なぜ五輪のスノーボード競技はスノーボーダーの間で賛否が議論されるのか?

なぜ五輪のスノーボード競技はスノーボーダーの間で賛否が議論されるのか?

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  • 更新日:2018/02/11
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スノーボーダーの間では賛否のある五輪競技だが、平野は金を狙う。(写真:Shutterstock/アフロ)

男子のスロープスタイルを皮切りに平昌五輪のスノーボード競技が始まった。16歳の国武大晃(STANCER)は予選の組で14位に終わり決勝へ進むことができなかったが、今大会からスノーボード競技には、ビッグエアが加わり、男女合わせて計10種目となった。

本来、スノーボーダーとしての総合力が試されるのはスロープスタイルだが、コンテストを退いているトラビス・ライス(35、米国)を超えるような選手が、今も現れない状況では、注目されないのも当然か。

ビッグエアに関しても、トリックやスタイルの原点をたどれば、ジェイミー・リン(44、米国)、もしくはピーター・ライン(43、米国)にたどり着き、独創性の点で限界が見えてしまっており、なぜ今?という疑問しかわかない。

そんな中で13日に予選が行われる男子のハーフパイプに関しては、2006年のトリノ五輪と2010年のバンクーバー五輪で連覇したが、前回のソチ五輪で惜敗したショーン・ホワイト(31、米国)が、雪辱を期す、という構図があり興味深い。

おそらく優勝争いに関しては、そのホワイトに加え、前回のソチ五輪で銀メダルを獲得した日本の平野歩夢(19、木下グループ)、そして、「ワールドスノーボード・ツアー」で、男子ハーフパイプのランキングで1年以上もトップに立つスコッティ・ジェームス(23、豪)が軸になるだろう。
現状、この3人に割って入るとしたら、スノーボード本来のオリジナリティを体現するベン・ファーガソン(23、米国)ぐらいではないか。

いずれにしても、ホワイトにとっては今回が最後のオリンピック。そのホワイトに平野らが挑み、世代交代を目論む。そのとき、スノーボード界で、どんな化学変化が起きるのか。

裏では、様々な思惑がうごめく。

その話を進める前に──。

2016年8月、スケートボードが東京五輪から正式種目に採用された。IOC(国際オリンピック委員会)と最大の放映権料を支払う米NBCテレビは、スノーボードの視聴率がいいことから二匹目のドジョウを狙った。五輪を見る人の年齢層が高くなっていることから、若い世代を取り込みたい、という思いも透けて見える。

ただ五輪種目になったことを喜んでいるスケーターがいるとしたら、状況が見えていない。彼らは今後、数々の理不尽に次々と直面することになる。スケートボードは、五輪種目になるにあたって、ローラースケート、ローラーホッケー、インラインレースなどを統括するFIRS(国際ローラースポーツ連盟)という団体の傘下に入った──単に下にタイヤが付いている、という共通点だけで。

相変わらず、IOCのスポーツに対する理解力のなさには、開いた口が塞がらないが、当初は、スケートの大会を企画したこともなければ、運営したこともないFIRSに、コース作りなども任せる予定だった。

国際スケートボード連盟が猛抗議。当然である。彼らこそ、IOCが五輪にスケートボードを採用することを考えるようになってから、それまでバラバラだったスケート業界に緩やかな秩序を設け、大会を整備するなど、様々な交通整理をしてきたのである。

スケーターらがボイコットを仄めかすと、FIRSも大会の運営権などは手放したが、スポーツの育成、選手の強化に充てられるIOCなどからの補助金は、統括団体であるFIRSに入る。一方で、国際スケートボード連盟には大会運営のアルバイト代程度しか入ってこない。五輪を通じてスケートボードが人気になり、お金が集まるようになって潤うのはFIRSであり、低迷するスケートボード業界全体にお金が回ることはない。

まったく理不尽な契約構想だが、東京五輪に関しては国際スケートボード連盟は妥協した。彼ら自身、それを「悪魔の契約」と形容する。今後、FIRSが、大会の運営など全権を握ろうとするのは目に見えている。

それにしても、こうした愚かな歴史が、なぜ繰り返されるのか。

改めて俯瞰すれば、このスケートボードとIOC、FIRSの戦いは、スノーボードとIOC、そしてFIS(国際スキー連盟)による長年の争いの幕開けとなった頃の状況と酷似している。

1998年の長野五輪でスノーボードが正式種目と決まった時、IOCは、なぜか、ISF(国際スノーボード連盟)ではなく、FIS(国際スキー連盟)を統括団体に指名した。

当時、FISはスノーボードという新興勢力を毛嫌いし、スキー場から締め出すなど、二つは全く別のスポーツであることをアピールしていた。そもそもスノーボードが五輪種目になることにも反対の立場だった。

