、日本だったら、あり得ない」

アイントホーフェンの駅に向かう途中、ファンの一群がこう言って興奮していた。その言葉が意味するところは、スターの本田圭佑から、たやすくサインを頂戴する機会は日本ではなかなかない――ということなのだろう。

VVVフェンロのハイ・ベルデン会長は、本田に“スター”としての資質があることを見抜いた人物だった。本田というスターにケチな移籍金は相応しくない。だからこそ、ベルデン会長は本田のことを『1000万ユーロの男』として売り出したのだ。

本田はオランダから日本へ逆輸入されたスターである。星稜高校時代には国立競技場を沸かせ、名古屋グランパスでは次世代のスター候補と謳われた。2008年1月にはVVVへ移籍した。その夏には北京五輪があった。しかし、本田がブレイクを果たすことはなかった。多くの批判を浴びた北京五輪を終え、オランダに戻ってきた本田が戦う舞台は2部リーグだった。1部リーグ時代の本田を追いかけていた日本メディアは全て撤退した。

本田のオランダ2部リーグ時代の記事を読んだ記憶のある方もいるだろう。その大部分は、「原稿料も経費もいらないから、会社の許可ももらわず勝手にスタジアムに来ちゃった」というフリーランス記者たちの取材によるものである。

困ったのはオランダ2部リーグの試合が金曜日の夜20時キックオフだったことだ。VVVの本拠地があるフェンロはドイツ国境近くの街なので、出来れば1泊したいが、私たちにはお金がない。だから23時すぎの終電に間に合うかどうか、冷や冷やしながら取材していた記者もいた。

逆風に負けずVVVで結果を出し続けた本田圭佑

あれから10年近くが経ち、1人の記者は「使命感で自分は本田を追っていた」と振り返る。

「オランダ2部リーグで本田は本当に成長していた。自分は『彼こそ日本代表に選ばれるべきだ』と思っていた。しかし、本田のことは日本で報道されていなかった。ならば、自分が記事を会社に送りつけてやろうという思いだった」

日本メディアが撤退していた事実を、本田は知らない。それでも、いつも顔を合わせていた記者たちに“何か”を感じていたのは間違いない。本田と近しい人物は、ある日、私にそっと教えてくれた。

「圭佑はね、『俺が活躍すれば、あの人たちの生活も楽になるんやろうなあ。だから、俺も頑張らなアカンなあ』と言ってるんですよ」

私たちにとってありがたかったのは、本田がシャドーストライカーとしてゴールに目覚めたことだった。「1試合5本のシュートを撃つ」と部屋の壁に貼って自己暗示をかけ続けた男は、第9節のエクセルシオール戦のラッキーショットで2008/09シーズンの初ゴールを決めた。そこから本田のゴールへの嗅覚が研ぎ澄まされていった。“ゴール”というわかりやすい結果さえ出してくれれば、少なくとも記事は載る。

本田のコメント力も助けになった。当時、『スポーツナビ』に寄稿した記事から抜粋する。

カラブロ:「お前はいつもパスと走ってばっかりいるけどシュートを決めない。お前が決めているのはユーチューブ(動画共有サイト)の中だけ」

本田:「お前はへたくそや。パスもできへん。体抑えて、振り向いてシュート打つしかない」

カラブロ:「それが俺のクオリティー。俺にそれ以外求めてどうする」

本田:「お前、俺にパス出せ」

カラブロ:「何でお前にパス出さないといけない。俺がFWだ。お前がパス出せ。いつでも俺は待っているから」

左サイドを駆け上がり、後に『ミスターVVV』の称号を得たフルーレン。カラブロ、スハーケン、エル・ガアアウイの強力3トップ。中盤の底で一度に3人をストップすることも出来たレーマンス――。そんなユニークなメンバーたちの中で、本田の輝きが増していった。自身も名プレーヤーであったファン・ダイク監督が「圭佑は、1部リーグも含めてオランダリーグ最高の10番」と称えていた。

VVVのキャプテン就任。日本人が地元のヒーローに

本田は、オランダ2部リーグという地味な舞台で、『フェンロのローカルヒーロー』になっていった。つまり逆に『アンチ』も存在したということである。2008年12月4日、MVVとのダービーマッチは今でも語り草の試合だ。