その状況を知っていてあえてFISにスノーボードの競技運営を託すIOCの無神経さ。FISはその後、主権を主張するISFを排除し、大会運営の助言さえ、拒否した。

それが現れた顕著な例がコース設定だ。長野五輪では、スノーボードのジャイアントスラロームでコースアウトする選手が続出したが、それは、アイスバーンでコースが固めてあったからだ。スキーではそれが当たり前かもしれないが、スノーボードの大会ではありえなかった。IOCとFISは、そんな違いさえ知らず、スノーボーダーからブーイングを浴びたのである。

無論、国際スケートボード連盟も、そうした前例があったからこそ運営権にこだわったのだが、スノーボードの世界では相変わらずスノーボーダーらの声はIOCやFISに届かない。

前回のソチ五輪では、ホワイトが「コース設定が危険すぎる」として、スロープスタイルへの参加を直前になって辞退した。同様の声は、実際にスロープスタイルに出場した選手からも相次いだが、それまで、スロープスタイル用のコースデザインをしたことのなかったFISが、見よう見まねで作ったに過ぎないのだから、無理もなかった。

あの時は、さすがにIOCも心配し、TTRというスノーボードの団体にコース作りにおいて協力を仰いだらどうかとFISにアドバイスをしたが、その声さえも反映されなかった。

IOCにしてみれば、最大の妥協だった。TTRを立ち上げたのが、長野五輪をボイコットしたテリエ・ハーコンセン(43、ノルウェー)であり、彼はIOCを長年に渡って批判してきた。それでも、さすがにFISの知識、経験不足に疑問を持ち、ハーコンセンに歩み寄ったが、FISは既得権益を手放そうとはしなかった。

ちなみにソチ五輪では、パイプに関しても不満が続出していた。

五輪のパイプのサイズに関しては、長さ180m、幅19から22m、高さ7mという一応の規定がある。スポーツ専門チャンネル「ESPN」が主宰するXGAMESのパイプも、長さ177m、幅20m、高さ6.7mで、ほぼ同じである。だが、規格が同じだからといって、滑りやすさも同じかと言えば、そうとは限らない。パイプを含めたパークの良し悪しは、作り手の技量に大きく左右される。

米スノーボード専門誌「スノーボーダー」では、20年以上も毎年春に「スーパーパーク」というイベントを主催している。北米各地のリゾートからパークビルダー達が集まり、パークデザインの腕を競うのである。

審査するのはスノーボーダーたち。このために世界中から集まり、イベント終了後、彼らの投票により、それぞれの評価が決まる。

結局、ハーフパイプに関して言えば、重機で掘削するまでは誰がやっても同じ。要はそこから、どんなアレンジを加えられるか。天候の変化にどう対応できるか。残念ながらFISには、そのノウハウがない。その一方で、当初は、多くのスノーボーダーらから出場を拒否されたXGAMESが成功を収めるようになったのは、彼らが、選手の意見に耳を傾けるようになったからである。

現在、そのXGAMES や米スノーボードツアー「デュー・ツアー」では、「スノーパーク・テクノロジー」という会社がパイプ作りを手がけ、世界的にも屈指の実績、経験を誇るが、平昌五輪を前にしても、FISから連絡はないそうである。

もっとも、平昌五輪ではそのことが、普段からワールドカップを転戦し、FISのパイプに慣れている日本人スノーボーダーに有利に働く可能性がある。

平野にとって最大のライバルとなるホワイトや、台頭著しいファーガソンは、基本的にアメリカ国内の大会を主戦場とする。ジェームスは、彼らに比べればワールドカップ経験が多いが、日本人ほどではない。

よって平野だけでなく、FISのパイプを知っている平岡卓(22、バートン)、戸塚優斗(16、チームヨネックス)、片山来夢(22、バートン)にもメダルのチャンスはあるかもしれない。もしも、日本の強化方針が、そこまで見据えているのだとしたら、敬意を表する。

当然、ハーフパイプ以外でも、日本人選手にチャンスが生まれるのではないか。

ただ、今回もソチ五輪のようなコースになれば、スノーボーダーらもさすがに呆れるのではないか。そうなると今後、ますます、五輪離れが進むかもしれない。

そもそも多種多様な価値観があるスノーボードの世界では、五輪など、その一つに過ぎない。勝ったところで、世界一と認知されることもない。

導入の経緯において対立したことから、今も多くのスノーボーダーが五輪に距離を置いている。その遺恨も世代が変わって薄れてきてはいるが、本物のスノーボーダーなら、ユニホームの着用まで求める窮屈なルールに支配された五輪が、本来、自由で創造性を求めるスノーボードの価値観とは相容れないことを知る。

長い葛藤の中で、ホワイトは五輪をビジネスと割り切った。五輪側も彼を利用し、スノーボードを冬季五輪の目玉とした。だが、その関係にも、そろそろ無理が出てきた。

FISの言いなりのままでいいのか。そもそも順位付けが必要なのか?どうしたら、スノーボードをスノーボーダーの手に取り戻せるのか。ボイコットはそのための選択肢なのか。

絶大な発言力を持ちながら、改革に興味を持たなかったホワイトが去ったとき、平野ら若い世代は、五輪との向き合い方を問われる。

(文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)

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