VVVが1-2のビハインドで迎えた後半アディショナルタイム2分、本田は強烈なボレーシュートで劇的な同点弾を決めた。ホームのサポーターが文字通り爆発したデ・クール(VVVのホームスタジアム)。その中でMVVへの思いを隠せないアナウンサーが「ブロンドのXXがゴールを決めちまった」と実況したのだ。その後、彼がデ・クールを出入り禁止になったのは言うまでもない。

2009年2月27日の対ドルトレヒト戦から、本田がキャプテンマークを巻くようになった。当初はファン・カウウェンの怪我による代行的な意味合いがあったが、同年3月20日のフォルトゥナ・シッタルト戦から正式にキャプテンとなった。

――監督は今後も本田選手がキャプテンと言っていたが

「それは俺も聞いた。フランク(ファン・カウウェン)には悪いけれど、僕にとっては海外でこの年齢で、キャプテンが出来るということは、滅多にない貴重な体験なんで、貪欲に続けたいなと思う。最後まで任せてもらえるのであれば、そんな誇らしいことはないと思う」

VVVがオランダ2部リーグ優勝を決めたのは2009年4月24日のハーレム戦だった。ベルデン会長は「圭佑は、ヨーロッパのチームでキャプテンマークを巻き、初めて優勝した日本人」と語った。それを聞いた本田は、こう語った。

「会長も『いずれ日本人も(本田の成し遂げたことに)気づくのではないか』ということを言っていましたけど、時間はかかるでしょうね。オランダ2部というのがどういうところかわからない人が、9割だと思うのでね、それは時間が必要だと思うし、それはしょうがないと自分では受け止めている。大事なのは今後自分がどういったプレーをしていくかだと思う。この経験をきっかけにして、自分のプレーというものをもっと、もっと高みを目指して頑張っていけたらなと思います」

「私たちにとっては今でも“普通の人間”なんです」

16ゴール14アシストを記録した本田はオランダ2部リーグの2008/09シーズンMVPに選ばれた。

「今季、日本では僕が戦ったシーズンをテレビで見ることができていないわけですから、記事のみで状況把握されている。優勝し、僕がこうした賞をもらえたこと。それがどこまで評価されるのか、僕自身全然わからない。今(日本で)評価されないのなら、僕は結果を残し続ける必要がある。僕の中ではそういう感じです。これはあくまできっかけなんで。ビッグチャンス。チャンスをものにするかどうかは、今から次第だと思ってます。前々から言っていたように、本当の勝負は来シーズンだと自覚しています」

『勝負の年』となった2009/10シーズン、本田は結果を残した。開幕戦のPSV戦では1ゴール1アシストを決めると、デ・クールのスタンドには欧州のビッグクラブからスカウトが集まりだした。

本田の鮮やかなテクニックには、ファン・デル・ハイプという有名コメンテーターが「ほーら、ほーら、見てご覧。この本田のトラップ。まさしくこれは『サンシーロ・モーメント』。サンシーロで見られるようなプレー。それをデ・クールで本田が魅せているんだ」と言って惚れ込んだ。スター誕生――。『フェンローのローカルヒーロー』は『オランダのナショナルスター』となったのだ。

オランダメディアを後追いするように、日本のメディアも再び本田の取材を始めた。日本代表のこと、冬の移籍市場のこと――。どんどん本田の注目が上がっていった。CSKAモスクワではCLで得意のFKを決め、2010年の南アフリカW杯では日本の中心メンバーとして大活躍した。本田が日本でもブレイクしたシーズンだった。

最初に本田のことをスターとして認めたのはオランダ人だった。だけど、今も昔も本田のことをよく知るオランダ人は「圭佑はすごいサッカー選手になったけれど、私たちにとっては今でも“普通の人間”なんです」とその人となりを語るのである。

(取材・文:中田徹【オランダ】)

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

サッカー日本代表カテゴリの人気記事

グノシーで話題の記事を読もう!
ユース取材ライター陣たちが推薦する「選手権予選注目の11傑」vol.4
『大食い王決定戦』大物ルーキー誕生で史上最高のハイレベルな戦いに
U-17イングランドのエースFWサンチョが離脱、日本はベストメンバーで決戦へ
U17さあ大一番!イングランド戦「逆ハリル」で勝つ
スペインの名指導者から苦言。「日本のダブルボランチは動きすぎだ」
  • このエントリーをはてなブックマークに追加